旅立ち
「しかしまぁ」
「予想以上になんでも出来るのね」
「逆ですよ」
「異質すぎで雁字搦めです」
「そうじゃな」
「ここまで出来すぎると下手すれば魔女狩りにあってしまうの」
「いくら強くても独りじゃと数に押されれば次第に削られいつかは潰えてしまうもんじゃ」
「やけに説得力あるわね」
「リグルは昔そんな目にあったの?」
「昔・・・な」
リグルはこの世界に来る前は軍人だったと言う話は以前に聞いた
戦争中に神隠しに会いこの世界に来たのだと
度重なる戦闘に耐えられず武器も衣服も失ったとも
多勢に無勢・・・
戦争末期の日本軍もそうだったのだろうか?
それともこの世界に来てからの話なのだろうか?
「思い出したわ・・・」
「400年前の英雄〈龍殺しのリグレット〉」
「まさかリグルの事だったなんてね」
「また懐かしい名前じゃな」
「遠い昔の話じゃ・・・」
「最早御伽噺じゃよ」
「英雄も忘れられれば不死の化け物じゃ」
「ワシの商会も本部にエルフやドワーフ達を起用しとるから良いものの・・・」
「田舎を転々としとるのもそんな理由もあるんじゃよ」
そう言ったリグルの背中は何処か寂しそうだった
それから暫くヴァレンシアとリグルを交えて旅の準備を進めた
安定収入を得る手段として日本の機織り機を作製してリグル商会に卸した
この世界の機織り機は西洋タイプで柄を織り込む事は可能だが地模様となると難しいからだ
型紙も用意して3人の若い娘に使い方を教える
これで暫くすれば地模様の入った生地が普及することになるだろう
各ギルドにはリグル商会の名前で特許を出させることにした
これでリグル商会の支部にいけば特許料金を受け取れるという仕組みになる
他にも手引き台車や旋盤と言ったものも合わせて特許を取得しておく
「あれから2ヶ月か・・・」
「そろそろ出発しようかな」
初めは不自由に感じた生活も2ヶ月経てば慣れてくるもので物腰や言葉遣いもだいぶ女らしくなった
見た目が違うと気持ちも変わるのだろう
短髪だった黒髪も背中まで伸ばし髪飾りで止めるようにした
実際生活する上で見た目が女と言うのは都合が良かった
改良を重ねた結果マスク無しでもネックレスやカチューシャを使った魔力供給による呼吸が可能になったからだ
その代わり首飾り等のアクセサリーが手離せない
四六時中首飾りを男が付けているとキザな印象を受けるが女の子なら自然である
髪飾りや耳飾りにも魔力供給や偽装の魔法を付与して身に付ける事ができる
この世界で女の独り旅は珍しいが男より警戒はされない
単なるイメージなのだろうが本来なら女の独り旅の方が怪しい筈なのに不思議なものだ
野宿はマントにくるまって寝るのが一般的だし衣服も着替えはそれほど持たないのが普通
現代人のように毎日着替えたりしないからだ
なので旅の荷物もテントを持つのはお金持ちぐらいだし日用品や食糧と備品である
そこに道中手に入れた素材が増えたり減ったり・・・
思ったよりは身軽である
「ヴァレンシア」
「色々と世話になったね」
「あらもう出ていくの?」
「後20年くらいここにいても良いのに」
冗談なのか本気なのか・・・
その瞳を見ても分からなかった
「長居しすぎたくらいだよ」
「とりあえず呪いを解くか普通に生きられる方法を探さないとね」
嘘ではない
その最たる手段が女神への復讐なのだから
「出る前に用意が出来たらもう一度挨拶に来て頂戴」
「絶対よ?」
ヴァレンシアに言われるまま部屋から荷物を取ると取って返して挨拶に向かった
「ヴァレンシア」
「準備は出来たからもう行くよ」
「そうね」
「じゃあ行きましょうか」
「・・・・・・・・・・・・」
「ヴァレンシアさん?」
「なぁに?」
「やっぱりついてくるんですか?」
「中央都には私も用事があるのよ」
「ここは言わば別荘であって本部は中央だもの」
「そろそろ顔出して新しい指示出さないとね」
「機織りの件もあるし」
そう言う手できたか
特許を取れる発明で安定収入を得ろと言うから一理あると従ったが・・・
初めから狙いは中央迄の同行だったのかもしれない
この分だとリグルも同じ考えでついてくるのかも?
ヴァレンシアの同行には拒否できる理由が無い
しかしそれはリグルに同じ事を言われれば拒否出来ないことを意味する
独り旅のつもりだったんだがな
3人旅になるのか・・・
それもまぁ良いか
リグル商会の裏庭ではマイロが荷馬車に荷物を積み終わったところだった
「おはようリグル」
「そろそろ出発する事にしたよ」
「おぅ気を付けて行けよ」
てっきりついて来るかと思ったのだがあっさり見送られた
それにしても何ともあっさりした分かれ方だろう
まるで昨日の夜の別れと同じくらいの感覚だ
「じゃあワシは先に行くからな」
「グレッグ!マイロ!後は頼むぞ!!」
「お前らと違ってワシは忙しいんでなー」
「この2台目を運んで生産体制を強化せんといかんからな!」
「ではまた会おう!!」
言うや否や馬に鞭を入れて走り始めた
幌つき馬車の荷台には分解され梱包された機織り機と織り方を教えた娘が1人乗っている
軽快に並足で走る馬に追い付ける筈もなくあっという間に遠ざかる
「そう来たかw」
「てっきりついて来ると思ってたんだがな」
「何かやってるとは思ってたけど先に行っちゃうとはねw」
「あの歳でホント元気だわ」
「じゃあ我々も行きますか」
「改めてよろしく」
「よろしくね」
「あーそうそう」
「外ではヴァレンシアって呼ばないでね」
「これでもこの国有数の大富豪なんだから」
「私の事はシンシアと呼んで」
「シンシアね・・・」
その名を聞いた瞬間思わず苦笑してしまった
「何か文句有るの?」
「そう言う意味じゃない」
「そうじゃないんだ・・・」
「・・・・・・・」
「私の恩人にシンシアと言う黒人女性がいてね」
「この世界でも縁がある名前だなと思っただけさ」
「ホントにそれだけ?」
少し前屈みになりながら上目遣いで睨み付けてくる
ふて腐れて少し膨らんだ頬が可愛らしい
エルフは何百年経っても少女のような心を保てるのだろうか?
「しっかしまぁ」
「アリエルは年寄りみたいな喋り方よね」
「私の方が歳上なのにさw」
からかうような口調だが不自然だと指摘してくれているようだ
街道と言えど何処で誰が聞いているかもわからない
ヴァレンシアは町を出る辺りから立ち居振舞いや雰囲気も変えて見せた
そう
ヴァレンシアからシンシアに変わったのだ
私にも見習えと言うことか・・・
「じゃあこれからは姉御って呼ぼうかしら?」
「それは止めて」
被せ気味に食い付いてくる
「じゃあシンシア」
「少し急ぎましょうか♪」
「屋根の有る所で泊まりたいもの」
「そうね」
「そう言えばアリエル」
「なぁに?」
「貴女水筒忘れたよね?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・うん」
「そう言えば買ってない」
額に手を当てて頭を降るシンシア
溜め息をつきながらバックパックを下ろすと中から革袋を1つ取り出した
「良いですか?」
「例え飲む必用が無くても革袋1つ吊るしてないなんて常識的に有り得ない」
「怪しすぎます」
「これをあげますからちゃんと腰に吊るしておいて」
小声で囁きながら手渡してくれた
「ありがとう」
「完全に忘れてたわ」
「それから時々飲んで川を見つけたら補充」
「それが普通です」
「護衛は旅人の小屋にある井戸で汲みますがそれもキチンと毒味しないとダメですからね?」
笑顔のまま小声で教えてくれた
思ったより面倒見が良いタイプのようだ
「あ」
「鹿だ」
「小屋までまだ遠いから仕留めちゃダメですからね」
「はいなぁ・・・」
あの鹿美味しかったのになぁ・・・
でも流石に女2人で鹿を担いで歩くのは怪しすぎるか
小屋の近くで探すのも良いな
「なんか煙が見えるねぇ」
「アリエルって何気に視力良いね」
「私にはまだ見えないけど・・・」
さらに30分ほど歩くとハッキリわかるようになってきた
「あれは・・・」
「もう小屋に誰かいるみたいね」
「ここの旅人の小屋ってそんなに近いの?」
「まぁね」
「この先の森から山道になってるからね」
「そっちの間隔を優先したら町から半日ほどの距離になったってわけ」
「だからこの小屋は使わずに町に急ぐ人も多いのよ」
「だとしたらあの煙は怪しくない?」
「だよね」
「半日もかからず町に着けるのに昼前から竈を使ってるんだもんね」
「警戒して近付こうか」
「それともルート変える?」
「このルートが一番早くてね・・・」
「他のルートだとロスガルン山を迂回するから1週間ぐらい差があるのよ」
「1週間か・・・」
「アタシは別に急がないけど?」
「アリエルってそう言うキャラだったっけ?」
「若い頃を思い出したらこんな感じになってきたわw」
「落ち着くって聞こえは良いけど結局は老け込んでるだけじゃない?」
「昔読んだ本に書いてたんだけど・・・」
「言葉遣いは人格に影響を及ぼすんだってさ」
「着る服や趣味もね」
「そう言うものなの?」
「そう言うのもあるってよー」
「だからバカな言葉遣いばっかりしてたら考えられなくなってお馬鹿になるんだってさw」
「そうなのー?」
「なんかショックだわ」
そうこうしていると小屋がはっきり見える所まで近付いて来た
ここまで近付くとはっきりわかる
これは燻製を作っているわけではない
白い煙がたっているのだがどうにも消えるのが早い
アレは煙と言うより水蒸気?
「ねぇシンシア・・・」
「うん」
「スルーした方が良いと思うのは気のせいじゃないよね」
「私もそう思う」
このまま突っ切ると野宿の可能性が高い
しかし怪しすぎるこの小屋に入る勇気は無かった
ー・ー
「ウォーリャァー!!」
「ドッセェーーーイッ!」
「もう一丁!!」
なんだか怪しげな掛け声がする
煙はモウモウと出ているのに調理の匂いがしない
「ウォッシャァアーー!!」
「まだまだぁ!」
触らぬ神に祟りなし
足早に通りすぎようとすると旅人の小屋を囲む塀の扉が開け放たれていた
中が丸見えで否応無く視界に入ってくる
その奇妙な光景が脳裏に焼き付いた
裸だ
中庭を埋め尽くすかのような裸!裸!裸!
汗だくになりながら走り回り頭から井戸の水を浴びている
なっ
なんなんだ?
「おいお前ら!!」
「利用者が来たぞ!!」
「しまえ!しまえ!!」
門の真正面を通り過ぎようとしたところ中で声が上がりドタバタと走り回る男達
取り急ぎズボンだけを履いた男が駆け寄ってきた
「いやぁースマンスマン」
「利用者が少ないんでちょっと借りてたんだ」
「片付けたから気兼ね無く使ってくれ」
進路を塞ぐように立つ男の身体はビッシリと汗が張り付いており湯気が立ち上っていた
ヤバいでしょこれ
なんだか知らないが盗賊のような面構えの大男が塀の中でたくさん裸祭りしてるとか恐怖でしかない
「先を急いでるんで!!」
走り出そうとするが全力で道を塞がれる
「今この先は魔物が出て物騒なんだ!」
「女の子2人だけを通すわけにはいかん!」
いや
マジでごめんなさい
貴方達が怪しすぎて立ち止まりたくないです
「魔物って?」
「狼猿の群れが降りて来ててな・・・」
「俺達は討伐隊なんだが中休みで英気を養ってるとこだったんだわ」
英気を養うのに裸で騒ぐのだろうか・・・?
正直狼猿なんか道端の石ころぐらいにしか感じないがこうなると押し通るのは難しい
「アリエル・・・」
シンシアがそっと私の袖を引っ張った
「あの奥に置いてある楯の紋章」
「アレは討伐騎士団の物・・・」
「凄く怪しいけどその人の言ってる事は本当みたい」
「凄く怪しいか・・・」
苦笑いしながら頭をかく男
短く刈り込まれた金髪は清潔感がある
その頬に2本の傷が無ければ爽やかな青年で通るかもしれない
筋肉質の大きな身体には幾つもの傷痕が刻まれておりそのどれもが複数の傷が並んでいた
刀傷ではなく獣の爪や牙でつけられた傷痕だと分かる
少なくとも盗賊では無いのかもしれない
「隊長ー」
「片付けましたが部屋はまだダメですぜ」
これまた輪をかけて厳つい大男がやってきた
隊長と呼ばれた男も大きいが彼はさらに大きい
2mはあるだろう巨体は太い筋肉で覆われており黒い肌が艶やかに太陽の光を反射していた
3本の傷痕で左目が塞がれており黒く短いソフトモヒカンと顎髭がその風貌を際立たせる
間違いない盗賊顔だ
「まぁ暫くは仕方無いだろう」
「すまないが部屋が冷めるまで2時間くらいはかかりそうだ」
「冷めるって・・・?」
「あぁ」
「この小屋は殆ど使う者がいないんでサウナ変わりに使ってたんだw」
腰に手を当て豪快に笑う隊長さん
「そんな使い方して良いんだ・・・」
「あっ」
「いやっ!!」
「今日はたまたまでいつもはそんな使い方しないんだ・・・」
焦る表情からたまにやってるのが見てとれる
なんにしても冷ましたところで男達の汗を吸った小屋は願い下げである
「ちょっと用事があるので先へ行きます」
「小屋はそのままサウナで使って下さい」
「いやっ!」
「だから狼猿がだなぁ」
「大丈夫ですよ」
「参ったなぁ」
「馬車の爺さんは迂回してくれたんだがなぁ」
どうやらリグルは迂回したようだ
荷物が荷物なだけに安全策をとったのだろう
馬車なのでロスも少ないから当然と言えば当然か
「シンシア・・・」
「迂回しましょうか?」
「・・・・・・・・」
「2人で突っ切っても問題無さそうだけれど通してくれそうもないよね」
「でもあの小屋使うのは嫌だわ」
「同感ね」
「迂回しましょうか」
討伐隊に別れを告げ右手の迂回路を目指す
この旅人の小屋は街道の分岐点に設置されている事が多い
恐らくこの分岐路で迂回させるべくあの小屋を拠点にしているのだろう
迂回したからと言って安全なわけでも無い
それでも狼猿の群れに比べればマシと言ったところか
「1週間のロスはしたくないなぁ・・・」
「アリエル」
「1度ラックにならない?」
「討伐隊ならむしろラックの方がダメでしょ」
「最悪ノッキングヒルに連れ戻されませんか?」
「やっぱそうなるかぁ」
「素材としてはわりと高値で美味しいんだけどなぁ」
口を尖らせて呟くシンシアは本当に歳を重ねたエルフには見えない
「何匹いるかもわからないし仕方無いんじゃない?」
「見た感じあの人達は何日もかけて討伐してるみたいだし」
「だとしたら大規模な群れなのかもね」
「もしそうならロスガルン山は・・・」
「山がどうしたの?」
「狼猿って本当はロスガルン山の何ヵ所かに別れて小さな群れを作ってるのよ」
「それが下山してるって事は山から餌が無くなったか増えすぎて溢れたか・・・」
「天敵がいるとか?」
「あたり」
「増えすぎた場合は群れも大きくなりがちだし討伐隊はもっと大規模になってるわ」
「あの規模だと餌が無くなった可能性は高いわね」
「数が増えすぎたわけでもないのに餌が枯渇するの?」
私の問いにシンシアは真剣な眼差しで答えた
「狼猿には2種類の天敵がいるのよ」
「1つは食糧の奪い合いになるタイプね」
「もう1つが縄張り争いになるタイプ」
「縄張り争いだと狼猿が食べられるわけじゃ無いからあまり数が減らず大きな群れが降りてくるわ」
「あの規模の討伐隊だったら群れのサイズはそれほど大きくないのでしょう」
「だとしたら今ロスガルン山にはレアで強力な魔物がいる可能性が高いわけだね」
「そう言うことね・・・」
「・・・・・・・・・」
「魔物かぁ・・・・・」
「どんなのが出るの?」
「そうね・・・・・」
「餌の取り合いになるくらいだったら何かしらね?」
「一番弱い魔物でロードクラスの狼猿かしら?」
シンシアは唇を人差し指で触れながら応えてくれた
「一番強い場合は?」
「断然火龍ね」
「火龍かぁ・・・」
「ロマンを感じちゃうなぁ・・・」
「・・・・・・・・・・」
「行くの?」
少し思案して勢い良く振り向いたシンシアの顔には期待とも困惑とも取れない微妙な表情だった
「あの討伐隊で倒せるの?」
「いやいやいや」
「火龍は無理でしょ」
「ロスガルンの火龍と言えば定期的に現れる古龍種だよ?」
「古龍の討伐なんてこの100年全く聞かないかな・・・」
「ロスガルンの火龍に知能は有るの?」
「どうだろうねぇ?」
「あの火龍と直接相対して生きて帰った人はいないから知能は期待しない方が良いかも」
「そうか」
「古龍と呼ばれるなら少しは期待できるかと思ったんだけどね」
「そう言えばこの世界で知能のある龍の伝承とかお話は無いの?」
「あるにはあるけど・・・」
「その中にロスガルンの火龍は無いわね」
「つまりは長く生きた蜥蜴か」
「蜥蜴と呼ぶには危険すぎないかしら?」
「火も吐くわけだし」
「火龍はロスガルンの食物連鎖の頂点ね・・・」
「いなくなれば狼猿を初めとする魔物が増えすぎて下山してくる可能性が高まる?」
「かもしれない」
「けれど何十年かに一回出てくる程度だからね」
「あぁ」
「忘れるところだった」
「ロスガルンの火龍は同じ個体とは限らないんだな」
「相対して生きて帰った人はいないからね」
「なら女神が魔物の調整に使っている可能性が有るかもしれない」
「だとしたら倒すのは女神に気づかれるリスクの方が高い?」
「そう言うことね」
「残念だけど素材は諦めるわ」
「リグルの件があるものね」
「古龍を討伐して不死の呪いを受けるとか・・・」
「不死は女神からのご褒美なのかしら?」
「餌かもね」
「不死に憧れるのは人の性だもの」
「不死を求めて古龍に立ち向かうように仕向けてるのかもよ?」
「何それ」
「性格悪っ」
「龍を倒す英雄鐔は戦士達の憧れでしょ?」
「そこに不死のボーナスついたら挑む人は出るんじゃないかな?」
「確かにそうね」
「龍に挑む動機の中には名声もあるもの」
シンシアから複雑な笑みがこぼれた
たぶん昔を思い出したのだろう
「この先はロスガルン平野」
「ロスガルン川が流れる肥沃な土地よ」
「火龍が餌場にする事もあるんだけど・・・」
「警備兵が派遣されてないところを見ると火龍は来てないみたいね」
「山から結構離れてるみたいだけどこんな所まで狩りに来るんだ・・・」
「火龍は毎日食べるわけじゃ無いからね」
「しっかしこの辺りは変わらないわねー」
「良い土地なんだけどそれは魔物にとっても同じだからね・・・」
「村や町を作るには生半可な人数じゃ作れないから仕方無いか」
シンシアがヴァレンシアとしてノッキングヒルに来たのが20年ほど前
まだ大きな村だったノッキングヒルを交通のハブ地として整備して今に至る
リグルも同時期に訪れていたのだとか
2人はこの国各地で出会ったり別れたりしていたらしい
私の件が無くてもそろそろ町を出る頃合いだったのだろう
「ここは足の速い魔物がいるから気を付けてね」
「って言ってるそばから!!」
シュリンッ!!
ギャンッ!!
背後から迫る気配に振り向きながら居合で仕留める
これは・・・
平原狼じゃないな?
猫科のような見た目だ
「あらまぁ」
「背後の平原豹を一刀両断とかどれだけ強いのよw」
「でも平原豹は単体行動だからたぶん暫くは何も襲ってこないわね」
街道から少し入った場所の草を剣で薙ぎ払いちょっとした広場を作る
そこに平原豹を運ぶと手際よく解体し始めた
「勿体無いけどまだ先は長いからね・・・」
内蔵を取り出して纏めて置く
「ひょっとして収納とか出きるの?」
「出きるよ」
「収納してる間は腐ったりもしないみたい」
「じゃあ内蔵も出さなくて良かったのかな?」
「解体は必用みたいだよ」
「繋がってると1つとして認識するみたいだから部分的に出し入れとかは出来ない」
「そうなんだ」
「昔読んだマンガだともっと便利に使ってたんだけどなw」
「真似して採取したら根ごと収納されちゃうよw」
「だから鉱物も鉱床から掘り起こさないと収納出来ない」
「便利なような不便なような?」
「鎧なんかも1つとして認識されるから腕だけ出すとかは出来ないかな」
「そうなんだ」
「じゃあ何処かで血抜きしないといけないのね?」
「そう言うこと」
「狩るだけ狩っておいて川を見つけたらその傍で暫く野営するのも良いかもね」