披露宴 2日目
「とりあえずこの国での目的は終わったんだよね?」
「うむ」
「と言いたいところじゃが」
「まだじゃな」
「え?」
「だってこの国に来たのはバステト様に会うためでしょ?」
「間違ってはいないがそもそもそなた等に褒美を取らせる為じゃ」
「ジリエラの件があって気になって妾が出向きはしたがそれで終わりと言うのはちと淋しかろう」
「首都ワーズワースでは歓迎の式典も準備しておるのじゃぞ?」
「歓迎の式典?」
「もう宴は済んだし気を遣わなくて良いですよw」
「宴は宴でもジリエラの結婚式ではないか」
「もしこれで黙って旅立とうものなら夫婦揃って世界の果てまで追って行くぞ?」
「そなたは2人の新婚旅行をミリアとの闘争にするつもりかや?」
バステトの論には一理ある
私としては2人を巻き込みたくないのでとっとと逃げ出したいくらいなのだが・・・・・
アルベルトは自分の領地を人に任せてでも追ってきそうだ
そうなると高い確率でジンも来るだろう
それを避けるには2人が納得する方法で旅立つしかない
「んーーーーー」
「めんどくさい」
私はテーブルに突っ伏したまま皿からマカロンを摘み口へと運ぶ
「アリエル」
「なぁに?シンシア」
「私もこのままワーズワースに向かうのが良いと思う」
「シンシアも私に式典に出ろと?」
「貴女」
「前に私が言ったこと忘れたの?」
「この異空間は世界樹を中心に作られているって」
「そう言えばそうだったわね」
「・・・・・・・・」
「そう言えばそうよね」
「このままこちらの世界でワーズワースまで行けば誰にも見付からずに世界樹までたどり着けるのね」
バステトが出向いてきたのでつい失念していた
獣人の国での旅は単なる寄り道ではない
重なり合う異空間であるこの国において首都ワーズワースはコモンスフィアにおける世界樹の場所と同じ
エルフの治めるシエラ公国の首都と同じ場所にあるのだ
「ならこの宴も最後まで付き合うしかないのね」
「嫌か?」
「いいえ」
「2人の結婚は祝福してるし宴も大好き」
「ただこの先の事を考えるとハメを外すわけにいかないって思ってただけ」
「このままこの国を旅するならゆっくりしていっても良いってことですよね」
「なら行きますか?」
「まだ宴は続いてるみたいですし」
窓から結界越しに庭の様子を見ていたラルクが問い掛ける
「行きましょうか」
昨夜よりは幾分動きやすいドレスに着替えると連れだって中庭へと下りていった
ー・ー
「改めて見ると壮観ね」
披露宴も2日目ともなれば大分様変わりしていた
礼服を着ていた貴族達も今は上着を脱いだり着替えていたりしてラフな格好になっていた
一重に獣人と言ってもやはり多種多様である
大別すると2系統に別れる
直立した獣のような〈獣人〉
人族に獣の部位が付いた〈半獣人〉
前に訪れた村と違いこの2系統がほぼ均等に入り乱れている
バステトによると人間に似た骨格に獣の外見を持つ獣人が基本型でありより獣の特性が強い者が獣人となり魔力特性に秀でた者が半獣人なのだとか
なので2系統いるように見えても同じ獣人であり外見の違いは混血による差では無いのだそうだ
「私達の認識だと白人と黒人ぐらいの差なわけ?」
「まぁそうじゃな」
「妾達獣人族は皆哺乳類であり卵を産む者もおるが赤子は母乳で育てる」
「そうなんだ」
「ん?」
「卵???」
「驚くやも知れぬが有翼人や人鳥に歌姫鳥も哺乳類の獣人扱いになる」
「じゃあ鳥人は?」
「勿論卵は産むが哺乳類じゃ」
「身体が大きくヒト型になるにつれて卵生種族であっても母乳で育児をするようになったのじゃろう」
「身体が大きくなった分栄養も多く必要じゃし赤子は消化器官が未発達じゃから母乳の方が栄養価が高く消化も良い」
「ある意味卵生であっても母乳で育てる方が有利なのはある意味当然なのやも知れぬな」
「誰かがそのように作ったの?」
「それは分からぬな」
「例えば蜥蜴人なんぞは卵生で母乳では育てたりせぬ」
「胸が無いせいか種族名も男じゃ」
「じゃが有隣種達は母乳で育てる」
「爬人類もそうじゃ」
「レプトール?」
「レプトールは恐竜種から進化した人類と言えば良いのかの?」
「この国にも少ないのじゃ」
「奴等はどちらかと言うと龍種に近いでな」
獣人族の話をしていたら色々と出てきた
やはり普通の獣人と龍種系統の亜人では扱いが違うようだ
卵から産まれても母乳で育児する種族とそうでない種族がいる
と言うことは逆に赤ん坊を産んで母乳で育てない種もいるのだろうか?
「アリエルは奇妙なところに興味を持つのぅ」
「主はもしや獣耳愛好家か?」
ケモナーと言う言葉にシンシアが反応していぶかしむような目で私を見ている
「違うわよ」
「普通に気になっただけ」
「他意はないわ」
「ところで」
「ミノタウロスってゾアンになるの?」
「それともハーフリング?」
「分類的にはゾアンの方かの?」
「じゃああの娘はどっち?」
私が指差したのは狐の顔をしているが体型は人間型で背中には毛がフサフサと生えているようだが首筋から下腹まで素肌が露出している
「分類の難しいところじゃな」
「魔力が高く人間の形質が濃いゾアンか」
「それとも先祖返りして獣の特性が強くなったハーフリングか」
「獣人なれば気にならぬが・・・・」
「やはりアリエルには奇妙に映るか?」
「どうも見た目が違うと異種族ってイメージが抜けないのよね」
「それでアルベルトとジリエラの婚姻に疑問を持っておったのか?」
「疑問って程でもないんだけどね」
「子供が産まれたらどっちに似るんだろう?」
「とか」
「身体能力の高いアルベルトか」
「魔力特化のジリエラか」
「確かに興味はあるのぅ」
それまで黙って聞いていたリグルも話にのって来た
「ん?」
「特徴的には人間的な部分の多いアルベルトの方が魔力系じゃないの?」
「外見だけで見ればそう見えるじゃろうが実際はそうではない」
「ジリエラは普通のゾアンではないのじゃ」
「その中でも特殊な・・・・」
「変異獣人ね」
バステトが言い終わる前にシンシアが言葉を遮った
「なんじゃ」
「気付いておったのか」
変異獣人とは自由に人化・獣化現象を起こせる種族であり普通の獣人とは違う
獣人は固有スキルにより獣化することが出きる
それは自身に眠る獣の因子を活性化する事で飛躍的に身体能力と生命力を向上させるものである
ライカンスロープは獣化だけではなく人化することができる
獣人にとって人間になる事にメリットはあまり無い
とは言え見た目は人間でも獣人の身体能力が完全に失われるわけではない
ライカンスロープを「人になれる獣人」と見るか「獣化できる人間」と見るかで大きな差があるだろう
人間側から見ればライカンスロープは立派な脅威なのだから
「もしかしてジンは普段から獣化しているの?」
「そうじゃとも言えるしそうでもないと言える」
「実のところジリエラがどちらが本性なのか誰にも分からぬ」
「分からぬがそれはどうでも良いことでもある」
「人の姿であろうが獣の姿であろうがジリエラはジリエラじゃ」
「たいした問題ではない」
「たいした問題じゃないのか」
「・・・・・・・・・・・」
「ちょっとまって?」
「ライカンスロープって普通の種族なの?」
「私の認識では魔族よりな気がするんだけど」
良くあるゲームや小説ではライカンスロープは魔法生物か魔物扱いだ
人狼も同種の魔物扱いである
「それを言うなら高位妖精や高位羽妖精もそうじゃろ?」
「一般的には知られておらぬがエルフやフェアリーも魔石を生成する事があるのじゃから」
「むそろ変異獣人は獣人の高位種族と思うた方が良いじゃろう」
そう言われれば納得がいく
だが逆に人間には上位種がいないのだろうか?
人間は一般的な人間と呼ばれ上位人間等とは呼ばない
多種多様な可能性を持つ反面多の種族のように突出した特徴や特別な技能が有るわけでもない
大器晩成しようにも長寿種に比べるべくもない
等とぼんやり考えていたらいつの間にやら獣人達に囲まれていた
ー・ー
「はいはーい」
「バステト様への謁見はこちらですにゃー」
「勇者様への面会はこちらに並ぶのにゃー」
聞きなれた声が列整理をしている
人波の中ピョコピョコと飛び跳ねる耳を見付けた
「ふぇーりしあちゃーん?」
「なぁーにをしてるのかなぁー?」
「ぎにゃぁあああーー!!」
「おっ下ろして!!」
「下ろしてぇ~!!」
私は念動でフェリシアを捕まえるとそのまま空中に持ち上げ手元に引き寄せた
「なんじゃフェリシア」
「妾への謁見するために列に並ばせておったのかや?」
「そっそっそっ」
「そうでござりまするぅー」
「おっおっおろしてくださりましー!!」
空中に浮いているフェリシアが皆の注目を集めていたのでついサービスしてしまった
右へ左へと自由自在に振り回しクルンクルンと回してみる
「おおーーー!!」
「なんて軽やかに宙を舞っているんだ」
「流石巫女頭様だ!!」
回る度に驚きの声があがりさらに調子にのってしまう
「ぎにゃぁあああーー!!」
360度あり得ない方向に回しているとフェリシアの目から涙が溢れ出た
ヤバイ
やり過ぎた
回転を止めたがフェリシアの頭と眼球は未だグルグルと回っていてかなり苦しそうだ
「フェリシアごめん」
「ちょっとやり過ぎたわ」
「あにゃぁあ」
「う゛にゃあ゛ー」
「うぶぅ・・・」
放っておくと今にも吐きそうなので〈爽快〉の魔法をかけてあげた
「う・・・・・」
「死ぬかと思ったのにゃ」
「勝手に列整理始めたフェリシアも悪いのじゃ」
「妾はともかくアリエル達は客人ぞ?」
「列なぞ作ろうものならこの場より動けぬではないか」
「もっ」
「申し訳御座いませぬ」
耳を垂れ項垂れるフェリシアを見ているとちょっと可哀想になってきた
空を見上げると太陽は中天近くにあり誰かのお腹がお昼時を告げた
「ジンとアルベルトはどうしているのかしら?」
呟きながら見回すが辺りにその姿は確認できない
「慣例に従えば明日まで宴は続く」
「今日1日は出会えぬでも問題なかろう」
私の呟きに答えてくれたリグルは席を立つとお腹をさすりながら周りを見渡した
「腹が減ったがあまり食い物が見当たらんのぅ・・・・・」
獣人達は各々酒の入ったジョッキを持ち歩いているが料理らしき物は見当たらない
時折串焼きや焼いた骨付き肉を持っている者がいるがどこから持ってきたのか分からない
「しょうがないわね」
「いっちょ作りますか」
私は立ち上がると獣人達に離れて場所を開けるように告げた
ー・ー
「おおーーーっ!!」
「わっ私あれが食べてみたいです!」
「アレはなんだ?」
「何かは分からんがどれも旨そうだ!」
無数の食材が宙を舞い煌めく軌跡を残してナイフが踊る
炎は吹き上がり輝く風が食材を凍てつかせる
多種多様な魔法が繊細に制御され幾つもの料理が平行して作り出されていた
「この肉は塩焼きに」
「こっちの魚は香草と塩釜焼きに」
「フルーツのマフィンとバゲットを焼いて・・・・」
「冷たいスムージーとソルベ」
「コンソメは創造魔法で時短しよう」
滴る赤い血は加熱され透明な肉汁へと姿を変え香ばしく焼き上げられた皮は小麦色へと移り変わる
熟した果物は果汁が溢れだし凍てつく器に降り注ぐ
「もう少し作ったら終わるから」
「先に食べてて良いよー」
皆に声をかけてラストスパートに入る
私達のテーブルには白身魚の塩釜焼きと鹿の肋骨周りの骨付き肉の香草焼きを並べた
館の食糧庫から運び出された野菜を切り分けサラダと蒸し焼きにする
同時に祝い用に屠殺された牛を解体しなから焼いていると辺りには殺人的な肉の香りが充満していた
「なんかビュッフェスタイルの筈なんだけどテーブルにかじりついてる奴がいるわね」
「テーブルを分けましょうか」
調理を続けながらメイド達に指示を出し数ヵ所にテーブルを集めさせた
「ちょっとごめんよー」
「テーブル分けるからねー」
声が届くとは思えないが一応声をかけておく
念動で適当に料理を取り分け離れたテーブルにも置いていく
どうやら腹を空かせた酔っぱらい達が厨房側のテーブルを占拠していたらしい
そのせいで料理が行き渡らず飢えた獣達が私の料理に群がっていたようだ
「厨房から離れたあの辺りが良いかな?」
比較的人の少ないエリアに優先的に料理を運ぶ
お腹を空かせた者達が空を飛ぶ料理を追いかけて離れていった
「これで少しは落ち着いて食べれそうね」
離れて行く人達を見送りながら席に着く
「それはどうかしら?」
「まだ足りなさそうよ?」
席に着いたまま後ろを振り返ると料理はあっという間に無くなってこちらを伺う人々
そして持って来た食材を手に途方に暮れた表情のメイドや従事達
「このまま料理し続けるのはちょっとキツイなぁ」
「私がゆっくり落ち着いて食べられないじゃない」
再び魔法を使い調理を始める
だが今回はメニューを固定して自動調理することにした
これなら気を遣わずオートで放置できる
持ち込まれた食材を全て取り込みこれ以上は持ってこないようにメイド達に伝えた
「相変わらずと言うかなんと言うか」
「規格外過ぎて言葉もでないわ」
「神の領域じゃからな」
「奇跡ではなく魔法で行程を経ているところが凄いところじゃの」
呆れたように言い放つシンシア
感心しているバステト
ラルクとリグルは既に我関せずで食べ進めている
「って言うか」
「皆食べる量多くない?」
「いくら人数が多いからってちょっと減る速度早いと思うんだけど」
「まぁそうじゃな」
「同じ腹が減っておってもやはりより旨い物を食べたがるのは自然の理じゃ」
「残念ながらこの館の料理長」
「いや」
「妾の城の料理長でもこれ程の料理を短時間で作ることは困難じゃろう」
「調味料も道具も足りぬでな」
そう言えば
大航海時代だったか?
スパイスが貴重で1粒が金と同じくらいの価値があったと聞いたことがある
この世界の調味料も塩と唐辛子に各種ハーブは見付けた
だが胡椒や山椒と言う物は見ていない
そう言うスパイスになれていない人からすれば胡椒の効いた私の料理は魅惑的なのかもしれない
だが逆に私の知らないスパイスもある
味付けの方向性の違いが物珍しいと言う方が正しいかもしれない
「客観的に見ると」
「この魔法って面白いわよね」
「行使してる本人が言う?」
「確かに面白いのは認めるけど」
「昔見た映画に空中で調理しながらテーブルに運ばれるシーンが有ったけど・・・・」
「こんなに同時進行してなかったわね」
「こんなに別々の料理行程を同時進行で制御するとか」
「アリエルはどうなっておるのじゃ?」
「今は自動制御しているから私がやっているのは魔力供給だけよ」
「材料を取るところだけは何かの手がやってるけどどうして?」
「可視化しておかないと巻き込まれると料理にされちゃうからよ」
「そっ」
「それは恐いのじゃ」
「でしょ?」
「だから手が見えるようにして巻き込まれないようにしてるの」
それでも初めて見る魔法なのだから危険はあると思う
その為危険区域には結界を張って立ち入れないようにしている
「まぁあっちは放っておいても動いてるから気にせず私達も食べましょう」
先に食べていても構わないと言っていたのだがシンシアは律儀にも待ってくれていた
魔法で冷めた料理を温め直すと私もご飯を食べ始めた
最近仕事のせいで執筆ペースが落ちています
暫くは遅くなります




