イシュタル
「だからごめんってw」
「いくら神様でもやって良いこと悪いことはあると思います」
ミシェルは御神体を上目遣いで睨んでいた
目一杯見開かれたその瞳からはかなりの圧力を感じる
視点は変えられるがデフォルトは御神体を通した目線のようだ
「それにしても何で私を祀る社なんかを?」
「それは・・・・・・・・・・・」
「実は私と王は禁忌の理を知る者だからなのです」
「と言うと2人も・・・・・」
「亜神候補です」
「そう言う事情もあって私達は使途である天使兵に攻められ続けたのです」
そうか
不死の機関の作成だけでなくプレイヤー候補だったから攻められていたのか
英雄が神格化すると初めから民衆から支持される力を持った亜神となるだろう
新興勢力の芽は早い内に摘んでおくと言うものか
「それで」
「事情をある程度知っていると言っても私の社を建てる理由になるのかしら?」
「イシュタル様がミリアを討伐するにはいずれ神格を得て亜神以上の存在となる可能性が高かったからです」
「なれば我々が最初の信徒の栄誉に預かりたいではないですか・・・・・」
ミシェルが話した後少し頬が膨らんでいた
千歳を超えた魔女の筈なのだが
なかなかどうして
心は若いようだ
「私としてはビックリしたわよw」
「意図せず亜神になっちゃったからね」
「それどころか飛び級なさいましたね?」
「おめでとうございます」
ミシェルは笑顔で頭を下げた
正座していたためほぼ土下座状態である
「昇神のアナウンスも全員に配信されるんだね」
「ミシェル達は亜神じゃないのにアナウンス受けられるの?」
「それは私がイシュタル様に帰依従属した眷属となっているからでしょう」
「現在の私の身分はイシュタル教の第一司祭ですから」
「第一司祭って・・・・・・・」
そう言えば若い頃
職業適性診断を行った時
適性上位に教祖と政治家と言うのがあった
その時は笑い話で済んでいたが今や現実となってしまった
「あー」
「でも私は宗教活動とかやるつもり無いよ?」
「そうなのですか?」
「祈りと信仰の力は神にとって強力なバフであり糧ですのに・・・・・・」
「わかりました」
「教義は私の方ででっち上げておきますのでお任せくださいまし」
でっち上げるって・・・・・
軽く眩暈を感じたが勿論この身体は眩暈を感じることなど無い
おそらく精神が擬似的に感じているだけだろう
「アリエル?」
「まだ話は続くのかえ?」
退屈そうなバステトが目の前に迫ってきた
信徒との会話は念話で行うため周りの者には聞こえず退屈だろう
「ごめんミシェル」
「とりあえず確認だけだったからまた時間取れる時に連絡するね」
「了解致しました」
「お待ちしております」
なんだか電話のようなやり取りだが
これは本来信者のお祈りと神からの御告げのやり取りである
仲良しの電話ではない
たぶん
「やはり知り合いじゃったのじゃな?」
「うん」
「ヴァンデラーブルクのミシェルが私の第一司祭になってた」
「なんと?」
「あの彷徨える都市の王妃かえ?」
「なんとまぁ数奇な縁じゃのう」
「済まぬがバステト」
「その彷徨える都市とはなんだ?」
「さっきから全く話についていけん」
ベットの縁に腕を組んで座るウェンディア
体格の良い彼が何も気にせず大股を開いて座っているものだから大事な御本尊がポロリと顔を出してしまっている
彼の肉体を再構築する時に違和感が無いように衣服もそのままにしていたが
下着くらいは追加していても良かったか
ー・ー
ウェンディアに事の経緯を話して聞かせた後皆のところへ戻ることにした
「因みにバステト様」
「ここでの滞在時間は外界と差はあるの?」
バステトはピクッと身体を震わすと振り返りにこやかに答えてくれた
「なんの事じゃ?」
「とぼけても無駄」
「昇神したせいでこの手の知覚は鋭くなってるみたいだし」
「一応確認のために聞いてるだけだから」
「むふぅ」
「やはりアリエルは妾より格上な気がするんじゃよなぁ」
「あの場での時間感覚は100倍に加速されておる」
「長時間滞在してバレるのを防ぐためじゃ」
「感覚が100倍と言うことは時間にして1/100か」
「ほぼ一瞬と言うことになるね」
「アナウンスはどうなるの?」
「アナウンスには加速は通じぬ」
「即座に公開されたはずじゃ」
「私達の感覚的には外に出た瞬間って事かな?」
「本来ならの」
「じゃが今はもう解除されておる」
「ウェンディアを護るためのものじゃから解放された今維持する必用もあるまい?」
バステトの言い分は一見正しい
だが解析して分かっていたことだがこの強制加速状態はウェンディアの封印と結び付けられていた
彼の時間を引き延ばし遅くさせる代わりに周りの時間を圧縮して加速させていたようだ
どういう原理かは分からないが物理法則を無視するあたりは流石は神の奇跡と言うやつか
「そうだ」
「アリエル殿、バステト殿」
「我と神威同盟を組んで貰えぬか?」
ウェンディアは妙に神妙な顔で私達に言ってきた
「神威同盟?」
「ふむ」
「そうじゃの」
「これからミリアと事を構えるならば同盟を組んでおく方が良いやもしれぬな」
「うむ」
「同盟を組めば情報交換出来るようになる」
「お互いのステータスを選択開示出来るようになるわけだが・・・・」
「アリエル殿にはあまり益は無いように感じるやも知れぬな」
「同盟では集まった信仰力を譲渡したり拠点の共有が可能になったりもする」
「他にも通信や相互転移など便利な機能も使えるようになるのじゃ」
「・・・・・・・・・・」
「2人ともさぁ:・・・・」
「その同盟ってやっちゃうと完全にミリア戦で巻き込み事故が確定するってことだよね?」
実のところ協力関係となったバステト達でさえ有事のバックアップをお願いしているため戦力として協力して貰う気はなかった
神墜としは出来れば独りでやりたいぐらいだ
誰も捲き込みたくはない
「妾とは協力関係を結ぶと確約したではないか」
「ウェンディアを仲間外れにするのはどうかと思うぞ?」
バステトはどうしてもバックアップではなく戦力としての協力がお望みのようだ
先の式典において打ち合わせのシナリオに無い扇動的演出もその為なのは目に見えていた
最早共同戦線は避けられない
「とりあえずウェンディア復帰の御披露目しますか?」
「この国にもエルフ達はたくさん来てるみたいだし」
「アムネリアの部族も来てるんじゃないの?」
「うむ」
「我も早く信民に復帰を伝えたいところではあるが現状が分からぬ」
「タイミングはバステト殿にお任せする」
ウェンディアは膝の上に両手をつき頭を下げた
「まぁそうじゃの」
「その件に関しては相談せねばならぬ者もおるでな」
「後で協議するとしよう」
「ところでアリエル」
「何ですか?」
「有耶無耶にするつもりはない」
「神威同盟はアナウンスされることは無いのじゃから早う同盟を結べ」
ジト目で睨むバステトは私が有耶無耶にしたがっているのは分かっているようだ
観念するしかないか
「同盟の名前とか要るの?」
「そうじゃなぁ」
「別に妾達だけなら命名する必用は無かろう」
「じゃあとりあえず無名ね」
「で・・・」
「どうやったら良いのかな?」
呟いた瞬間目の前にメニュー画面が浮き出てきた
神様の仕様とは言え風情がない
「ふむふむ」
「神様ってパーティ組めるんだw」
「そのパーティ機能はいつでも破棄出来る」
「妾がミリアに嵌められたのもそのパーティ機能じゃ」
すると共闘して互いのバフをかけるだけならばパーティで十分と言うことか
同盟は長期的に協力体制を維持するための機能と言うことか
取り敢えず同盟を選択してみると周りにいる加盟可能な存在がリストアップされた
「あらま」
「意外と候補がいるのね」
「これって皆神々の黄昏への参加権を持ってる人達だよね?」
「そうじゃな」
「禁忌の知識を持つと言うだけならば意外とおるからの」
「主神と直接でなくとも司祭や属神も同盟可能じゃからな」
「この国だけでもそれなりの数になるかの」
ふむ
もしかしてこの同盟機能は属神の調略にも使えるのか?
「属神と同盟結んだら主神は分かるものなの?」
「良いところに気が付いたのw」
「主神も属神もプレイヤーと言う意味では平等なんじゃ」
「じゃから同盟は直接伝えねば主神には知る術がない」
やっぱり
これは裏切りを誘発させる調略機能としても使えるんだ
自由度が高いと言うべきなのか
狡猾に抗争の火種を撒いているのか
何にしても今はありがたい
「じゃあ送るね」
「って言うかバステト様から送ってくれても良かったのに」
「もうお互い神同士で同盟の仲間なんじゃし様付けは止めよ」
「他人行儀で居心地が悪い」
ピピッ
バステトが同盟に参加しました
ウェンディアが同盟に参加しました
これより仮称イシュタル同盟として機能します
「ぬなっ?」
「イシュタル同盟って何???」
「ふっふっふっ」
「同盟は送った神が同盟の盟主となるのじゃw」
そんなことだろうと思った
しかし自分の名前の同盟とは・・・・・
バステトとウェンディアを秘匿する必用が有るため盟主になるのは仕方がない
どうせからかわれているだけだ
しかしわざわざこんな騙し討ちのような遊びをしなくても良いだろうに
「名前はいつでも変えれるんだ・・・・・」
「そうじゃ」
「好きな時に好きなように変えられる」
「なら自由邪神同盟とかにしようかな?」
「頼むから変な名前は止めてくれ」
「この通りだ」
私とバステトの掛け合いを聞いていたウェンディアが頭を下げた
どうも冗談が通じにくいタイプらしい
「まぁ名前は飾りみたいなもんだし」
「とりあえずはイシュタル同盟のままで良いかな」
「ワールドアナウンスで他のプレイヤーにも知らされてるから都合良いでしょ」
全体告知された分それなりにチェックされた筈
それが必ずしも良いことばかりでは無いだろうが
今は深く考えないことにしよう
ー・ー
「お帰りなさいませ」
「ウェンディア様」
「お戻りになられるのを一日千秋の思いでお待ち申し上げておりました・・・・」
謁見の間に出てくると多くのエルフ達が広場を埋めつくし片膝をついて出迎えられた
バステトに指示を出したのかとアイコンタクトを取ると両手を振って否定した
「我の復活の報を聞いて参じたのであるな?」
「苦労を掛けたな・・・・」
「力を取り戻すには今暫くの時を要するが今は呪いも解け順調に回復しておる」
「心配かけてすまなんだな」
ウェンディアはそう言うと軽く頭を下げた
ウェンディアは本当に直ぐ頭を下げる
神としては威厳を保たねばならないだろうに
人として見ると好感の持てる潔さとも取れる
「あ・・・・・」
「さっきのアナウンスを聞いたのね」
状況を察した私が呟くと全員が一斉に私の方に向き直り深々と礼をした
片膝立ちから正座に変え土下座する者までいた
「我等が主を癒して頂き感謝のしようが御座いません」
「この上はウェンディア様のお許し頂ける限り貴女様にも同様にお仕えいたします」
なんだか変なことになってきた
「そう言うのいいから」
「貴方達は自分の神様に精一杯お仕えなさい」
手をヒラヒラさせながら言い放つが全員が頭を下げたまま誰1人として見ようともしない
「これは致し方無いな」
「この世界では複数の神を信仰することは禁忌ではない」
「我も制限してはいない」
「我と同時にイシュタルを信仰すると言うのは我には止められぬし止める気もない」
朗らかに言い放つウェンディア
彼が言うなら拒否するわけにもいかない
だがこれと言った加護もない神を信仰して何になるのか?
「まぁ」
「信仰してくれるのは有りがたいんだけど」
「私には与えられる加護はないわよ?」
「その事なんじゃがな」
「ちと2人で話そうではないか」
ウェンディアとアムネリアをエルフ達の元に残し私達はシンシアの眠る部屋へと移動した
ー・ー
「さてアリエル」
「加護の事なんじゃがの?」
「もしかして設定画面で選ぶとか?」
「そうじゃよw」
「その前に適正診断を行う必用がある」
「先ずは設定からじゃな」
バステトの言われるまま設定画面を起動して適正診断を受ける
暫くして結果の一覧表が現れた
「ほぅほぅ」
「なる程なる程」
「適正の無い加護は取得できないのか」
「それからそれから?」
「加護にもスキルツリーが有るのか」
「それで・・・・・」
「別系統どうしの加護は選べないのね」
「ある程度ゲームをやっていた世代には分かりやすかろ?」
「まぁね」
「一覧を見るとなんか悪意を感じるわ」
「何がじゃ?」
「例えば1つの加護を選べば進化過程で得られる加護が別系統として存在してる」
「専門特化する加護も有るにはあるけど・・・・」
「どちらかと言うと限定的劣化スキルね」
「ほほぅ」
「まさかとは思うとったが」
「そうかそうか」
バステトは訳知り顔で目を細めグイッと詰め寄ってきた
「加護スキルのツリーは本来取得せねば分からぬ仕様じゃ」
「そしてかなり進めねば2つ目の加護の解放は出来ぬ」
「故にスキルツリーの選択爆死が起きるのじゃが・・・・・・」
「つまり私のこの状態は特殊なの?」
「かなりの」
「普通は昇神したとのろで加護スキルは進化したりせぬ」
「加護レベルが上がるだけじゃ」
「妾にはその一覧表は見えぬがおそらく第2段階かそれ以上の加護スキルが解放されているようじゃな」
それだけ言うとバステトは腕を組んで頭を捻った
「じゃが何故じゃ?」
「本来なら加護スキルは何千何万人もの信者がいて初めて覚醒するはずじゃぞ?」
「連続昇神にしてもそうじゃ」
「何かが腑に落ちん」
バステトが頭を悩ましてはいるがそれは私にとっても同じこと
ヴァンデラーブルクの全住民を合わせても千人どころかその半分いれば良い方だろう
だがシステムのバグとも思えない
何が起きているのだろうか?
「ふぅむ」
「謎じゃ」
「アリエル」
「差し支えなければステータスを見せてくれぬか?」
「スキルやアビリティは見せぬでも良い」
「パラメーターを見たいんじゃ」
私はバステトに言われるままステータスのパラメーターを開示した
「ふむふむ」
「やはり振りきれとるの・・・・・・・」
「STRなんぞ5桁とか」
「龍種でもこうはならんぞ???」
「さてさて」
「つい目についてしもうたが身体的パラメーターは重要ではないんじゃ」
ステータスに指を這わせながら読み解いていくバステト
一度スワイプして下の項目を指でなぞり・・・
行きすぎた箇所に再び視線が戻る
「なんじゃこれは?」
バステトが2度見して手を止めたのはパラメーター画面の下の方
何かの数字が並んでいるだけの場所だった
「どうかしたの?」
「どうしたも何も・・・・・」
「神が祈りの力を自らの魂の糧としておる話は以前したな?」
「そんな話有ったわね」
「神様は魂と強さが全てでありそれを強くする為に教圏を拡げ信者を増やし祈りを力に変えているんだったよね?」
「そうじゃ」
「じゃからシステムは妾達神族の魂の強度をMPや経験値のように可視化しておる」
「まぁ当然よね」
「文明を停滞させるのも信仰心を減らさないためだもんね」
「これには補足があってな・・・・・」
バステトは一瞬息を飲んで躊躇ったが再び話し始めた
「自らを信仰する者の魂は一度神の袂に集まる」
「そこでその者の魂の価値が神の力へと変換されるのじゃ」
「へぇー」
「じゃあ功績のある信者程死んだ後神の力になるんだ」
「そう言うことじゃな」
「そしてその魂は神によって転生させられるわけじゃ」
「この世界の輪廻転生ってそうなってるんだ」
「信仰心の無い者はこの大地に還元され他の生き物へ転生する」
「人間として確実に転生出来るのは神による転生だけじゃ」
バステトの説明はシステムとしては理解できる
だがそれだと魔物はこの世界の大地が生んでいることになるのだろうか?
野生動物と考えれば分からなくもない
しかしそれだと知的生命体が増えすぎてしまい他の生き物の魂はどうなるのだろうか?
「つまり信者の祈りと死による魂の帰依によって神は力を得ると?」
「大体そんな所じゃ」
「じゃから信者の数は生死を問わず神の力と言える」
「問題は信者が殆どいない駆け出しの神様があり得ない飛び級かましてるってことね」
「そこでじゃ」
「アリエルのパラメーターに記されておる魂の強度なんじゃがな?」
「数字事態がまずあり得ぬ」
「詳細を見ると魔属性が異様に高いのじゃ」
「勇者や魔王経由の神には時折あることじゃがな」
「心当たりはあるか?」
「そう言うことね」
「つまり魂は信者だけでなく贄であっても良いわけだ」
「捧げられた供物や生贄」
「そう言ったモノの魂が加算されるわけね」
「となると」
「アリエルは大量虐殺をした経験が有る事になるが・・・・・」
「やったわよ」
「主に魔物をね」
「そう・・・・か」
「じゃが不可解なのは無属性の魂の帰依じゃ」
「無属性は人間と言うことになる」
「人間の虐殺は身に覚えがないな」
「心当たりはあるけど」
人間を大量虐殺した覚えはない
だが私には〈魂剥奪〉と〈魔力変換〉がある
魔力に関しては身体の各所に貯めている他魂その物への攻撃への警戒措置として魔力を魂に変換して取り込んでいる
おそらくこの変換して取り込んだ魂が無属性の正体だろう
「迷宮氾濫起しかけてたダンジョン丸ごと虐殺したことがあるからそのせいじゃないかな?」
嘘ではない
なので嘘感知には引っ掛からない筈だ
私が魔力を魂へと変換可能な事は伏せておくべきだろう
これが問題ないのであれば信者ゼロでも世界征服出来てしまうことを意味している
システムが見逃しているのが不思議なぐらいだ
「ふむ」
「そのようなことがあったのか」
「と言うか・・・・・・・・」
「ダンジョン殲滅とか独りでやったのかえ?」
「さすがと言うかなんと言うか・・・・・」
バステトは呆れ果てた顔で私を見つめるのだった




