草原にて
暖かな陽射しの中爽やかな風がそよいでいる
魔法で束縛された草はその力を解かれ次第に元の姿に戻りその葉を風になびかせていた
「もうすぐ昼か」
「何処か休める場所を探しましょうか?」
「ふぅむ」
「小屋まではまだ暫くありそうじゃし昼食は簡単に済ませて先を急ぐかのぅ」
「ねぇアリエル」
「あの子達離れてついてきてるわよ?」
「別に良いんじゃない?」
「あの子達が決めた事だもの」
「気にしない気にしない」
街道の脇に以前誰かが野営した跡を見付けた
踏み固められた小さな広場の真ん中には焚き火をしたような跡が残っている
「これは都合が良さそうね」
踏み固められた場所の草を刈り取り薪の代わりに火をつける
火持ちが悪いので煮炊きは出来ないので干し肉やパンを炙って温めて食べる事にした
食べていると足音が近付いてくる
「やっぱり先に進むことにしたんだ」
「それで休まず歩くつもり?」
足音の主は先程の冒険者達だった
破れた衣服は着替えていたが手や顔にはまだ拭いきれない血の跡が残っている
「先程はありがとうございました」
「迷いましたが僕達は行かねばならないのです」
「これは私達が全員で話し合って決めたことよ」
弓を担いだ軽装の女性がリーダーの言葉の後に続けた
その目は忠告を無視した自分達に文句を言うなと言いたげだった
「そう」
「でも休憩せずに進むつもり?」
「はい」
「出来るだけ進んでおきたいので」
「それはダメね」
「話しになら無いわ」
「長旅を控えているのに昼食も摂らず先を急ぐとか自殺行為よ」
「行くにしても計画をたててちゃんと休みと食事はとらないと」
「いざと言う時どうするつもりなの?」
「それは・・・・・」
カッコカッコカッコ
若者達が言葉につまった所に蹄の音が近付いてきた
「ほーぅ」
「どうどうどう」
「皆止まってくれー」
「こんな所でどうしたんだい?」
鞍の上から中年のおじさんが声をかけてきた
この3人の男達は商隊の先駆けで少し後に本隊が続いているらしい
「もう少し行ったところに水場がある」
「隊はそこで昼休憩をとる筈だから時間が合うなら立ち寄りなさい」
それだけ伝えると男達は偵察のため馬を走らせた
「この先に水場があるんだって」
「だったらそこに向かいましょうか」
私達は後片付けをして水場へと向かった
ー・ー
「いやぁ」
「このご時世に歩いてロスガルンまで行く気かい?」
「よっぽど腕に自信が無けりゃ自殺行為だな」
商隊を率いる隊長は歯に衣着せずに笑い飛ばす
それを聞いた若い冒険者達は気まずそうにしていた
「最近はロスガルン方面の魔物が活発化していてな」
「ノッキングヒルでは討伐隊が組織されたそうだ」
「時期にこっちでも募集が始まるだろう」
「僕達はその討伐隊に志願しようかと思っているんです」
「ほぉう」
「だがお前さん達、ランクは足りてるのかい?」
「今回の募集はDランク以上のパーティーだが・・・・・・」
「お前さんたちの冒険者章は青銅色だろう?」
「まだEランクじゃあ行っても受け付けて貰えんぞ?」
「それでも僕達は行くんです」
「実績は十分積みましたから向こうに着いたら昇格試験を受けます」
「甘いね」
「なっ!!」
「助けてくれた事には感謝していますが私達をみくびらないで下さい」
「さっきだって不意を突かれなかったら・・・」
「それが甘いって言ってるの」
「不意を突かれた?」
「油断してた?」
「話しになら無いわ」
シンシアは厳しい口調で全員を睨み付けた
「不意を突かれて即応出来ない人間が生き残れる程冒険者家業は甘くないのよ」
「分かって・・・・・」
「います」
「いえ」
「分かっているつもりです」
シンシアの辛辣な言葉にリーダーの若者は言葉を絞り出す
分かっていたつもりだったという自責の念が彼に言い直させたのだろう
弓を担いだ女の子はまだ何か言いたげだったが仲間に制止されて口をつぐんだ
「そちらのエルフさんが言うのはもっともだよ」
「俺達商隊はいろんな冒険者達に護衛を頼んできた」
商隊の隊長は話しながら炙った骨付きの干し肉に噛りつく
「真っ先に死ぬのは油断している奴さ」
「魔物達は自分達のテリトリーで隠れて待ち構えてる」
「そこを通るんだ」
「何もないからと油断してたら奴らにとって格好のエサだ」
隊長は再び干し肉に噛りつきゆっくりと咀嚼してスープを飲んだ
「どうしてもロスガルンに行きたいならこの商隊に乗せて貰いなさい」
「代金はさっきの魔石で足りるでしょう」
「その上で魔物が出れば臨時で雇って貰えば良い」
「でもここの護衛の方が貴方達よりも強いと思うわよ?」
「それは・・・」
「どうしても歩いていくなら止めはしないけど」
「無事辿り着けるとは思えないわ」
「それは俺も同感だ」
「それに一度襲われて疲れてるんだろう?」
「歩くにしても次の小屋で2日は休まないとダメだ」
「ソコまでならただで送っていってやるよ」
隊長は話しながら干し肉をたいらげスープを飲み干した
やはり目に見えて死ぬと分かっている若者を放ってはおけないのだろう
「お願いします」
隊長の言葉を噛み締めながら若者は答えたのだった
ー・ー
「あんた達は乗らなくて良いのかい?」
「私達は別に急がないから構わないわ」
「それよりも平原狼の毛皮を買い取ってくれてありがとう」
「お陰で身軽になれたわ」
「こちらこそ安く譲ってくれて申し訳無い」
「ほぼ無傷の毛皮まであったのにこんな値段で良かったのかい?」
「狼の毛皮なんていくらでも手に入るんだから十分な額よ」
「そうか」
「この毛皮が惜しくないとはなw」
「出来ればその銀背の狼猿も買い取りたかったが流石に手持ちが足りない」
「惜しいが仕方無いな」
「これはもう少し手入れをしてから売ることにするわ」
「こう見えても私は武具職人だからね」
「そうなのか」
「道理で良い装備をしているわけだ」
「それで希少鉱物を探してロスガルンへ行くのかい?」
「そこまで行くかはまだ決めてないかな」
「今ロスガルン方面は危ないんでしょ?」
「噂では南峰のロスガリア火山地帯で火龍が出たそうだ」
「真偽のほどは分からんが狼猿どもが山を下りているところを見るとあながち噂じゃ無いかもしれん」
「それとロスガルン高地にもワイバーンが出ているらしい」
「お陰で押し出された魔物がこっちにまで下りてきてる」
「ワイバーンは確定なの?」
「あぁそうだ」
「今募集されてる討伐隊は対ワイバーン用だからな」
「今回のワイバーンは赤の群れらしい」
「赤いワイバーンの群れか・・・・」
「だとしたら火龍が出たと言うのは信憑性が増すわね」
「流石にエルフは物知りだな」
「ロスガルン地方の中で赤いワイバーンはロスガリア火山地帯に生息してる」
「奴等が縄張りを捨てて流れてきてるってことは天敵である火龍がいるのはほぼ間違いない」
「じゃがまだその姿を確認出来とらんのだな?」
「そうだ」
「だから火龍迎撃隊はまだ組織されてない」
「でも時間の問題かもね」
「そうだな」
「あの子達もそれを目指してるのかもしれんな」
「でも実力不足よね」
「同感だ」
「毛皮を安く売ってくれた代わりと言ってはなんだが・・・・」
「あの子達は無事に街まで送らせて貰う」
「そう言う義理はないんだけど」
「頼むわね」
「お互いお人好しだなw」
隊長は豪快に笑うと出発したのだった
ー・ー
「平和ねぇ」
「陽射しは暖かいし風は心地良いし」
「眠くなる?」
「シンシアは眠くならない?」
「まぁね」
「でもこんな日に日向ぼっこするのは好きかな」
「でもこの世界じゃ日向ぼっこって文化無いんじゃなかったっけ?」
「そうね」
「そんな暇がないのもあるけど・・・・・」
「魔物や獣が襲ってくるからね」
「やっぱり魔物のいる世界じゃあのんびり日向ぼっこも出来ないか」
「日向ぼっこしてる人もいるだろうけど中々難しいよね」
幾度か通り過ぎる馬や馬車達を見送りながら歩いていく
馬車に乗って一気に進む方が合理的なのだろうが・・・・・
今は何となく知らない人達といるよりも仲間達だけで旅をしていたかった
ただそれだけなのだ
ー・ー
「今日はこの辺りで夜営した方が良さそうじゃな」
「そうね」
「宿泊小屋も見えてはいるけどだいぶ遠そうだし」
「そうじゃな」
「だいたい20~30kmおきに水呑場と小屋が交互にあるんじゃが・・・・」
「まだ10㎞くらいはありそうじゃな」
「伊達に見えるってのがタチ悪いわ」
「無理したら行けそうな気になるもん」
「かっかっかっ」
「違いないわい」
「そうやって野宿して魔物に襲われる新米は後を絶たないわよね」
「今は17時ってところかしら?」
「そんなもんじゃろうなぁ」
「あの小屋までは急いで2時間と言ったところかの?」
「ランニングする?」
「冗談w」
「それともアリエルは走りたいの?」
「それは無いわ」
「私は走るのってそんなに好きじゃないし」
「それじゃあ夜営の準備しましょうか」
「商隊の武装を見た感じ最近のこの平原はかなり危険みたいね」
「護衛が多かったな」
「長柄武器を携行している馬車もあったな」
「狼猿に襲われるのはあたりまって感じね」
「いくつか戦闘の跡もありましたね」
「延焼を防ぐため炎系の魔法は使われていませんが・・・・・・」
「自然系の魔法は使った感じがあったわね」
所々で街道の脇の草が刈り取られたような場所や地面が隆起したり抉られた形跡があった
おそらく戦闘で使われた魔法の跡だろう
「これだけの跡が残ってるのにまだ襲われるんだ」
「いったいどれだけの魔物が溢れてるんだろうね」
「初めはワイバーン等の空を飛ぶ魔物が逃げ出して」
「次に狼猿や鎧熊等の中型から大型の魔物が逃げ出します」
「でもそうなったら火龍は食べるもの無くなるんじゃない?」
「そうよ」
「最後には火龍の遠征が始まるわ」
「火龍にとっては飛んでいるワイバーンなんかが楽に食べられるから優先される」
「その次に地上の大型の魔物が狙われるの」
「そしていよいよ食い物が無くなれば小型の魔物や人間も見境無く襲い出す」
「その頃には火山地帯に目ぼしい獲物はいなくなり遠征し始めると言うわけじゃ」
「ねぐらを移動したりはしないの?」
「火龍は寒いところでは生きられないって聞くわ」
「だから餌が無くなっても居心地の良い火山地帯からは離れたくないんじゃないかな?」
「そして火龍の飛ぶ速度は速いですから」
「少々離れたところで火龍からすればたいした距離では無いのでしょう」
「恐いのにゃ・・・・・」
ラルクの説明にシュネーは恐がってシンシアにしがみついている
「でも火龍はまだ休眠期なのではありませんか?」
「前回現れたのが20年前と言われています」
「一度休眠期に入ると30~40年くらいはあまり積極的に動かないと聞いたことがあるのですが・・・」
「クロエの言う通り今はまだ休眠期にあたるはず」
「何か・・・・」
「例えば女神が悪さしたと考えるのが妥当なのかもしれないわね」
「そこまでやるかな?」
「でもこの前の魔改造ダンジョンの件もあるしミリア以外にもミリアにちょっかいかけようとしている神がいるのかもしれない」
信仰心が神の力となり国獲りゲームをしているのならば大きな影響力を持つ神はそれだけ敵が多いと言うことになる
「もしかしたらミリアの敵対勢力がロスガルン地方に入り込んでいるのかもしれないわね」
「でも」
「だとすると・・・・・・」
「手を組むにしても対抗するにしても慎重に見定めないといけないわね」
「そうね」
「もし手を組んだとしてもミリアを倒したとたん後ろから・・・」
「なんて事もあるだろうし」
「それはほぼ確定じゃろう」
「ミリアの敵対勢力と手を組めば連戦は必至」
「なんせ敵対勢力の目的はミリア教圏じゃろうからな」
リグルの言葉は重く皆は口を閉ざしてしまった
分かってはいる事なのだがいざ言葉にされるとその重圧は重くのし掛かる
だが対峙するのはまだ先の事
今は旅を楽しもうと思う
ー・ー
「暇ね」
「アリエル?」
「それって狼を撃退しながら言う台詞じゃないわよ?」
「そう?」
「・・・・・・・」
「それもそうか」
途中の小屋に寄る度に手負いの狼達に襲われた
商隊では撃退を主としているため必ずしも仕留めているわけではない
深追いは反撃に合う事もあるため危険だからだ
そう言った手負いの生き残りが私達のような徒歩の旅人に襲いかかるのだ
「でもこんな風に仕留めきらず手負いの狼が増えると徒歩は自殺行為になっちゃうね」
「本来ならこんなに遭遇することはない筈です」
「火龍のせいでだいぶ生態系に影響が出てるみたいね」
「本来なら平原狼は鹿や猪を食べるから積極的に人間を襲ったりしないもの」
「それが山から更に上位の捕食者が下りてきたもんだから獲物の奪い合いになってるから弱い捕食者は人を襲うようになる」
シンシアの言う通りなのだろう
平原狼達は痩せ細り怪我をしていても構わず襲ってくる
餌にありつけず必死なのだ
平原狼が商隊を襲う時は最初に馬を狙う
馬が怪我をすれば度合いによっては切り捨てられるからだ
その為平原狼が出た時は馬を囲むように防衛する事になる
そうして狼に手傷を負わせ諦めるのを待つ
力のある護衛がいれば返り討ちにして全滅させるのだろうが・・・
逆に弓や魔法で牽制しながら強行突破する商隊も少なくない
「それにしても厄介だわ」
「平原狼は飢餓状態でも同族の死肉は食べないのね」
「じゃが倒せばキチンと埋めておかねば他の魔物を呼び寄せる」
「強行突破する商隊のせいで魔物が街道に集まっているところは有るな」
「でも集まりすぎると手に負えなくなり強行突破する商隊が増えてしまうのも事実です」
「本来ならこう言う悪循環を絶ちきるために討伐隊が編成されるのですが・・・・」
クロエは残念そうに呟いた
「ドルジュではまだ討伐隊が編成されてなかったわね」
「じゃが近い内に編成されるじゃろう」
「何にしても」
「手負いが増えとると言うことは小屋が近いな」
リグルの言葉を裏付けるように旅人の小屋が見えてきた
手早く平原狼から魔石を抜き取り魔法で死骸を埋めて小屋を目指した
ー・ー
この街道は人通りが多いためか小屋と言うよりも館だった
広場も大きく常駐する人もいるようだ
「見張り台に人がいますね」
「手を振ってます」
「お~い」
見張りの人に手を振り返すが何やら様子がおかしい
狂ったように何かを叫びながら右の方を指差していた
「んー?」
「なんか凄い慌ててるわねぇ」
「気を付けて」
「大きいのが来ますにゃ」
今は左側から風が吹いている
その為シュネーも臭いでは分からなかったが音で近付いているのを察知していた
「狼猿かな?」
「アイツあんまり美味しくないんだよね」
ヒュヒュンッ
見張り台の方から数本の矢が飛来して草むらに消えていく
「来ますっ!!」
クロエが短く叫ぶとガサガサと草を薙ぎ倒しながらソレは姿を表した
グォアアアアアッ!!
車のような大きさの茶色い獣が頭を下げて突進してきた
「なんだ」
「熊か」
突進の速度は速いが難なく合わせて胴廻し回転蹴りを放った
ゴガッッ!!
見事熊の頭に命中して地面に叩きつけた
しかし勢いは止まらず突っ込んでくる
「そうなるよねー」
「っと」
私は回転を利用して宙を舞うと更に体を捻り熊の脊椎に蹴りを放つ
ゴヅッッ
ゴアアアアアッ!!!
熊は前肢を踏ん張り立ち上がろうとするが既にその動きは読まれていた
「隙だらけじゃわ」
「相手はアリエルだけじゃないぞ?」
タイミングを合わせたリグルとラルクの攻撃は熊の前肢を払い再び地面に倒す
「ナイスアシスト!」
この熊
頭蓋骨と脊椎に強烈な蹴りを打ち込んでいるがまだ生きている
それは全身の外側を覆う鎧のような外皮のせいだ
硬い外皮は生半可な攻撃を弾く
そしてこの硬い外皮を下から支える分厚い脂肪が打撃の衝撃を受け止めてしまう
それがこの鎧熊が恐れられる理由である
ズザッ!
鎧熊の背中から身を捻って頭の前に飛び降りた
「いくら打撃に強くったって!」
ザグッ!!
「口の中は鍛えられないよね?」
振り向き様に突き出した剣は熊の口の中深く貫き脳を破壊した
剣を引き抜かれた鎧熊は暫く痙攣していたが絶命して動かなくなった
「コイツ1頭だけ?」
「いや」
「まだおる」
「こちらを伺っていますね」
「2頭いるみたいです」
「まだ2頭もいるんだ」
「つがいかな?」
「それとも子供か?」
「逃がすと厄介ですが・・・・」
「どうしますか?」
ラルクの声からは緊張が感じられた
シンシアやリグルも直ぐに狩ろうとは言ってこない
「ま」
「こういう時はアレだよね」
殺気が強い場所に向けて〈成長する束縛〉を放ち鎧熊達を拘束した
「残念だけど死んで貰うわ」
「一撃で済ませるから怨まないでね」
一番激しく動いている場所が頭だろう
口と思われる場所めがけて突きを繰り出す
一頭目を難なく屠り2頭目も狩り獲った
「なんと言うか・・・・・」
「いつもの事なんじゃがアリエルにかかれば呆気ないのぅ」
「鎧熊討伐ははBランク冒険者が6人以上いるパーティーが推奨されるぐらい強いんだけどね」
「アリエル様ですから」
「そうですにゃ」
いつものように呆れる仲間達
鎧熊の死骸をどうするか悩んでいると旅人の館から出発した救援の冒険者達が駆け付けてきたのだった




