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婚礼の義 そして・・・

「思ったより盛大ね」

「よくこの短時間で用意出来たもんだわ」


夕日が辺りを染め上げる中式は始まった


アルベルトもジンも互いに家族や親族はいない


ジンは毒邪龍に

アルベルトは長い奴隷解放戦争の間に


各々理由や年代は違えども既に家族や親族を失った独り身同士

アルベルトには養父と養母がいるが直接血の繋がりはなく今回は本人達の希望で両親としてではなく親戚として参加していた


2人の友人達は多く館を溢れ中庭を埋めつくし敷地のそこかしこに犇めいていた


「では」

「これよりグリムワース伯爵アルベルトとファルスカイン伯爵夫人ジリエラの婚礼の義を執り行う」

「両者をこれへ」


館の奥に作られた大聖堂


その正面の祭壇に立つ大司祭は深緑のローブをその身に纏い厳かに始まりの言葉を述べた


祭壇の中央


そのもっとも高い席にはバステトが鎮座し静かに皆を見下ろしていた


ガチャッ

ガコンッ


大聖堂の大扉が音を立てて開く


通路の中央に立つアルベルト

着替えたのだろう今は純白のスーツを身に纏い踵を合わせ真っ直ぐ立っていた


カツン・・・・・

カツン・・・・・


厳かにアルベルトは歩を進め1/3ほど進んだところで立ち止まり振り返る


威風堂々と立つアルベルトの視線の先に現れたのはリグルに手を引かれたジン


皆の視線が注がれるなかゆっくりと歩く2人


2人はアルベルトの手前で止まるとリグルはジンの手を離す


ジンはスカートの両側を軽くつまみ上げるとリグルに会釈をしリグルは一歩引いて2人を見守る


アルベルトは片膝を付きジンの左手を取るとその甲に口づけをすると立ち上がり踵を返し祭壇を見る


するとジンはアルベルトの左側へと歩みでて彼の左腕に右手を絡めた


2人はゆっくりと歩き始め司祭の前で立ち止まる


「汝」

「アルベルト・ヨアヒム・フォン・グリムワース」

「汝はこの者を生涯愛し守り抜くと誓うか?」


「はいっ」


司祭の問いに低く良く通る声で応えるアルベルト


「汝」

「ジリエラ・アルティエル・グリモルディア・フォン・ファルスカイン」

「汝は健やかなる時も病める時もこの者を夫とし寄り添うことを誓うか?」


「はい」


静かに淑やかに一言で応えたジン

その手にはあの贈られた指輪がはめられていた


「では2人とも手を」


司祭に言われアルベルトは左手を

ジンは右手を各々差し出した


司祭は2人の手を取ると重ね合わせ白い布で巻いて縛った


「これより2人を夫婦と認める」

「異議あるものは名乗り出よ」


司祭の言葉が響き渡り聖堂は静まり返る


すると場内に集まった人達は一斉に足で床を踏み鳴らし始めた


ダンッ

ダンッ

ダンッ

ダンッ

ダンッ


暫く踏み鳴らすと唐突に音は鳴り止み再び静寂が聖堂を支配する


「新たなる夫婦に祝福をっ!!」


司祭の掛け声と共に2人は縛られた手を高く掲げた

鳴り響く拍手と歓声の中2人は抱き合い口付けを交わすのだった


ー・ー


「ホントに凄い結婚式ねぇ」

「こんなに人が来てたんだ」


「本当に凄い人じゃのう」

「披露宴も立食になるはずじゃわ」


「でもリグル?」

「皆は立食なのになんで私達はここのテーブルなのかしら?」


シンシアの疑問はもっともだろう


新郎新婦の熱い包容とキスの後披露宴として立食パーティーが始まったのだが・・・・


何故か私達は会場の上座

新郎新婦の隣のテーブルに一列になって座らされている

そしてそのテーブルにはバステトも同席していた


「なんで神様と同じテーブルに並んでるのか訳を知りたいわ」


「そうじゃのう」

「そなた等は妾に次ぐ貴賓じゃからの」

「あくまで主役は新郎新婦」

「この席では妾とそなた等は同列のお客様じゃ」


「同列に扱われるのはちょっと困るかな」

「何気にさっきから色んな人が挨拶に来てるし落ち着かないわ」


我々はバステトに次ぐ扱いを受けている


バステトの祝辞の後


二人を祝福する来賓として紹介され会場中が狂喜乱舞の大パニックになった

涙を流しながら礼を言われたり握手を求められたり


特にシンシアとリグルに対しては多くの老若男女が挨拶に詰めかけていた


「ばっバステトやっ!」

「こっこれは何とかならんか?」

「好意とは言えこれだけ押し掛けられたらどうして良いのかわからん!」


悲鳴をあげるリグルの周りには特に高齢者が多く涙ながらに感謝を伝えていた


「リグルの言い分は一理あると思うわ」

「先に部屋に逃げても良いかしら?」


リグルとは対照的にシンシアの元には比較的若い女性が詰めかけていた

恐らく元解放奴隷の人達だろう


初めの貴族達の挨拶には秩序があったがその後の平民になると一気に人が押し寄せてきたのだ


「あの2人・・・・・」

「お祝いのために平民達もあんなに来てくれてるなんて」

「人望厚いのね」


「そうじゃの」

「2人とも冒険者として解放戦線の戦士として多くの民とふれあってきたからのぅ」

「祝いたい者はどれだけおるのか分からぬわ」


バステトにもかなりの人が挨拶に来ていたが疲れた顔も見せず笑顔で全員に対応していた


「ところであの2人はいつまでああやって手を繋いでいるの?」


「とりあえず式の間はほぼずっとじゃな」

「この世界では一般的にお色直しなんかも無い」

「じゃから下手すれば一晩中あのままじゃわ」


シンシアの呟きにリグルが答えた


儀式的な意味があるのだろうが一晩中はちょっと厳しい気もする


結局宴は終わることなく2日目に突入した


流石にそこまで付き合いきれないので日が変わる前には部屋に引き籠っていた


ー・ー


「ふぁああああ」

「アリエルおはよ」


「おはようシンシア」

「今日はラルクも大人しく部屋にいるわ」


「まさかまだ騒いでるの???」


そとから聞こえてくる喧騒にシンシアは眉をひそめた


「まぁ」

「祝い事だしね」


「それもそうか」

「どうせ目的地もここが終点でしょ?」

「だって女神自らお出でになったんだもの」


「そうじゃの」

「とりあえずアリエルを妾の元に連れてくると言う目的は達成しておるの」


唐突に空間を割ってバステトが現れ何事もなかったかのように席に着いた


「おぅ」

「バステトではないか」

「おはよう」

「朝っぱらからこんな所にいても良いのか?」


「おはようリグル」

「妾が居るとハメを外したい者共も肩身が狭かろう?」

「じゃから適当なところで抜け出てきたのじゃ」


ただ抜け出したと言うよりも指示を出すために首都まで飛んできたのではないだろうか?


「おはようございますバステト様」

「何かお飲みになられます?」


「うむ」

「好き嫌いはないのでお勧めのものを作ってくりゃれ」


「畏まりました」


短く応えると念動で水を浮かせ沸騰させつつ珈琲豆を砕く

挽きあがった豆とお湯を合わせて抽出すると四つに分けながらカップへと注ぎ込む


「ほぉう」

「この世界で珈琲が飲めるとわの」

「良い香りじゃ・・・・」


念動でカップをバステトの前に置くと嬉しそうに香りを嗅いで楽しむバステト


「じゃがすまぬのう」

「妾は猫舌なのじゃわ」


耳を項垂れ淋しそうにはするもののバステトはカップを両手で持ち珈琲の香りを楽しんでいた


シンシアとリグルにもカップを渡し自分のカップを手に取る

まだ珈琲豆は流通していないので合成豆だが香りは良い


「アリエルってさ」

「もう魔法で料理するの隠さなくなったね」


「昨日アレだけ派手にウェディングケーキとか作ってたんだからここで隠しても意味ないでしょ?」


「そらまぁそうだけど」


優雅に珈琲のカップを傾けながらも空中では生地が捏ねられ薄く引き伸ばされていく


薄い生地は幾重にも折り重ねられ形を整えるとフツフツと表面が粟立ち脹らみながら焼き目が付き香ばしい香りが鼻腔をくすぐった


「クロワッサンが焼ける良い香りね」

「正に朝食って感じだわ」


「しかし」

「魔法なのは分かるのじゃが空中で脂を落とさず焼き上がるベーコンや卵を見るのは何とも不思議な気分じゃな」


リグルは目の前で焼き目の付いていくベーコンをマジマジと見つめていた

焼けるにつれて滲み出した脂は下に落ちることなく再びベーコンに吸い寄せられていく


「無重力なのか均一に焼き上がる卵は茹で玉子ではないし目玉焼きとも・・・・」

「味は良いのですが何と呼べば良いのでしょう?」


ラルクが素朴な疑問を投げ掛けてきた


「卵焼き?」

「と言うよりも焼き卵かしら?」


「確かに焼き卵と言われればそうかもしれないわね」

「キャンプで殻ごとホイル焼きにしたのを思い出すわ」

「でも焼き目が付くからやっぱりイメージとは違う気がするわ」


焼けていく卵を見ながらシンシアが呟いた


「ホイルとは何じゃ?」


「何じゃリグルはアルミホイルも知らぬのか?」


リグルの問いに少し得意気な表情で返すバステト

こう言う話になると全世界での年齢のギャップを感じる


「なんと」

「紙のように薄く引き伸ばしたアルミを料理のために使い捨てるのか」

「何とも贅沢なモノじゃな」


この世界で箔と言えば装飾用の金箔か銀箔だろう

それは高価なものであり我々に馴染みのある薄さでもない


この焼き卵は街での買い出しの時に見付けた鶏卵らしき大きさの卵だ

この街では鶏卵が流通する程度には養鶏が行われているようで鶏肉も手に入っている


「この卵は初めて見たから食べてみたかったのよね」


続けて私は駝鳥の卵のような大きな卵を取り出した


「それはコカトリスの卵ね?」

「高級品なのに良く手に入ったわね」


「値段は凄かったけど食べてみたくなったから買っちゃった」


殻を割ると卵黄は巨大で色が濃い


素材本来の味を楽しむため卵黄と卵白に分離させると卵白を泡立てていく


「何もない空中で卵白が膨らんでいくのってなんだか楽しいわね」

「モコモコしてて気持ち良さそうだわw」


シンシアの感想には私も同感だ


しかし質量的に見て卵白の量は鶏卵10個分くらいだろうか?

そしてその3倍近くある卵黄はどんな味がするのだろう?


「泡立てると言うことは焼き菓子か?」


「いいえ」

「これはこの後軽く卵黄と混ぜて焼くのよ」


リグルの問いに何気なく答えるとシンシアとバステトが反応して目を輝かせている


「スフレのような物ですか?」


「そうね」

「ラルクの言う通りスフレのような卵焼きね」

「思ったよりも量があるわね・・・・」


火加減に気を遣いながら入れる器を創造する


一つに盛ろうかとも思ったのだが個別に盛り付けることにした


「何とも不思議な卵焼きじゃな」

「黄身と白身が混ざりきらずマーブルになっておるな」


バステトは目を輝かせて器を手に取るとスプーンで表面を軽くすくい目の高さに持ち上げてマジマジと見つめた


「凄いプルプルね」

「スプーンの上で震えているわ」


同じように持ち上げて見ていたシンシアからも溜め息が溢れた


「見た目に反して凄い濃厚で滑らかで美味しいわね」

「普通に焼くと固くなる的なこと聞いたけど・・・・・」


「泡立てることにより固くなるのを防いでおるな」

「簡素な塩味じゃが逆にケチャップやマヨネーズが良く合うの」


バステトもご満悦だ


言動から察するにバステトも転生者だろう

そして転生前の年代は私とあまり違いはなさそうだ


一通り朝食を平らげたがそとのお祭り騒ぎはまだ続いていた


ー・ー


「皆元気ね」

「朝からお酒飲んでるわ」


「それを言うなら昨日からじゃない?」

「徹夜で飲んでると思うわ」


「言えてる」


私達の為に用意された部屋は館の3階だった


この館は1階は応接間や多目的に使う大広間

奥に教会と祭壇があり兵士の詰所も入り口付近にある

厨房や風呂もこの階にある


2階は執務室と会議場が主で一部の執事やメイドの私室もある


そして3階は客間が大半を占めているがあまり使うところでは無いらしい

専用の厨房も備え付けてある


4階はそ領主の私宅であり昨夜お世話になった露天風呂は館の裏手にある離れに隣接している


「なんかホントに盛り上がってるわねぇ」

「この館の敷地ってホントに広いわね」

「上から見ると良くわかるわ」


鎧戸を開けて遠くを見渡すと館の裏側には広大な土地が広がっていたのが良くわかる


街の中心地だと思っていた丘の北側全域が館の庭なのだ


しかひこの広さだと庭と言って良いのだろうか?

遠くをみれば柵で囲われているのは分かるが明らかに農地と言うか果樹園的なものがある


「アリエル」

「そんな窓際に立ってたら見つかるわよ?」


シンシアが隣に立つと中庭で騒いでいた人達が手を振ってきた


「ほらね」


軽く手を振り返すシンシアに習い私も少し手を振ると中へと戻った


キンッ


微かないわかと共に結界で閉ざされたのが分かった

私は何のリアクションもなくテーブルに向かいバステトに対面するように座った


「わざわざ結界を張ったところを見ると何か内密な話があるんでしょ?」


軽く右手を振るとテーブルに残された食器が消え変わりに紅茶の入ったポットとお菓子類が並べられた


「まるで魔法の国じゃの」

「この世界でこのように自然に魔法でアレコレ作り出すのは神ぐらいなものじゃと言うのに」


バステトはカップを手に取りポットの紅茶を注いだ


「良い香りじゃ」


猫舌のバステトは香りを楽しんだ後カップをテーブルに置いた


「アリエルに問いたい」

「今のお主の力は恐らくミリアを超えておる」

「なのに何故まだ徒歩で北を目指しておるのじゃ?」


「ミリアに勝てる自信が無かったからよ」


私もカップに紅茶を注ぐと香りを確かめ1口口に含み味を確かめてから飲み込んだ

華やかな薫りが口腔に広がり心地よい余韻を残す


「私はミリアの実力を知らない」

「それに」

「もし手の内がバレてて対策されてたら勝ち目はないわ」


「手の内がバレるような事をやったのか?」


バステトの問いにどういう経緯で私がこうなったのかを話した


ー・ー


「ふむ」

「中々微妙なところじゃな」

「あのミリアと言う奴は狡猾で腹黒じゃが聡明と言えるほど賢くはない」

「アリエルを殺したと確信しておれば良いのじゃがな」


「ソコが重要なポイントなのよね」

「追手はかかってないから生きているとは思ってないかもしれない」

「けど私を落とす時に目の前で見たことをどう感じるか」

「もし私の〈加速(アクセラレート)〉に何か対策が有るなら難易度は格段に上がるのよね」


「その事なのじゃがな?」

「神同士の戦いにおいては加速はそれ程珍しくはない」

「じゃがアリエルの加速は妾達とは根本的に違う」


「どう違うの?」


「上手く言えぬのじゃが・・・・・」

「神の加速は奇跡による事象の結果じゃ」

「じゃから知覚できる限界までしか加速出来ぬ」

「そう言う意味では肉体的に優位な亜人種の加速の方が速い」

「奇跡は魔法よりも想像力が重要なのじゃが逆に言えばイメージ出来ぬものは具現化出来ぬ」

「おそらく加速するプロセスに違いがあるのじゃろう」


プロセスの違いと言うことは加速するためのアプローチの仕方が違うと言うことか


その違いのせいでバステトは私の加速を認識すら出来なかったと言うことだろう

それがどのような差となるのかは分からないが有利であるように思えた


「そしてその身体」

「神と言えど肉体を持つ以上は身体能力に差が出る」

「勿論身体機能は奇跡で補えるのじゃがアリエルのように徹底的に肉体改造するのは稀じゃ」

「純粋な殴り合いでアリエルに勝てる者はこの大陸にはおらぬじゃろう」


バステトの言う通りなら魔法さえ封じれば一方的にボコれると言うことか

逆に先手を取られ奇跡で押し切られれば勝てる見込みは低くなる筈だ


「アリエルは勝算はどれくらいあると思う?」


「良くて五分五分と言ったところかしら?」

「もし加速対策が出来ていたらもう少し部が悪いかも」

「それ以外の魔法に対策されていたら勝ち目は無いわね」


「自分を過小評価しすぎではないかの?」

「ミリアは妾の知っておる時よりも強くはなっておるじゃろう」

「じゃがミリアは元々発想力の乏しい奴じゃ」

「複雑な奇跡を自在に操れるとは思えぬ」

「それに妾はアリエルに勝てる気がせぬ」

「妾とミリアにはそれ程差が開いておるのか?」


「それは分からないわね」

「でもミリアは私がどんな魔法でも作り出せる能力を得ていた事を知ってるわ」

「それを使いこなすための魔法を作ったことも」


「じゃがミリアの祝福を奪われ元の恩恵スキルは無くなっておるのじゃしその後もアリエルが生きておる確信は無い筈じゃ」


「そう」

「私の有利な点はソコにある」

「逆に言えば一度の奇襲が失敗すれば二度目はない」

「流石に同じ手を食う程甘くはないでしょ?」


その後も昼ご飯をはさみ夕方までミリア対策について話し合った

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