空へ 再び
「んーーーーー」
「気持ちいいっっ!!」
本日二度目のフライトである
昼食を済ませ村人達に別れを告げると再び風に乗って空を舞う
やはり地上より断然速いのだ
シンシアとリグルは元よりラルクやジンさえも空の旅を楽しむ余裕が出来ていた
「フェリシア」
「村人の前だと畏まっちゃってて可愛かったわw」
「そう茶化さないで下さいにゃ」
「辺境部の村だと巫女のイメージを損なわないように大変なのにゃ」
「でも面の割れた村なら素を出しても良いんだw」
「フェリシアを知っている人達は取り澄ましてもニヤニヤ笑われるだけだからなw」
ジンの言う通り普段のフェリシアは天然的なモノがある
巫女頭の中では最年少らしく気張っては見るもののやはり先輩のお姉様方には及ばないらしくせめて巫女頭のイメージを損なわないように振る舞っているのだとか
「方角も確めたし今度は迷わない筈にゃ」
「町に着いたら他の予定ルートだった村の者達に連絡回さないといけないのにゃ」
当初のルートからかなり外れていたため今夜泊まる予定だった村にだけ伝言を頼んだのだ
「予定がかなり変わって今日中に街に入れそうにゃ」
「本当なら2日はかかる筈にゃのに飛ぶのは早いのにゃ」
午前中見ていて思ったのはフェリシアは落ち着きがない
気になった物があると気を取られてバランスを崩してしまうのだ
動作も大きく注視しようと身体を傾けるのもバランスを崩す要因だろう
「もしかしてあの遠くに見えてきたのが目的地かな?」
「違うにゃ」
「アレは第2都市のグリムワースにゃ」
「目的地はそのもっと先世界樹のたもとにある首都ワーズワースにゃ」
フェリシアの指差す先には確かに巨大な木が見える
周りの山々よりも遥かに大きなその大樹は世界樹と呼ばれてもなんら遜色はない
「ちょっと聞いても良い?」
「世界樹のある方角とおおよその位置から察するにシエラ皇国と一致しているような気がするんだけど?」
「ここは異空間なのよね?」
「確かに異空間じゃ」
「しかし下界と重なり合っておるとは以前に説明したな?」
「と言うことは」
「この異空間はもしや原初の世界?」
「エルフ族でも秘匿されておる筈なんじゃが・・・・」
「よく知っておったの」
ジンの話し方が以前のおじいちゃん臭い話し方に戻りつつある
それだけ気を許したと言うことだろうか?
「まぁね」
「私は若い頃から周りのエルフに馴染めず魔法や魔力回路の研究に没頭していたからね」
「エルフの禁書庫なんて入り口さえ抜ければ本や本棚にまでは罠を仕掛けてなかったのよ」
「もっとも私が里を飛び出してからはどうなったかわからないけどね」
「エルフの禁書は他種族に秘匿するものじゃから同族には緩いのやも知れん」
「それでもこの原初の世界を知っておると言うのは意外じゃな」
「それで」
「何故獣神様は原初の世界に隠れているの?」
「そもそもこの世界を作ったのは獣神様ではない筈」
「詳しいことは言えないし知らない」
「興味があるなら直接獣神様に聞いてみるが良いじゃろう」
「しっかし」
「アレは遠いね」
「元々シエラ皇国まで歩いて行く気だったからなんだけど・・・・」
「けっこう遠いよね?」
「バイコーンを乗り継いでも2日か3日の旅程だものね」
「飛んでるから明日にはつくんじゃない?」
「そうですにゃ」
「明日にはつくので今日はグリムワースで一泊しましょうにゃ」
「晩御飯には余裕でつくね」
「はいにゃ」
「街中の周りには防空警備隊がいるので近付いたら降りた方が良いのにゃ」
「防空警備隊?」
「なんだかカッコいい名前ね」
「カッコいいのにゃ」
「自由に空を飛ぶ獣人族の勇士なのにゃ」
やはり獣人族の中には空を飛ぶ鳥系もいるのだろう
もしかしたら知らない種族もいるかもしれない
何にしても刺激しないようにかなり手前から超低空飛行に切り替えた
低すぎて飛行と言うよりホバー走行に近い
「この魔法はこんな使い方も出来るのか」
「あまり低いと推進用の風魔法が必要になるからこんな低空飛行だと他の魔法の方がコスパ良いと思う」
「まぁ」
「いちいちかけ直さなくてもアリエルなら余裕で魔法維持できるもんね」
「まぁね」
「じゃが推進用の魔法の方が非凡じゃな」
「さっきから周りに影響の無いように個別に攻撃魔法を撃ち込んどるじゃろ?」
リグルの言う通りである
風を起こす魔法だと周りに被害が出てしまう
その為風系統の攻撃魔法を後ろから当てる事で推進力を得ている
風の運び手の結界より弱く推進力を得られる魔法と言うのは中々に難しい
更にそれを6人全員に同時に当てるのである
その上フェリシアが頻繁にバランスを崩すのでそれを補正する角度で撃ち込まなければならない
「フェリシアがもっと上手に飛べれば楽なんだけどねw」
「ラルク」
「もっと低く飛びな」
「あまり高いと防空警備隊に見つかるよ?」
「わかりました」
「・・・・・・・・・・」
「アリエル?」
「今のは言ってみたかっただけですよね?」
ラルクは前方を警戒するため皆より少し高度を取っていたが1mも高かったわけではない
「あらw」
「バレちゃったかw」
「それぐらい分かりますよw」
「ところで」
「超低空飛行でもこの速度だと警戒網に引っ掛かるのでは?」
「そのようね」
「7時上方より接近する影有り」
「回避した方が良いかな?」
「えっ?」
「あっ?」
「回避するにゃ?」
フェリシアは何を言われたのかピンと来なかったらしく反射的に答えてしまった
「皆は減速して周囲を警戒して」
「私は接近する者を見定めます」
皆の推進用攻撃魔法を止め変わりに自分へ連続発射する
急上昇しながら右へ旋回し螺旋を描きながら周囲を見渡す
「アレか」
「人ではなさそうね」
比較的大きな影が翼を広げて飛んでいる
二手に別れたためどちらを追うか一瞬躊躇ったようだが他のメンバーが減速したのを確認すると此方をめがけ上昇してくる
「ふむ」
「機動力の有る私を追いかけてきた」
「つまり誰も逃がすつもりは無いってことね」
今の魔法は長距離移動には適しているが空中戦をやるにはかなり細かな制御が必要になる
「これは推進方法を変えないと苦しいかな?」
「別に戦うわけじゃないけど小回り効く魔法にしないと後手には回りたくないもんね」
〈付与魔法物理反発型推進装置〉の魔法を発動する
身体の各所に魔方陣が展開され準備が整った
ボボッ
背中と右肩の魔方陣を起動させると小さな爆発が起き上昇してくる者を左へ回り込みながら接近する
「んー?」
「あれは有翼人種かな?」
「なら皆と合流して話せば良いか」
ボッッ
降下姿勢を取り下を向くと背中と脚の魔方陣が火を吹く
一気に急降下して地表スレスレで頭を上げて勢いを殺し着地した
「ただいま」
「どうも防空警備隊に見つかったみたいね」
「追ってきたのが有翼人らしき人だったから戻ってきたわ」
「お前達は何者だ?」
「ん?」
「フェリシア様ではありませんか?」
「と言うことはこの方々がお迎えにあがったお客人ですね」
「これは失礼致しました」
やはり戻ってきて正解だった
降りてきたのは2人の有翼人だ
2人とも栗色の髪を短く刈り揃えており細身のイケメンで身体は良く鍛えられてはいるが腕や脚はあまり太くない
簡素な皮鎧を身に付けており手には短めの片手槍と小椀楯
もう1人は弓を持っていた
いかにも警備隊と言う出で立ちである
フェリシアを見ただけで事情が分かってもらえたのは有難い
「やけにお早いと思いましたが・・・・」
「あの飛行技術をお持ちなら納得ですね」
「ようこそグリムワースへ」
「と言ってもここはまだ街から離れておりますね」
「私が先導致しますので後について飛ばれますか?」
「そうですにゃ」
「まだ遠いのでもう一度飛ぶ方が早いですにゃ」
フェリシアの話し方がいつもより硬いがこの前の村よりは砕けている
この街ではそこまで気取らなくても良いと言うことか
私は再び〈風の運び手〉を唱えると優雅に彼等の後について行った
ー・ー
「改めまして」
「ようこそグリムワースへ」
「ところで」
「珍しい魔法をお使いですね?」
「追い風も吹かせて頂いたので飛びやすくて助かりました」
「長距離用の飛行魔法で風に乗って飛ぶ魔法なんです」
「だから追い風が無かったら前に進めないんですよ」
「そうなのですか」
「でも長距離用の飛行魔法は普及していないので初めて見ました」
「街の中は安全ですのでごゆっくりお楽しみ下さいね」
「それでは良い旅を」
警備隊の2人は名乗らなかったもののハキハキした青年達で好感が持てる
街の入り口でも率先して手続きをしてくれたおかげでスムーズに入ることが出来た
ー・ー
「ここがグリムワースか」
「何と言うか・・・・・」
「イメージと違うね」
空から見た時も思ったのだがこのグリムワースと言う都市は驚く程建物が低い
背が高くても4階か5階くらいまででそれも僅か
道幅は広くベランダやテラスが多いのも特徴的だろう
「凄い人ね」
「飛んでいる人達も多い」
「外界とは偉い違いね」
シンシアも感嘆するところを見るとやはりこのグリムワースは特殊なのだろう
「久しぶりじゃが変わらぬなぁ」
「たしか建物が低いのは有翼人種が屋上から来店しやすくするためじゃったかな?」
「流石リグル」
「100年以上前に説明した事を覚えていてくれたんじゃな?」
リグルの言葉に建物を見ると屋根が平らな建物が多い
空から舞い降りるお客と従業員らしき人が行き交っている
「あんなに多くの人達が飛んでて事故にはならないの?」
「街中の飛行にはルールがあって飛行ルートや方向が決められてるのにゃ」
「更に高度によって制限速度も決められているから低い空域でスピード出したら捕まるのにゃ」
大都市だけあって交通ルールも明確化されているようだ
だがルートや方向はどうやって指示されているのだろう?
看板等は見当たらないのだが・・・・
「ん?」
「どうしたのだ?」
「どうやってルートとかを指示しているのかなって」
「あぁ」
「それは建物の屋根に看板が有るのだよ」
「この辺りは雨が滅多に降らぬのでな屋根も三角屋根は飾りたいなものじゃ」
「へぇ」
「でもあれだけ飛んでると降りる時にぶつかりそう」
「それは発着場が定められているのにゃ」
「緊急でもない限りそこ以外で降りたり飛び立つと捕まるのにゃ」
「そうなのか」
よく観察していると建物の上や広場らしき場所でしか上下の行き来はない
あの行き交う場所が発着場なのだろう
「面白そうだから飛んでみたいな」
「それはまた今度の機会にしてもらいたい」
「ただでさえこの国にヒュームが来るのは珍しいのじゃ」
「リグルが飛ばぬとしても狐族が飛ぶ姿は目立って仕方がないからの」
ジンの言うことは聞かねばならないだろう
この世界では魔法で飛ぶのはあまりメジャーではない
それも風の運び手の魔法は私のオリジナル
あまり目立ちすぎるのもよくない
飛ぶのは諦めた
しかし視線が集まっているのはどうしようもない
「屋台や露店も多くて活気がある街ね」
「さっきから美味しそうな香りが漂ってるわ」
「素朴な味付けだけど美味しいわ」
「きっと素材が良いのね」
「アリエルったらもう食べ歩き始めてるの?」
「私も食べたいけどこんなに見られちゃ落ち着かないわ」
「あはははw」
「見られてるのはリグルとラルクね」
「シンシアも見られてはいるけれどあの二人に比べればマシかな?」
この国ではエルフも珍しいのだろう
それでも人間であるリグルに比べるべくもない
当のリグルは気にした風もないのだがラルクの方は落ち着かない様子だ
「フェリシア」
「宿に急いで貰えないかな?」
「人が集まってきてるから皆の居心地悪そうだし」
「そうだにゃ」
「街に入る前にマントかフードを用意しておけばよかったにゃ」
私は見た目を妖狐にしているため注目されていないが3人はほぼ動物園のパンダ状態だ
いっそ幻術で隠してしまえばよかった
「けれど今夜は領主の館に泊まる予定だったのにゃ」
「街の一番奥なのにゃ」
「なら手近な宿で部屋を借りてきます」
「なんなら料理屋の2階を貸し切るのも良いじゃろう」
ジンが素早く手を打ちすぐ近くのレストランの2階へ入った
このレストランは地上と屋上に出入口が有る
テーブルの大きさがまちまちなのは有翼人種や大型獣人に対応しての事だろう
「さて」
「どうしますかにゃ?」
「今からフード付きのマントを買ってきてもバレバレなのにゃ」
運び込まれた料理を食べながら作戦会議を始める
と言ってもやれる事はそれほど多くない
「リグルは兜をカブルだけで鎧熊に見えるなw」
「鎧熊の甲鎧じゃからな」
「じゃがフルフェイスを被ってもこの鎧でバレるじゃろう?」
「じゃあ被らなきゃ良いじゃん」
パチンッ
と指を鳴らすとリグルの顔が熊になった
「ブフォッ!!」
「幻術が凄いのは分かるにゃがそのチョイスは笑えるのにゃ」
熊のリグルを見て吹き出すフェリシア
ジンも笑いを堪えている
「この国でも魔族は良くないのよね?」
「そうじゃな」
「魔族と言っても下位の妖魔族は我等獣人族と大して変わらんしこの国にもたくさんおる」
「じゃがやはり魔素を放つ高位魔族は敬遠されるかの」
ジンの言う通りコモン人が妖魔と言う種族は創造主による分類であり妖魔だからと邪悪なわけではない
そしてこの国には妖精族は少ないが獣人だけでなく妖魔族も数多く住んでいるようだ
「ふぅむ」
「ならこうか」
パチンパチンッ
続けて2回鳴らすとラルクが姿を変えた
「うむ」
「羊蹄人か」
「街ではよく見かける種だから違和感ないじゃろう」
ジンの言う通り先程の通りでもよく見かけたので偽装に選んだのだ
羊蹄人は人の上半身に羊の下半身を持つ
半山羊人の親戚に当たる種族である
種としてクルクルと巻いた髪の毛が特徴で耳を回るように巻いた角が特徴的
「ラルクっっっ」
「ラルクがクルクルクリクリヘアー♪」
「かっわぃいいいいいっっ!」
本人は戸惑っているようだがシンシアは大興奮で抱きついていた
さて
問題はシンシアだ
下手な種族だとご機嫌を損ねかねない
どうしたものか?
パチンッ
「シンシアは私と同じ妖狐で良いよね」
「何ならシンシアが白銀で私が黄金にしようかw」
「だからその色はまずいって」
「そうね」
「白にして頂戴」
「それからアイラインと唇には紅をさして」
「髪の毛も何ヵ所か紅く染めて貰えるかな?」
「了解」
パチンッ
シンシアの幻術を済ませると自分のアイラインと唇を赤紫に変え髪にも同じく色を入れる
「全く同じ色と言うのも何だからね」
「私は赤紫を入れてみた」
「これなら化粧に見えるかな?」
「まぁ大丈夫だと思うにゃ」
私が幻術をかけている間フェリシアとジンは服装を着崩しメイクをしていた
簡単な変装でしかないが私達が変わったのでいきなりバレたりはしないだろう
「さて」
「これで視線を気にせず思う存分食べ歩き出来るねw」
「アリエル様・・・・・・・」
「ご飯はさっきいっぱい食べたのにゃ?」
「足りなかったのならもっと頼んで下さっても良かったのにゃ?」
「それはそれ」
「これはこれ」
「屋台や露店にしか無いものも有るでしょう?」
「・・・・・・・・」
「結局まだ食べるのにゃ」
呆れるフェリシアを余所にシンシアと二人で思う存分食べ歩いたのだった




