祝い
「さて」
「仮にも元グリムワース伯爵とファルスカイン伯爵婦人との結婚じゃ」
「国をあげての式をあげねばならぬのう」
「ハッ!」
「そう畏まるで無いわ」
「一度ジリエラに緊張を解いてもらうかの?」
「そっそっそっ」
「そんなっ!!」
「お主」
「ナニを考えておるのじゃ?」
「妾は新婦に緊張を解してもらえと言っておるだけぞ?」
バステトにからかわれしどろもどろなアルベルト
そこに助け船を出そうとジンがやって来た
「ジリエラ」
「分かっておるの?」
「アルベルトは罰としてお主をリードせねばならぬ」
「助け合うのは大切なことじゃがあくまでアルベルトが決めねばならぬ」
「ゆめゆめ忘れるで無いぞ?」
「心得ております」
「前に出すぎず夫を立てるように致します」
バステトの言い分も分からなくもない
なんせ幼少期から憧れていた格上の相手と念願叶って夫婦となるのである
しかも相手は経験豊富で様々な知識に精通しており武芸も達者
ともすれば尻に敷かれるのは明白なのだ
「ほらっ」
「しゃんとしてくださいまし」
バシンッ
ジンは勢い良くアルベルトの尻を叩いた
アルベルトは呼吸を整え背筋を伸ばすと少し目を瞑って意識を切り換えたようだ
「心配かけて済まない」
「バステト様のおっしゃる通り私がしっかりせねばな」
「まだ固いが仕方無いのぅ」
「まぁ良いわ」
「元々お主は堅物なところが有るでな」
「じゃが冒険者として外に出ておった頃のように少しは気を抜いても良いのではないか?」
「そっそれは・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・バステト様?」
「なんじゃ?」
「私の冒険者時代を知っておいでなのですか?」
「ん?」
「うむ」
「妾は神じゃからの」
バステトはアルベルトから視線を反らした
これは・・・
ひょっとして・・・・・
昔何かやったな?
気付かないフリを続けながら注意深く観察してみる事にした
「取り急ぎ婚礼の準備じゃの」
「食材は妾とアリエルに任せてたもれ」
「良いな?アリエル」
「ぶっ混んできたわね」
「受けてたちましょうw」
「ふぅむ」
「困った」
「ワシは儀礼服なんぞ持ち歩いとらんぞ?」
「私もです」
「ラルクもリグルも何気にしてるの?」
「大丈夫だから気にしないの」
「そう言うシンシアは持っておるのか?」
「え?」
「持ってるわけ無いじゃない」
「むぅ」
「そらそうじゃのう」
「旅の途中で結婚式に出るなんぞ誰も予想しとらんしな」
「じゃが」
「だからと言って伯爵家の婚礼の儀式で礼
装も無い無礼講とはいくまい?」
「まぁ普通に考えれば一般人のワシらが参列出来ぬのは当たり前じゃし気にせんでも良いのは確かかのぅ」
「何を言っておるのじゃ」
「主らは歴戦の戦友であり救国の英雄であり妾達獣人族の大恩人揃いじゃぞ?」
「そんな恩人達に祝ってもらえぬなぞなんと可哀想な子達じゃ・・・・・・・」
バステトはポロポロと涙を流して嘆いた
「バステト様お気を落とさず」
「彼等は英雄と言っても旅烏」
「義理も人情も無い流浪者ですにゃ・・・・」
ハンカチを持って駆けつけたフェリシアが追い打ちをかけてくる
「よよよ」
「バステト様フェリスからかうのはその辺りになさいませんか?」
「シンシア達が困っていますよ?」
「なんじゃ」
「もう止めるのかや?」
「独身時代のジンはもう少し面白味があったのにのぅw」
危うく騙されるところだった
良く考えれば涙なんか魔法でいくらでも偽装できるのだ
現にバステトの目は充血しておらず涙はピタッと止まっている
「服はアリエルに作って貰うとして」
「ジンはお爺ちゃんみたいな話し方止めたのね?」
シンシアがニヤニヤ笑いながら突っ込むと恥ずかしそうにそっぽを向いた
「花嫁が年老いた話し方だと色気がないかと思ってな」
まだ抜けきっていない気もするが
いやはや
認識一つでこうも変わるものか
「それはそうと」
「ジンはさっき自分のことお婆ちゃん扱いしてたけどさ?」
「なっ」
「なんだよ」
「それは事実だ」
ジンは開き直り腕を組んで開き直った
「アルベルト伯爵が家督を捨てて代理伯爵になったわけだし・・・・」
「後継ぎは必要よね?」
「なっ!!」
このツッコミには開き直ったジンも顔を真っ赤にしてたじろいだ
「ぉお」
「アリエルは良いところに気が付くの」
「お主等にはグリムワース家とファルスカイン家双方の後継ぎを作って貰わねばならぬ」
「2つの名家に後継ぎがおらんと言うのも困りものじゃからな」
「そっそれはっっ」
「バステト様」
「楯を捨てた責を負うのは仕方がないとしても元々私が拝命するまでグリムワース伯爵家は途絶えておりました」
「なので直ぐに嫡流を残せと言うのも・・・」
「じゃからの?」
「お主が復活させたグリムワース伯爵家を100年待たずに再び潰すのかえ?」
「それではお主をグリムワース伯爵家に任じた妾の采配がまちごうておったと言うことかぇ?」
「そっそんなことはっっ」
バステトは中々に意地の悪い言い回しで責めているが単にからかっているだけだろう
「プッ」
「フハハハハッッ」
「なんじゃ?」
「お主ら本当にあの程度の事で妾が伯爵号を剥奪するとでも思ったのかぇ?」
「アハハハハハッ」
「お主らが望むのなら改めて正式に剥奪してやっても良いぞ?」
「えっ?」
「あっいやっあのっそのっ」
「こっ困りますっ!!」
「勘弁してください・・・・」
「アハハハハハッ」
「アヒッハヒッヒッヒッ・・・・・」
「まぁ冗談はこの辺にしておこうかのw」
一頻りお腹を抱えて笑った後
バステトは真面目な顔に戻り2人を見詰めた
「まぁ」
「しかしなんじゃ」
「やはりグリムワース家の後継ぎが必要なのは変わらぬ」
「出来ればたくさん子供を作ってその内の誰かにファルスカイン家を継いで貰いたいと言う気持ちは有るの」
バステトは視線を反らすと遠くを見詰めた
「別に急ぎはせぬ」
「じゃが」
「心には止めておいてたもれ」
「ともあれ」
「幸せにの」
バステトは手招きすると2人の手を取り重ね合わせた
握り合った2人の手にそっと手を添えると愛おしそうに撫でたのだった
ー・ー
「テーブルが足りないぞっ!!」
「クロスも忘れるなっ!!」
「飲み物を早くっ!!」
「果物は何処に置けば良い?」
決闘の終わった中庭は戦場と化していた
使用人達が慌ただしく走り回り婚礼の準備をしている
予め準備はしていたようだが会場の飾り付けやテーブルのセッティング等はどうしても時間がかかる
「なんか」
「すっごいわね」
「急じゃったからのぅ」
「妾もプロポーズの後押しくらいにしか思っておらなんだからのぅ」
「まさか本当に決闘するとは思わなんだわw」
バステトは後押し程度と言うがその道具が有る無しではタイミングが変わってきただろう
本来ならば取り寄せるまでの間微妙な空気の中待つはめになったのだろうし下手すれば後日への延期となっていた筈だ
「ジンは少し食べておいた方が良いんじゃない?」
「式が始まるまでまだ時間有るし始まっちゃったらあんまり食べれないかもだよ?」
「いや」
「いい」
「なんだろう・・・・・」
「食欲が湧いて来ないんだ」
ふむ
急な展開に気持ちが何処か追い付かずブルーになっているのかもしれない
「そうかそうか」
「それは残念だなぁ・・・・」
「でも甘い物は入るんじゃない?」
私はストレージから念動で材料を取り出しながら調理していく
空中で加水され練り上げられた生地はそのまま焼きあがり香ばしい香りを漂わせた
同時に卵が卵黄と卵白に分かれそれぞれ砂糖等の材料が加わり撹拌されていく
「凄い」
「こんな調理魔法見たこと無い・・・・・」
「空中で卵白が泡立っていくのは見ていて不思議だわ」
シンシアは感嘆の声をあげバステトは微笑みながらその動きを見ていた
「折角だからテーブルにある新鮮な果物も幾つか貰おうかしら?」
あるものは潰されジュースに
あるものはカットされまたあるものはカットされた後飴色になるまで加熱されていた
そうして幾つかの調理を平行させている間使用人でさえも思わず手を止め見入っていた
ー・ー
「これはなかなか凄いのぅ」
「しかしアリエルにも気を遣わせてしまったな」
上機嫌なバステトの前には大きめのケーキセットが盛り付けられていた
メインはジンであるがやはり女神として貴賓扱いしないわけにはいかない
ジンに出すのと同時にバステトにも提供した
「ふむ」
「妾とジンでは少し違うの」
「じゃがそれもまた目を楽しませてくれる」
主役は花嫁だが自分が手をつけなければ誰も食べようとしないのは分かっているのだろう
バステトは迷わずリンゴのソルベにスプーンを差し込んだ
「自然なリンゴの甘味と爽やかな酸味が口に広がって旨いの」
「このソルベには炭酸も入れておるな?」
「この味はシャンパンかや?」
「爽やかさが際立って良い味じゃ」
「それにしても器用なものですね」
「魔法を使って料理はしますが器具は使うし持ち運びも手でやるのが一般的」
「念動を使える魔術師もいるにはいるが普通に生活で使う術士は見たことがない」
ラルクがしみじみと呟く
彼女の言う普通とは恐らく魔族も含めての事なのだろう
パフォーマンス込みでサービスしたつもりだったのだが・・・・・
「まぁ」
「アリエルですものね」
「バステト様が既に亜神の領域に入ってるって言ってたから不思議じゃないかな」
「驚きはするけどw」
シンシアは深く考えないようにしているのだろう
純粋に楽しんでくれているようだ
「こんな短時間で林檎のコンポートが出来るとは驚き意外の何者でもないですね」
「シフォン生地も軽やかで優しい甘さが心地良い・・・・・・」
「ありがとうアリエル殿」
ジンにはシフォンケーキにホイップとバニラアイスに林檎のソルベを添えて一口大の果物と幾つかのコンポートを散りばめている
バステトにはミルクレープの隣にパンナコッタと数種のソルベにバニラアイスをトッピングしてホイップとチェリーを添えていた
それぞれ違う物を用意したのは見た目の違いもあるがジンには大きな口を開けなくても食べられるもの
バステトには酒の合間に冷たく喉ごしの良いデザート
と言うように趣旨を変えてあるためだ
「お疲れ様アリエル」
「私達には無いのかしら?」
席に戻ると少し意地悪そうな笑みを浮かべたシンシアが待っていた
「まさか?」
「これじゃ気に入らないの?」
私の言葉と同時に私達4人の前に空から器がが降りてきた
「いつの間に作ってたの???」
ジンとバステトのデザートを作りつつ会場に飾るウェディングケーキを派手なモーションで作っていた
その影で見えにくいように自分達のもちゃっかり作っていたのだ
パチン
「フェリシアもどうぞ」
指をならすと小さな光が弾けケーキの乗せられた皿が出現する
「にゃにゃ?」
「ありがとうにゃ」
「これは・・・・・・」
「まさかマタタビにゃ???」
目を爛々と輝かせたフェリシアは文字通りケーキに飛び付いた
ー・ー
「いやはや」
「この世界でこれを食せるとはのぅ」
リグルの前には陶器の器が並び小皿には和菓子が乗っていた
「私の好みだからリグルの口に合えば良いのだけれど・・・・・」
「いや」
「有難い」
「この世界では小豆はあっても餡を作る風習は無いでな」
「味も食感も見事に阿闍梨餅を再現しておる」
「このニッキがほのかに香る求肥も旨い」
「こっちのみつ豆なんぞどうやって作った?」
「天草なんぞこの世界では流通しておらんじゃろうに」
「寒天は創造魔法よ」
「口に合って良かったわ」
「抹茶も再現できてるかしら?」
「あぁ」
「苦味の中に甘味があり鼻に抜ける香りが心地好い」
「菓子の甘味も上品で旨いわぃ」
こうやってお茶を飲む姿は本当にお爺ちゃんだと思う
縁側で猫を抱いていそうだ
その筋肉が無ければだが
「全員違うデザートなのね」
「皆同じだとつまらないでしょう?」
「好みが分からないから適当だけどねw」
私のはバナナサンデー
数種のアイスとソルベにバナナとホイップクリームにチョコレートソースをかけてある
ラルクにはたっぷりの苺を使ったパフェ
ラルクの好みは分からないが私の知る限り苺が嫌いな人は少ない
見る限り喜んでくれているように見える
シンシアには豪華なチョコレートパフェ
ベースには珈琲ゼリーを入れてチョコアイスと珈琲アイスにチョコフレーク
ホイップにもチョコを混ぜてほのかにラムの香りを纏わせている
彩りには苺とバナナを使いマカロンも盛り付けた
「美味しそうなチョコパね・・・・」
「皆のより大変だったんじゃない?」
「ありがと」
シンシアはウィンクして食べ始めた
その姿をバステトはニヤニヤ笑いながら眺めていた
「アリエルや」
「シンシアの方が妾のよりも手が込んどるのぅ?」
「そうですか?」
「単純にバステト様はお酒が進んでおられるので爽やかな方が宜しいかと気を遣ったのですが・・・・・」
「もの足りませんでしたか?」
「そうじゃの」
「妾もそのチョコレートが食べたい」
「もう一つ作ってたもれ」
ふぅむ
お代わりか
全く同じものを作る気にはなれないので別のチョコパフェを作ることにした
「おぉ」
「具材が違うの?」
「それもまた一興」
「楽しみじゃなぁ」
空中で調理させる材料を見ながら尻尾を揺らすバステト
動くものを見るのは好きなのか一つ一つを目で追って盛り付けられるとムフッと笑いが溢れている
ゼリーにフレーク
3種類のソルベを入れて
チョコクリームとホイップクリームで彩る
バナナと苺
パイナップルも添えよう
最後に2種類のチョコレートソースをかけて出来上がり
「出来上がり」
「さぁ召し上がれ♪」
バステトの前に差し出すと女神は喜び勇んで食べ始めた
「あら」
「あちらのチョコパも美味しそうね」
「見た目は違うけどシンシアのと同じだよ」
「マカロンとかは入れてないけど」
「そうじゃの」
「そのマカロン」
「妾も食べたい」
バステトの事だからそう言い始めるのは予測済み
既に空中で焼き上げていたマカロンを空いていたお皿に盛り付けた
「そう仰るだろうと思い皆の分も作っておきましたよ」
「良かったらジンも食べて」
皿をテーブルに置くと皆の手が伸びる
この世界はまだ砂糖は高級品なため甘味は貴重だ
なのでこのスイーツは掛け値無しのご馳走である
結局皆に各々作ったメニューは作り足して皆で食べたのだった
ー・ー
「しかし」
「アリエルや」
「お主も思いきったことをやってくれたのぅ?」
一頻り甘いものを食べ終えたバステトが紅茶を飲みながら話し出す
「何がです?」
「そなたが作り上げたあのウェディングケーキ」
「この世界ではどんな王公貴族でも揃えられるかどうか・・・・・」
「妾は神じゃから造作もないがの」
あ
また無意識にやっちゃった
魔物が蔓延るこの世界では大型の家畜は少なく酪農などはほぼ無い
この獣神の国では酪農も盛んだがケーキと言えばバタークリームが主流
冷却魔法で保存する事は可能だが生クリームの扱いに長けた料理人が育っていないのだ
「先程アリエルがパフォーマンスでレクチャーしてくれたから研究する者もでるじゃろう」
単にパフォーマンスとしてやっただけなんだけどね
確かに離れたところでコックコート着た人達が話し合ってるわ
「ジリエラ!!」
「姉様!!」
ひとしきり食べ終わった頃数人の獣人女性が駆け寄ってきた
皆礼装を身に纏い華美にならない程度の化粧とアクセサリーで着飾っていた
「ジョウンにマリエラ?」
「久し振り!!」
「シエラ様まで???」
「お姉様のご結婚を祝わないわけ無いじゃない!」
「お主もとうとう夫を見付けたか」
「良かった」
「本当に良かった・・・・・」
ジンと親交のある若い娘達と古くからの付き合いのある老婆達
皆に囲まれてジンは嬉しそうだ
「・・・・・・・」
「バステト様ですね?」
「さすがジリエラ」
「察しが良いですの」
杖をついた犬系獣人の老婆がジンに微笑む
確かにこのタイミングで現れるのは女神の仕業意外に考えられない
「バステト様が緊急招集されて転送魔方陣の使用を許可して下さったの」
マリエラと呼ばれた兎の獣人である彼女は目に涙を浮かべながらジンの両手を握っていた
これぞホントのバニーガール
等と不謹慎な考えを表に出せばシンシアに睨まれただろう
見回すと多くの者達がこの館を訪れ庭を埋め尽くしていた




