宴と宴の合間に
「さぁてとっ」
「んっしょ」
「どうしたの?」
「アリエルちゃん」
「フィーちゃん抱えたりなんかして・・・・・」
「白昼堂々とお持ち帰り?」
私は目の前に置かれた自分の分の料理を平らげるとシンシアをお姫様抱っこで抱えあげながら席を立った
「んにゃ」
「むにゃ」
「おなかいっはいらょ・・・・・」
シンシアが寝言で何か言っているのが何とも可愛らしい
まだ食べている夢でも見ているのだろうか?
「ちょっと部屋で寝かせてくるわ」
「あらあらぁ」
「本当に寝かせるだけかしら?」
「それじゃあアタシはお邪魔ねw」
悪戯っ子のように微笑むアムネリアに笑顔で返す
「ちょうど良いから一緒に来て貰えるかな?」
私の申し出に一瞬キョトンとした顔になるアムネリア
バステトに念話を飛ばし合図を送ると踵を返して部屋へと向かう
「アリエルちゃんちょっと待って」
急な出来事にアムネリアは慌てて席を立つ
私はシンシアを起こさないようにゆっくり歩きながらアムネリアが追い付いて来るのを背中に感じていた
ー・ー
「なんじゃ?」
「妾を急に呼びだてして」
「・・・・・・」
「シンシアは酔い潰れておるのか」
バステトには1人で来るように念話で伝えていた
そこで彼女は分身を残してここに来ている
分身は自律的に行動する化身と違い自分自身が操る完全な分身である
思考のマルチタスク化が必要なため人類には難しい能力と言えるだろう
「念のため魔法で眠らせておこうか」
「・・・・・・・」
「おやすみシンシア」
「良い夢を・・・・・」
ベッドに寝かせたシンシアの額に口づけをして魔法の眠りへと誘う
「んー」
「わざわざ3人だけになるって言うことは真剣なお話かしら?」
アムネリアは左腕を胴に絡め右手の人差し指を頬にあてがう
その姿はシンシアの母親と言うよりも姉妹のように見える
「となると」
「要件はアレじゃな?」
「ついてまいれ」
一瞬で真顔になったバステトは踵を返して私達を誘った
ー・ー
「あのぅ」
「バステト様?」
「なんじゃ?」
「アムネリア」
「アリエルと何か念話のようなものでお話なさっているので?」
「いや」
「妾を呼んだ後はこれと言って何も念話等はしとらん」
アムネリアは不思議そうな顔で小首を傾げ再びバステトに問いかける
「一言も話していないのに要件がお分かりなので?」
「このメンバーじゃ」
「他の誰にも知られとう無い要件なぞ1つしかあるまい」
「そうじゃろ?」
「アリエル」
先を行くバステトの足取りは何時ものフワついたものではなくしっかりと踏みしめるような早足である
それ程この件が重要なのだと物語っていた
「この先は・・・・・・」
「まさかっ」
「今から???」
「酔った勢いで行くとかじゃ無いですよね???」
アムネリアがいぶかしむのも無理はない
だが生憎私はどんな酒でも酔うことはない
酔おうと思わない限りは
「あっ・・・・・」
「ごっごめんなさい」
「アリエルは酔えない身体なのでしたね」
自分でも気付いたのか申し訳無さそうに項垂れるアムネリア
「酔おうと思えば酔えるんだけどねw」
「今回はちょっと・・・」
「誰にも知られず邪魔されずにやってしまいたかったのよ」
「・・・・・・・・・」
「ひょっとして・・・」
「アムネリアも知っているの?」
アムネリアは何かを言いかけたが被せるように聞いた私の問いかけに一瞬息を飲み言葉が詰まった
「私はウェンディア様からお聞きしているので神々の黄昏への挑戦権を得ています」
「私はバステト様から聞いてるわ」
「今この国でこの事を知っておるのは妾達3人だけじゃ」
「他の者達は誰も知らぬ」
「そう・・・ ・」
「なのですか」
「なるほど」
「そこまでアリエルを信用しているのですね」
アムネリアは神妙な面持ちで口を噤んだ
私の立場は彼女が考えるよりもずっと深い場所にあったらしい
「開けるぞ」
謁見の間
普段バステトが誰かと会うために設けられた大広間である
バステトがその奥の壁に手を当てると壁が消えて通路が現れた
「この隠し通路は私でも分からなかったわ」
「そらそうじゃ」
「幻術でも絡繰でもない」
「妾の奇跡によって壁を消しているのじゃからな」
そうか
初めから無い通路は探しようがない
この城の構造を熟知していなければこの先へは進めないと言うわけか
通路を10m程入ると音も無く後ろの通路が消え真っ暗になった
「忘れておったわ」
バステトが呟くと彼女の身体が光り出す
「松明や照明を灯すのかとおもったらご自身が光るんですかw」
「神の威光じゃ」
「神々しいじゃろ?」
「なんて贅沢な明かりでしょう・・・」
見惚れているアムネリアには悪いが私には明かり等必要ない
それはたぶんバステトも分かっていることなのだろう
この明かりはアムネリアの為である
「階段じゃから気を付けよ」
「暫く降りるぞ」
先へ進むバステトには悪いがやはり光源が近すぎて足元が見えづらい
私は魔法で光球を作り出すと少し離れた場所から地面を照らさせる
「なんじゃ」
「妾の光では不服かぇ?」
バステトは笑いながら言ったその直後
彼女が何故魔法で明かりを灯さなかったのか分かった気がした
ー・ー
「凄い・・・・・・・」
「この骨は何なの???」
下り階段はやがて巨大空洞に差し掛かりその柱の1つを回るような螺旋階段になっていた
そしてその空洞の壁には巨大な何者かの骨が半ば化石のように埋まっているのだ
それも一体どころではない
「これ等が何者かは妾にも分からぬ」
「そもそもこの亜空間は異世界とコモンスフィアを繋ぐ空間じゃ」
「その下層ともなれば何れかの異世界の干渉を受けるようになる」
「こ奴等は恐らく異世界の住人の成れの果てじゃろう」
驚いた
ここは物理的に地下と言うだけでなくこの空間の底へと向かっているのだ
だが何故そんな所に?
「アムネリアもここまで来るのは初めてじゃな」
「この先は妾しか知らぬ秘密の領域じゃ」
「ここで見たことは他言無用ぞ」
バステトのいつになく低い声色から事の重大さが伝わってくる
だがしかし
バステトに言われるまでもなくここは人に言えるような場所で無いことくらい肌で感じていた
「こんな巨大な化物が近隣の異世界の成れ果てだとしたら・・・・・」
「この近くの異世界は魔界か何かなの?」
「・・・・・・・・」
「やはりアリエルは鋭いの」
少しの沈黙の後バステトは答えた
ここには関係者しかいないためバステトも比喩など使わずにストレートな説明をし始めた
「この辺りに一番近い異世界は魔物が跳梁跋扈する世界じゃ」
「我等の認識では地獄か魔界じゃな」
「弱肉強食」
「力こそ全て」
「そのような神々が好んでおる」
声色が険しいのはバステトがあまり好きではない神々の話だからだろうか
後ろ姿から表情はわからないが手足の力の入り方で苛立ちや緊張が読み取れる
「実を言うとな」
「我等のゲームフィールドはこのコモンスフィアだけでは無いのじゃ」
「物質と精神と魂」
「其々を司る世界の全てが交わった場所がコモンスフィアじゃ」
「何故3つに分かれているの?」
「さてな」
「妾にも分からぬ」
「原初の神がそう創ったのじゃ」
「そしてコモンスフィアの周りに有る隣り合う2つの世界が交わった場所がある」
「それら7つの世界を包むように神界が存在しておる」
「何か偏った世界ね」
「有る意味平面に並んでるわけか」
「3次元的に重なるのかと思った」
「3つの世界とその交点となる3つの世界にそれらが交わるコモンスフィアか・・・」
「その7つの世界其々の覇権を神々は奪い合っておるわけじゃ」
「じゃあこの世界を統一したら隣の世界へ侵略するの?」
「まぁそう単純な話でもない」
「それに」
「まだどの世界でも統一された事は1度も無い」
うーん
中々にややこしい
7つも世界があれば其々違ったパワーバランスを持っている筈
「この先は魔界」
「物質と精神と魂」
「その中でも魂の強さが物を言う世界じゃ」
「魂の強さ?」
「もしかして伝承にある悪魔が魂を求めるのは・・・・」
「そうじゃ」
「主に魂を喰らう事で己の魂の糧として強くなるのが目的じゃ」
「奴等にとって魂とは力の象徴であり命の糧であり最高の対価でもある」
「魔界では魂こそが全ての価値を上回る」
「魂か・・・・・」
「有る意味神より価値の有る魂は無いと言うことかな?」
「話が早いの」
「アリエルにはあまり説明せぬでも良さそうじゃが」
「アムネリアには説明が必要かの」
先を行くバステトの声は緊張しているのか抑揚が少なく淡々としていた
「神の多くは肉体を捨て魂と精神に比重を置いておる」
「故に地上への干渉力が弱まる変わりに奇跡の力が強うなる」
「なら受肉しておる今の状態は神と相対するには不利なんじゃないの?」
「神と相対するには不利じゃが地上では有利に働くと言える」
「そして器に少しでも魂が残っておれば滅せられることはない」
「器を捨てねば全力を発揮できぬ代わりに器が無ければ滅ぼされるリスクを負うことになる」
「どんな形であれ神はその器を持つ」
「その属するものが何れにせよな」
「・・・・・・・・・」
「精神は祈りとなって神に捧げられ神の魂の糧となる」
「ならば心の中でしか会えぬより身近におる神の方が信仰は厚くなると思わぬか?」
目に見えないモノより触れられるモノ
神に対し強大な力を振るえる代わりに絵に描いた餅になると言うことか
確かに絵に描いた餅より目の前の餅の方が良いと言う人は多いだろう
「神にとって魂が重要であり祈りが魂を強化するのは分かったわ」
「そして魔界に近い場所に向かっていると言うことは・・・・」
「皆まで言うでないわ」
「妾の台詞が無くなるではないかw」
「そうじゃ」
「アリエルが察した通りウェンディアの延命のためには魔界の影響が不可欠だったわけじゃ」
「魔界の影響・・・」
「それは何故ですの?」
「バステト様」
「ウェンディアの受けた呪いは神によるものじゃ」
「魂へ直接働きかける」
「じゃが神が直接神を滅ぼすような力を使えば自らを弱体化させかねぬ」
「つまり神の奇跡は神の魂を切り分けて使っているってことで良いのかな?」
「・・・・・・・・」
「もうアリエルが続きを話すかぇ?」
「ごめんごめん」
「続けて」
どうも今の仮説はかなり的を射ていたらしい
一瞬振り返って私を見たバステトの目は呆れたと言うより白けたジト目だった
「祈りが神の魂の糧になると先程言うたな?」
「そして神の奇跡は自らの魂を削り取って顕現するものじゃ」
「故に信仰力の強い神はより強大な力を持ちその奇跡は果てしなく強くなる」
「と言うことはウェンディアが受けた呪いは直接絶命を意図したものじゃなくて肉体を滅ぼして弱体化させる類いのものだったって言うこと?」
「そうなのじゃ」
「本来ならばトドメには至らぬ呪いなのじゃが・・・・・・」
「逃避航の間無理して力を使い続けたのじゃろうな」
「弱ったウェンディアには致命傷になりかねなんだ」
「そう・・・・・」
「私達エルフを護るために自ら犠牲となられたのです」
神が民に犠牲を強いるのは良くあることだが神が犠牲になるのはなかなか有ることではない
「良い神様なのね」
「そうですね・・・・・」
アムネリアは涙を拭った
信仰の
心の拠り所が犠牲となり滅びればその先何を支えに生きるのか?
アムネリアの涙にはそう言った想いが詰まっているような気がした
「さて」
「こんな所にウェンディアを幽閉しておる理由は何となく分かって貰えたか?」
「そうね」
「受けた呪いは肉体への弱体化・・・・」
「受肉した神を滅ぼすには肉体だけでなく精神や魂を削る必要があるのよね?」
「なんじゃ」
「やっぱりアリエルには説明等要らぬではないか」
振り返ったバステトは頬を膨らませて睨んできた
「なんと無くね」
「もしこれがゲームのシステムだとして」
「どう言う関係性が一番無理がないかなって考えただけよ」
物質である肉体
心である精神
存在を司る魂
それらは三竦みではなく互いに干渉し合う事で形を保っているのではないかと推測したわけだ
故に上位の神は魂を拠り所にする事で物質より遠ざかりその分の影響力を魂と精神に注力していると言うことか
だが弱い神は受肉し近しい立場で物理的に奇跡を与える方が影響力が強いと言うことなのだろう
「神々の領域でその神を滅ぼしても器が残されている限り完全には滅ぼせない」
「だから魂と精神が疲弊しているウェンディアの器を狙い衰弱させる事で最終的には滅ぼすのが狙い」
「と言ったところかしら?」
フンスッ
「正解じゃ」
「なら続く言葉は分かるじゃろ?」
バステトは不機嫌そうに鼻を鳴らすと両手を腰に当て前屈みになりながら首を傾げ私を睨む
「受肉して物質敵な影響を強く受けるウェンディアを魂が優位な魔界の影響が強いこ後に封じることで呪いの進行を遅らせてるってことかな?」
「はぁ・・・・・・」
「アリエル」
「お主は本当に何も知らぬのかえ?」
「お主の言う通りじゃ」
「受肉しておる今の妾ではウェンディアの呪いを真っ向から打ち消すだけの余力が無い」
「じゃから魔界の影響を受ける事でウェンディアが肉体から受ける影響を減らしつつ魂が少しでも力を取り戻すのを待っておった」
「更に妾の力が増して呪いを払えるよう努めておったと言うわけじゃ」
それだけ言うとバステトはプイッとそっぽを向いてそのまま先へと進み出す
と言うことは
私のやるべき事は呪いを解くかバステトをパワーアップすれば良いと言うことか
恐らくウェンディアは信仰力が減り弱体化しているためパワーアップしても長くは持たないだろう
「どうせアリエルなら分かっておるのじゃろう?」
「天使と悪魔は同じモノじゃ」
「神が魂を分けて作り出す奴隷眷属と言う」
「強大な神であればある程強力な奴隷眷属を数多く使役出来る」
「じゃがアレ等は基本的に命令待ちのロボットのようなものじゃが主が倒されても消えたりはせぬのでな」
「多くの眷属は力尽きればそれで終いじゃ」
「じゃが中には名を受け独自に信仰や畏怖の対象となり力を得たモノもおる」
「そう言う野良眷属は時々人間が契約を結び使役しておる事がある」
野良の天使兵はあまり見たくない気もするが・・・・
悪魔ならわりとしっくり来てしまう
堕天使なんかもこれに類するのだろうか?
「ん・・・・・・・」
「と言うことは」
「奴隷眷属である天使兵を使った戦いが長期化すると使役している神が弱体化するってこと?」
「そうじゃな」
「更に言えば天使兵もろとも信者を虐殺して数を減らせばもっと急速に弱体化させることが出来る」
「妾はミリアの裏切りでそれをヤられた」
「・・・・・・・・・・」
「まぁ」
「負け惜しみじゃな」
最後の言葉には自責の念を感じた
不用意にミリアを信じた迂闊さ
ミリアの小細工や裏切りに動じないだけの強さがあれば民を護れた
この400年もの間
バステトはそんな風に自分を責めてきたのだろうか?
ー・ー
「ここじゃ」
螺旋階段を降り続けどれくらいの時間がたったのだろう?
何時間も降り続けたような気もするしそうでもない気もする
この場所は時間の感覚が狂うようだった
「この小屋にいるの?」
「神殿の石碑にでも封じられとると思ったかや?」
「まぁね」
この地下空間は広い
そして何故か昼間のように明るい
かなり大きな空洞だけに壁面の化石郡がいかに巨大なのかがわかる
「上の方が霞んで見えないわ」
「そのわりにはあの壁面の骨はハッキリ見えるのね」
「アリエルは気付いておるじゃろうが」
「階段には認識阻害処理が施してある」
「そのせいで歩けば時間感覚は狂い上も下も見通せぬようになっておる」
「バステト様はそれを誤魔化すためにお話を続けられていたのですか?」
「アムネリアも察しが良いの」
「そうじゃ」
「妾と話でもしておらぬと時間感覚は狂い下手をすれば体調や平衡感覚も狂って下に落ちかねぬゆえな」
入り口の隠蔽だけでなくこの場所に至る螺旋階段にも防護措置が施されているのか
もしかするとバステトと一緒でなければ辿り着くのも困難なのではないだろうか?
小屋の前に立つとバステトは扉に手をかざす
魔方陣が現れクルクルと不規則に回り魔方陣は消えた
「後はアリエル次第じゃ」
バステトは扉を開けると私達を中へと誘った




