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不完全な兵士

「この図面を使えばこれから案内する所で身体を作れるわ」


「自分では作らんのか?」


「中心核になってる魔石がちょっとね」

「私が作るとイプシロンが別の存在になりそうで恐いのよ」

「それにこう言うことに特化した装置があるんだから使う方が良いでしょ?」


「それもそうじゃな」

「何にしてもイプシロンはこれからヴァンデラーブルクの世話になるわけじゃから同族になる方が都合が良いのも確かじゃ」


「そうね」

「あの街は今までも希望した冒険者達を受け入れてきたって言うからきっとイプシロンとも上手くやってくれると思うわ」


「ちょっと待ってくれ」

「そのヴァンデラーブルクって言うのは何なんだ?」


「ダンジョンを渡り歩く彷徨える都市(ヴァンデラーブルク)よ」

「イプシロンも行ったことがあるんじゃないの?」


「いや」

「俺はたぶん行ったことがない」

「ダンジョンの中に幾つか街はあったが移動する都市は見たことがない」


「ダンジョンの街って幾つもあるんだ・・・」


「あるぞ」

「人が住んでいたり魔物が住んでいたり・・・」

「何もいない都市もあった」


イプシロンによるとこれ迄ダンジョンの中で訪れた都市は10ヵ所以上あったらしい

賑やかな街から過疎化して無くなる寸前のものも有ったとか


「ダンジョンって意外と定住出来るもんなんだ・・・・・・」


これにはリグルやラルクも初耳だったらしくシンシアは2つほど知っているらしいが詳しい事ははぐらかされた


「意外と身近にもダンジョン都市があったのね」


「ワシですら知らんかった」

「まぁダンジョンアタック自体それ程経験があるわけでは無いのだがな」


リグルは腕を組みながら髭をしごいている


こう言う時のリグルは何かを考えていることが多い


おそらくシンシアがはぐらかしたダンジョン都市がヴァレンシア商会のとって重要な施設なのだと考えているのだろう


それは多分当たっている


いくら仲が良くてもリグルは商売敵でもある

何でも打ち明けるわけにはいかないのだろう


それはリグルも察したのかその事についてはその後も話題にすることは無かった


「俺はそのヴァンデラーブルクに行って何をすれば良いんだ?」


「別に何も?」

「適当な所で下ろして貰うのも良いし彼等を手伝うのも良い」

「あの街の住人達は魂だけの存在でね」

「これからも魔素濃度の濃い場所を渡ることになるから貴方が手伝ってくれると助かるんじゃないかな」


「ふぅむ」

「だがこのような装備を持つ俺を簡単に受け入れてくれるのか?」

「受け入れる代わりに武装解除と言われても従えんぞ?」


「あぁ」

「それは大丈夫」

「あの国の国王と王妃は貴方より遥かに強いから」


「なっ!」

「コイツを駆る俺はそこいらのドラゴンよりも遥かに強いんだぞ?」


「だってあの国の国王は神代の英雄よ?」


「貴方は聞いたこと無い?」

「〈鉄拳のクラート〉と〈天蓋落としのミシェル〉の名前」


「鉄拳と天蓋落とし・・・・・」

「お伽噺に出てくる大英雄じゃないか」

「俺もこの世界に来て直ぐの頃彼等の話を聞くのが好きだった」


「間違いなく本人達よ」


「あっ」

「あわあわあわっ」

「たっ頼むっ」

「嘘だと言ってくれっっ!!」


面白い様に取り乱しソワソワとし始めるイプシロン

やがて自分の着ている服を見てガックリと項垂れた


「こんな服で推しと会うなんて無理・・・・」


そう呟くとそのまま横に倒れた


ー・ー


「あっあっあっ!」

「ありがとうアリエル様!!」


「だから様は止めてってば」

「〈清浄(クリンナップ)〉じゃ灰になりそうだったからちょっと〈再構成(リビルド)〉かけただけなんだから」


「ちょっとって言うレベルじゃないですよ!!」

「その魔法はかのミシェル様が固有スキルとして所持していたと言う伝説のスキル!!」

「他の誰もが研究しましたが分解までは上手くいくものの再構成出来ずに終わってしまうと言う幻のスキルです!!」

「まさかこのスキルの使い手に出会えるとは!!」


そうか


ミシェルはこのリビルドが使えるのか

しかし出来るのは再構成だけで無からの創造には至らないと


分解しても構築出来ないと言うのは変な話だ


神々が阻害しているのだろうか?


だとすればこの魔法だけでも私は神々の裏をかけるのかもしれない


「取り敢えず落ち着いて」

「この魔法をイプシロンにかけたら多分魔石や魂も綺麗さっぱり落とされたお人形が残ると思うのよね」

「・・・・・・・・」

「試してみて良い?」


「やっやめ・・・・・」

「それはやめて・・・・」


すっかり意気消沈したイプシロンにヴァンデラーブルクの事を簡単に説明した


そして今は次の第11階層に寄港している事も


「彷徨っていただけの魔法都市を操縦可能に改造したのですか???」

「しかも幽体の住民達にも身体を与えられる装置まで作られたと・・・・」


顔の表情は分からないが途中から正座して聞き始めた事から察するに崇めそうな勢いだ


ミーナに続いてイプシロンまでそうなるのは避けたい


「とにかくこの階層をクリアしましょうか」

「エネルギー補給にこれを使って」


私はイプシロンの持っていた魔晶石を3つ手渡した


ー・ー


ここからはイプシロンの独壇場だった


そもそもイプシロンはボス部屋側から入って来たのだ

ボスやガーゴイルは無視して突っ切って来たと言っていたが既に結構な数が倒されていた


「残敵掃討って言っても全く相手になってないわよね」


「アレが野に放たれたら軍隊相手でもどうなる事やら」

「ある程度の魔法防御もあるのか?」


「継ぎはぎ部品の中には魔法防御の高い素材も含まれてるから低位の魔法は弾くでしょうね」

「でも動きがぎこちないし滑らかさがない」

「アレじゃあ部品も直ぐに磨耗するわ」


「結構な頻度で交換しなければならないのかもしれないわね」

「もしかしたら不要な戦闘を避けて突っ切るのはそれが原因かしら?」


「それは有り得るかな」


ガーゴイルを見付けると足の裏に付けられた車輪で加速してぶん殴る

どんなガーゴイルやスタチューもほぼ一撃で倒していた


「アレは強いね」

「改良や改善の余地はまだまだあるけど」

「それでも地上に出たらハッチを開けることも出来ないんじゃない?」


「先ず魔物として討伐対象になるな」

「もし返り討ちにすれば報復がある」


「逃げたら逃げたで追手がかかるものね」

「それにあの身体だと寝込みを襲われて終了ね」


「その後討伐した奴等があのマシンを動かせないと知って絶望するわけか」

「どこの世界も人間って救いがないわよね」


「人間と言うより国家や権力者かしら」

「たぶん村単位の少数なら受け入れてくれる所はあると思うけど・・・」


「地上を放浪するかダンジョンを放浪するか」

「人に狙われないだけダンジョンの方がマシかも知れないですね」


ラルクが発した最後の言葉は皆の胸に突き刺さった


不死の呪いで放浪したリグル

村を焼け出され逃亡の旅を経験したシンシア

裏切り者として今尚追われる身のラルク


私だけが実感していないものの人ならざる身体を持つ身としては他人事ではなかった


ー・ー


「ねぇ」

「ここのボスってどんな奴だったのかな?」


「残骸から推測するに三つ首のガーゴイルのようじゃな」

「動き始める前に倒しとるからどんな能力があったのやも分からんわ」


「長い3つの首に龍の翼」

「これで金色だったら・・・・・」


「金色じゃったら目立ったじゃろうなぁ」

「しかし頭が3つもあると身体はどれが動かしとるんじゃ?」

「じゃが鉤爪と噛み付きだけなら飛んどる以外強みはないのぅ」


年代的にネタが分からないリグルが割って入る


「そうだね」

「でもガーゴイルって火を吐いたり出来ないから大した驚異にはならないよね」


「アレで雷落としたり火を吹いたり吹雪吐いたりしたら強いでしょうね」

「でも首が多くて飛ぶだけなら大したことはないわよねー」


時々思う


シンシアは転生前は女子高生だったとの事だが結構ディープだったのかもしれない


古いアニメや特撮に加えある程度のゲームまで知っているようだ

そう言えば転生前の年齢は聞いたけど年代を聞いたのはリグルだけだったのを思い出した


「ふっ」

「むせるぜ」


「アリエルは今回何もしてないでしょ」


「何故むせるのですか???」


ラルクは年代が違うのか女の子だからなのかシンシアより分かるネタが少ないようだ


ギュィィイイイン

ギュゥウウウウン

ガリガリガリ

ズシュゥン


「案外呆気なかったよ」

「三つ首だけどアレじゃあキングじゃないただのギドラだなw」


イプシロンの言葉にわざと分からないフリでやり過ごす

シンシアも分かるくせにすっとぼけている


「まぁとにかく」

「倒したから先に進もう」


再びイプシロンを先頭に歩きだし転移結晶へと向かった


ー・ー


「やっと11階層に着いたわね」

「と言ってもほぼ歩いてただけだけどw」


第11階層は塔のような構造だった


この一階にヴァンデラーブルクが接岸している

ここは闘技場のようになっていて真ん中にソコソコ強めのボスがいた


と言っても私達の敵ではなく邪魔なので瞬殺してある


円形の闘技場を挟んだ反対側には階段があり緩やかな螺旋階段のようでどうも闘技場を迂回するような感じで上へと向かっている


階段の傾斜具合から察するにおそらく転移結晶の間の真上あたりが2階への入り口なのだろう


「第11階層については取り敢えず見ただけって報告しようか」

「取り敢えずヴァンデラーブルクに入りましょう」


揚陸用通路の監視カメラに手を振って通信機の呼び出し機能を使う


「アリエル様お帰りなさいませ」

「何やら後ろにヒト型の機械が有りますね」

「このままでは入れそうにないので通路を拡張します」


この揚陸用通路はある程度拡大することが出来る


と言っても5m四方が限界だがそれぐらい拡張出来れば馬車でも余裕で通行出来るだろう

まさかこんな人型歩行兵器を積み込むとまでは想定していなかったのだがもしものためが役に立った


「おおっ!!」

「太陽じゃないか!!」

「今は午後3時くらいか?」


イプシロンが感嘆のあまり立ち止まってしまった

まぁ最後を歩いていたので誰にもぶつかる心配はないのだが


「はいはーい」

「偽物なんだから立ち止まらないでね」

「このダンジョンの周りを映し出した幻術なんだから早くこっちおいで」

「それからここは安全だからここからは歩いてねー」

「その子は庭の端にでも置いといて」


揚陸用通路の出入り口は幾つか設定できる


今回はデカいのを連れていたので屋敷の中庭に通してくれたようだ

アレから置いてきた取り扱い説明書を読んでくれたらしい

ちゃんと使える機能を確認できているのは良いことだ


「イプシロン早くおいで」

「置いていかれたら迷子より大変な目に遭うわよ?」


「わっわかった」

「今行く!!」


イプシロンが走る度カチャカチャと乾いた音がする


イプシロンは見た目よりもだいぶ軽い

それは材質のせいだろう

今の彼はビスク・ドールが動いているようなものなのだ

中の大半は空洞であり関節も強くない

どんな物でも意のままに動かせるのはチートとも言える

しかしその反面本体が弱いと言う致命的欠陥があった


「お帰りなさいませアリエル様」

「そちらの方は?」


「ただいまミーナ」

「彼はイプシロン」

「人形の身体を持ち物体を操るスキルを持つ転生者だよ」


「初めましてイプシロンと申します」


「彼女はミーナ」

蜘蛛女(アラクネ)の亜種で大百足の身体を持った魔物として転生していたのを助けたの」

「2人とも仲良くしてね」


2人とも魔物として転生していた者どうし気が合えば良いのだが

2人は今後どうするのだろうか?


探索隊を帰すまではこのダンジョンに隠れて貰うつもりだったが今は彷徨える都市(ヴァンデラーブルク)がある


ここに定住するも良し

他の土地に流れるも良し


それは彼等とクラート達に任せよう


「ミーナさんは俺の先輩ですね」

「よろしく!」


「はい」

「あの・・・・」

「よろしく」

「男の人なんですよね?」


「俺は男だ」

「50歳の時に過労死して転生してきた」

「この世界に来て100年ぐらいのつもりだったが200年はたってるらしい」


「何故女の子の人形の姿をしているのですか?」


うわっ


ミーナ直球で聞いちゃったよ

皆何となく聞いちゃマズイと思ってスルーしてたのに・・・・


シンシアに目配せすると知らんぷりを決め込むような仕草を返してきた


私達は気にしないフリをしつつ聞き耳をそばだてる


「あぁ」

「これは俺の趣味の一つでな」

「転生前の俺は多趣味なヲタクでね」

「アニメにサバゲー車にキャンプや釣りもやってた」

「そして最終的にはドールにハマったんだ」

「この身体は一番気に入っていたドールがモデルになってる」


「ドール・・・・・」

「ですか」


ミーナは今一良く分かっていないようだった


しかし隣を歩くシンシアの耳が一瞬ピクついたのを見逃さなかった

おおかたシンシアも似たような趣味があったのだろう


でも声をかけないところを見ると知り合って間もない相手と転生前の話で盛り上がるのは危険だと感じたのかもしれない


「これから陛下に謁見するわけだけど」

「イプシロンは今後の事は何か考えてるの?」


「俺はまだなにも考えられないかな」

「この街の事も来たばかりでなにも分からないしな」


「まぁ私も正直なところこの街については殆どなにも知らないかな」

「街の構造や機能は把握してるけどね」


「私もまだ日は浅いですが皆さん偏見無く接してくれています」

「中には元冒険者の方もいらっしゃるのでもしアリエル様が宜しければこのままこの街の護衛隊に入りたいと思います」


「私の許可は要らないわよ」

「ミーナにはミーナの生き方があるもの」

「私は少し手を貸しただけよ」

「応援するから幸せになりなさい」


そう言ってミーナの肩を軽く抱き締める


「ありがとう・・・・」

「ございます」


「生きていればまた遭えるよ」


「はい」

「ありがとうございます」


ミーナはこの短期間でこの街に残る決意を固めていた

外に出ても魔物の身体は色々と混乱や問題を招く

以前より人間に近い姿をしてはいるが大百足の時に色々あったのだろう


「俺は・・・・・・」

「どうしたいかと言われても選択肢が無いと思う」

「呪いが無くなってもこの身体が人間になれるわけじゃない」

「それに・・・・・・」

「今更相棒から降りる気はない」


イプシロンにも選択肢は少ない


この街で義体を手に入れたとしてもあの装甲を持って外の世界に出れば狙われるのは火を見るよりも明らかだ


上手く何処かの有権者や王族に拾われれば良いがそれでも一軍以上の戦力であるイプシロンが狙われることには変わりはない


彼もその事は分かったいるのだろう


「ところで」

「身体を作って貰えるのは有り難いのだがその時に性別なんかは選べるのか?」


「まあね」

「一応バリエーションたしては男女に加え無性別と両性具有も用意してある」

「生殖行為は出来るけど子宮や精巣がないから妊娠は無理ね」


「そっ」

「そうなのか」


自分で聞いておいて恥ずかしいのだろうか?


元々の性別が男であっても身体が女であれば性格はその身体に引っ張られる


彼の場合女性と言っても人形であり生理機能は無い

食料も殆ど必要とせず全て魔力に変換されるため排泄行為も無い


その為か中身は男のままと言う印象がある


「男に戻りたいならそれで良いんじゃないかな?」

「ここの義体は幽体化とそれを重ねることで生前の姿を再現できるようになってる」

「人間として生活も可能とは思うけど不老不死だからね」

「ここを出ても放浪することにはなると思う」

「そして精神の年齢がそのまま影響する」

精神(こころ)が死ねば不老不死ではいられないわ」


「わかった」

「肝に銘じておく」


イプシロンの場合不老不死と言ってもその殆どがダンジョンでの戦闘の記憶だろう


彼は睡眠を必要とせず食事も僅かで足りる


昼も夜も分からないダンジョンを放浪して戦闘し続けるのは並大抵のストレスでは無い筈だ


戻る事も出来ず前に前に進むだけの毎日

次第に時間感覚は崩れ日にちや曜日等も分からなくなっていったのだろう


既に200年以上たっているのに100年ぐらいしか実感がないのはその証拠と言える


「ところでその・・・・」

「義体には食事は必要なのか?」


「要らないわよ?」

「理論上は魔力供給さえされていれば死ぬことはない」

「でもね」


「でも?」


「人間が人間らしくあるためには衣食住と三大欲求は必要だと思うし時には恋愛や性欲だって必要になる」

「だから義体には食べることも生殖行為を行う機能も有る」

「夢は見れるかどうかは分からないけれど睡眠だって出来る」


「何処かでアンドロイドは普通であることが一番難しかて高度だと聞いたことがあるな」


「普通過ぎるからって怒って棄てたりしないわよ」

「とにかく人間として普通に生活できるほぼ全ての機能は備わってるわ」


「魔法やスキルも使えるのか?」


「そう言うのは知識と同じで魂に刻まれるからね」

「勿論使えるわ」


「そうか」

「最終的にはクラート陛下達次第になるか」

「俺が望んでも受け入れられるとは限らないからな」


イプシロンは少し寂しそうに呟いたのだった

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