古の戦友
「あんた等見かけによらず恐ろしく強いな」
あの後駆け付けた救援隊は既に倒された鎧熊を見て唖然としていた
その後馬車を用意して熊の死骸を館まで運んでくれると館は騒然とした
「凄いな」
「鎧熊をほぼ一撃で仕留めてる」
「どうやればこんな風に倒せるんだ?」
冒険者達は皆口々に憶測で語り合うが直接私達に話し掛ける勇気のある者はいなかった
「本音を言えばあの熊は回収したかったな」
「じゃがあのタイミングで来られるとどうにもならんわ」
「見張り台からも見えとったじゃろうし誤魔化せんな」
私のぼやきにリグルも憮然としながら答えた
リグルとしてもこんな立派な鎧熊の外皮を手放すのは惜しいのだろう
だがこんな大きな物は持ち運べない
見られてしまった以上商隊に運んで貰うか買い取って貰うしか手はないだろう
「少し良いですかな?」
館に到着してテラスのテーブル席に座り一息ついていると髭面の太った男が声をかけてきた
冒険者達は気後れしているようだが商人は違うらしい
グラム・ロックと名乗ったその男は背のわりに太い腕をしており脚も短いが頑強そうだった
「へぇ」
「この辺りでドワーフとは珍しいわね」
「リグル殿はお元気そうで何よりです」
「むっ?」
「こんな所にドワーフとは珍しいと思っとったがグラムか」
「皆に紹介しよう」
「こ奴はグランバルド・ヨアヒム・バーンスタイン・グラム・ロック」
「ワシの長年の相棒じゃ」
「まだ相棒と呼んでくれるのか」
「嬉しいのぅ」
「もう100年は会っとらんと言うのに」
「何を言うか」
「お前は死ぬまでワシの相棒じゃ」
「こう見えてドワーフ13士族の族長様じゃw」
「よせやい」
「族長なんぞとっくの昔に息子に譲ったわ」
「・・・・・・」
「その息子も亡くなって今は孫が族長じゃ」
「なんと?」
「バルデルは死んだのか???」
「あぁ」
「享年200と20歳」
「ドワーフとしては大往生じゃわ」
「そうか・・・・・」
訃報を聞いたリグルは雑嚢から毛皮に包まれた陶器の瓶とカップを2つを取り出した
「遅くなってすまなんだな」
「後れ馳せながら献盃じゃ」
リグルは2つのカップにワインを注ぐとグラム・ロックと共に飲み干した
ー・ー
「ほっほっ」
「リグルが変わらず元気に旅を続けておるとはな」
「最近では商会を立ち上げて儲けとるそうじゃな」
「最近って・・・・・」
シンシアが思わず漏らすがそのまま黙り込んだ
「グラムも商売を始めたのか?」
「ドワーフの国はもっと北じゃろうに」
「まぁな」
「ロスガルンに不穏な噂を聞いたのでな」
「販路開拓を兼ねて向かうところなんじゃわ」
「リグル・・・・・」
「二人で話してるところ悪いんだけどちょっと良い?」
「なんじゃ?」
「グラム・ロックって・・・・」
「相棒って事は戦友なのよね?」
「そうじゃ」
「グラムに戦斧を扱わせたら右に出る者はおらんじゃろう」
「よせやい」
「戦斧なんぞもう久しく持っとらせんわ」
グラムは照れたのか帽子をとり禿げ上がった頭を撫でた
「まさかとは思うんだけどね?」
「息子さんが220歳で亡くなった・・・・」
「ドワーフは長老でも300歳程度って聞くわ」
「そうじゃな」
「だいたいの寿命は200歳ぐらいじゃろう」
「なんでまだ元気なの?」
「それにグラム・ロック家と言えばドワーフの中でも名門中の名門」
「それにグランバルドって・・・・」
「シンシア」
「ここで話す無いようではないぞ?」
「あ・・・・・」
「あぁごめんなさい」
「いや」
「隠しても仕方がない」
「じゃが大声は出さんでくれ」
「今は家名のグラム・ロックを名乗っとるが・・・・・」
「戦鬼バルド」
「活躍した年代から一人じゃないって噂だけど・・・・・」
「正式な名前はグランバルド」
「里長の戦友にして大英雄リグレットのパーティーでタンク兼アタッカーを努めた重戦士」
「ほぉう」
「ワシを知っておるか」
「困ったのぅ」
「今のワシはグラム・ロックのご隠居なんじゃが」
髭を撫でながら話すグラムの頭が夕陽を反射してキラリと光る
「うぅむ」
「アルテリアの奴め」
「仲間達の名前は後世に伝えるなとアレほど言っておったのに・・・」
「仕方の無い奴じゃ」
リグルは北の方を見ながら呟いた
「まぁそう言ってやるでないわ」
「長い命を持つエルフじゃとて古い友人を懐かしく思う気持ちはあるじゃろうて」
「昔話のついでに口が滑ることもあるじゃろう」
「それに」
「エルフは他の種族に話したりはせん」
グラムもリグルの視線を追い北を見上げた
ー・ー
「そうじゃそうじゃ」
「危うく本題を忘れるところじゃったわ」
ゴトゴトン
グラムはテーブルの上に3つの魔石を置いた
「あの鎧熊達はワシの所の若い者に解体させておいたんじゃ」
「それでこれが採れた魔石じゃ」
「これはまた大きいのぅ」
「鎧熊とはこんなに大きな魔石を持つ種じゃったかな?」
グラムが差し出した魔石を手にリグルが首を傾げた
「それはワシも腑に落ちんでなぁ」
「鎧熊は強い魔物ではあるがこの大きさは異常じゃ」
「他の獲物が少なくなり魔物を魔石ごと喰らい続けた結果じゃろう」
「となるといよいよ火山地帯が危険じゃな」
「そう言うことじゃ」
「単純に火龍が活動期に入ったわけではあるまい」
「とは言えワシはもう引退した身じゃからな」
「ワシもお前さんももう表舞台には出ん方が良いじゃろう」
「今の時代は今の英雄が担うべきじゃ」
グラムの寂しそうな目はいったい何を訴えているのか分からなかった
ー・ー
「もう1つ用件があったんじゃったわ」
「懐かしい顔につい話がそれてしまうの」
「あの3頭の外皮を買い取らせて貰いたいんじゃ」
「持って歩くには大きすぎるじゃろう?」
グラムの言葉に全員の視線が私に集まった
「なっ」
「何よ」
「何って」
「アリエルが倒したんだからアリエルがどうするのか決めなさいよ」
「別に安くても良いわよ」
「お金には困ってないしリグルの友達なら尚更よ」
「ほっ」
「本当か???」
「ならこれで如何かな?」
「今の手持ちは金貨100枚しかないんじゃが・・・」
「街につけばもう100枚用意する」
ドジャッ
グラムが懐から取り出した革袋には100枚の金貨が入っているのだろう
置くときにかなり重そうな音がした
「そんなに要らないわよ」
「そうねぇ?」
私は空の革袋を取り出すとグラムの袋に被せ適当にひっくり返して分けた
そして中身も見ずに残りをグラムに返す
「これぐらいで良いんじゃない?」
「そっそんな」
「半分くらいしかとっとらんぞ???」
「構わないわよ」
「欲しけりゃまた狩るから」
「今はそんな大金持ち歩きたくないわ」
そう言いながら革袋を懐へとしまう
「じゃ」
「じゃがそれでは申し訳が立たん」
「そっそうじゃ剣は要らんか?」
「良いのがあるぞ?」
グラムの言葉に剣を剣帯から外し静かにテーブルに置いた
「この剣より良い物はある?」
グラムは恐る恐る剣を抜くとため息が漏れた
「もしやとは思うとったがまさかこれ程の物とは思わなんだ・・・・」
「現役時代のワシでもこんな剣は持ったことがない」
「広めの刀身に金で刻印がなされておるな」
「鍔と柄頭の宝石は魔晶石か?」
「重量軽減に斬撃特化・・・・」
「耐久力超上昇?」
「何故ミスリル製の剣にそんな物が付いとる?」
「ミスリル銀が折れる等滅多に無いと言うのに」
「・・・・・・・・・・」
グラムは静かに剣を鞘に戻すと両手に乗せて返してきた
「すまんがこれ程の武器は持っておらん」
「見たところ防具や衣服に至るまで魔法が付与されておるようじゃ」
「一国の国宝をかき集めてもかなうまい」
「アリエルは動く宝物庫みたいなものだからね」
「この人にプレゼントなんて考えるだけでも無駄よw」
シンシアが呆れたような口調で笑った
「そのようじゃな」
「これだけの事をしてもろうて心苦しいが・・・」
「ここは好意を素直に受け取らせて貰おう」
「ありがとう」
「別に気にすることじゃないわ」
「どうせあの外皮も待ってたって鎧にしてリグルに着せるだけだもの」
「アリエルってリグルを鎧熊にする気だったの?」
「それは・・・・・・」
「見てみたかったかも知れません」
笑い出したシンシアと笑いをこらえようとしているラルクは対照的だった
リグルは憮然としていたがその後ろに立つクロエとシュネーも笑いをこらえるのに必死だった
ー・ー
「乗せてくれて有り難うね」
「お陰で街まで早く着けたわ」
「でも良かったの?」
「本当ならもっと早く着けたんじゃないの?」
結局あの後グラムの商隊に乗せて貰いロスガルン高地の玄関口であるこのイーレスクの街までやって来た
ドルジュに比べれば小さいが堅牢な城塞都市である
古くは南に広がる平原をかけて争った都市国家連合の要塞として建設されミリア教の台頭により戦争が終わると立地を活かし交易都市となった
平原の南側はドルジュを中心に近隣の都市国家が統合したのに対し北側諸侯は未だ各都市での自治を守っている
「元々要塞だったって話は頷けるわね」
「対空防御がしっかりしているのは定期的にワイバーンが襲来するの?」
「相変わらず外観見ただけでそう言うところが分かっちゃうのね」
「ガイドの必要無いんじゃない?」
「構造物に関しては見て予測すれば分かるけど歴史や文化までは分からないわよ」
いつもながらシンシアと話ながら歩いていると食べ歩きになってしまう
皆も各々食べているのだがクロエやシュネーは財布の中身を気にしていた
「ちょっと大きなお店で買い物して崩さないと露店で食べ歩くのは不便ねー」
「そうじゃな」
「流石に露店で金貨を出すわけにはいかんからな」
シンシアとリグルは昔この街に来たことがあるらしく色々と案内してくれている
この街を出る前に商会には直接指示を出さなければならない
そのため宿はヴァレンシアの系列店に泊まることになっていた
「先に宿に行きますか?」
「いいえ」
「先に冒険者ギルドに顔を出した方が良いでしょう」
「それと武器屋と防具屋にも行かないとね」
ダンジョンアタックの後幾つかのアイテムは売ったのだが幾つかは持ち歩いていたのだ
量が多いのもあったがダンジョンで得た武具を全て売り払う冒険者は少ない
拠点にある程度の予備は置いておくものだし街を出て旅をするとなれば予備の装備を持たないのは不自然でもあるからだ
「これでかさ張る武器ともお別れか」
刀や鍵棒等の武器類はロープで縛ってリグルが担いでいた
重さは気にならないだろうが長さもあるので取り回しが悪く歩きにくそうだった
どうせこれも見せ掛けだけの物で良い物は全てストレージに入れてある
「そう言えばグラムとはあっさり別れたけどアレで良かったの?」
「お互い不死じゃからな」
「またいつかは会える」
「今回は不意に出会っただけじゃったしここまでの道中で話したいことも尽きた」
「また次に会うのを楽しみにしておるよ」
遠くを見るリグルの顔はいつもより晴れやかに見えた
馬車に揺られた10日間は長くもあり短くもあった
本来なら魔物を突っ切ったり急いだりでもう少し早く着いたのだろうが魔物に襲われる度に我々が駆逐して素材を剥いでいたため遅くなったのだ
「グラムは喜んでたわね」
「結局有り金全部アリエルに渡していったんじゃないの?」
「今頃防具屋じゃあ素材の買取価格が暴落してるかもw」
「そうじゃな」
「路銀は平原狼の皮を売って用立てるとか言っとったからな」
「馬車も買い足すと言うとったw」
そう
結局あの後グラムは路銀すらもはたいて倒した魔物の素材を根こそぎ買い取ってくれたのだ
しかも道中教えた熊と狼肉の加工レシピをフル活用して商隊の食費を浮かし途中で加工した干し肉も換金すると言っていた
「別れ際の涙はリグルとの別れを惜しんだって言うより嬉し涙だったんじゃない?」
「それは否定できんなw」
リグルの豪快な笑い声が通りに響き渡ったのだった
ー・ー
コンコン
「はい」
「失礼いたしますヴァレンシア様」
「ここではシンシア」
「何度言えば分かるの?」
「大変申し訳ございませんでした」
「シンシア様」
「お客様がお見えでございます」
「会いましょう」
「通しなさい」
ここはホテル・シュテッヒパルムシュロス
ホテルヴァレンシアの系列店である
シンシアはホテルの支配人等の要職にある者には面が割れている
そのため今回の宿泊もお忍びとはなっているがオーナーとして特別室に通された
チェックインを済ませた後シンシアは直ぐに会議で席を外し各々自由時間を過ごしていた
陽が陰りディナーの時間が近づく頃
仲間達も部屋に戻った頃を見計らったかのようにグラムが訪ねてきた
コンコン
「グラム様をお連れいたしました」
「通しなさい」
「失礼いたします」
対応するシンシアは従業員相手に対して毅然とした態度をとる必要があるのか何処か高圧的にすら感じる
「お邪魔します」
黒服の従業員が扉を開け会釈しながらグラムを通す
グラムが部屋に入ったのを確認すると一礼して出ていった
「それで何の用件かしら」
「ここだけでもかなりの儲けを出させて貰ったのでな」
「ワシなりに考えた謝礼を持参した」
そう言うとグラムは幾つかの宝石と金塊をテーブルに並べ始めた
そして最後に白銀色に輝く人数分の金属のプレートを並べる
「これは鎧熊の代金ではない」
「平原狼の干し肉とその毛皮を売った代金の取り分じゃ」
「そしてこのプレートを見せればワシの系列店全てで厚遇する事と我等がドワーフの国でも便宜を取り計らって貰えるよう指示を出しておいた」
「全員に1枚ずつある」
「どうか受け取って貰いたい」
説明の後深々と頭を下げられれば無下にも断れない
有り難く貰うことにする
「しかしこれ程の量とはな」
「いったい金貨何枚分じゃ?」
「金塊1つだけでも100枚で済まんじゃろう」
「この街に拠点を置くことにしたんじゃが」
「丁度良い物件もあったし南の平原での狼討伐も定期的にやることになった」
「討伐報酬は入るし加工品の販売ルートも出来る予定じゃ」
「元々は武器を中心に展開する予定じゃったのが思わぬ副収入のあても出来たのでな」
グラムは満面の笑みを浮かべリグルにウィンクして見せた
「リグル商会とグラム・ロック商会とで提携を結ぶことにしたからな」
「元々ワシの商会は武器より防具の方が得意じゃし食糧の供給なんかもやっとる」
「ドワーフの武器を扱うグラム・ロック商会との提携は都合が良かった」
「ワシの系列店との協力体制で狼や熊を積極的に食糧化した上で安全が担保出来るようになれば牧場を増やし家畜を飼うつもりなんじゃ」
「ライバル関係になる筈の商会が初めから手を組めば損益は最小限に回避できる・・・・か」
それでも思うような儲けかたは出来ないだろう
採算よりも協力することでより良い品を手広く供給するのが目的と言ったところか
自己利益を優先して足の引っ張り合いになる事も多い中これだけ大きなビジネスチャンスを分け会うのは流石かつて互いの背中を預けあった相棒同士と言うことなのだろう
「有り難う」
「祝いの席なら・・・・・」
「やっぱり上等な酒が要るわよね?」
さりげなく雑嚢袋から茶色い瓶を取り出した
コルクの栓の上から赤い蝋で封のされたその瓶にはラベルは無く何の飾りっ気もない
「それは・・・・・・」
「硝子の瓶か!」
「まさかもう硝子の瓶を実用化しとる所があるのか?!」
グラムは身を乗り出して興奮している
シンシアに頼み口の薄い陶製のカップを用意して貰う
待つ間に空の器に魔法で氷を作り出す
「お主は氷系魔法も使えるのか・・・」
「じゃが道中は土系魔法も使っとったな?」
「2属性以上の魔法の使い手で鍛冶仕事もこなすのか」
「その上恐ろしく強い」
グラムは呟きながら背もたれに身体を預け帽子を取り頭を撫でる
コンコンコン
「お待たせいたしました」
この部屋は特別室でベルを鳴らし伝声管を使えば直ぐにルームサービスがやって来る
シンシアに頼んだカップだけでなくワインと軽いツマミまであった
「これじゃあこのまま晩御飯にした方が良いかしら?」
「そう言うかもと思ってここに運ぶように指示しておいたわ」
「乾杯を済ませた頃に持ってくると思う」
シンシアは軽く身体を洗いドレスを身に纏っていた
他の皆も武装を外し楽な服装になっている
「おや?」
「リグル・・・・・」
「そのベストはもしや?」
「ほほぅ」
「分かるかw」
リグルが着ているのは例の狼猿のベストである
1枚革を適当に作っただけのベストだが旅の間の暇な時に銀糸で刺繍を施しておいた
「なっ」
「なんとまぁ雅やかな・・・・」
「この1枚革もアリエル殿の手柄じゃな?」
「こんな狩り方を出来る人間はそうはおらんじゃろう」
「・・・・・・・・・・」
「この銀刺繍はまた美しい」
「ドワーフでもない限りこの銀糸は作れんじゃろう」
「しかしこの模様はドワーフのどの氏族とも一致せん」
「これもアリエル殿の手によるものなのか?」
グラムの羨ましそうな視線を受けてリグルは満面の笑みを浮かべていた
話している間に夕食が運び込まれ給仕達が手際良く並べ始める
コース料理ではなくあえての大皿料理
それは歓談を邪魔されないためのシンシアの配慮だった
給仕達が食事の準備をしている間に私達も着替えを済ませ楽な格好で再びリビングに集まってきた
「なんと言う豪奢なドレスじゃ・・・・」
「グラムさん」
「お気持ちはお察しいたしますがあまりレディの身体を見詰めるものではありませんよ?」
口が半開きになったまま見つめるグラムをクロエが優しく嗜めたのだった




