2
「公斗、おはよー!」
見慣れた声が聞こえて、カポカポ鳴らしていたローファーを止めて振り向く。
にこり、と笑って目が無くなった。幼馴染の津村萌だった。
「萌、おはよ」
萌とは幼稚園からの付き合いで、なぜか高校までも一緒になった腐れ縁だ。
黒髪ロングで、大人しくて、笑顔がかわいい。細身で折れそうなスタイルの割に、胸は……ごくり。いや、待て待て俺。飢えすぎだ俺。萌なんぞに欲情しかけている。まだ禁欲して11日だ。いや1週間程度がピークとかいう記事は読んだが、山場らしいんだが、ダメだ。俺は誰にも欲情してはいけないのだ。ほんと、でも、禁欲中って、どうしてこうも、そのたかが柔らかそうなたわわに、視線が、吸い込まれてしまうんでしょうか。ねえ神様。
「あ、ちょっとタイム。公斗、登場シーン、やり直してもいい?」
そうだった、こいつはこういう電波なところがあるというか、何考えてんのか分かんねーんだよな、長年の付き合いなのに。
「意味わかんねーよ。何が気に食わなかったんだ、いつも通りだろ」
「ちょっと段取りに手違いがありまして……前向いてて」
これに引き下がっても意味ないことは知っているので、指示通りに前に向き直る。いやお陰で助かったんじゃないか?これは。萌のアホさ加減に俺の興奮度合いも少しおさまってきている。そうそう、冷静に。萌はただの幼馴染で、不思議系で、エロくもなんともない。おっけー?
で、そうこうしている間に、なんか後ろから勢いよく足音が迫ってきているのは気のせいだグハッ!!
なぜか萌に後ろから突き飛ばされた俺は、電柱に頭をガツンとぶつけた後、仰向けで道端に倒れた。
そして、萌が覆いかぶさるように倒れてきた。
「イッテ!!!!おい萌なにして」
「えへへ。公斗おはよう。ごめんね、勢い余りすぎた」
と言いながら、萌は俺の馬乗りになっている。こ、これは……!!!!いや待て落ち着け俺。落ち着け俺。心を無にするんだ。萌、どけ。萌、どけ。OK。
「萌、どけ。イマスグ」
「あ、あれー?上手く立てないなぁ、なんて……」
と言いながら、俺の上で何度か上下動をして、なかなか立たない。
いやこっちがたつわ。
はやく立て。
たつな俺。
「萌何してんだ!立てるだろが!」
「むぅ」
不服そうに立ち上がると、萌は、顔を真っ赤にしていた。
いや何がしたいんだこいつ。まじで何がしたいんだこいつ!
「萌おま、お前……?」
いや分からない。これは怒るべきなのか、むしろありがとうございますなのか、いや事情を説明して怒るべきなのか、信じてくれるわけないか。とにかくここで萌に何と言えばいいか分からず黙っていると、
「公斗、なんでおっきくさせてんのよ……」
「は!?おま、お前何言うてんねん!!!!」
と養殖の関西弁をかましてしまった。萌は「昔はこんなだった気がするんだけど……」と人差し指と親指の間を見せつけてくる。やかましいわ。成長すんだよ俺だって!お前だけじゃなくて!
「と、とりあえず萌、はやく学校行くぞ、お、遅れるし」
「そ、そうね」