幽霊都市
「これは・・・・・」
「意外ですね」
「普通の町ね」
「住民が幽霊だって事を除けば」
第9階層に侵入したが町の住民は別段襲ってくる感じは無い
寧ろ我々が生きている事に驚き恐れている風でもある
賑やかにしていた通りは一変して人だかり(幽霊だかり?)が出来て遠巻きに我々を見ている
その様子はどう見ても予期せぬ異邦人に狼狽える普通の町の人間にしか思えなかった
「妙ね・・・・・・」
「第8階層の魔物は精気や魔力を吸収して生きていた魔法生物」
「言わばここの住民の天敵よね?」
「おそらくアレはボスとの感覚共有無しでは生きられないんでしょう」
「そしてボスは動けなかったんじゃないかな?」
「ボス部屋は広かった」
「けど避けずに真正面から迫ってくるプロペラの直撃受けてたんだよね」
「アリエルの言う通りあのボスが動けないせいであの魔法生物達が階層移動出来なかったんだとして」
「アレはここの住民達を外に出さないための配置って事なのかしら?」
「その可能性は有るんじゃないかな?」
「防御も兼ねてるんだと思う」
「あの魔法生物を突破できるのはかなりの冒険者だろうしその前の水と毒のエリアも合わせると難攻不落だと思うな」
「アリエル」
「悠長に話してもおられんようじゃぞ?」
リグルの声に周囲を見渡すと人垣の一角が崩れ全身甲冑に身を包んだ6名程の騎士が歩いてきた
不思議な事にここの幽霊達は全員地に足をつけて歩いている
ガンガンッ
騎士の持つ槍が石畳を叩き注目を集める
これはこの騎士達の傾注の作法なのだろうか?
「異国異邦よりお越しの旅人達よ」
「何故我等が国に来訪したのかお聞かせ願いたい」
「我々の館にご同行願えるか?」
6名の騎士が持つ槍の穂先は天を向いたまま
3mはあろうその槍は本来町中で使える代物ではない
おそらく儀礼用だろう
勿論幽霊達に物理法則が当てはまるのならばと言う前提ではあるが
「突然の来訪による不躾をお詫び申し上げます」
「我等とお話しいただける裁量に感謝申し上げます」
私は半歩進み出て右手を胸に添え軽く会釈しながら答えた
「ならば我等について参られよ」
人垣が割れて道が開け3名の騎士が先導し私たちを誘う
こうなれば大人しくついて行く他無いだろう
不安そうなシンシア達を連れて先陣切って歩き出した
続いてシンシアとミーナが続きラルクとリグルが後を追う
そして最後に幽霊騎士の3名が続いた
大勢の幽霊達に見守られる中広場を抜けて町の奥へと進んだ
ー・ー
「これはまた凄いお屋敷だ事」
「屋敷と言うより城に近いわね」
「我々は都市国家ですから城と呼んでも差し支えないと思います」
「ですが王が屋敷と呼ばれるので我々も屋敷と呼んでおります」
先頭の隊長らしき騎士が振り向きもせず答えてくれた
独り言だったので返答を期待したわけではないのだが律儀な人だ
「貴方達は何者?」
「魔物と言うわけでは無いのでしょう?」
「それは我等が主国王陛下がお答え下さるでしょう」
世間話には付き合うが本題は国王と話してくれと言うことか
普通に統制の取れた法治国家と言う印象を受ける
間違いなくダンジョンの外からやって来たのだろう
単なる配置モンスターにここまで詳細な設定はしないだろうから
「ダンジョンの中に街があると言うのは不自然よね?」
「鎧武者達の時も思ったけれどミーナも外から召喚されてた・・・・・」
「骸骨や鎧もアレだけ数がいるのに氾濫していなかった・・・・・・」
「そしてここまでの階層ってリスポーンはされてるけれど繁殖できない種なのよね」
「シンシアも気付いた?」
「初めは単に不死系ダンジョンなんだと思ってたのよ」
「でも鎧武者に出会って思ったの」
「氾濫が目的なら統率力のある鎧武者じゃなくても良かったんじゃないかって」
「ミーナで確信したの?」
「そう」
「外敵を排除しながら氾濫を押さえ込むような配置なんだもの」
「その答えがこの都市にあると」
「アリエルはそう考えるのね?」
「それはどうか分からないけど・・・・」
「この街は何か関わりがあるんじゃないかな?」
話す内に門の前までやって来た
両側に槍を持った騎士が立ち我々が直前に来た時互いの槍を交差させて行く手を阻む
「これよりは国王陛下のおわす館である」
「何用で参られたか用件と名を告げよ」
「我は警護騎士団第三分隊分隊長アリアスである」
「外界よりの来訪者を見つけ国王陛下の元へ案内する役目を担っている」
「国王陛下に面会を求めたい」
門番の騎士は槍を高く持ち上げ地面に突き立てた
ガカンッ
「了解した」
「任務ご苦労様です」
「国王陛下は既にお待ちであらせられます」
二人は礼をすると踵を鳴らして合わせると背筋をピンと張り胸を張って真っ直ぐ前を見つめた
「良く訓練された儀礼様式だね」
「我々には他にする事が有りませんからね」
先頭を歩くアリアスは振り向かずにボソリと呟くと先程までとうってかわり踵を打ち鳴らしながら歩いていく
同じ真似をする意味は無いから普通に歩くがこれはちょっとやりすぎではないのか?
と言うか踵を鳴らしながら歩く幽霊って・・・・・
ー・ー
ゴンゴンッ
「来訪者御一行をお連れしました」
「入れ・・・・」
大きなアリアスの声に微かに聞こえる程度の声が帰ってくる
ドアノブに手を掛けること無く扉は内側に開いていく
素早く確認したがこの部屋には扉の外側に落とし格子が有るようだ
「広い部屋ね」
「天井も高いし調度品も豪華」
「謁見の間って感じね」
小さく呟いた私の声が聞こえたのか聞こえなかったのか
アリアスは無言のまま深々と頭を下げると再び先頭を歩き出す
今度は踵を鳴らしたりしない
どうやら踵を鳴らすのは来客を先導する時や儀式の時ぐらいらしい
ひれ伏すつもりは無いが礼儀は必要だろう
軽く会釈すると後ろの仲間達も会釈をしたらしい気配がした
「そなた等が来訪者か」
「近くで顔を良く見せよ」
玉座に座りながらも背は付けず伸ばされた背筋がかの王の身長が高いのだと物語る
白くなった口髭と顎髭を蓄えるその姿は「THE王様」と言う感じで威風堂々とした雰囲気の威圧感を感じる
向かって右側には体格の良い武装した中年の男が立ち反対側には文官らしき背の高い痩せた男が立っていた
おそらく近衛隊長と王宮魔術師か何かだろう
国王の鋭い眼光はサッと一同を見た後私にだけ注がれている
「お初にお目にかかります」
「私はアリエル・フォン・イルシュタントと申す旅の者で御座います」
「この度は国王陛下に御目通り叶いまして真に恐悦至極に存じます」
右手を軽く胸に添え左脚を半歩引き恭しく頭を下げながら軽く膝を曲げた
何かの映画で見た挨拶の作法だが・・・・
あっているだろうか?
もし合っていたとしてもこの世界からすれば異世界の作法
この国の作法としては無礼にあたるかもしれない
それはそれで良いのだが何等かの礼儀にのっとった作法を行うことが重要なのだ
「その作法・・・・・」
無表情のまま国王が呟く
やはり無礼に当たるのか?
「汝等はもしや・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
言いかけた国王は口を噤む
何か思うことがあったのだろう
「ゴホンッ」
「お前達は異世界人だな?」
「陛下っ!!」
咳払いの後雰囲気がガラリと変わり口調も王族のそれではなく酒場にいる無頼漢のような印象を受けた
それに驚いたのか文官の方が慌てて国王に詰め寄る
「良い良い」
肘掛けに付いた左腕で頬杖をつきながら右手をヒラつかせて文官を宥める国王
文官はと言うと何か言いたげだったが目を瞑り溜め息を吐きだすと私を見下すように睨み付けてくる
「堅苦しい話し方は抜きでいこうや」
「長年王族として振る舞ってはいるが俺も堅苦しいのはあまり好きじゃない」
「陛下・・・・・・」
またも文官は溜め息をついてジト目で国王を見る
「俺はお前達が異世界からの転生か召喚者とだと思っている」
「違うか?」
「隠し立てしても仕方がないでしょう」
「私は異世界から召喚された異世界人です」
「やはりな」
「なら腹を割ってはなそうじゃないか」
「良いな?」
「ヒース」
ヒースと呼ばれた文官は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが首を縦に振った
「口調の変化」
「周りの反応」
「判断出来るだけの知識」
「国王も転生者か連なる者ですか?」
「話が早いな」
「ここ彷徨える都市は転生者とその子孫達の暮らす街だ」
「暮らす・・・・・・ね」
「私には肉体の無い霊体に見えるのだけれど死んだ後もこの街に縛られているの?」
「いや」
「そうじゃない」
「確かに俺達はこの街から出ることは難しい」
「普通に出れば死んでしまう」
「まぁ上の階層にあんな魔法生物がいたらそうでしょうね」
「あぁ」
「アレは関係無い」
「俺達は元々このダンジョンの住人ではないしアレを作り出したのも俺達じゃない」
「あの魔法生物は関係無いのに街から出られないの?」
「そうだ」
「俺達は肉体を持たない無機物生命体だ」
「・・・・・・・・」
「難しかったか?」
「簡単に説明す・・・・・」
国王の言葉を遮り自分の偽装魔法の全てを停止させ素顔が露になる
「なっっ」
「その身体はどこで手に入れたっ?」
「教えろっ!!」
「いやっ」
「教えてくれっ!!」
「頼むっっ!!」
国王は二人の制止を振り切り玉座から私に駆け寄ると両膝をついて私の手を取った
ゴツゴツとした指は王族に似つかわしくなく大きなその手は仄かに温かかった
温かい???
違和感よりも好奇心が打ち勝ち話を聞きたい衝動に駆られた
「とりあえず詳しい話をして貰えませんか?」
「私は召喚されてまだ1年足らずの新参者なのであまりこの世界の事を知らないのです」
確かな感触のある王の手を優しく掴み王を立たせた
「分かった」
「ヒース会食の準備をしてくれ」
「はっ!!」
ヒースと呼ばれた男は手を鳴らして部下を呼び出した
「陛下はこの者達と会食なされる」
「直ぐに準備を」
ヒースは良く通る声で短く指示を出した
近衛隊長はいつの間にか移動しており少し離れてはいるが私の右前に立っている
「居合・・・・・か」
「ほほぅ」
「分かるのか」
「陛下・・・・・・・」
認めなければネタバレにはならない
呆気なく手の内をバラされた近衛隊長は肩を落としている
いや
アレは脱力か
相当な手練れなようだ
間合いも広い
再び偽装魔法を起動すると王の後に従い謁見の間を後にした
ー・ー
「遠慮無く食べてくれ」
「肉体用に調整してあるから害はない筈だ」
勧められて無下にも出来ないため食べてみると中々美味しいではないか
霊体と言うか高密度の魔力の塊と言うか
触れるし歯応え舌触りも悪くない
味付けも其処らのレストランよりも美味しい
「毒はないわ」
「魔力を物質化させた物だから食べ過ぎると良くないかもしれないけれどこれぐらいなら問題無いと思う」
毒味を済ませると皆に料理を食べるように促した
「ところでお前達は何処から来た?」
「ダンジョンの外の場所も分からんし転生元の世界の事も知りたい」
「俺の名はラインハルト」
「続く名前はローエングラム?」
「なら近衛の彼はキルヒアイスかミッターマイヤーかしら?」
「はっはっはっ!」
「どうやらお前は似たような歳のようだな」
「本名は明かさないけど日本人のオッサンですよ」
「そうか同年代の同郷人か」
「異世界人に日本人が多いとは思っていたがまさか君もそうとはな」
「どうだ?」
「俺の妃にならんか?」
「陛下!」
近衛隊長が詰め寄るが国王は冗談だと言わんばかりに掌をヒラヒラさせるだけで取り合わない
「念押ししておくけど俺は男だぞ?」
「俺は構わん」
「何せこの世界でもう1000年は生きているからな」
「性別など大した意味は無い」
「何なら俺が女王になっても良い」
言うや否や国王の姿は女性へと変わった
「何ならロリが良いか?」
すると年端もいかないような少女に変わる
「見た目は変えられるってことね」
「その姿や性別はあまり意味はないと」
「いや」
「意味はある」
左手を水平に動かすとと元の王様の姿に戻った
「姿形や立ち居振舞いは性格に影響を及ぼす」
「我々が自分自身を個人として保てるのは認識だけだからだ」
「この国の興りは今から1200年程前に遡る」
国王は椅子に背を預けグラス片手に語り始めた
「この国の始祖であるハイネケン・クラートはその時代の勇者だった」
「彼は2人の魔王を討ち倒し平和を手に入れた」
「筈だった・・・・・」
国王は手にしたグラスを暫く見つめると一気に飲み干した
「魔王を倒し平和になった筈が更に転生者が現れた」
「時を同じくして天恵が下る」
「悪しき隣国を滅ぼせと」
「それでその勇者はどうしたの?」
「言われた通り国を滅ぼしたの?」
「いや・・・・・・」
「戦争を拒否して引退した」
「たがそれが大きな問題となった」
「魔王鉄拳クラート」
「流石はエルフだな」
「知っているのか」
シンシアが産まれた大陸の昔話らしい
大昔に存在した立ち塞がる全てをその拳で捩じ伏せる破壊の権化
山を抉り大地を割り大穴を穿つその魔王は近隣諸国を滅ぼした末にとある勇者によって討たれた
真偽のほどは定かではないがそんな言い伝えがあったそうだ
「彼は実在した」
「そして真実は伝説とは違う」
「山奥に隠れ住んでいた彼を国は見逃さなかった」
「軍隊をも凌駕するその戦力が国王の手を離れ野に下る・・・・・・」
「国王は国取りを恐れたのだ」
軍の手を逃れたクラートは大陸中を放浪する事になったらしい
そうする内に仲間ができ次第に増えて傭兵団のようになっていった
「元勇者が率いる傭兵団か・・・・・」
「どの国も懐柔しようと必死になったんじゃない?」
「その通りだ」
「放浪を続ける旅団となったクラート達はそれでも戦争には参加したがらなかった」
「主に魔物討伐で生計を立てていたんだ」
「その今の冒険者ギルドに繋がっている」
「じゃあギルドのシステムを作ったのは?」
「我々だ」
「だが問題も有る」
「クラートは勇者時代に倒した龍の呪いのせいで歳を取らなかったんだ」
「・・・・・・・・・・」
リグルは目を伏せか細い息を吐き出した
共感するところがあったのだろう
「不死の英雄」
「その名声が示すものは国家から見れば恐怖でしかない」
「そして四つの国がその国境の交わる土地をクラートに与えることにした」
「それぞれ1人ずつ」
「4人の王女が妃にと差し出され希望する国民達も移住した」
「それがこの国なの?」
「そうだ」
「初めは戸惑っていたクラートも4人の姫達の心に触れる事で癒された」
「だが年老いる妻と成長する子供達に対しクラートは歳を取らない」
「そうだと分かっていても軋轢が無くなるわけだはない」
「暴動が起きたの?」
「自分達だけ老いる妃達」
「一生継承することの無い王位」
「国王になれず年老いて死ぬ運命の王族に不満がでないわけがない」
「クーデターが起きたの?」
「想像の通りだ」
「国民は殺し合い王城は燃え国土は焼き尽くされた」
「じゃあここは何なの?」
「クラートは一つの決断をした」
「民に寿命が有るのがいけないのだと」
「そして過ちを犯した」
「不死の秘宝・・・・・」
「エルフに伝わる伝説ではクラートの王国は禁忌に触れ不老不死を手に入れ魔王となったとされているわ」
「ああ」
「だが実際は秘宝なんてモノじゃない」
「クラートは自身の呪いを国土に転用した」
「それってどう言うこと?」
「クラートの呪いは祝福に近い」
「外部から魔力を供給することで老化を抑え治癒を行う」
「クラートの存在その物が物質世界よりも高次元な精神世界に重複しているんだ」
「だからその力場を転用して国土に住む限り不老不死となれるわけだ」
「でもそれって子供も成長しなくなるんじゃないの?」
「当初はそう言う問題もあった」
「だからクラートはその身体を依代に望む者を全て無機物生命体へ変化させたんだ」
「無機物生命体・・・・・」
「何故そんなことを?」
「肉体と精神を切り離し魔力結晶を依代に魂を保管する」
「そして国土に施された魔方陣により精神を具現化する事で肉体を持つのと変わらない生活を送ることが出来る」
「見た目や年齢は精神の状態のより決定される為成長する事が出来るようになり老衰で死ぬことも出来る」
「それじゃあ不死性は保てないんじゃないの?」
「初めは誰もが不死を願った」
「だが300年もすれば生きることに疲れる人間も出てくるもんだ」
「子供はどうなるの?」
「無機物生命体なら新しい生命は産まれるの?」
「それが不思議なもんでね」
「死ねば魂は解放され昇華できる」
「そして望めば新しい生命が産まれる」
「魂は何処から来るの?」
「それは分からんが肉体を持っていても同じだろう?」
ラインハルトはニヤリと笑った
「そうしてこの国は生まれた」
「だが不死の国家等受け入れられる筈もない」
「そして不死につられて多くの人が押し寄せてくるようになった」
「だから国土ごと移動するようになったの?」
「まぁそう言うことだ」
分かったような分からないような・・・・
何とも釈然としないが彼等が霊体なのに肉体と同じように触れたり飲んだり食べたり出来る理由は理解した
いや
そう言うものだと思うことにした




