旅立ちの準備
「何がどうなってるんだ?」
「とてもじゃないが真似できねぇ」
「この御方はもしや鍛冶の神様ではないのか?」
「神様じゃないし」
「戦闘系のスキルを応用して作っているだけよ?」
「強化スキルと魔法を使いながら武技を使い分けて打ってる」
「何だって???」
「私達もスキルは使います」
「けれどそれは鍛冶スキルであって戦闘系のスキルを使うなんて聞いたことがない」
「それに魔法まで併用するなんて・・・」
「まぁ1発の打撃力は戦闘系スキルの方が強いからね」
「その代わり制御して形を整えるにはコツが要るわ」
「そうなの・・・・・ですか」
納得は出来かねるようだがそれでも彼等は言葉を飲み込んだ
実際はこの短剣がミスリル銀で出来ており魔力付与の刻印を行いそれ等の術式を隠蔽するために幻術も併用していた
だがそんな事は明かす必要はないので黙っていることにする
ー・ー
「クロエ」
「シュネー」
「私からのプレゼントがあるんだけど」
「餞別と言うヤツですか?」
「んー」
「2人の誕生日がわからないから今日渡しとこうと思っただけよ」
ウィンクして後ろ手に持っていた短剣を2人に渡した
鞘の方は創造魔法で作った
本当はちゃんと手作業で作りたかったが時間がなかったので仕方がない
「これは・・・・・」
「刃が薄くて使いやすそうですね」
「ありがとうございます」
「私のはアリエルのと同じ短曲刀ですにゃ」
「軽くて手に馴染むのにゃ」
「大事に使うのにゃ」
2人とも大事そうに受け取ってくれた
「アリエルさん?」
「水を注すようで悪いんだけどさ」
「お客さん達随分前から待ってるんだけど?」
「あー」
「ごめんごめん」
「ちょっと短剣作るのに時間かかっちゃったのよ」
「先に詳しい話しするわけにもいかないしさ?」
「お腹も空いてるんだから早くしてよね」
ふくれっ面のシンシアは踵を返し部屋の奥へと消えて行く
クロエとシュネーは私に会釈をするとその後を追っていった
ー・ー
「私から2人を呼んだのに遅くなってごめんなさいね」
ミランダと名乗った珈琲売りの女性は癖の有る長い赤毛だった
座っているので身長はわからないが少しポッチャリ目で細い目がキツイ印象を受ける
連れの男性はミランダと同じく30代半ばと言ったところか
痩せ型で短い金髪だがタレ目のせいか幼さを感じた
一方のソーセージ屋はポールと名乗った
改めてみると中肉中背ではあるものの腕は太く少し太目の体型ではあるが脂肪の下にはしっかりした筋肉があるように見えた
黒髪を短く刈り上げいかにも飲食業と言った出で立ちだ
「先にポールから話しましょうか」
「貴方は自分で店を出す気は無いのね?」
「ああそうだ」
「昼間も言ったが俺は料理屋をやる気はないしそんな暇もない」
「ここに来たのも商談だと思ってたんだが?」
「その通りよ」
「ヴァレンシア」
名前を呼ぶとドアの前に控えていたクロエが一礼して扉を開けた
ソコにはドレスを身に付けたシンシアが立っており静かにソファーまで歩いてくる
その仕草は優雅であり一変の曇りもない
「こちらはこのホテルのオーナーです」
「ヴァレンシアは今お忍びの視察中なので他言無用に願います」
ヴァレンシアの名前を聞くや居合わせた3人の目がこれでもかと言うくらい大きく見開かれた
「ま・・・・まさか・・・・」
「そんな・・・・・・」
口をパクパクさせながら言葉につまるポール
無理もない
いきなり目の前に大富豪が現れれば言葉を失うのは当然だろう
「お久し振りね」
「ポール」
違った
古い知り合いなのか?
ならわざわざ引き合わせる必要も無かったか
「えっ・・・・」
「そっそんな筈は・・・・」
「いや・・・・・でも」
ポールはいきなり立ち上がるとヴァレンシアの前で跪いた
「顔を上げなさい」
「誰も貴方を咎めているわけではなくてよ?」
優しく
しかし低いトーンで話すヴァレンシア
「貴方がノッキングヒルから消えた時」
「村人総出で何日も探したのですよ?」
「そっ・・・・・」
「それは・・・・・」
「ラムダは惜しいことをしましたね」
「2人は村の近くで野良ゴブリンを見付けた」
「果敢に挑んだものの返り討ちにあいラムダは命を落とした・・・・・」
「違いますか?」
「そっ・・・・・・」
「そこまでご存じでしたか」
「俺はてっきり・・・・・」
「貴方がラムダを殺したと」
「そう誤解されると思い逃げたのですね?」
「・・・・・・はい」
「おっしゃる通りです」
「あの頃の俺たちは冒険者を夢見ていました」
「しかし2人とも親族に猛反対されて村を出られず悶々と過ごしていました」
「でも諦めきれずに薪割り斧を片手にゴブリンや狼を求めて村の周りを彷徨くのが日課になっていました」
「そこでゴブリンを見付けたのね?」
「はい」
「初めはヤれると思ったんです」
「でもゴブリンが3匹に増えた途端足がすくんで・・・・・」
「逃げたの?」
「逃げられれば良かったんですがね」
「囲まれて逃げることも出来ず2人で背中合わせになって守りに徹したんです」
「それで?」
「ゴブリンは俺より背の低いラムダばかり狙ってきて・・・・・」
「俺もフォローしたんですがラムダが腕にゴブリンの剣を受けてしまったんです」
「良く生き残れたわね」
「埋葬されたラムダの亡骸からは毒の痕跡が見付かったわ」
「アイツは腕に受けた毒の剣を叩き落として奪ったんです」
「その剣を俺が受け取って必死にラムダを守っていたら幾度か切りつけた後ゴブリン達が逃げたんです」
「毒の剣が効いたのね」
「そのゴブリンの死骸はラムダのお墓から少し離れた所で見付けたわ」
「そうですか・・・・・」
「仇は討てていたんですね」
「良かった・・・・・・」
ポールは暫く目頭を押さえ涙をこらえているようだった
「俺はラムダを守れなかった」
「おめおめと村にも帰れなかった」
「だから・・・・」
「ラムダを埋葬してそのまま旅に出たのね?」
「そうです」
「それで家出して冒険者になった少年はなんでこんなところでソーセージを作っているのかしら?」
「冒険者にはなれなかったんです」
「登録するのに出身地の許可や証明が要るとかで」
「そこで俺はモグリの傭兵として商隊の護衛なんかで食っていました」
「それから?」
「ある時商隊が魔物に襲われ全滅しかけたんです」
「その後は酷いものでした・・・・・」
「生き残りが逃げ込んだ谷にはロクな食糧がなく水にも困る有り様」
「やっとの思いで町にたどり着くと護衛失敗によるペナルティ」
「俺は傭兵の仕事も無くして途方に暮れていた時ある人に拾ってもらえたんです」
「その人が今の御主人様?」
「主人と言うかなんと言うか・・・」
「今は俺の妻です」
「ふーん」
「それで畑を手伝いながらソーセージを作ってるの?」
「畑だけでは貧しいままだし村では羊を良く食べますが内蔵は肥料にするんですよね」
「そこで親父さんのソーセージを思い出したってわけか」
「そうです」
「けれど売れ行きが伸びなくて困ってたんです」
「・・・・・・・・・」
「ポール」
「貴方の作るソーセージは親父さんにはまだ及ばないけれど売り物になるくらい美味しいわ」
「貴方の作るソーセージは私のグループで買い取りましょう」
「本当ですか?」
「ありがとうございます!」
「でも条件が有るわ」
「条件・・・・・ですか」
「一つは一度ノッキングヒルに帰って元気な顔を見せること」
「そして嫌がってた親父さんのレシピを学び直すこと」
「そっ・・・・・」
「それは・・・・」
「結婚までしておいてまだ親不孝続けるの?」
「・・・・・・・・・」
「そうですね」
「家を飛び出しておいて結局は嫌だったソーセージを作ってます」
「ここらでケジメを付けなければ妻達に示しが付きませんね」
「条件を飲むなら全面的に協力させてもらうわ」
「貴方達がノッキングヒルへ行っている間の畑や家畜の世話は家の者にやらせるわ」
「路銀は買い取るソーセージの代金で足りるわね?」
「はい」
「なら持ってきたソーセージを試食させてちょうだい」
「厨房には話を通してあるから」
「ありがとう・・・・・・」
「ございます」
ポールは涙を流しながら部屋を出ていった
ー・ー
「だいぶ待たせちゃったわね」
「ごめんなさいね」
「ほんと長かったわ」
シンシアとポールのやり取りの間ミランダは頬杖をついて退屈そうにしていた
一緒に来ていた男はそれを見てアワアワと居心地悪そうにしていた
「さてと」
「前置きは要らないから本題から始めてくれるかな?」
「人を散々待たせておいてその態度は何様のつもり?」
ミランダは不機嫌そうに腕を組んで背もたれに身体を預けている
右足を上にして組まれた足は苛立ちからかプラプラと揺れている
「そう言わないでよ」
「この辺りではソーセージとか作る文化が無いんだよね」
「それでさっきのポールの出自を先に確かめる必要があったのよ」
「ふぅん」
「それで」
「何時人払いしてくれるの?」
「人払いの必要は無いわ」
「ここにいる全員が私が召喚された日本人だって知ってるから」
ミランダの細い目が更に細くなる
私が日本から来た事は予測済みと言うことなのだろう
「なら・・・・」
「どうやったら日本に帰れるか知ってる?」
「ミランダ!!」
踏み込んだ質問に男はミランダを諌める
しかし
「方法を知っていても今は帰れないわ」
「どうしてもって言うなら教えられなくもないけど・・・・・・」
「どうする?」
「今は帰れないって言うのはどう言うことよ?」
「そのままの意味よ」
「この世界には国や大陸を管理する神がいる」
「事象なんかの神もいるわけだけど・・・・」
「この世界その物を司る神が特定出来てない」
「それで?」
ここまで言えば察して欲しいものなのだが
どうもミランダは魔法関係には疎いようだ
「その神が分からないのに勝手に穴開けて向こうの世界に行くと言うのはどうなのかなって」
「途中で潰される可能性も有るわけだし他の代償が要るかもしれない」
「代償?」
「貴女の代わりに誰かを召喚しないといけないかもって話し」
「・・・・・・・・・」
「その代償は選べないの?」
「さあね」
「まだ理論の段階だし実験する余裕はない」
「現時点では向こうに戻ることは出来ないと見て良いわね」
「何よそれ」
「わざわざそんな事を聞くためにこんなに待たされたって言うの?」
「他に聞きたいことは?」
「私はこの世界の転生者や召喚者の中ではかなり特殊な方だから色んな事で手助けは出来ると思うけど」
「・・・・・・・・・」
ミランダは私を睨み付けたまま黙っている
「ミランダ・・・・・」
「今は帰ることが出来ないとわかっただけでも良くないかな?」
「それに僕がいるじゃないか」
男の言葉に今度は男を睨み付けるミランダ
「アンタねぇ」
「私がどれだけ元の世界に帰りたいか知ってるわよね?」
「いや」
「しかし・・・・・」
「しかしも案山子も無いわよっっ!」
「はぁ・・・・・・・」
〈安息〉
私は溜め息をついてミランダに精神安定の魔法をかけた
たちまちミランダの顔から怒りが消えるが一息付くと再び柳眉が逆立つ
「いい加減にしてくんない?」
「それで」
「日本に帰って何がしたいのよ?」
「何って・・・・・・」
「そんなの決まってるじゃない」
「スタバで珈琲飲んで友達と遊ぶのよ!」
「こんなスマホも何も無い世界に10年もいるのよ?」
「もう堪えられないわっ!!」
「ミランダ!!」
男がミランダの両肩を掴んで抱き寄せると男の腕の中で泣き始めてしまった
「はぁ・・・・・・・」
「こっちに10年もいてコレかよ・・・・」
便利な文明社会が恋しいのは分からなくもない
だがこちらでの10年は独りで暮らしてきたわけではないだろう
それをこの女は・・・・・
「そんなにコレが良いかねぇ?」
テーブルに魔方陣が現れるとカップが出現した
透明なカップに緑色のロゴマーク
黒い液体に氷が浮かんでいた
「アイス・・・・・」
「珈琲?」
「なんで?」
「どうしてコレがここに?」
「こう言う小さな物を召喚するのは出来るのよ」
「果てしなく難しいけどね」
「でも生き物や複雑な物は無理」
「せいぜい飲み物や食べ物くらいなものね」
実際にやって見せたのは創造である
転移や召喚は神々に見付かるリスクが高い
見付かれば邪魔をされたり刺客を送られたりとリスクしかない
だがそれをミランダに説明してやる理由はない
仲間達と違いミランダの要求は帰還のみ
協力しようとか女神を打倒しようとかそう言う考えはない
転生者や召喚者を探していたのもあくまで自分のための割合が高い
正直なところミランダに帰還をチラ付かされれば容易く裏切るだろう
「私がこれまでに出会った転生者は皆元の世界で事故や病気で死んでるわ」
「もしかしたら死を経由しなければ異世界を移動できないのかもしれない」
「死んで確実に戻れるの?」
「それは確かめようがないことよ」
「行き来した人間には出会ったことがないもの」
「でも可能性はゼロじゃないかもね」
「・・・・・・・・・」
「貴女」
「いっぺん死んでみる?」
「いや・・・・・」
「そんなの嫌よっ!!」
「確実に戻れないなら死に損じゃない!!」
「冗談じゃないわ!!」
「そんなの」
「出来るわけがない!!」
「じゃあ諦めることね」
「現時点で安全に元の世界に戻れる方法は無いんだから」
しかしこの女
鑑定の結果クラスは勇気を示すもの
勇者に至るクラスツリーを有しているにも関わらず戦闘や討伐には一切関与していないらしい
来たくて来たわけじゃない異世界で命を賭けるのは不本意かもしれない
だが恵まれたクラスを使わないのはどう言うことだろうか?
スキルの方は勇者系スキルである鼓舞や鑑定のレベルが上がっている
交渉等のスキルレベルが上がっているところをみると勇者系スキルを応用して商人として生きてきたと言うところか
「貴女」
「手助けしてくれるって言ったわよね?」
「何が望み?」
「死ぬまで安全に暮らせる金が欲しいわ」
いきなり物欲MAXですか
確かにさっきのポールとのやり取りでシンシアがヴァレンシアグループのオーナーであり大金持ちだと知られている
死ぬまでたかるつもりなのか?
「・・・・・・・・・・」
「それは不可能ね」
「フンッ」
「出来もしないのに手助けとか言ったわけ?」
「程度が知れるわね」
「思い上がるなよ小娘」
「労働や責任を伴わない金銭なんざいくら渡そうが浪費する額が増え続けてキリがなくなる」
「底無し沼に金貨を捨てる程バカじゃないだけだ」
「なっっっ!」
「例えばだ」
ドジャッ
「ここに40枚ほどの金貨が有る」
「普通に暮らせば一生遊んで暮らせるだろう」
「だがこの額を簡単に渡せば浪費して使いきった時まだここに来るんじゃないのか?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・チッ」
ミランダは前のめりの姿勢で下から睨み付けるように私を見ていたが暫くブツブツと言っていたかと思うと舌打ちをした
私はわざと尊大にソファーに背を預けるとミランダを睨み返した
「金の事ならそうだな・・・・」
「定期的に珈琲豆を買ってやる」
「それで飢え死にする事は無いだろう」
「価格も含め不満があるなら契約しなくて良いが珈琲なんざ自力でも栽培して流通させられる」
「良く考えることだな」
わざとらしく右足を高く上げて組む
念動でカップにワインを注ぎての中で少しワインを回した
「わかったわ」
「定期的に定価で買い取ってもらうわ」
「定価?」
「市場の価格は割安で販売してたって言うんでしょ?」
「でも倍以上の値段は非常識よね」
「良いとこ二割増しってところかしら?」
「フンッ」
ミランダは非常に不機嫌だった
大方定価として何倍か吹っ掛けるつもりだったのだろう
だがクラスを活かさず自己保身に10年も費やしたこの女に対し最早同情や共感する感情は一切無かった




