延長戦
「そう言えば」
「素朴な疑問なんだけどさ?」
「なんじゃ?」
「ミノタウロスが雑食なのは良いとして」
「牛を食べてるけど良いの?」
「ブフォッ!!」
「なっなっw」
「何を言い出すのかと思えばw」
「まぁ確かにミノタウロスは牛の獣人ではあるの」
「じゃがまぁ獣人は人であって獣ではない」
「確かにルーツとなる動物を愛でる者は多いがの」
「それ程気にはせぬよ」
「そう言うものなのか」
「そう言うものじゃ」
確かにまぁそうだろう
似ていると言ってもルーツと言っても別の種族なのは違いない
「それにの」
「いくらルーツとは言えヒト型に進化する過程でほとんどの者は雑食性になっておる」
「それに伴い内蔵もヒト型のそれに近いものになっておる」
「肉の方が魔力回復に適しておると言うのも関係しておるじゃろう」
「最早草だけであの身体は維持できんのじゃわ」
「そうなのですか」
「こういう言い方は失礼なのは分かってるんだけど・・・・」
「私には亜人種と魔物や魔族と言う区別がつかないかな」
以前からその区別が曖昧だった為思いきってバステトに聞いてみた
「それはそうじゃろ」
「亜人種にしても魔族や魔物にしても人類に対して都合が良いかどうかの呼び名じゃ」
「実際人鳥や歌姫鳥が亜人・獣人と認知されたのはたかだか100年や200年前の話じゃ」
「それまでは魔物として討伐対象じゃった」
「知能の低い魔人鳥は未だに魔物扱いだけどね」
「じゃから区別するために文明的なハーピィをハルピュイアと呼んだりもするのじゃがな」
「本人達はあまり気にしておらんのやもしれん」
「ハーピィって呼んでも怒らないものね」
シンシアはハーピィ達と交流があるのだろう
その言葉には説得力があった
「そうじゃ」
「そしてレッサーハーピィとハーピィでは交雑が出来ぬ」
「姿形は似ておるが子を成せぬ程かけ離れた種族なのじゃ」
「双方とも人間とは子を成せるのにのぅ」
「それはハーピィが人間とレッサーハーピィの混血ってこと?」
「それは違う」
「レッサーハーピィが人間を拐い交配しても生まれるのはレッサーハーピィだけじゃ」
「奴等は元々ダンジョンから溢れて野生化した種なのじゃよ」
「それってもしかして・・・・・」
「ダンジョン由来のミノタウロスも同じことが言えるの?」
「そうじゃ」
「やはりアリエルは良い洞察力を持っておる」
「ダンジョン由来の迷宮の魔物はいくら教育しても道徳心は芽生えぬ」
「どこまでいっても魔物のまま」
「進化して魔族になることは有るがその場合でも性根は邪悪なまま」
「欲望に忠実で他者に敵対的」
「そのように作られた人類の敵じゃ」
「外見的に見分けは付くの?」
「先ず瞳じゃな」
「禍々しい赤か金色が多い」
「絶対ではないがこの2色じゃと警戒しておいた方が身の為じゃ」
なんだかややこしい
けれどどうも古来この世界にいた亜人と同じ見た目のデザインモンスターがいると言うことか
「もしかしてゴブリンやオークもそうなの?」
「まぁそうじゃな」
「ダンジョン由来の者は外にいる同種の者とは子を成さぬ」
「人を除いてな」
「本来この世界にいる種はキチンと文明を築いておる者達が多い」
「となると」
「やっぱりこの世界でもダンジョンは異質な存在なのね」
「そうじゃな」
「妾達は外なる神じゃ」
「元々はこの世界の住人ではない神であり妾達の都合で作られたダンジョンはやはり歪なのじゃ」
「と言うことは内なる神もいるって事?」
私の問いにバステトは一瞬気まずそうな表情を浮かべた
どうも禁句だったらしい
「まぁこれくらいは良いじゃろう」
「エルフの長老ぐらい長生きしておれば知っておる話じゃしな」
「・・・・・・・・」
「ここはちと騒がしいの」
「賑やかで楽しいが話をするには向かぬな」
誰彼無く話して良いものでもないようでバステトに誘われ席を立った
その頃ちょうど食材も切れたようなので調理魔法を解いて後に続き館へと向かう
庭では私達がいなくなった後も宴が続いていた
ー・ー
「さて」
「何から話そうかのぅ?」
3階の奥にある談話室
そこに引きこもり結界で外界と隔絶したあとバステトが口を開いた
「妾達がかつて外なる神と呼ばれておったのは先程少し触れたの」
雰囲気的に酒か煙草があった方が良いように思えたのでテーブルに人数分用意する
キュポン
トクトクトク
バステトは大きめのグラスに琥珀色の液体を注ぎ色や香りを確かめたあとクイッと飲んだ
「ほほぅ」
「旨い酒じゃの」
「まだこの大陸には無い蒸留酒じゃな」
「ガラスのボトルも美しいの」
グラスを光にかざし酒を眺めるバステト
「妾達が外なる神と言われるには元々この世界には別の神がいたと言うことじゃ」
「詳しくは言えぬが・・・・・」
「今地上で覇権を争っておる神の殆どが外なる神じゃ」
「そして元からこの地に根付いておったのが以前の神々」
「そのアーリアンとは別系統の神々もおるのじゃ」
「古の神々」
「伝承にある旧支配者ね」
「さすがシンシアはエルフだけあって博識じゃの」
「かつて地上を神々が統べておった時代」
「その時代よりも更に以前に地上を支配していたのが古の神々である旧支配者達じゃ」
「それらの神々はどこに?」
「それは分からぬ」
「じゃが素直に滅びてくれるほど甘くはないじゃろう」
「なんだか呼び方がクトゥルフ神話の邪神達みたいね」
「ふむ」
「知っておるなら話は早いの」
「地球の神話や伝承の多くがここでは実在しておったようじゃ」
「何それ?」
「まるで空想の世界じゃない」
「まぁ似たようなものじゃろう」
「じゃからまぁ」
「転生前にオカルトやSF等の知識があれば優位に立ち回りしやすいとも言える」
「なんだかヲタク優遇措置みたいな世界ね」
「妾もそう思う」
「じゃがそのお陰で転生者は上手く生きられるわけじゃ」
「えー」
「なんだかなぁ」
「けれどそれはそれである程度仮説が立てられるか」
「どんな仮説じゃ?」
私の話しにバステトは興味を示してきた
「もしかしたらこの世界は元々私達の世界の想いや記憶が関係しているのかも?」
「私達が召喚されるのも世界同士が関わり有るからだと思うのよね」
「それはおそらく正しいじゃろう」
「奇跡や魔法は想いを具現化させる物じゃ」
「召喚者や転生者が強い力を持つのはその想いの力が強いからじゃろう」
「こちらの世界に来る者は総じてなにがしかの想いが強い」
「絶望や渇望と言った強い感情を伴ってこの世界にやってくる・・・・・」
「あるいはそう言う者を選別しておるのやとも思うとったが」
「アリエルの言う通り強い想いの力が二つの世界を繋げるのやも知れぬな」
バステトは自ら語らないことは多い
語れないことも多い
外なる神達はほぼ転生者の成れの果てだ
では本来の神々は?
この世界に本来在るべき神はどこで生まれどうやっているのだろう?
待てよ
バステトは確か覇権を争っている殆どがアウターだと言っていた
ならばその残りはアーリアンかエルダーと言うことではないか?
それとも新しい神が生まれているのだろうか?
「強い想い・・・・・か」
「なにがしかの想いが無ければこの世界に転生しないのは確かなようね」
「単純に魂が向かう先ならもっと多くの人達がこっちに来ている筈だもの」
「強い想いが無ければ記憶や能力が無く転生するのかもしれないけど」
「私達転生者は召喚主である神がいるもの」
「やっぱり世界を跨ぐのは強い想いを持つ転生者だけと考えても差し支えなさそうね」
私の言葉を繋ぐようにシンシアが呟いた
「転生する時の想いの強さは転生後に何か影響があるのでしょうか?」
ラルクの言葉にハッとした
私を含めてシンシアとリグルもラルクを見た後バステトに注目する
「それには答えられん」
「妾も比較できる程呼んではおらぬ」
「それに召喚する相手を選べるわけではないのでな」
なるほど
転生者はガチャのようなものなのか
召喚した時にたまたま応じた人が転生者となれるのであって選んで呼べるわけではない
そして神でさえガチャの相手がどんな相手であれ帰すことは出来ないのではないか?
でなければミリアは私を殺そうとはしなかった筈
となると元の世界に帰るには神に頼らない方法を探す必要がありそうだ
・・・・・・・・
もっとも
既に戻る気も無くなっているのだから探す必要もないか
ー・ー
「やっと終わったわね」
「披露宴が3日3晩も続くなんてね」
「祝い事とは言え呆れるわ」
「そう言うでないシンシア」
「復興したグリムワース伯爵家としては初めての結婚式じゃ」
「それもアルベルトのヤツが縁談を蹴りまくっておった故に領民の多くが待ち望んでいたものじゃ」
「それも大英雄との結婚ともなるとうかれるのも仕方あるまい」
笑い飛ばすバステト
獣人達は長命なせいか結婚に対する意識が薄い
だが救国の大英雄と奴隷解放戦争の英雄との結婚を喜ばぬ者はいない
「おはようございます」
「バステト様、アリエル様」
朝食の仕度をしていると少しやつれたようなアルベルトが部屋に入ってきた
その姿はいつもの貴族的な服ではなく簡素な革鎧を身に付けていてその後ろには同じく旅支度を整えたジンの姿があった
「ふむ」
「後はシンシアとリグルか」
「ラルクは先程外に出掛けておったの」
バステトは差し出された紅茶を飲みながら椅子に深く腰かけている
紅茶を飲み干すまでの間にシンシアが仕度を終えて部屋に入ってきた
「おはよう」
「あら?」
「珍しくリグルはまだなのね」
「おはよう」
「ワシは一足先に鍛練しておっただけじゃよ」
シンシアの後を追うようにリグルが汗を拭きながら部屋へと入ってきた
「2人は冷たい水の方が良いかな?」
「ええ」
「頼む」
同時に答えた2人に冷たい水を渡すと席について朝食を食べ始める
何気無いベーコンと卵の組み合わせがこの世界では案外高級品となる
そこにコンソメスープ等を付けるものだからかなり贅沢な朝食だ
「ジンとアルベルトはその・・・・」
「本当に良いの?」
「もうバステト様と合流してるんだから同行しなくても良いんじゃないの?」
「それはまぁそうなのですが・・・・」
口ごもるアルベルト
その視線の先にはやはりバステトがいた
「妾が立ち会っておるとは言え国民に対して結婚の報告もあるでな」
「歓迎会も合わせて一週間くらいかかるかもしれぬの」
こんな宴が一週間・・・・・
向こうに行っても大変そうだ
話をしている間に朝食を食べ終え出発の準備に取り掛かる
バステト1人なら簡単に転移可能なようだが私達を連れていくとなると少し事情が違うらしい
アルベルトは馬車で行こうとしていたがそれは辞退して空を飛んで行くことにした
ー・ー
「のわっ!のわっ!わっ!わっ!」
「こっこれはっ!」
「なかなかにっ!」
「面白いっ!!」
バランスを崩しながらも私達に付いてきているアルベルト
左右にフラフラと揺れる姿は見ているこちらが吐きそうになってくるほど不安定だった
「ところで・・・・・・・」
「バステト様?」
「なんじゃ?」
「なんで一緒に飛んでるんですか?」
「アリエルお主」
「こんなおもしろそうな魔法妾だけ仲間外れにする気かえ?」
バステトは器用にバランスをとりながら私の前に出ると両手の拳を口元に当て上目遣いに潤んだ瞳で見つめてきた
うわぁ
もう
からかわれてるなぁ
この分だと転移が難しいと言うのは嘘で一緒に飛んでみたかったんじゃなかろうか?
「仲間外れになんかしませんよ」
「どうですか?」
「空の旅もたまには良いものでしょ?」
首都ワーズワースは巨大な世界樹が目印となるためどう転んでも迷うことはない
上昇気流を捕まえ貿易風に乗った我々は物凄いスピードで移動しているのだが高空からの景色と周りに雲ぐらいしかないためスピードを感じにくい
「ところでアリエル」
「今時速何㎞ぐらいで飛んでるの?」
「それは私にも分からないわw」
「スピードメーターとか無いからね」
とは言え何となくだが速度は分かる
ここの貿易風はおそらく秒速20mくらいだろうか
風と全く同じスピードではないので風速よりは遅いだろうがそれでも飛行機で飛ぶくらいの速度は出ているだろう
地上を見下ろせば物凄い勢いで景色が流れている
だが風に乗っているのと結界のお陰で風圧は感じないし温度も遮断しているため寒くもない
「中々に面白い魔法じゃの」
「このように風に乗るだけの魔法なぞ妾は見たことも聞いたこともない」
「何気無く飛んでおるが今は零戦並みの速度が出ておるようじゃな」
「自由自在に飛べることを考えると末恐ろしいわい」
互いの言葉は魔法で伝わるようにしてある
そのせいかわりと小さな呟きも丸聞こえになってしまう
リグルの呟きも誰かに話しているものではなく独り言なのだろう
しかし零戦か
やはり軍隊時代に操縦訓練を受けていたのだろうか?
それとも桜花のような兵器に乗っていたのだろうか?
「あっという間じゃな」
「もうワーズワースの街並みが見えておる」
バステトの呟きに行く先を見るが街並みが見えると言っても未だかなり離れており遥か下の方である
だが世界樹はその存在感を増しておりかなりの高度をとっているにも関わらず未だその頂きは見えてこない
「どれだけ大きいのよ・・・・・」
雲を突き抜けてそそり立つ世界樹をみて思わず呟いた
「ここの世界樹は地上の物と違って果てがないと言われているわ」
「神聖な木だから無闇に登ろうとする人はいないけど」
「噂では3年登っても先は見えなかったそうよ」
流石世界樹と言ったところか
このまま行けば世界樹付近で上昇気流が発生しているようだ
果て無き頂きを目指すわけではないので上昇気流に巻き込まれないように手前で降りることにした
ー・ー
「んー」
「貿易風を抜けても気持ちの良いフライトじゃなぁ」
バステトは誰よりも自在に風を読み軽やかに乗って見せている
馬車に揺られれば1ヶ月はかかったであろう道程を数時間で飛んできてしまった
グリムワースを飛び立ってから半日あまり
昼食を我慢すれば明るい内に街へ入ることが出来るだろう
しかし・・・・・・
「のうアリエル」
「妾はそろそろ地上で休みたい」
「皆の者も腹を空かせておるのではないか?」
ぐきゅるるるるぅ
バステトの言葉に誰かのお腹が答えた
「そうね」
「一度降りましょうか」
「どこが言いかな・・・・・?」
「あの宿場町にしましょうか」
上空から見下ろすと一つの大きな街が目に入った
幾つかの街道が交差するその街はワーズワースへ続く南の玄関口と言ったところか
「うむ」
「なかなかに良い見立てじゃの」
「あの街はアウステルと言ってな」
「ワーズワースに向かう最後の街で旨い物がいっぱいあるぞ」
気流を離れ滑空していく私達
下降中とは言え未だ200mくらい上空を飛んでいた
高高度から緩やかに降下していく一行
街の上には何組みかのグループが周回している
おそらく防空隊の巡視だろう
街の対空警戒網の更に上
下から見上げれば太陽の中にソレはいた
ー・ー
「先行します」
「皆は後からついてきて!」
「どうしたの?アリエル!」
「なにかいたの?」
シンシアの問いに答えるより早く身を翻し急降下を開始する
左側からロールして垂直降下に移り目標を見定めた
「いた」
「防空警備隊はまだ気付いてない」
街の上空では飛行型の魔物を警戒するため4人小隊の巡視隊が警戒に当たっている
その警戒網を掻い潜り上空から飛来する魔物がいた
赤い巨体に黒いライン
斧のような頭が特徴的な斧頭飛翔蜥蜴
この国での上位捕食者である
「やっぱりまだ気付いてない・・・・・」
「特攻かけるしかないね」
僅か数秒の出来事だった
防空隊の殿に向けて急降下で襲い掛かるアクスヘッド
太陽を背に急降下で襲われれば気が付いた時には手遅れになる
「アタシに見付かったのが運のつき」
「悪いけど狩らせて貰うわ」
自由落下では追い付けそうにない
〈付与魔法物理反発型推進装置〉を使い加速した
ボボッ!!
キュゴウッ!!
断続的な音と共に強烈な加速が襲い来る
私は衝撃を意に介さず細身の長剣を抜刀するとその切っ先が雲を引いて軌跡を残した
ドンッ!!
細身の長剣を突き出した強烈な衝角突撃はアクスヘッドの脊椎を穿ち一瞬で絶命させた
「せぇのっっ!!」
そのままでは私ごと防空隊に突っ込んでしまうため左手でアクスヘッドの頭を掴んで振り回した
ブォンッ!!
「キャーーッッ!!」
「なっなんだっっ!!」
防空隊員の悲鳴と狼狽した怒鳴り声が響く中
私に投げ飛ばされたアクスヘッドは街道脇へと墜ちて行った




