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もし、自分の身にあり得ないことが起きたら?というのは男子諸君は必ず想像した事があるだろう。
例えば、学校に不審者が侵入してきたり、
例えば、急に超能力者として覚醒したり、
あらゆるパターンを想定し、妄想し、常に最善の選択ができるようシミュレーションしているのだ。
で、高校2年の冬、ついにそれを生かす時が来たらしい。
「やあ少年。わしゃ神じゃ。お前の願いを何でも叶えてやろう」
なんてテンプレ台詞を吐いてきやがった。初詣での事だった。こんな過疎神社にいるわけねーだろ!と思ったが、隣で祈りを捧げている幼馴染の津村萌は、むむむ……とかなんとかブツブツ言って必死にお願いをしている。ていうかお願いを声に出すな。
まあつまり、この自称神様の声は聞こえていないのだ。
「警戒するでない。お主が小さい頃からこの神社を贔屓にしてきたお礼じゃよ。さあ、なんでも願い給え」
声の出どころがまるで分からず、恐らく脳内に直接語りかけてくるパターンのやつらしい。もしくは萌が願い事に夢中になりすぎて聞こえていないか。
「はっはっは、脳内に直接語りかけておるんじゃよ。早く願いを言いなさい」
「待て、俺はお前を神とは信じられん。なんか魔法とか使ってみろ」
「偉そうな奴じゃの!ほれ」
ほれ、と言うと、近くに一台止まっていた車が光に包まれたかと思うと、一瞬でマジックミラー号に変わった。魔法のチョイスおかしいだろ。
「いい趣味じゃろ?」
「性的な趣味としては同意するが、それを魔法に選ぶ趣味には賛同しかねるぜ……」
「ごちゃごちゃ言わんとさっさと願わんかい」
ま、まあ変な神だがガチっぽいし?特にデメリットもないなら願うか。
「ク、クラスメイトの仁田真美が俺のことを好きになりますように……」
「ほう、容易い御用じゃな。ただーし!」
出た出た出た、条件があるってやつだな。
「お主は物分かりが早くて助かるな。まあちょーっとお主には難しいかもしれんが、簡単な条件じゃ。安心せい」
なんだよ……てか、心読めてんのか。願いを声に出す必要なかったな。萌に聞かれたくねーし。
「111日間の禁欲に成功すれば、お主の願いは叶うじゃろう」
「え、禁欲?」
「うむ」
男子高校生たるもの、性欲はある。「とても」とか「めちゃくちゃ」が文頭につくぐらい、ある。
しかし、好きな女の子と結ばれるのであれば、それくらい我慢できる。できなきゃダメだ。
それに、エセ神様とかドッキリだったとしても、禁欲ならまあ強いデメリットもないし。
やってやんよ、禁欲。100日でいいんだろ。
「健闘を祈るぞ少年。出した瞬間、即願いは破棄となるから気をつけるんじゃぞ」
ふっ、余裕だ馬鹿野郎。
このときはまだ、怖いのは夢精くらいなもんだぜ……と思っていた。