ワーズワースへの道
「まさかこれ程とは・・・・・」
アムネリアの細い目が見開かれ私の姿に釘付けになる
すると見る間に涙が溢れ眩しそうに目を押さえた
「信じられないくらい強い魂・・・・・・」
「こんなの亜神どころじゃない」
アムネリアは静かに言い放ち再び私を凝視した
「なんて事」
「オリハルコンにこんな真似するなんて・・・」
「自動人形?」
「動力源は?」
「これが神の御業じゃないなんて・・・」
「奇跡以外でこんな事出来るなんて信じられない」
呟きながら複数の魔法を発動させて細かく調べているのが分かる
隠す必要も無さそうなので対抗しないでいるが居心地は悪い
「ねぇ母さん」
「そろそろいい加減にしてくれないかな?」
「私達は別にこの国に害を及ぼすつもりはないし獣人達とも仲良くやるつもりよ?」
「わかったわ」
「現時点で私にアリエルは倒せない」
「私どころか殆どの神々でも太刀打ちできないと思う」
アムネリアが不穏な言葉を言い放つ
だがそれが何を意味しているのかが分からない
「それはエルフの守護者としての見解かの?」
「それとも・・・・」
アムネリアはリグルの言葉を遮るように右手を上げた
「私は水と風の神〈ウェンディア〉の巫女です」
「新たな神の出現は確認しておく必要があるのです」
「その巫女である私が全力で挑んでも足留めにすらならないでしょう・・・・・」
この姿を見てからのアムネリアは見るからに緊張している
声も微かに震え指先の震えを隠すためか両手はきつく握られている
「そもそも母さんは何で敵対する前提で見ているの?」
「私達は神墜としのため旅をしているの」
「バステト様の協力を得られるとは思わなかったけどね」
シンシアは視線を向けず淡々と語った
「そっ」
「そうなの」
「バステト様も協力するのね・・・・」
複雑な表情を浮かべるアムネリア
どうやら彼女はバステト側やシエラ皇国側の人間では無いらしい
恐らくは以前住んでいた大陸にいた時からウェンディアの巫女なのだろう
そして察するにそのウェンディアは領地を持たぬ放浪の神
力量を推し測り敵対しかねない亜神が現れれば討伐も止むなしと言うことか
「私は別にちょっかいかけてこなければ敵対したりはしないわよ」
「私達の目的は打倒ミリア」
「あの阿婆擦れを叩きのめすことよ」
「そう・・・・・」
「なのですか」
アムネリアは少しホッとしたような残念そうな顔で微笑んだ
はて?
何故ソコで残念がるのだろうか?
「まぁまぁアムちゃん」
「取り敢えずいきなりアリエルを試した事は謝っといた方が良いんじゃない?」
「その上で協力して貰えるのか話した方が言いと思うな」
訳知り顔でリサが囁く
その言葉に一瞬ハッとしたアムネリアは穏やかな声色で謝ってきた
「大方理由は分かるわよ」
「そのウェンディア復権の為助力してほしいとかでしょ?」
「バステト様はここに隠れている都合上表だって大きな事は出来ない」
「そこに神に比肩する化物が現れたから利用出来るかどうかを試したのよね?」
「アリエル」
「言い方・・・・・・」
シンシアのツッコミを無視してアムネリアをジッと見詰める
アムネリアの方も視線を反らさず見返してきた
「当たらずとも遠からじ」
「ってところかしらね」
私は軽く溜め息をついて両手を腰に当てた
そのまま踵を返し席に戻るとストレージから酒瓶を取り出すと紅茶の入っていたカップにナミナミと注いだ
暫くカップを弄び揺らぐ水面を見詰めると一気に飲み干した
「ミリア討伐に支障がない程度なら協力しましょう」
その言葉を予想していたシンシアは額に手を当て項垂れリサは上機嫌に微笑んだ
ー・ー
「アリエル」
「協力って具体的に何をさせられるのか分からないのに安請け合いして良いの?」
「別に構わないわ」
「協力って言っても求められることは限られてるから」
「大方ウェンディア信仰への手助けってところじゃない?」
「ミリアは他の神への信仰を良しとしていないもの」
「迫害を防ぐか信仰への足掛かりか」
「それぐらいなものよ」
それ以外にメリットが無いだろう
もし協力の内容がミリア討伐だとすれば同じ目的であることに変わりはない
他の神墜としや元いた大陸への帰還と言うのも有りうるがそれはミリア討伐後になる
「お願いと言うのは実は・・・・・・」
「ウェンディア様にかけられた呪いを見て欲しいの」
「出来れば解くか緩めて欲しい」
「貴女程の力があれば出来るんじゃないかしら?」
アムネリアの言葉に耳を疑った
完全に想定外
まさか神にかけられた呪いの対処とは・・・
「え・・・・・・・・と」
「どういう意味?」
「バステト様はウェンディア様が呪われているのはご存知だったの?」
「まぁね」
「でも神の奇跡による呪いだから私では解くことは出来なかったの」
「だから今はワーズワースの地下で眠って貰ってるわ」
リサはバツが悪そうに答えた
その表情はもどかしさと苛立ちが見てとれる
「それは進行を止めるために封印してるってことかな?」
「そうよ」
「今の私に出来ることはそれくらいしかないから」
リサは表情を曇らせ悲しそうに微笑んだ
神の力は信仰に依るもの
国を追われ信者も減れば自ずと力は衰えていく
いかにこの異空間で獣人達が増えバステトが信仰されていたとしても全盛期には比べるまでもないのだろう
それに加えて神すら害する呪いともなればバステトには手に負えなかった
そんなところか
「取り敢えずワーズワースに着いたら見せてもらうわ」
「話はそれからね」
見てもらえるだけでもありがたいとアムネリアは頭を下げた
ー・ー
「と言うわけなのよ」
「わかったかしら?」
「シンシアちゃん」
あれから何故ウェンディアの巫女をやっているのか
敵対する意図はなくても強行手段で力量を確かめなければならなかったのかをアムネリアは語ってくれた
「つまり」
「ウェンディア様もあの大陸からの亡命者って事で良いのかな?」
「そうね」
「この大陸にたどり着いた頃にはウェンディア様はお力の殆どを使い尽くしておられたわ」
「だから上陸後に守りきれず多くのエルフ達が捕えられ奴隷にされてしまったの」
目を瞑り空を仰ぐアムネリア
逃避行からの暗黒時代を思い出していたのだろう
「ワシが出会ったのはちょうどその頃じゃな」
「あの頃はまだ組織だって活動しておらんでな・・・・・・」
「ワシやジリエラ達が各々パーティーを組んで各地の獣人達を助けておったのじゃ」
「地上の隠れ里を周ったり闇夜に紛れて虐げられた奴隷を解放したりしておった」
リグルは頭を撫でると髭を扱き過去に想いを馳せていた
「あの頃のリグルは鬼神の如き強さでした」
「勇者リグレットは獣神バステト様と共に迷宮に消えたことになっていましたから・・・」
「少し印象を変えて偽名を名乗っていましたね」
「まぁ若気の至りじゃ」
ジンの言葉に照れているのかぶっきらぼうに答えたリグル
「もしかしてその偽名って」
「桜花か大和?」
ブフォッ!!
「なっなっなんで知っとるんじゃ???」
「誰かに聞いたのか?」
目に見えて狼狽するリグル
頭から耳まで真っ赤になっている
「なんと無くね」
「年代的に剣豪武蔵か帝国旗艦あたりかなぁって」
「中でも望郷の念も考えると大和かなって」
リグルを見る目が思わずニヤける
「まっまぁ」
「悪くないじゃろ?」
「でも日本人丸出しの名前ね」
「それはな・・・・・」
「心の何処かで日本人を探していたのやもしれん」
寂しそうな瞳は穏やかでその奥に今は安堵の光が灯っている
「まぁ」
「期待通り転生者は見つけやすかったかの」
日本人ならこの名を見過ごしたりはしないだろう
転生者の保護や情報交換を旨としていたならば効果的なのは間違いない
「はぁ・・・・・・」
「まさかあのヤマトがリグルだったとはね」
「里を出た後墓参りくらいしようかと思って探し回ったけど見付からなかった」
「それどころかあれ程の剣豪が足取りすら掴めなかった」
「生きていたんだからそりゃ墓は無いわよねw」
シンシアの乾いた笑いが部屋に響く
正体を隠していた事への落胆とその理由への理解で複雑なのだろう
他にも何かありそうだが詮索するほど野暮な真似はしたくない
「しかし」
「世界は広いようで狭いわね」
「冒険者ともなれば世界は広くとも活動範囲は限られておる」
「同じ志ならば交わるのも不思議ではない」
シンシアの嘆息にリグルがしみじみと応える
何だかんだでこの2人は仲が良い
これで付き合っていないのは互いがそれを望まなかったからだろう
「今夜はここに泊まって明日はいよいよワーズワースね」
「明日?」
「やっぱりアリエルちゃんは高速移動手段を持っているのね♪」
何だか楽しそうなアムネリア
深刻な話も終わり調子が戻ってきたようだ
「明日・・・・・・ねw」
含んだ笑いが全員から溢れ独りアムネリアだけが分からず首をかしげるのだった
ー・ー
「あらぁ?」
「あらあらあらまぁ♪」
「この魔法は面白いわねぇ♪」
今日も今日とて〈風の運び手〉を使用しての移動
夜明け前はやはり風は凪いでいるので風魔法で加速したわけだが・・・・・・
「アムネリアって高速飛行魔法に慣れてるの?」
「全っぜん動じてないんだけど」
「そんなわけ無いと思うけど」
「だってこの世界短距離飛翔魔法か浮遊魔法くらいしか無いのよ?」
「それもこんな速度で長時間飛べる魔法なんか聞いたこと無い」
私の問いかけをシンシアは驚愕しながら否定した
何度も確かめたがこの世界には短距離を飛ぶ魔法しかなくこのように高高度を飛べる魔法も無い
空を飛ぶのは有翼種の特権なのである
「まぁ〈失われた魔法〉には無くもないけどね」
「空の魔物が恐いからあまり発展してないんだよね」
そう言うリサは自由自在に飛んでいる
神々の戦争は天使兵を使う為空中戦が出来なければ話になら無い
その為飛行魔法には馴れているらしい
「アムネリアはウェンディアの巫女だからそう言う経験があるのかも?」
リサはクルクルと回りながら飛んでいる
アレで目が回らないのだから流石神様と言うべきか
「おのぉ」
「お話ししてるところ悪いのですが」
「私もこんな風に空を飛ぶのは初めてですよ?」
そう言いながら近付いてくるアムネリアはとても初心者には見えない
身体も安定しているしキチンと思うように飛べているように見えた
何にしても上手く飛べているのだから問題ない
手がかからないことは良いことだ
「それにしても速いわねぇ」
「アウステルがもうあんなに小さい」
アムネリアの言葉に耳を疑った
彼女は後ろを振り返ったのだ
この〈風の運び手〉と言う魔法は風に乗るだけの魔法
方向は姿勢で決めるため馴れない内は姿勢が崩れ真っ直ぐ飛ぶことが出来ない
当然後ろを振り返れば体制を崩してしまう
だが彼女は自然に振り返り後ろを見ながら飛んでいるのだ
「これでホントに初心者ならちょっと自信無くすわ・・・・・・」
優雅に景色を楽しみながら飛んでいるアムネリア
その姿はどう見ても初心者にはみえなかった
ー・ー
「あっという間でしたね」
「今回も手前で降りますか?」
「いや」
「このまま行くのじゃ」
「門の所に迎えが来るよう手配しておる」
バステトは既に変装を解きそれにともない口調もいつものバステトに戻っていた
先頭を飛んでいるのは防空隊にその姿を見せることで無用な手間を省くためだ
「迎えじゃな」
地表まであと100mぐらいの所まで降下すると周囲に防空隊の影が見え始めた
更に50mまで降下する
一瞬影が過ると直ぐに両サイドに有翼人が4人現れた
「お帰りなさいませバステト様」
「うむ」
「ご苦労じゃの」
「正門へ降りる案内せよ」
「ハハッ!!」
敬礼した2人が先行して降りて行く
バステトの両翼には各々1人ずつ随伴し私達の後ろには8名の空の戦士達がついてきている
「なんか物々しいわね」
「首都だからね」
「しょうがないんじゃない?」
私の呟きにシンシアが応えながら近付いてくる
眼前に迫る巨大な正門とその周りの兵士や人集りをみれば心細くなるのだろうか?
道中の打ち合わせに従い私達は旋回しながら上空で待機する
「一緒に来たって言うのに面倒な事ね」
「そう言わにゃいで下さいましな」
「本来待ち受けるバステト様が同時に帰るのは儀式的には格好がつかないのにゃ」
バステトはアルベルトとジンを伴い先に降りたがフェリシアはアムネリアと共に引率役として残っていた
「バステト様は優雅に降りたわね」
「女神降臨って感じね」
「なぁに?」
「アリエルがまた悪巧みしてる気がするわ」
「私も・・・・・」
「登場するならヒーロー着地が良いと思うの」
「アムネリア」
「ヒーロー着地とは何じゃ?」
「待って待って」
「こんな高度からヒーロー着地したら膝が壊れちゃうよ?」
「じゃからヒーロー着地って何じゃ???」
地上波50mからのヒーロー着地なんて無茶振りしようとするアムネリア
年代的にヒーロー着地が分からないリグル
呆れた顔のシンシアに笑いを堪えているラルク
上空待機は暇でしょうが無いせいか無駄話に花が咲く
「って言うか」
「アリエルは膝の心配要らないんじゃない?」
「シンシアの言う通りじゃなw」
「この中で膝の心配が必要なのはアムネリアさんとフェリシアぐらいなものです」
サラッと自分は大丈夫だと主張するラルク
だがシンシアの膝は心配して上げて欲しいかも?
「私はヒーロー着地なんかしないわよ?」
「皆が降りた後優雅に降りさせて貰うわ」
微笑みながら離脱宣言をするシンシア
「あらぁ」
「皆でする方が面白いのにぃ」
残念がるアムネリアを無視して辺りを見回す
防空隊の隊員達も一緒に旋回しているわけだが
実は彼らがいるから旋回しているだけで私達だけならばその場で浮遊して待っていても良かったのだ
翼で飛ぶ彼等は空中で静止するのが難しいが魔法で飛んでいる私達には関係ない
「アリエル」
「バステト様から合図がありましたにゃ」
「私達も降りますにゃ」
ヒーロー着地か・・・・・・
確かにそう言う登場はカッコいい
でもヒーローってがらじゃないんだよなぁ・・・・
けどまぁ
派手な登場と言うのも悪くないか?
〈付与魔法物理反発型推進装置〉を使い加速しながら急上昇をかける
「ぁあもう」
「アリエルはまた何かやらかす気ね」
「私達は普通に降りましょう」
雲を引いてすっ飛んでいく私を尻目にゆっくりと降下を始めるメンバー達
ボンッッ
ボボッ
ボシュゥ
「この辺で良いかな」
およそ上空200m
反転しながら駆け上がってきた軌跡が幾何学模様を描いている
「物理反動推進全開!!」
周りには誰もいないのだが思わず口に出してしまう
魔法を付与された肩と足から一瞬火が吹き出る
だが次の瞬間炎は消え殺人的な加速が身体を襲う
ドォオオオオオンッッ!!
音の壁を突き破り衝撃波を引き連れ急降下を始めたのだった
ー・ー
ォオオオオオン・・・・・
「あんの馬鹿!!」
「妙に高度と距離を取ったと思ったら!!」
「なっ何じゃ?」
「何があった???」
ついていけないリグルを庇いシンシアは周囲を警戒した
「シンシア!」
「アリエルは南へ向かっています!!」
ラルクの指差す方を見ると豆粒のような何かが南へと飛んでいくのが見える
「絶対変な演出思い付いたのよ!!」
「さっさと降りて備えるわよ!!」
言うなりシンシアは急降下をかけて地上を目指す
ドンッ!!
ズドンッ!!
急降下からそつなく降り立ったフェリシアの後ろでラルクとアムネリアは急降下からのヒーロー着地で観客を驚かせた
続いてシンシアとリグルが舞い降りる
「2人とも何やってんのよ・・・・・」
「多少目立ったところでどうせアリエルに台無しにされるわよ?」
格好良く着地して満足げな2人に冷ややかに告げるシンシア
「アリエルは何か企んどるようじゃの」
バステトは野外用の椅子に腰掛け楽しそうに見ていた
ー・ー
ゴッ!!
シュゥゥーーーーー
私は街道に人がいないのを確認して低空飛行に移行した
急制動からの音速突破で何度か飛行機雲を引きつつ衝撃波がそれを散らす
低空飛行に移行した時仲間達が着地したのを確認した
「じゃあ行きますか」
ドンッ!!
再び音の壁を突き抜け正門を目指す
500m手前で急上昇をかけそこから一気に降下して皆の前へと降り立ったのだった




