ドルグスフィアの闇
「どっ!!!」
「どう言うことだマリアン!!」
マリアンにクランハウスでは報酬を払えないと言われ本部の方へと赴いた
するとロビーに入った瞬間クランマスターであるディンが飛んできたのだった
「何故この人達が今ここにいる?!」
「お前達は先発隊だけで帰って来たと言っていたよな???」
やってくるや否やマリアンを問い詰めるディン
「アリエルさんが言うには森を抜けてきたそうです」
「そんなバカな?!」
「あの森は手練れでさえ抜けることが出来ない魔の森だぞ?」
「特に向こう側は草原豹のテリトリーだ」
「無事通れる筈がない!」
「そんなこと言ったって通ってきたんだからここにいるんじゃないの」
「ウチのパーティーには優秀なテイマーがいるからね」
「テイマースキル取引で呼んだ草原豹に森を抜けさせて貰ったのよ」
テイマースキル〈取引〉とはテイムしていない動物や魔物と交渉し対価を支払うことで一時的なインスタントテイムすることが出来るスキルである
「なんだって???」
「草原豹と取引だって???」
「テイマースキルのトレードは知っているがそんな強力な獣の群れと交渉できるテイマーなんて見たことがない」
「今回はたまたまですにゃ」
「豹達が困っている時に偶然トレードの呼び掛けをしたから応じてくれただけにゃ」
「真似したら命の保証は出来ないにゃ」
「偶然・・・・・」
「偶然だって???」
「・・・・・・・・・・」
「貴女方がそう言うのだから偶然なのだろう」
「だがトレードスキルで呼び出したからと言って従ってくれる保証は無い」
「一流のテイマーでトレードスキルが高くなければ出来ない芸当だ」
「感心してるところ悪いんだけどさ?」
「踏破報告に来たから報酬を払って欲しいのよ」
「マリアンから報告受けてるだろうけどこれがマップの写しね」
「ガードナー達に渡したものより詳細に書いてあるから踏破証明になるでしょ?」
「詳細を見比べるから奥まで来てくれ」
「それからマリアンは地図を受け取って一緒に来てくれ」
「メイア!!」
「応接室を使う」
「飲み物の準備と報酬を持ってくるようにクレインに伝えろ」
大声で受付嬢に指示を出すとディンは私達を先導して応接室へと向かった
ー・ー
「地図を確認させて貰った」
「これで10階層までの踏破を単独パーティで行ったことを認める」
「これは報酬だ」
ドジャッジャッ
ディンはテーブルの上に6個の革袋を置いた
音からして金貨が入っているのだろう
しかしこれは・・・・・
「見るからに多そうなのは気のせいかな?」
「気のせいではない」
「1人に対して金貨40枚用意した」
「随分多いじゃない」
「口止め料ってところかしら?」
「そう受け取って貰って構わない」
「我々としてはダンジョンアタックに際して臨時メンバーとして登録して貰ったことにしてある」
「あぁ」
「それで報酬にクランバッチが入っているのね」
革袋をあけたシンシアが応えた
一時的であってもクランメンバーでなければクランが踏破したことにはならず優先権は踏破した冒険者の物になる
とは言え個人でダンジョンを管理すること等出来る筈がないので踏破した冒険者達は所属のクランに権利を委譲する
もしフリーの冒険者であればその権利を手土産にクランを結成したり大手クランに参入したりするのだ
「私達は依頼を受けたから踏破しただけであって情報を漏らしたりしないわよ?」
「まぁそうだが」
「今回はかなり規格外なダンジョンだったのだろう?」
「我々だけでは途中で放棄せざるを得なかっただろう」
「そう言った事への感謝の気持ちでもある」
「そう」
「ならこれは遠慮無く頂くわ」
「私達はこのまま街を出るつもりだけど問題ないわよね?」
「探索隊が帰還したら凱旋パーティをしようと思っていたんだがな」
「私達は旅の途中だったんだからこれ以上足止めされるのは御免だわ」
「そうか」
「なら主役不在でやるしかないな」
「それとこれを収めてくれ」
「何これ?」
「手紙か・・・・」
「それはギルドマスターへの推薦状だ」
「中にはSランクへの飛び級資格有りと記してある」
「これは要らないわ」
「私は冒険者ランクに興味ないの」
「・・・・・・・・」
「それだけ稼げれば銘はいらないと言うことですか」
「実は・・・・・」
「私は家出しているのであまり名前を知られたくないんです」
「ですのでSランク推薦の件は有りがたいのですが辞退させていただきます」
わざとらしく見えるだろうが姿勢を正してお辞儀して見せる
少し長めに頭を下げてからゆっくりと顔を上げると苦虫を噛み潰したようなディンの顔があった
「家出くらいで身許を隠す冒険者なんか久しく聞かないな」
「望まぬ政略結婚のダシに使われるくらいなら冒険者としてのたれ死んだ方がましです」
拗ねたようにそっぽを向いて見せる
「まぁそんな事情なんじゃわ」
「ワシ等はお嬢様が幼少の頃より仕えておる侍従じゃがその身を案じて同行しておるのじゃ」
リグルが流れるように嘘をつく
何とかも方便と言うヤツか
それとも年の功と言うヤツか
「・・・・・・・・・」
「にわかには信じがたいが」
「これ程の物達が仕えているのだからあながち嘘とは言えんのだろう」
「名前は極力出さぬようにしておくが・・・・・」
「人の口に戸は立てられぬ」
「これだけ派手な功績をあげたのだ何れ名は広まるだろう」
「ですから早目にこの地を退散したいのです」
「そう言った事情であれば仕方がない」
「無理に引き留めたりはしないしこの手紙はこちらで処理しておくとしよう」
ディンは手紙を引っ込めてマリアンを呼び寄せた
「マリアン」
「アリエル殿をお送りしなさい」
「丁重にな」
「それとアリエル殿はお忍びだそうだ」
「あまり名前は広めるなよ」
「ごめんなさい」
「昨日仲間達が既に酒場で・・・・・」
「何てこった」
「申し訳ない」
「既に遅かったようだが奴等には悪気はないので勘弁してやってくれないか?」
「別に構いません」
「ではこれで失礼しますね」
「あぁ」
「良い旅を」
ディンは右手を差し出した
しかし今は冒険者とは言え良家のお嬢様は握手などしない
と言う体で会釈を返し代わりにリグルが握手していた
ディンに見送られ南門へと向かう
門を出たところでマリアンと別れ馬車に乗った
気持ちの良い風が吹き抜け速歩の馬に乗った人達が行き交う
やはり午前中の方が馬や馬車が頻繁に行き交っている
荷物を運ぶ者
農作物を運ぶ者
この街は活気に満ちている
その活気を支えているのが外縁部を取り巻く農民達なのだ
ー・ー
「ここらで良いかな」
馬車を降り南の大門を抜けて街道に入ったところで脇道に逸れる
更に脇道から獣道に入り北へと向かった
「わざわざ遠回りまでする必要あった?」
「まぁね」
「何となく用心しただけよ」
「わざわざマリアンを見送りに出してるし」
「なんか気に入らなくってね」
「アリエルさん」
「アタリですね」
「ほらね」
「やっぱり」
「でもディンはここまでするかしら?」
「ディンと言うよりも他の勢力かもしれません」
「と言うと?」
「会話はこの辺りで止めましょうか」
「シンシア、ラルク左側をお願い」
「クロエとシュネーは前を警戒して」
「リグル」
「ワシは正面から当たる」
「OK」
「気配から考えて盗賊か暗殺者ってところかな?」
「毒を使うかもしれないから気を付けて」
ヒュンッ
パシッ
「やっぱり毒か」
直後に飛来した投げナイフを掴んで鑑定するとナイフには毒が塗られていた
「2人?」
「意外と少ないわね」
パチンッ
右手の指を鳴らすと木々が暗殺者に襲い掛かり蔦が全身を絡めとる
「なっ!!」
「無詠唱の拘束魔法かっ!」
「くっくそっ!!」
瞬時に絡め取られる2人組
この迂闊さは暗殺者では無いのか?
近付いてみると一般人のような服に雑な覆面で顔を隠した男が2人
周囲の蔦や草に絡まって踠いていた
「ふむ」
「暗殺者?なのかな?」
「それとも盗賊ギルドの回し者かしら?」
布を巻いただけの簡素な覆面を引き剥がして顔を見るが見た覚えがない顔だった
ー・ー
「おっ俺たちはディンに頼まれただけだ!!」
「殺さないでくれ!!」
「いきなり口を割るなんてアンタ達にはプライドってもんはないの?」
「俺たちは冒険者だ」
「暗殺者じゃない!」
「冒険者が毒ねぇ?」
〈盗賊〉と言うクラスがある
鍵明け等を得意とするシーフと街等で追跡や探索を得意とするスカウトだ
どちらを名乗っているかである程度得意な系統が分かる
そしてシーフは街中を好みダンジョン探索にはスカウトが出向くことが多い
「毒を使う冒険者って」
「あまり褒められた性格はしていなさそうね」
冒険者は毒を嫌う
毒は効果が高い反面犯罪者が好む事から卑怯者の道具として知られていた
「そっそれは」
「ディンに使えと渡されただけだ」
襲撃者の言葉に死角に回っていたシンシアに視線を送る
するとシンシアは首を僅かに横に振った
「そう」
「ならもう貴方達は用無しね」
尋問中の男に刃を突き立てた
切っ先は寸分違わず肋骨の隙間を抜けて肺と心臓を切り裂く
「ゴブッ!!」
男は血を吐きだしその顔が苦悶に歪む
「これで素直になるかしら?」
剣を抜いた瞬間〈治癒促進〉で傷を治す
このリカバリィの魔法は治癒能力を高める魔法である
血は止まり傷は塞がるがあくまで自身で治癒できる範囲の傷しか治らず体力を消耗する
「がっっ」
「かはっっ」
「ヒューッ」
「ヒューッ」
男は喉を詰まらせ咳き込みながら息を吐き出した
だいぶ体力を持っていかれたらしく肩で息をしながら項垂れた
「もう一度聞くわね?」
「誰の差しがね?」
剣を携え微笑みながら優しく問い直す
その切っ先にはこの男の血がベットリと付いたままだった
「ひっっ」
「ヒィイイイッッ!!」
「たす」
「助けてくれっ!!」
「何でも言うことを聞くから助けてくれっっ」
「お願いだっっ!!」
男は錯乱して踠くが固く絡み付いた蔦や枝はビクともしない
「だ・か・ら」
「雇い主を明かしなさい」
「やっやめ」
「たすけ」
「たったすけ・・・・」
怯えきって最早話になら無い
諦めてもう1人の方へ歩み寄る
「なっ」
「おっ俺はっっ」
「俺は何も知らないつっ」
「本当だっ!!」
「へぇー」
「そうなんだ」
「・・・・・・・・」
だんまりを決め込む男を睨みながら目を細めて僅かに口の端を吊り上げた
「ねぇ知ってる?」
「切り落とした後回復魔法をかけると2度とくっ付ける事ができなくなるんですってね」
私は血糊の付いた剣の腹で男の股間をペチペチと叩いた
「ヒィッッッ!!」
「やっっ」
「止めてっ」
「止めて下さいお願いします」
「後生です助けて下さい」
「切り落とさないでっ!!」
涙ぐみ必死に訴える男
「あのねえ?」
「私は初めから誰に雇われたのか聞いてるのよ?」
「他に何かして欲しいわけじゃないのよ」
「分かるかなぁ?」
低く冷淡な言い方で相手の目を見据えながら剣を股間に強く押し付けた
「あうっ」
「わぁうっっ」
男の顔は恐怖に歪み瞳からは涙がこぼれ落ちた
小刻みにガクガクと震え始めたので剣を退けてやる
ショワァァ・・・・
アンモニアの臭いが立ち込め男の股間が見るまに濡れたのだった
ー・ー
「ちょっとやりすぎとらせんか?」
「クロエとシュネーが怖がっとるぞ」
「それはごめん」
「暗殺者だったら並みの拷問じゃ吐かないと思ってつい力が入りすぎちゃったわ」
洗いざらい白状した襲撃者達を見下ろす
アレから2人を蹴ったり踏みつけたりして聞き取りを続けた
最終的に分かったのはドルグスフィアの依頼を受ける切っ掛けになったあの荒くれ冒険者達
その仲間だった
直接絡んできた愚か者達はクラン追放となり最早この街にはいない
と言うよりもいられなくなったのだ
ドルジュ南地区最大級のクランから追放されたともなれば他のどのクランも受け入れたりはしない
しかしそれでパーティーメンバーを失ったコイツ等は私達を街で見つけクラン本部で待ち伏せしていたらしい
「ディンはコイツ等の逆恨みを心配してマリアンに見送らせたのね・・・・・」
「それでコイツ等は門から出る方角を確かめて馬で先回りしたってわけか」
「呆れたもんじゃな」
「そう言う努力を真っ当にやっとりゃお前達もマトモな冒険者として成功できたじゃろうに」
リグルの彼らを見る目が細くなる
「今から街に戻るのは面倒ね」
「このまま放置して行くのはどうかしら?」
「運が悪けりゃ獣に襲われて終わりじゃな」
「こんな目に遭ったんだから2度と嘗めた真似しないでしょうよ」
「これ以上コイツ等に関わる価値は無いわね」
全員の意見が一致したのでこのまま放置することにした
ー・ー
「なんかこの先思いやられるわね」
「ドルグスフィアの規律が悪すぎるんじゃないの?」
「急に人数増えたとか言ってたけど審査はザルだったのかしら?」
「まぁまぁシンシア」
「そう言ってやるな」
「組織が急に大きくなると昇進できず腐るヤツもおる」
「昇進しても金に目が眩んで腐るヤツもおるがな」
「おおかた奴等もそんなところじゃろう」
「でも今からあんなのだったら先どうなる事やら」
「ディンは苦労するでしょうね」
「それはクランマスターの仕事じゃから仕方あるまい」
「しかしこの獣道はやけに整っておるな」
「大きな街の近くじゃからそれほど獣がおるとは思えんのじゃが」
「どうやら獣じゃないみたいね」
「ほらあそこ」
「野営跡があるわ」
先を見るとほんの少しだけ開けた場所があった
大きな木の根もとなので下生えが育ちにくいのは分かる
しかしそこは明らかに人の手が加わっていた
「定期的に野営している人がいるようですね」
「この場所だと焚き火をしても街道からは見えないでしょう」
ラルクの推測は正しいだろう
けれど焚き火の跡はない
焚き火の跡はないが明らかに踏み固められている
「あの木はちょっと怪しいわね」
一際大きな木なのだが幹の形が少し不自然だ
表面のへこみ具合から見るとウロがあっても良さそうなのだが・・・
「うむ」
「ここは空洞じゃな」
不自然に見えた幹の一部をリグルが軽く叩いている
確かに空洞があるようだ
「偽装しているけどソコは蓋か扉ね」
「開けてみる?」
「ふむ」
「ちと気になるのぅ」
リグルはナイフを取り出すと注意深く溝を探し刃を刺し入れた
カコン
乾いた音を立てて木の一部が剥がれて中の空洞が姿を表した
「なんじゃこれは?」
「これは・・・・・・・」
「テントと焚き火台じゃな」
「この吊るしておるのは干し肉か」
「まだ新しそうね」
「定期的に入れ替えてるのかな?」
「もしかしてこれって・・・・・・」
「ソコで何をしている」
「ゆっくりと手を頭の上に乗せて跪け」
倉庫に気を取られていた隙に背後を取られてしまった
迂闊だったが殺気は感じない
「3人か」
「アンタ達はさっきの奴等の仲間かしら?」
「さっきの?」
「あの2人に危害を加えたのはお前達か?」
「事情を聞かせて貰おうか」
「この口調・・・・」
「パトロールの兵隊さんみたいね」
大人しく手を頭に乗せてゆっくりと振り返る
ソコには予想通り同じ革鎧を着けた男達が弓を構えて立っていた
ー・ー
「ふぅむ」
「にわかには信じられんな」
「そもそも何故街道を外れてこんな道を歩いている?」
「だからさっき話したでしょ?」
「尾行されてたっぽいから目的地を撹乱するために南に向かったんだって」
「だから今は西の街道を目指してるの」
「尾行に気付くぐらいなら何故我々が背後をとるまで気付かなかった?」
「ソコの貴方達の倉庫に気を取られていたからよ」
どうも私達はレンジャー達がパトロールの時に使う倉庫を開けてしまったらしい
この人達は巡回中に先程の2人を見つけ私達を追ってきたようだった
「何故尾行されるような目にあったんだ?」
「密輸や麻薬売買の仲間割れじゃないのか?」
「まぁそう思われるのは仕方無いか」
「原因はコレですよ」
私はそう言って報酬の金貨が入った袋を見せた
その時についでにクランバッチも見せる
「ほぅ」
「これは・・・・・」
「とても駆け出しの冒険者が持てる額じゃないぞ?」
「だがこれはどう言うことだ?」
「冒険者章は駆け出しのFランクなのにクランの貢献度を示すバッチは金」
「駆け出しの冒険者が大手クランに貢献しているとは思えない」
「まさか盗んだのか?」
「そんなわけ無いでしょ」
「もし盗まれたものならクランから追手が出されるんじゃないの?」
「私はランク昇格試験を受けてないだけよ」
「とにかく一度街に戻って貰う必要がある」
「えぇぇ・・・・・・」
レンジャー達の言葉にがっくりと項垂れるのだった




