船大工
「久しぶりの外ね」
「状況はどうなってるのかしら?」
陰り始めた夕陽を全身に浴びながら伸びをする
ミーナをヴァンデラーブルクに預け一先ず我々だけで帰還したのだ
「ますたぁぁあーーーー!!」
帰還した事に一早く気が付いたのはシュネーだった
見張りに立っていた冒険者が報告する前に駆け寄って来てシンシアに飛び付いた
「生きてるって信じてましたっっ」
「信じてましたけどっっ」
「けどっっ!!」
シンシアに抱き付きながら泣きじゃくるシュネー
聞けばもう4日もたっていたようだ
普通のダンジョンならいざ知らずこの異常なダンジョンで4日も帰らないとなれば心配で仕方なかっただろう
「ごめんね心配かけたね」
「ちょっと帰還出来ない状態だったからね」
シンシア達と離れ私だけで報告を済ませた
二度目のアタックを行っていない第6~7階層に関しては報告したものの第8と9階層に関してはまだ挑んでいないことにした
「とにかく毒のエリアが酷すぎて戻る事も出来なかったわ」
「その次は水浸しで酷いものよ」
「それならば尚の事一度帰還された方が良かったのでは?」
カードナーの問いもおかしくはない
一度引き返してリトライと言う方が安全なのだから
「それも考えたのですが・・・・・」
「第6階層の魔物が弱体化しても毒が残れば後続が自力で踏破するのは難しいでしょう?」
「だから少し無理してでも第7階層を踏破後に戻ろうとしたんだけどね・・・・」
「第7階層も予想外に酷かったんですね?」
「まともに休む事も出来なかったわ」
「明日からは第6階層からのリトライからか・・・・」
「了解しました」
「我々もこの4日間挑んでいますが毒のせいで攻略が進まなかったのです」
「あの階層」
「やっぱり毒は残ったのですね」
「たまたま幾つかの薬草を持ち合わせていて防毒マスクを作ったので攻略出来ましたが・・・・」
「マスク無しでは難しいでしょうね」
「マスク・・・・・・ですか」
「確かに毒を防ぐ手立てが有ると無いとでは難易度は雲泥の差ですね」
「・・・・・・・・・」
「第6階層は地図だけでも良いですか?」
「正直なところもう一度挑みたい階層では無いもので・・・・・」
「そうですね代わりに第7階層へ続く転移結晶まで案内してもらえますか?」
「了解です」
「明朝1人連れていきましょう」
「心得ました」
「今日はまだ陽がありますがもうお休みですか?」
「そうね」
「流石に気を張り詰めっぱなしだったから」
「体を拭いてゆっくり休みたいわ」
「分かりました」
「では明日またお会いしましょう」
ガードナーに報告を済ませて皆のいる天幕へ向かった
「お疲れ様アリエル」
「明日はまた毒エリア?」
「あそこはもう行きたくないから地図だけで済ませてもらうわ」
「代わりに明日1人第7階層の入口まで連れて行く事になった」
「それは良かったわ」
「あの毒ゾンビ地獄は行きたくないもの」
「そうじゃな」
「あそこは何度も行きたい場所ではないな」
シンシアとリグルの言葉にラルクも頷いていた
あんな場所を好む人はそうはいないだろう
「毒ゾンビを飛ばすとなれば次はお魚」
「マトモに挑みたくないわね」
「正攻法なら筏か船を持ち込むべきなんでしょうね・・・・・・」
「どうするかは明日潜ってから決めんか?」
「水が減っとる可能性もあるやも知れんし」
「リグル」
「たぶんあの水は有るだろうし鮫の代わりもいると思う」
「船でも持ち込もうかな?」
「ぐぬぅ・・・・・」
「船は好かんのぅ」
リグルの愚痴はもっともだろう
足場が狭く安定感が無い
船上での戦闘は地上より数段難易度が上がるのだから
ー・ー
「ここが第7階層か」
「やっぱり水浸しね」
転移結晶登録のため連れてきていた青年を先に帰し改めて第7階層を見る
狭くて暗い通路
腰まで有ろうかと言う濁った水
「帰ろ」
それだけ言い残すと踵を帰し転移結晶に触れる
「どうしたの?」
「皆帰らないの?」
「いや」
「そうじゃな帰ろう」
2人はリグルに続き転移結晶に触れて地上へと戻った
「お早いお帰りで」
「どうされたのですか?」
「やっぱり船か筏が無いとキツイかなって」
「簡単に船を造ってから挑みます」
「分かりました」
「では我々も船を手配します」
ガードナーに別れを告げるとその足で森に入る
来た時は足元も鬱蒼としていたが今は獣道も見えるくらいスッキリしていた
野営が長くなっているため薪となる枝や葉を取りつくしたせいだろう
幾つかの真新しい切り株も見えた
「3本もあれば作れるかな?」
出来るだけ低い位置を居合で切り落とす
ドスンッ
バキバキバキッ
「フンヌッ!!」
倒れかかる大木をリグルが受け止めそのまま広場へと引き摺って行く
「2本目」
シュキィィン
バキバキバキッ
「ハッ!!」
今度はラルクが受け止めシンシアが魔法で補助しながら運んでいった
「最後」
キィン
バキバキッ
「よいしょっと」
倒れてくる大木を右手で掴み引き摺って行くと広場に入る頃には大騒ぎになっていた
「なっっ」
「何なんですか急にっっっ」
「だから船を造るのよ」
「だからって???」
「この木は1人や2人で運べる大きさじゃないでしょう??」
「運んだじゃない」
「貴方達とは鍛え方が違うのよ」
広場にいきなり木が運び込まれたものだからガードナーを初め冒険者達は戦々恐々といった感じだった
木が倒れ始めたかと思えば迫ってきたのだから当然と言えば当然なのかな?
「先ずは枝を払って長さの調整ね」
幹側から風魔法で枝を切り飛ばし虚が無いか確認する
先の方は細くて使えないので切り落とす
これ等の使わない部分はクロエとシュネーに頼み魔法で乾燥させて薪に回した
「ここと・・・・」
「この辺かな?」
「それからこの辺りを・・・・」
目測で距離を測り抜刀術で斬っていく
斬った丸太はリグルとラルクが皮を剥いてシンシアが乾燥させていく
「手分けすると早いわねー」
「今からスライスするから近付いちゃダメだからね」
皮を剥かれ乾燥した丸太を立てて剣を抜く
飛び上がって斬りかかると一気に下まで斬り分ける
返す刀で斬り上げ飛び上がると再び斬り下ろす
「思ったより上手く行ってるじゃない♪」
傍目に見ると神業とも言える動作で板を切り分け部品の形に斬り分ける
その後も鼻歌交じりに剣を振るい全ての木材を必要な部品の形に切り分けた
「これは・・・・・」
「私は夢でも見ているのか???」
混乱しているガードナーを放置して作業を続ける
「何とまぁ」
「鋸も鉋も使わず剣1本でここまで加工するとは」
「アリエルはもう目立たぬようにとかスキルを隠すとか気にせんようになったのかのぅ?」
「そうねリグル」
「でもたぶん面倒臭いからさっさと終わらせたいんじゃないかしら?」
「気持ちは分かるが・・・・・」
「最早やりすぎどころの騒ぎじゃないぞ?」
薪を選り分けたクロエとシュネーに皮手袋を渡し何種類かの草と花の採取を頼んだ
「細かく削っていくよー」
「リグルは削った後の部品を水に浸して曲げていってねー」
剣を短剣に持ち替えサクサクと部品を削り出す
リグルが部品を浸している間に手早く曲げ型を作り使い方を説明した
「ワシが押さえるからシンシアは乾燥させてくれ」
「りょーかい」
サクサクと削りリグルが曲げてシンシアが乾かす
部品ごとに曲げ型を削って調整していく
「それにしても図面も引かず見事なものじゃのぅ」
「今作っているのは船底かな?」
「木の部品は分かるけどあっちでラルクがチマチマやってるロープは何なの?」
「ほどいて細くより直してるみたいじゃな」
「あんなに細くしたんじゃあ弱くなってしまうじゃろうに」
木の皮を剥き終わった後ラルクにはロープのより直しをしてもらっていた
アレが終わる頃にはクロエ達が草を取って帰ってくるだろう
ラルクには悪いが地味だが大事な仕事である
「ここからちょっと難しくなるんだよね」
「リグル」
「この長い部品が一番重要だから気を付けてね」
竜骨
船で一番大事な部品でありこれが上手く作れていなければ船は真っ直ぐ進まず場合によっては沈んでしまう
と言っても最終的にはこっそり創造魔法で修正してしまうのだが・・・・
バレないためにも可能な限り手作業で真剣に作る
「竜骨も上手く出来たわね」
「本当は1本で作るのが良いんだけど・・・」
「無い物は仕方がない」
「継いで作るしかないね」
「見事な切り欠きじゃな」
「立体パズルのように収まるのぅ」
リグルは設計図を見たわけでもないのに部品の形から判断して的確に組み上げている
「指示してないのに良く組めるわね」
「リグルって船を作ったこと有るの?」
「無いな」
「家は何度も建てたことがある」
「それに・・・・・」
「器用に継ぎ手の形を変えておるからの」
「ある程度は見れば想像がつく」
「まっ」
「年の功じゃな」
竜骨は強度を出すために互い違いに複雑な組み方にしてある
それを見て理解するなんて中々出来るものではない
「ふぅむ」
「どうしても隙間が出来る」
「これでは強度が出んぞ?」
「あぁ」
「そこはコレ」
「こうやって楔を打ち込んでから」
シャキッ
「こうやって余分な所を切り取って仕上げるのよ」
1ヵ所やって見せるとその後の部分はリグルが一人で組んでいく
リグルには安心して任せられるので残りの部品を加工していく
「こんなもんか?」
本来2時間やそこらで組めるはずもないのだが
そもそも1日で船を作ると言うこと自体がおかしいのだから気にしても仕方がない
「ふぅむ」
「切り溝から見るとやはり船縁は板を張った後か?」
「話が早くて助かるわ」
「2人で板を張りましょうか」
私が船尾側を担当しリグルが船首側から嵌めていく
一番下から竜骨の溝に嵌め込んで固定するとその板に潜り込むように上の板を嵌め込む
コンコンコン
コンコンコン
嵌め込む時の木槌の音が響いて心地好い
途中でクロエ達が帰ってきたのでそれぞれの草を磨り潰して汁を搾らせる
「右舷は終わったの」
「船縁は固定せんのか?」
「それは最後よ」
「左舷に移りましょう」
同じ要領で板を張り付け船縁を乗せる
それを押さえながら船尾で楔を打ち込んで固定する
「ほほぅ」
「両側の穴から楔を打ち込んで締め付けるんじゃな?」
「船の作り方を知っとるなんぞアリエルは物知りじゃのう」
「簡単な作り方を本で読んだだけよ」
「後は物を作るのが好きだから色んな物を作ってきた応用かな」
「完成したな」
「後はオールか?」
「まだよ」
「引っくり返すから手伝って」
出来上がった船をリグルと2人で引っくり返して逆さまに置く
「ラルクの作ってくれたロープの出番ね」
ラルクはクロエとシュネーの3人で草や花を磨り潰して汁を搾り取っている
皮手袋をしたままなのでやりにくそうだがこればかりは素手でやらせるわけにはいかない
「これをこうして・・・」
「板の隙間にヘラと木槌で押し込んでいくの」
「ほほぅ」
「細い麻のロープを打ち込むことで締め付けて水密性を高めるんじゃな?」
「そうよ」
「しっかり打ち込まないと水が入ってくるわよ」
リグルと二手に分かれてロープを打ち込んでいく
再び木槌の音が小気味良く響いていくなか手の空いた冒険者達が興味津々で見つめていた
「ギャラリー多いと調子狂うわね」
「でも贅沢言ってられないからさっさと終わらすわよ」
途中昼休みをはさみ昼食を軽くに済ませ木とロープと格闘する事8時間がたっていた
陽が陰る頃にはロープの打ち込みも終わり仕上げに取りかかる
「この毛皮をこうして棒に縛り付けて・・・・と」
「ふむ」
「刷毛じゃな?」
「と言うことはシュネー達が潰して搾っておったのは漆か?」
「流石リグルは話が早いわね」
「先ずは全体に塗るわよ」
「追っかけで魔法を使って乾かせば良いの?」
「乾かすのはシンシアにお願いするわ」
「これを塗り終わってもまだやること有るからね」
クロエとシュネーが搾りラルクが追加の漆を取ってくる
それを私とリグルが船体に塗り付けシンシアが乾かす
怒涛の分担作業で船首から船尾まで塗り終えた
「まさか一回塗りで済むと思ってないわよね?」
「まだまだかかるわよー」
続いて2回目を塗る
一度塗っているのでいろが分かりにくくむらになら無いように気を付ける
「中々骨が折れるのぅ」
「魔法で塗れんのか?」
「贅沢言わないの」
「3回目はこの鳳仙花の汁を混ぜて塗るからねー」
漆に色を混ぜ鮮やかな赤色に染める
「ほぅ」
「赤い船体か」
「少しは洒落っ気あっても良いでしょ?」
赤色も2度塗りする頃にはだいぶ陽が傾いていた
「引っくり返すから気を付けてね」
「わかった」
綺麗に塗り終えた船体を引っくり返すと船尾の楔の所を抜け止めにロープを巻き付けた
短剣を巧みに操り手早く船縁に幾何学文様を刻み込む
「船縁に彫刻とは凝っとるのう」
「この彫刻は滑り止めにもなるのよ」
「そこまで心配することは無いだろうけれど作るならちゃんとやる方が良いでしょ」
そして漆に炭を混ぜ込み黒くすると船縁と中を黒く塗る
「中々にこだわっとるのぅ」
「漆は防水も兼ねてるからね」
「同じ塗るなら色もこだわらないと」
一気に塗り終える間にラルクに頼んで小石を麻袋に2つ用意させる
「ラルクが帰ってくるまでに舵を作らないとねー」
ザクザクと切り出した舵をリグルが黒く塗り上げる
こちらは3度塗り
「お待たせしました」
「この石は何に使うので?」
「吃水線が浅いしキールが付けれないからね」
「バラストを入れて転覆しにくいようにするのよ」
そう言って船底に麻袋を置くと床板を張って固定する
床板には漆を着色せずに塗り付け2度目の時に砂を混ぜて塗っていく
「アリエル」
「何故砂を混ぜたのですか?」
「滑り止めだよ」
「床板だからね」
「気休め程度には効果があると思う」
最後に1本櫂を作って漆を塗って簡単につくった台車に乗せると完成だ
「ちょっと遅くなったけど何とか1日で出来たわ」
「人間やってみるものね」
「普通の人間には無理です」
ラルクの冷静な突っ込みに一同が頷く
「こんな短時間で船って作れるのか・・・・」
「動作に一瞬も迷いが無い」
「この人は元々船大工だったのか?」
「それにしたら若すぎないか?」
見ていた冒険者達も呆気に取られていた
口々に噂しているが誰1人として我々のところに来ようとはしない
出来上がったのは6人ぐらいがちょうど良い感じで乗れる船だ
全長は7m程で全幅は1.5mより少し大きいぐらい
黒い縁取りのある赤い船体
持ち上がった船首にはランタンを掛けられるフックがあるが飾り気がない
ベネチアのゴンドラよりも少し短いがこれぐらいでなければダンジョンは狭すぎる
「船首が淋しいかなぁ・・・・」
「でもまぁ良いか」
「十分すぎるじゃろう」
「所でこの船は1本の櫂で漕ぐのか?」
「そのつもり」
「推進に人を割くと警戒や戦闘に支障が出るでしょ?」
「1人なら襲われても応戦しながら突っ切れるしね」
ゴンドラの前2mぐらいまでは低い屋根と言うか覆いを取り付けた
これも赤く塗った後に黒い縁取りがしてある
前は完全に塞ぎ後ろには少し反り返った返しがついていて波飛沫や魚が入るのを防いでいる
「荷物はこの前のスペースに入れられるのね」
「一応上は開閉式だから取り出すのも楽だと思う」
「開閉機構は単なる嵌め込み式だから楔を抜いたら簡単に開くわよ」
「凄い船ね」
「この両舷に付けてる鍵棒は何に使うの?」
「それは攻撃にも使えるけど突き竿として方向転換や急停止に使うのよ」
「槍だと床や壁に突き立てる時に滑ったりするじゃない?」
「鎧武者の戦利品の中にちょうど良いのが有ったから拝借したのよ」
「なる程ね」
「船の構造だけじゃなくて運用の知識もあるんだ」
「ほら」
「川下りの船頭なんかは竹竿持ってるじゃない?」
「アレのイメージね」
「川下りって行ったこと無いなあ」
「シンシア」
「フラグ立てるのは止めようね?」
「そんなつもりはないってw」
軽口を交わしながら簡素な夕食を済ませ早々に寝ることにした
ー・ー
「おはよー」
「なんか人集り出来てない?」
「昨日作った船を調べてるみたいよ?」
「後続の探索隊も船を手配してるみたいだけどこういう船は初めて見たらしいわ」
「うへぇ」
「また知識チート発生するの?」
「形的にはエルフのカヌーに近いから珍しいってだけで知識チートにはならないと思う」
「・・・・・・・・たぶん」
シンシアがニヤケながら言ったのは形はどうあれ作り方が知識チートに当てはまるからだろう
とは言えこんな内陸部でこの船の製法が広まるわけもない
現物を処分すれば問題はないだろう
「さてさて」
「行きますか」
興味津々な冒険者達にはお引き取り願い台車に乗った船をダンジョンへ押していく
第1階層は自然の洞窟に近い形をしているため途中何度か持ち上げたり邪魔な岩を砕いたりしながら進んだ
「アリエルさん」
「なぁに?」
「この船は転移結晶の間の入り口に入りませんの事よ」
「どういたしやがりますんでしょうか?」
シンシアが変な言葉遣いなのは今回同行者がいるからだろう
下手にストレージは使えないしこの転移結晶の部屋の入り口は分厚くて砕けない
「はいじゃあ皆さん手を繋いでね」
「貴方は片手を船から離さないで」
「リグルはしっかり彼を掴まえて」
「ラルクとシンシアの準備は良い?」
扉の前に置かれた船をしっかり掴んでもらい手を繋いで一直線に部屋の中に入っていく
部屋と扉の橋渡しは私が担当して先頭はシンシア
「準備良いから第7階層までお願いね」
「大丈夫なの?」
「早くやって」
「皆、手を離しちゃダメよー」
声をかけ終わるとシンシアが転移を発動した
いつもの浮遊感が体を包み全体を覆う光が晴れた時そこは第7階層の入り口だった
「なんか」
「意外とすんなり入れたわね」
「てっきりこっちの待機部屋が小さくて船が転移されないかと思ってたわ」
「恐いこと言わないでよね」
「転移に失敗したら身体ごと引き千切られるか潰されるかはたまた異空間に放り出されるか」
「とにかくろくなことにはならないんだから」
「よくそれでトライする気になったわね」
「さっきの話し聞いて同行してる彼は顔が真っ青になってるじゃない」
振り返ると両手で身体を抱きながらガタガタと震えている
「こっちの待機部屋がやたらと大きい上に扉も大きかったから成功する確率は高かったのよ」
「でないとやらないって」
「本当に?」
転移障害が起きるとすれば境界線にいた私が一番リスクが高い
失敗すれば転移の狭間で引きちぎられる可能性があったからだ
だが手を繋いで船を掴むことで間接的に転移結晶に触れていれば船のような大きな物でも装備品扱いになるんじゃないかと思ったのだ
結果は上々
付き添いに来た冒険者に船の運び方を教え先に帰す
その際に台車を忘れずに持って帰らせた
彼らの船を持ってくる時に使えるだろう
「ドキドキの進水式ね」
リグルと両側から持ち上げゆっくりと水に浮かべる
「やっぱりこの壁際の出っ張りは桟橋の代わりね」
「船を寄せたらちゃんと乗り込めるわ」
「なら船も用意してくれれば良いものを」
「ミリアだからね」
「あの性悪の事だからめんどくさくなったんでしょうよ」
薄暗い水路を船はゆっくりと進んで行く
これが朝靄の湖や水路の町並みだったらどれだけ良かっただろうか・・・・・




