三日月のたまご
やおよろずの神、という言葉を知っていますか?
この世に存在するモノには神さまが宿っています。
そして神さまになるまでには、見習い……たまごの期間が存在するのです。
ここにいるのは三日月のたまご。
移り変わるお月さまの形ひとつひとつにも、神さまがいます。
それぞれの月は、ひと月に一度しか顔を見せることができない存在です。
その少ない三日月の日を、心待ちにしてくれている子がいました。
「あ〜あ。今日はお月さまがみえないなぁ」
小さな女の子がてるてるぼうずをにぎりしめながら、悲しそうに空を見上げます。
「お月さまがクロワッサンの形になる日に帰ってくるからね」
と、女の子のお父さんが言っていたのです。
お父さんは“しゅっちょう”で、海外に行っていました。
女の子は休みの日にたくさん遊んでくれるパパのことが大好き。毎日ずうっと空を見ていました。
ようちえんでお友だちと遊んでいるときも、ママとおさんぽしているときも。
そうしてようやくクロワッサンの日が来たのに、空は黒いくもにおおわれて、雨が降っていました。
お月さまは見えなくてもそこにいる、なんて、まだ小さなこの子にわかるはずもありません。
「お月さまがいないよ。パパが迷子になってかえってこれなくなったらどうしよう」
「そんなことないわよ、ゆうちゃん。パパはちゃんと帰ってくるわ」
ママがやさしく頭をなでるけれど、女の子はしずんだままです。
三日月のたまごは、くもにやどる神さまにおねがいします。
「くもの神さま、ほんの少しの間だけでいいので、空をあけてくれませんか。ぼくが顔をみせたら、元気になれると思うんです」
くもの神さまは言います。
「三日月のたまごさん。きみも神さまのたまごなら、理解しなさい。あの子一人にかたいれしてはいけないよ。雨を待っている人だっているんだから」
「ほんのすう分だけでいいのです」
あまりにも熱心にたのむので、くもの神さまもついに折れました。
「わぁ、見て、ママ。クロワッサンのお月さま!」
「まあ。本当だわ。とってもキレイね」
それからすぐ、家のチャイムがなって、お父さんがおみやげをたくさん持って帰ってきました。
「お月さま、パパをつれてきてくれてありがとう!」
三日月のたまごは、わがままを言ったことをほかの月の神さまに怒られてしまったけれど、とてもまんぞくしました。
あの子みたいに三日月を待っている人がいるから、がんばって立派な月の神さまになろうと思うのでした。
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