再会
「えっ?」
「ちょっっ?」
「なんで???」
シンシアが人前でここまで狼狽するのも珍しい
右手を額にあてて足元がおぼつかない
「なんか思ったよりエルフが多いわね」
アウステルの中心部 領主の館に近付くにつれて街行く人の服装は上等で煌びやかな物になり明らかに裕福なのが分かる
そして行き交う10人に1人はエルフだ
エルフ達は慣れた様子で買い物や食事を楽しんでいる
その中の1人に真っ直ぐ駆け寄るシンシア
「ちょってっ母さん!!」
「なんでこんな所にいるのよ!!」
ブフォッッ!!
思いがけない言葉に思わず口を付けていたジュースを吹き出してしまう
「あらぁ?」
「フィーちゃんじゃない」
「元気そうで良かったわぁ♪」
このエルフの女性
シンシアのお母さんらしいが私の偽装魔法の上からシンシアだと看破した
私の偽装魔法で今は妖狐にしか見えないはずなんだけど・・・・
「あらあら」
「あらあらあらあら♪」
「お久し振りで御座います」
その女性はシンシアの肩越しに見付けたリサをバステトだと認識しているようだ
こちらも神様の偽装魔法により姿が変わっているはず
それを看破した上でお忍びだと察し名前は呼ばず挨拶だけで済ませてきた
更に私達を見回すとジンを見つけウィンクをするとリグルには少し前屈みになり自らの唇に人差し指をあてがいウィンクしながら投げキッスを贈る
「か・ぁ・さ・ま?」
一連の仕草を見て取ったシンシアの柳眉が見る間に持ち上がり怒気を孕んだ低い声が響く
「何よもぅ」
「懐かしい顔が見れたからサービスしただけじゃないのー」
細い切れ長の目に緩やかに波打つ長い金髪
長い睫の奥にはエメラルドのような瞳が覗いている
しかし噂に聞くエルフとは思えない砕けた感じに拍子抜けしてしまった
たが
なるほど
プロポーションの良さも含めシンシアが母親似なのが良く分かる
「あら?」
「申し遅れましたわ」
「私この娘の母親でアムネリアと申します」
「アムとお呼びいただければ嬉しいですわ♪」
深々と頭を下げる姿に思わずつられて頭を下げた
「アリエルです」
「よろしくお願いします」
「あらぁ」
「もしやと思ったけどやっぱり日本人ねぇ?」
「この世界では頭を下げる礼なんかしないし頭を下げられたからってつられて頭を下げるのは日本人の転生者だけたもの」
ニヤニヤと笑いながら言うアムネリア
その言葉には正直驚いた
シンシアからは親が転生者、又は関係者とは聞かされていなかったからだ
「シンシア」
「お母様って転生者?」
「何度聞いても教えてくれないのよ」
「知識の多さから転生者だと思うんだけどなんたって老獪なエルフだからね」
「長く生きている分転生者の知り合いも多いのかもしれない」
「でも私が記憶を取り戻す前に転生者だって見抜いていたのよね」
呆れたようにため息を付き腰に手を当てて母親を睨み付けるシンシア
「あらあら」
「フィーちゃん今はシンシアちゃんなのね?」
「でもシンちゃんって呼んだら男の子みたいねぇ」
「だから何でも略さないでよね」
のんびりした雰囲気だが底の見えないアム
母親に対し妙にあたりが強いシンシア
2人と言うかシンシアは過去に家族と何かあったのだろうか?
1人で家を出ている事から考えても何かはあるのかもしれない
「アムネリアか」
「久しいな」
「ちゅうか・・・・・」
「お主等親子じゃったのか」
リグルは目を丸くして2人を見比べている
「あらあら」
「シンシアちゃんはリッくんにもお母さんの事話していないの?」
「母さん悲しいわ・・・・・」
伏し目がちにハンカチを目許に運ぶアムネリア
「白々しい泣き真似は止めて」
「家族の事はあえて話す必要が無かったから話さなかっただけよ」
「って言うか」
「2人とも知り合いだったの?」
今度はシンシアが2人に問い掛ける
当のアムネリアはその話題に興味がないのか私を上から下までじっくりと見ていた
「知り合いも何も・・・・・」
「貴女覚えてないのね?」
「それはリッくんも悲しいと思うなぁ」
「フィー?」
「アムネリアの娘???」
「まさかシンシアがあのフィーとはな」
「すっかり大きゅうなってしもうて全く気づかなんだわw」
「なっ何よ2人して?」
「私がリグルと昔馴染みだとでも言いたいの?」
眉間に皺を寄せて2人を睨み付けるシンシア
その様子を見てアムネリアは吹き出した
「気付かないのも無理無いわねー」
「リッくんは大分変わったものw」
楽しそうに笑うアムネリア
対してリグルは困ったように頭を撫でた
「あの頃はシンシアもまだ幼かったしワシの頭にも未だ毛があったからのぅ」
「フサフサだったわねw」
「まぁそう言うな」
「あの頃から短く切り揃えて綺麗にしておれば少しは残ったのやも知れぬな」
リグルはニカッと笑うと頭を叩いた
「まさか」
「そんな筈は・・・・」
「いや、でも」
「リグレットが昔から獣人族と関わっていて獣人だけでなく亜人種にも手助けしていたとしたら???」
頭を抱えてブツブツと呟くシンシア
それを見るリグルの表情は明らかに今までとは違っていた
「リッくんは私達がこの大陸に流れ着いた時・・・・・」
「奴隷にされた仲間を助け出してくれたの」
「それから大陸を横断してこのシエラ皇国まで連れてきてくれた私達東方エルフのとっての大恩人なの」
「話さなかったっけ?」
「そんな話聞いたこと無いわ」
「それ以前に殆ど家にいなかったじゃない」
険しい表情のシンシアとは対照的にリグルの表情は穏やかだった
「まさかあの小さかったオルフィーナがこうも逞しく育っておったとはな」
「家を出たとは聞いてはおったが外見も雰囲気も幼い頃の面影は無かったからのぅ」
「お互い過去を詮索せんかったとは言え旧知の仲ならもっと違うつきあい方になったじゃろうな」
この目は
リグルのこの目は完全に久し振りに会った親戚のオジサンの目だ
これで幼少期の恥ずかしい話なんかされた日にはシンシアとしてはたまったものではないだろう
「じゃがな」
「アムの娘と分かったのは嬉しい誤算じゃったが」
「シンシアは幾度も死線を潜り抜けた戦友じゃ」
「もうあの頃のように子供扱いはせぬよ」
察したのであろうリグルの言葉はシンシアにはありがたかっただろう
だがリグルの表情はどこか寂しげだった
ー・ー
「ところで母さん」
「いつまで付いてくるのよ?」
「そう邪険にするものじゃないわよ?」
「私はこう見えてリサ様とは戦友なのですもの」
「旧知の仲と言うのはリッくんだけじゃないのよ?」
天然なのかなんなのか
アムネリアはリサの後ろから手を回しながら歩いている
傍目に見てもかなり親密な関係に思えた
「ところでアム」
「今日はどうしてアウステルまで来てたの?」
「いつもはワーズワースで遊んでるのに」
リサに問われアムネリアは満面の笑みを浮かべた
「あの結婚式の魔道放送を見てね」
「リサ様は帰りに絶対アウステルに寄ると思って待ってたのよ」
言うと同時にキュッと抱き締める
抱き締められたリサも嬉しそうに笑い返した
「でもまさかアムの娘が英雄になってこの国に来るなんて誰が予想できたかしら?」
「リグルがリグレットなのは分かってたし久し振りに来てくれたからつい出迎えに来ちゃったけど・・・・・・」
「私からすれば皆がお互いの正体を知らず繋がってたのに驚いたわぁ」
「当事者がビックリしてるんだからアリエルなんかホントにハトが豆鉄砲喰らったみたいなものよね」
コロコロと笑うリサは物凄くリラックスしているようだ
それほどこのアムネリアの事を信頼して気を許していると言うことか
「私からも質問があるんだけど良いかな?」
「何よ勿体ぶって」
「いつもの母様なら不躾にガンガン聞くでしょ?」
シンシアの言葉には少し棘があった
だがアムネリアはあまり空気を読まないタイプなのだろうと言うことはなんと無く分かる
「リサ様がお許しになっているから大丈夫だと思うけど・・・・」
「アリエル」
「・・・・・・・」
「貴女亜神でしょ?」
目を細めたアムネリアからは何を考えているのか表情が読めない
ただでさえ切れ長で細い目をしているので目を瞑っているのかと思ってしまう
「私はまだ亜神ではないかな」
「人間じゃないのは確かね」
「そう・・・・・・」
アムネリアは短く答えると興味を失ったのかリサを伴い裏路地に入ろうとした
「ちょっとお母さん!」
「自分から話振っといてそれで終わりなの?!」
シンシアが後ろから肩を掴もうとした右手をアムネリアはまるで後ろにも目があるかのように左手を翻し掴むと何食わぬ顔で歩き出す
「ちょっ待って離してよっ!!」
半ば引きずられるような形でシンシアを従え右手はリサの腰に回したまま路地に入り妖しげな店に入るアムネリア
「なんかさりげなく達人級のカウンター入ってるんだけど?」
「まぁな」
「アムネリアはアレでも名の知れた冒険者じゃった」
「シンシアが外の世界に飛び出したのも若い頃アムネリアが家を空けがちだったからやも知れぬな」
私の呟きにリグルがしみじみと答えた
「3人は店に入ったので私達も入りますか?」
「そうするしかなかろう?」
「じゃがよりによってこういう店とはの・・・」
リグルが見上げたこの店の看板には
半裸の女性の絵が描かれていた
ー・ー
「ピュィイーー!!」
「良いぞぉー!!」
「こっち!こっちを向いてくれー!」
「ア・リ・スちゃーん!!」
店の中は怪しい煙が漂っており男達の指笛や歓声が巻き上がる
そう
ここはストリップを見せる特殊なバーだ
ストリップと言っても獣人達の場合殆どは柔らかな毛に覆われているので生々しい裸を見せるのはハーフリングくらいなモノだろう
それでも普段隠されている身体のラインが露になり男達は熱狂している
「どう見ても男性向けのお店ですね」
「大通りから1本入った所にこういう店が堂々とあるとはの」
「それだけおおらかなのじゃろうが・・・」
「あまり居心地は良くないの」
喧騒の中話すとどうしても大声になる
不便なので通話用に魔法を使い辺りを見回した
「奥の部屋に行ったみたいね」
店の奥を指差すとアムネリアに連れられたシンシアの後ろ姿が見える
「大きな店じゃのう」
「アリエルの魔法のおかげで話すには不自由せんな」
ステージの上から私達を見付けたアクターが手招きをする
しかしリグルは興味無さげに右手をあげると投げ銭として銀貨を弾いて飛ばした
コインはクルクルと宙を舞い女の子のブラから覗く胸の谷間へと吸い込まれる
驚いた女の子は御礼とばかりに投げキッスを返してくれた
「中々器用なことするわね」
「リグルは遊び人だったのですか?」
私とラルクの声が交錯する
「スキルじゃよ」
「役に立たぬスキルじゃがこうやって格好付ける時には役に立つ」
レアスキル〈貨幣投げ〉
それに〈狙撃〉〈手加減〉の合わせ技
確かに芸としては面白いが実用的ではない
相手がジュークボックスならKing of Popのワンシーンを思い出す
リグルは彼が生まれる前にこの世界に来ているはずなのだが・・・・・
詮索はしないでおこう
ー・ー
「あらぁ」
「遅かったじゃない」
「外の女の子に見とれてたのかしら?」
アムネリアが茶化すがリグルは手をヒラつかせて応えた
「ふむ」
「外は喧騒壁は頑丈」
「密談するにはうってつけの部屋じゃな」
「入る時に見たけど防音と探知阻害魔法が刻印されているわね」
「ここの方が都合が良いかなって」
「もう少し遅くても良かったのにw」
本心からそう思っているのかどうなのか
アムネリアは飄々としていて考えが読めない
ならば考えるだけ無駄だろう
「バステト様のお客人が人間3人とエルフだと聞きましてね?」
「それもリグレットとラビアンローズが来ているなんて聞いたらいてもたってもいられなくって・・・・・」
「それでこっちに来たらアルベルトとジリエラの結婚でしょ?」
「お祝いに駆けつけたかったけど間に合いそうもなかったからここで待ち伏せしてたの」
今サラッと待ち伏せって言った
待ってたとかじゃなく待ち伏せって
「でもあのラビアンローズが愛しのフィーちゃんだって分かったからなんだかもう嬉しくって♪」
先程からマシンガンのように話続けているが会話の途中無作為に殺気が飛んでくる
ラルクも気付いたらしく思わず剣の束に手がかけられていた
試されている
アムネリアは何気無い会話をしながら視線と殺気で私達を試している
ならお返ししますか
「飲み物は頼めば良いのかしら?」
「取り敢えずは紅茶があるので適当に飲んで頂いても宜しくてよ?」
アムネリアの指差す場所には陶器のポットがある
まだ温かいようで微かに湯気があがっていた
カップに紅茶を注ぎ席についてカップを口に運ぶ
来た
予想通り再びアムネリアから殺気が飛んでくる
お返しに私も殺気を飛ばして応戦する
「あらぁ♪」
「これならどうかしら?」
笑みを浮かべたアムネリアは右足を上げて足を組むと再び殺気が飛んでくる
大上段からの袈裟斬り
続けて切っ先が跳ね上がり胴を薙ぐと弧を描いて斬り上がり再び袈裟斬りからの突きが放たれる
身体を微塵も動かさずこれだけの意思を殺気に込めて放ってくる
並大抵の剣豪に出きる芸当ではない
「まさかこの世界にこれ程迄殺気を操る達人がいるとは驚きだわ」
だが現世で言う殺気と魔法世界であるコモンスフィアの殺気では根本的に違う
魔法や呪いは想いを具現化する技術である
その為コモンスフィアにおける強い殺意は人を殺す事もある
このような殺気のやり取りも気を抜けば只では済まない
と言っても本気で殺す程の殺意が込められているわけではない
攻撃の意思を飛ばしていると言えば良いだろうか?
これを実際の攻撃にフェイントとして織り混ぜられれば厄介この上無い
もっとも
この殺気を察知できるレベルの相手にしか通用しない技術ではある
「これもしのいじゃうのね」
「凄いわぁー」
のんびりとした口調だが絶え間無く続く攻撃に反撃の隙が中々掴めない
それでも何撃か打ち込んでみるが見事に弾かれる
「おいっ」
不意に横から割り込んできた殺気に攻撃を中断された
「2人とも遊ぶのは良いが・・・・」
リグルが怒気を孕んで睨み付けてくる
「ここにはソレを読み取れん程の未熟者はおらん」
「そんな応酬をされたんじゃあ落ち着いて茶も飲めんわ」
ドスの効いた声で怒りを露にされればそれ以上続ける意味はない
そもそも手合わせが白熱しただけで害意は無い筈だ
「ごめんなさいね~」
「でも試しておく必要があったから仕方無いの」
「許して♪」
屈託の無さそうな笑顔でウィンクをするアムネリア
だが攻撃を止めただけで張り積めた雰囲気は変わらない
「納得出来ないだろうからちょっと秘密を共有しようかしら?」
私は部屋に隔絶結界を張ると全員の幻術を解いた
アムネリア相手には幻術等効かないのでこれ以上維持する必要はない
「やっぱり・・・・・」
「人間は1人もいないじゃない」
眉間に皺を寄せるアムネリア
看破したと思っていたが正体を見破ったわけではないらしい
「アリエル」
「お母様は魂の波長を読み取るスキルを持っているの」
「だから幻術は破られたわけじゃないの」
もしかして解除しなくても良かったのだろうか?
「先に言っておくけれど」
「私達の正体をバステト様はだいたいご存知だからね?」
「・・・・・・・」
「ラルク」
「解いても良い?」
「どうぞ」
私の問い掛けにラルクは静かに答えた
無言で偽装魔法を解いてアウティングするのも気分が悪い
話の流れ的に晒す必要が有るのだが確認はしておくべきだろう
ラルクが魔族の姿を晒しても動じないアムネリア
その姿を見たアルベルトが息を飲む音が後ろから聞こえた
「ラルクは元人間の魔族」
「そして私は・・・・・」
静かに立ち上がり全ての偽装魔法を解いてアムネリアと対峙した
「見ての通り生物ですらない化物よ」
流石のアムネリアも私の姿を見て息を飲んだのだった




