式典準備
「流石アリエル」
「エルサリアも決して弱い剣士ではないのに圧勝じゃったの」
バステトは上機嫌にコロコロと笑いワインを飲み干した
だが私は恐くて未だシンシアの方を振り向けずにいる
「そっその・・・・」
「アリエル様」
「先程はご無礼を」
「ん?」
「気にしなくて良いわよ」
「それより・・・・・」
何故エルサリアの態度が急変したのかは分からない
しかし握手のつもりで差し出した手を未だに離してくれないのはどういうわけだろう?
「あっっ」
「あのっっっ!」
あ
なんかヤバい雰囲気
「おっ」
「御姉様とお呼びしても宜しいでしょうか???」
突然の申し入れに一瞬頭が真っ白になった
バステトを見ると面白そうに笑っている
今度は私が酒の肴か
「おっ」
「御姉様???」
「はい」
「同じ方に想いを寄せて破れた者同士」
「中睦まじい姉妹になれればと・・・」
は?
これは睦まじいってニュアンスが・・・
バステトを見ると今にも吹き出しそうな顔で口を押さえその隣には殺気を放つシンシアの姿があった
コワイ
恐いよう・・・・・
「ごっ」
「ごめんなさい」
「実はアルベルトの事を吹っ切ったのはずいぶん前の話で・・・・・・」
「えっ?」
「それなのにアルベルト様のために私の決闘を受けて下さいましたの?」
エルサリアは繋いだ右手を更に引き寄せ左手を腕に絡ませ迫ってきた
「何て・・・・・・」
「何て情に厚いお方なのでしょう?」
ダメだこりゃ
何言っても都合良く変換されるやつだ
「ばっバステト様?」
私は藁にも縋る気持ちでバステトに助けを求めた
「獣人族は同性婚も禁じてはおらぬよ」
「あらゆる意味で自由じゃからな」
バステトの仲裁する気無しの言葉に全てを悟った
「えっエルサリア嬢?」
「何ですか?」
「アリエル御姉様」
「れっ冷静になって下さい」
「貴女は負けたショックで気が動転しておられるのです」
「そっ」
「そんな寂しいことは言わないで下さいまし・・・・・」
悲しそうに俯くエルサリア
しかしその手は私の腕をしっかり掴んで離さない
「あーらアリエル様」
「同姓にも良くおモテでいらっしゃること」
シンシアは妙に高いトーンで話しかけてきた
「わっ私は・・・・・・」
「何れ命を落とす使命の旅を続けているのです」
「私は貴女のような可憐な方を巻き込みたくは有りません・・・・・」
私は優しくエルサリアの髪を撫でた
「どうかお幸せに」
「願わくば何方かと添い遂げ子を成して下さい」
「これを私だと思って」
「私は貴女と共にあります」
そう言って懐から短剣を取り出しエルサリアに渡した
「そんな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「よほど重要な使命ですのね?」
「命をかける程に」
「使命を捨ててここで暮らす事は出来ませんの?」
「それは無理です」
「私はこの身に女神ミリアの呪いを受けています」
「貴女まで捲き込みたくはないのです」
そう言って彼女の手をとりそっと離した
エルサリアは私の渡した短剣を胸に抱え静かに涙を溢した
ー・ー
「おーおー」
「おモテになってござりやがりますわね」
私達が離れるとエルサリアの周りには多くの人達が集まっていた
傷心の彼女を慰めているのだろう
「もう」
「止めてよシンシア」
「別に見ず知らずの人に好意を寄せられたって嬉しくないわよ」
「ところで誰のためにエルサリアを袖にしたのじゃ?」
「お主なら弄んでも時間はタップリあったじゃろうに」
ニヤニヤと笑いながらついて来るバステト
別についてこなくても良いだろうに
お陰で彼女目当ての獣人達が周りを取り囲んでいた
「陽もだいぶ陰ってきたな」
「そろそろ式が始まるのではないか?」
「そうじゃな」
「そろそろ館の方で式も始まるじゃろ」
「お主等は着替えんでも良いのか?」
リグルの問いにバステトが答えた
エルサリアから離れるためなんと無く歩いていたのだが行くあてもないし着替えも必要だろう
私達は館の1室を借りて着替えることにした
ー・ー
「さっき見て回ったけど・・・・」
「男はスーツか鎧が多かったわね」
「そうじゃな」
「ワシはこの鎧を綺麗にして貰えればそれで問題無いじゃろう」
私がリグルの鎧に清浄の魔法をかけて汚れを落とすと彼は部屋から出ていった
「それでお主等はどんな服にするのじゃ?」
何故か着替えにまでついて来たバステトは興味津々でこちらを見ている
ソファーに身を沈めるバステトの傍らにはメイドの持ってきたワインと簡単なツマミが並べられていた
「バステト様はこんなところにいて大丈夫なの?」
「外で国民の相手をしなくても良いのかしら?」
シンシアがチクリと刺すがバステトは一考に気にした風もない
「アリエルが何をするのか興味があってな」
「既に作った服を持っているわけではあるまい?」
確かにその通りだ
男性と違い女性の服装は様々だった
貴族令嬢はボンネットスカートの豪華なドレス姿が多かったがそれ以外のドレスも多かった
年齢や既婚者等の決まりはあるのだろうか?
「バステト様」
「服装の決まりごとなんかがあれば教えて欲しいんですけど」
「そうじゃな」
「装甲礼服を着ていたのは貴族階級で若い未婚の娘達じゃ」
「エルサリアのように決闘を申し込みたい者が好む」
「ボンネットスカートのドレスを着ていたのは同じく貴族階級で未婚の娘達じゃ」
「着飾って出会いを求めるのはどの種族でも変わりあるまい」
それは言えている
私のいた世界でも友人の結婚式やその二次会と言えば主役そっちのけの合コン会場みたいな所はあった
「既婚者や平民じゃとああ言うボンネットスカートは履かぬの」
「よりセクシーなドレスを好む」
「色はそうじゃのう・・・・」
「白は花嫁の色じゃから避けるべきなのは向こうの世界と変わりあるまい」
「もう一つ避けねばならぬのが血の赤とピンクじゃの」
「ピンクですか?」
「薄いピンクは良いのじゃが薄すぎると白と被るし濃い物はダメじゃ」
「この世界でピンクは血と純潔の白の交わる色として結婚式では花嫁の色に当たる」
「そうなんだ」
「他には?」
「エメラルドのような深緑は妾の好みの色じゃ」
「普段着ならともかく妾のいる正式な場では不敬に思われるやも知れぬ」
「危なっw」
「緑色は森とかのイメージだから危うく使うところだったわ」
「エルフの色も緑色だもんね」
「こう言う異種族の結婚式だと悩むところだわ」
シンシアが服を脱ぎながら応えた
言葉のトーンからまだ機嫌が良くなったようには思えない
「ほほぅ」
「驚いたの」
「シンシアの着けている下着はミスリル銀ではないか?」
「なんとラルクのもか?」
「何とも豪奢な下着じゃのうw」
半裸の2人を見ながらワインを飲むバステトはなんと無くストリップを楽しむオッサンに見えてきた
「バステト様って前世は男だったりするのかしら?」
私の問いにシンシアとラルクの手が止まった
「そんな事を気にするのかえ?」
「転生前がどうあれ長く生きれば魂は身体の形に影響される」
「あまり気に病むことでは無かろう?」
「妾は神ぞ?」
この反応は
「元から女性みたいね」
「問題無さそうだわ」
「どうしてそう言い切れるのじゃ?」
「もし元が男で2人の着替えを見て楽しんでるならあやふやな言い方しないで女だったって言い切るかなって」
「アハハハ」
「確かにそうじゃの」
「邪な気持ちで覗いておるならそう応えるのが妥当やもしれぬな」
「今度はそう応えるとしよう」
微笑みながらワインを煽るバステト
他にも判断材料はあるのだが手の内を晒す必要は無いだろう
とりあえず性的な愉悦でこの場にいるわけでは無さそうだ
「そう言えばバステト様は着替えないの?」
「妾か?」
「妾は別に着替えぬでもホレ」
シンシアの問いに応えるようにバステトが右手を振るとそれまでのラフな格好からいかにも儀式用と言うような豪華なドレスに変わった
「じゃがまぁまだ気楽にいたいからの」
もう一度手を振ると再び元の服に戻した
「流石に同じような真似は出来ないわね」
「幻術で誤魔化す手も無いわけじゃないけど」
「それだと幻術切れたら皆の前で元に戻っちゃうもんね」
「大勢の観衆の前で裸とか悪夢だわ」
「幻術かけるなら初めから裸になる必要は無いわよ?」
「服の上からかけれるんだから」
「それもそうか」
この前暇だった時に補充していた材料を取り出した
ミスリル銀の塊に絹の玉と金に宝石類
一通り並べてテーブルの上に置いた
「中々見事な材料じゃの」
「してどのようなドレスを作るのじゃ?」
「そうねぇ・・・・」
「2人ともスタイル良いからセクシー系が良いかしら?」
「色はそうねぇ・・・」
「青や黄色はいたみたいだけど紫は見なかったわね」
「そうじゃな」
「紫は染料が難しい」
「藍染や草木染めが多いかの」
んー
ぬんぬんぬんぬんぬん
私は頭に指を押しあてて考え込んだ
「決めた」
私は両手を前に付きだし術式を発動する
素材が浮かび上がり塊が糸の玉に変わった
「なんと?」
「そのような術を使うのか」
バステトの感嘆を尻目にシルクとミスリル銀の糸を織合わせドレスを織り上げていく
「ほほぅ」
「アリエルはいきなり具現化するのではなく製作工程を周到するのじゃな?」
「まぁね」
「いきなり具現化も出来なくはないんだけど・・・・」
「工程踏んだ方が魔力消費少ないみたいだし」
「複雑な作業は各工程でやった方がやりやすいんだよね」
「まぁ確かに」
「それだけ複雑な作業を平行作業しておったらいきなり具現化はハードル高そうじゃの」
「私が使う力はあくまで魔法・魔術であって奇跡じゃないからね」
「目的の効果を得るためには必要な事よ」
「そうじゃの」
「妾達神の奇跡は直接効果を得る方法じゃ」
「過程や工程を無視して結果を具現化するからのぅ」
やはりバステトは私の創造魔法を確認するためにここに残っているのか
予想はしていたし別に隠すつもりはない
手の内を晒すことにより敵対するつもりがないと言うアピールでもある
「ちょっと待てアリエル」
「ミスリル銀を糸にして布を作るのは分かる」
「じゃがその布をどうやって染めておるのじゃ???」
「ミスリル銀はそう簡単に染まるものではないぞ???」
「あぁそれね」
「ミスリル銀で作った極細の糸と絹糸を寄り合わせて1本の糸にしているのよ」
「だからミスリル銀だけの糸と違って絹糸が染料を吸って全体が染まるのよ」
「簡単に言ってくれるのぅ」
「妾達神々の創造は正に想像力が要となるのじゃ」
「故に神の起こす奇跡はその神の想像力に左右される」
「このように繊細な仕立てなぞどの神もやった事がない」
「もしアリエルが神に昇華すればどれ程の力を持つのやら・・・」
「昇華?」
「いや済まぬ」
「今のは忘れておくれ」
バステトが思わず口走った言葉
勿論化学反応の用語でないのは確かだ
やはり私の仮説は正しかったと言うことか
でもそれを表立って話すとシステムに裁かれる
ならば毎回張っていたあの結界は有効だったのだろうか?
それとも当事者のいない推測だから裁かれずに済んだのか?
なんにしてもバステトとこの手の話しは鬼門だな
「綺麗な紫色ね」
「少し赤みがかった深い紫色」
「そう言えば平安時代では紫色って高貴な人しか使えない色だったんだってね」
赤みのかかった深みのある紫色のドレス
両サイドのスリットは脚の付け根近くまで入っており歩くと太股が露になる際どいデザインだが異世界らしいドレスだろう
金糸とミスリル銀糸を使った薔薇の刺繍に彩られ生地の紫色に良く映えている
「気に入って貰えたかな?」
「まぁね」
「でもこのドレスで私の機嫌とれるとか思わないでよね」
口調はまだ機嫌が悪そうだが声色は少し上ずっていた
分かりやすいツンデレお嬢様だ事
「後はコレを着ければ・・・・」
ミスリルをベースに金と大きな魔晶石をあしらったネックレスを造り出す
それをシンシアの首に前から着けてあげた
「ちょ」
「アリエル」
「近いわよ」
シンシアは文句を言いながらも私がネックレスを着けやすいように自ら髪をかきあげた
「・・・・・・ん」
「良く似合ってる」
このネックレスを映えさせるためシンシアのドレスは胸元を隠してある
ネックレスはドレスを彩る薔薇の刺繍と相まって美しい輝きを放っていた
「ホントにもう」
「こんなんで私の機嫌がとれると思ったら大間違いよ?」
シンシアの言葉は先程と違い少しはにかんだような声色だった
ー・ー
「私のはシンシアに比べるとシンプルですね」
シンプルとは言うがアメジストカラーのドレスは身体のラインを際立たるようフィットしていた
右側にだけ入った大きなスリットは脚の付け根近くまで入っており動く度ガーターベルトを着けた太股をさらけ出す
黒いストッキングもこの世界では目を引く事だろう
「何と言うか・・・・・」
「何故私のドレスはお腹が丸出しなんでしょう?」
ラルクが戸惑うのもなんと無く分かる
タイトなスリット入りスカートと胸を覆うチュニックの間は大胆に開いており健康的な腹筋が丸出しなのだ
「引き締まってて綺麗なラインしてるからよw」
ラルクにはネックレスではなくブレスレットを渡しておく
何処と無くチャイナドレスを彷彿させるデザインは美しいく紫色シルバーとミスリルで描かれた百合の刺繍が良く似合っている
「ところでアリエルはどんな服にするの?」
「そうねぇ」
「やっぱり私と言えばアレかな」
私のドレスは全体を紫がかった黒でまとめた
ハイヒールと一体になった膝上のロングブーツは金細工で彩られそこから延びる脚はガーターベルトが垣間見える
屈めば丸見えになるようなミニスカートは黄金の刺繍で縁取られ
その上から前がバックリ開いたボンネットスカートを着ける
両腕を肘上まで包み込む長いレースの手袋にも豪華な金の刺繍が施され
素肌に着けたベストは胸元どころか胸の谷間の上からお腹までが丸出しになっている
「ちょっとアリエル」
「その服動いたら丸見えじゃないの?」
「ふっふっふっ」
「どれだけ動いても何故かズレない見えない溢れない」
「某オンラインゲームで私のキャラクターが着ていた服をイメージしたの」
「似合うでしょ?」
長年親しみ友人もたくさんできたオンラインゲーム
サービス終了間際時間まで狩りを楽しみ最後の衣装にも拘った
最後の瞬間は皆で手を振るロビーアクションで終わったっけ・・・・・・
「・・・・・・・・・・」
「アリエル貴女まさか・・・・・・」
「Mポルタの痴女???」
「ぶふぉっっ!!」
「なっっ何ですかその呼び名はっ!!!」
シンシアの言葉に思わず吹き出してしまった
私は防具性能が落ちるのも省みずエロと可愛さを両立させた装備を目指していた
そのせいで所属猟団のリーダーと意見が合わず出奔した
しかしその後も変わらずエロカワを追求しサービス終了まで続けたのだった
「昔やっていたMハンのオンラインにいたのよね」
「時々一緒に狩りに行ってたんだけど・・・」
「珍しく全種類の武器を使いこなす部位破壊のエキスパート」
「特に尻尾切りを得意とするエロカワ女子」
「名前はなんて言ったっけ・・・・・?」
あ
ヤバい
まさかサービス終了から何年もたった異世界で身バレとか笑えない
あのゲームではエロ装備を紳士装備と言って愛用者は沢山いた
けれどその中で部位破壊専門
しかも全武器種を使うプレイヤーなんかそう多いモノではない
実際あのゲームでは高火力過ぎて部位破壊出来ない人は多かった
「そのドレスのデザインも・・・・・」
「なんと無く見たことあるような気がするわ」
「そのレースだらけのボンネットスカートとかほぼ丸出しのベストとか」
シンシアは私の姿を上から下まで眺めながらブツブツと独り言を言っていた
いっそアヒルの着ぐるみに逃げようかな?
まぁ良いか
トルマリンをあしらった髪飾りを2つ作ると髪を高い位置でツインテールに結んだ
「その髪型は間違いないわ」
「高火力な人達が無双する中でしっかり尻尾切ってくれてたから覚えてる」
「まさかこんなところで出会うなんてね」
シンシアは意味深な笑みをこぼしているが私にはシンシアがどのプレイヤーだったのか皆目検討がつかなかった




