目が覚めて
「皆大丈夫?」
「気分が悪そうだけど魔法で回復させた方が良いかな?」
「いや」
「ワシは良い」
「じゃが何があった?」
「確か草原を延々と歩いておったはずじゃが・・・・」
「ウプッ」
「気持ち悪い・・・・・・」
「ここは何処?」
「第8階層はどうなったの?」
シンシアは気持ち悪そうに口を押さえながら不安げに辺りを見回した
混乱するもは無理もない
幻覚の晴れた第8階層はこれまで通りの狭い石壁の迷宮である
転移の間を出た直後に襲われたようですぐ後ろには転移結晶の置かれた部屋が扉を開けたままになっていた
「まさかこの私が幻覚にやられるなんてね」
「完全に油断してたわ」
「魔法と薬に加え物理的な干渉までされると私でも幻覚を見てしまうみたいだわ」
「そんな重複攻撃をいったい誰が?」
「もしかしてここって階層の入り口じゃない?!」
「まぁまぁ」
「落ち着いてシンシア」
「ラルクもミーナも安心して」
「もう解毒は済ませたし今は結界を張ってあるから安全よ」
「うわぁっっ!!」
「なっなっなっ!」
「何ですかアレは!!!」
後退りしながら結界の外を指差すミーナ
皆の視線がそこに集まり明かりに照らされたソレに目が釘付けになる
「蟹・・・・・・か?」
「いや」
「尻尾があるな・・・・・蠍か?」
「あんな魔物をワシは見たことがない」
口を開き呆然と呟くリグル
対してシンシアは物凄く嫌そうな顔で視線を逸らす
「アレって・・・・・」
「もしかして地球外生物兵器の卵を産み付けるアレですか?!」
ラルクは現世であの映画を見たことがあるのだろう左手を口に当てアレを指差す手は震えていた
「大丈夫だよ」
「調べたけど卵らしき物は産み付けられてない」
「顔に張り付いて魔力や精気なんかを吸い取って栄養にしているみたいね」
「張り付いてたんですか?!」
「アレがっ???」
ラルクは両手で顔を覆い座り込んでしまった
よほど気持ち悪かったのだろう
シンシアも床にへたりこみ何かを吐いている
「アレって・・・・・・」
「良く見るとちょっと美味しそう」
落ち着いてきたのか1人だけ目を輝かせているミーナに全員の視線が集まる
「なっ」
「何ですか皆して!」
「あんなに怖がっていたのに美味しそうってどう言う感覚してんのよ?!」
たじろぐミーナにシンシアがツッコミを入れた
しかし即座に後ろを向いてケロケロと吐き続ける
「いや」
「あの・・・・」
「初めはあの数にビックリしたんですけど結界に阻まれてこっちに入って来れないから何だか水族館みたいで・・・・・」
「それで冷静に観察したら蟹みたいで美味しそうて思ったわけね?」
「は、はぃ」
「ごめんなさい」
しゅんとしてうつむき肩を落とすミーナを責めるつもりはない
かく言う私も蟹っぽくてどんな味がするのか興味があるくらいだ
「アレはアンデッド系ではなくて魔法生物みたいね」
「毒はなさそうだけど・・・・」
「まさか食べるとか言わないわよね?!」
食い気味に言い放ち私を睨み付けるシンシア
その瞳は絶対にこんなモノを口にしたくないと物語っていた
「食べるつもりは無いわよ」
「コイツらはあまり強い魔力を感じないから魔石もたいしたことないんじゃないかな?」
「こんな強力なのに?!」
「コイツらは体内で生成した毒を使ってるだけだから戦闘能力的には雑魚よ」
「数が多いから厄介だけど」
「同期して操っているボスみたいなのがいるんじゃないかな?」
「もしかしたら魔力装置なのかもしれないけどね」
「この魔物は能力の劣る子機のようなものと言うことですか?」
「たぶんそうだと思う」
「結界に阻まれてるのにうじゃうじゃ寄ってくる所を見ても知能が高いようには思えないでしょ?」
「確かに言われてみれば・・・・・」
「って流石に多すぎない?」
話し込んでいる間に集まってきたその魔法生物は数百~千匹くらいはいそうなほど通路を埋め付くし重なりあって殺到する姿はかなりホラーだ
「いくら初期配置が特殊だからってこれは異常すぎるでしょ・・・・・」
シンシアは額に手を当て項垂れながら毒づいた
どうも彼女はこの手のうじゃうじゃ集まる虫的な生き物は苦手なようだ
「さてと」
「良いように遊ばれたから反撃するとしましょうか」
私は静かに腕を組みながら魔物の大群を睨み付けた
「まぁ」
「どうせアリエルの事だから瞬殺でしょう?」
「ネタバレした時点で終わったも同然ね」
シンシアが低い声で言い放つ
よほどこの手の魔物が嫌いなのだろう
「とりあえず通路を照らしてみましょうか」
「このままだとどれだけいるのかも分からないし」
シンシアが動く気配も無いので自分で魔法の明かりを灯す
通路に4mの等間隔で真っ直ぐ突き当たるまで飛ばしていく
ガサッ
ガサガサガサッ!!
それまで結界に張り付いていた魔物達の一部が明かりを追って行こうとする
しかし置くから来た魔物も明かりに殺到して来るため壁際で山になっていく
「あら?」
「光に集まる習性でもあるのかしら?」
「でもコイツらに目があるようには見えないんだけどなぁ・・・・・」
不思議に思い見ているとやがて魔物の山は明かりに到達してその足が明かりに触れた
フシュッ
魔物が触れた瞬間明かりが消えた
次々に明かりが消えて行き通路は再び闇に閉ざされる
「魔法が掻き消された?」
シンシアが目を見開き呟く
「いえ」
「たぶん魔力を喰われたのよ」
魔法が解除されたのでは無い
込められた魔力を失い消えてしまったのだ
だとしたら・・・・・・
パキィンッ!!
乾いた音と共に結界が割れて魔物が殺到してくる
「きゃゃぁぁああああ!!」
耳をつんざくシンシア達の悲鳴があがると同時に再び結界を張り魔物の行く手を遮る
「うっ」
「うわっ!うっ!」
シンシアの言葉になら無い叫びが喉につかえ嗚咽のような声が絞り出される
魔力を喰われる以上この結界もそう長くは持つまい
とりあえず通路は真っ直ぐ伸びていた
ならば
ダメ元で聖光貫通波の魔法を使い通路を薙ぎ払う
ガザザザザザザッ
魔物の群れは魔法に吸い寄せられていく
やはりアンデッドでは無いためダメージらしいものは与えられなかったようだ
「やっぱり聖属性は効果無いか」
「なら貫通力の有るこの魔法ならどうかな?」
稲妻の魔法で前方に雷光が輝いた
少し焦げ臭い臭いが立ち込めるが魔物の勢いは止まることを知らない
「アリエル・・・・・」
「ちょっとヤバいんじゃない?」
シンシアの言う通りこの状況は良くない
ディバインレーザーだけでなくライトニングすら捕食されてしまった
どちらも貫通力の高い魔法の筈なのだが貫通してもダメージには至らない
いや
正確にはダメージは通っているがその魔力を吸収して回復したのだろう
倒すどころか逆に魔物を活性化させただけに終わった
「えっ・・・・・・・・と」
「何これ?」
「アレが魔力を捕食できるって言うのは魔法生物だから分からなくもないけど・・・・」
「貫通魔法を食べるってチート過ぎじゃない?」
「こんなの普通の冒険者じゃあ大規模攻略でも絶対クリアできないでしょ・・・・・」
「何か隠したいモノでもあるのかしら?」
「この階層なんかいくら魔物が増えて氾濫を起こしたところでたいした驚異にはならないでしょう?」
「張り付かれなければ魔法耐性が異常に高いだけの魔物だもの」
「それにコイツらはボスがいないと連携が取れるかも怪しいし幻覚もボスに依存してる気がするのよね」
話ながら幾つかの魔法を試してみるとこの魔物の特性がある程度分かった
エネルギー系の魔法は吸収できるが物理現象を伴う魔法は吸収出来ないか苦手なようだ
例えるなら電子レンジでは温められないがオーブンではこんがり焼けると言ったところか
炎では焼けるようだし氷塊によるダメージも有効
おそらく魔力を吸収するため索敵魔法や鑑定は無効化される
作用するための魔力を奪われるからだ
これが熱波や冷波となると作用する全ての魔力を奪えるわけではないので効果を弱める程度で変化した温度は有効なようだ
「アレは魔法耐性は高いけど物理攻撃は有効みたいね」
「表皮からも魔力を吸収するせいかそれ程固くもないわ」
「つまり張り付かれないように気を付けながら物理攻撃すれば倒せるってことね?」
「まぁね」
「でも数が数だからね」
振り向くと転移室の扉が見える
かなり大きな観音開きで天井にはアレが待機できそうな窪みが幾つか見える
扉を開けると直ぐに上から襲い掛かれるわけだ
「ちょっと扉を貰おうかな」
片方の扉を材料に大きな羽を錬成した
「アリエル」
「そのプロペラは何?」
「面倒だからコレで数を減らそうかなって」
あの魔物は接触するか狭い範囲の魔力しか吸収出来ないようだ
なのでこのプロペラに重力魔法をかけて通路の奥まで落とす事にした
物理結界を展開して結界を10mほど前に押し出し空間を確保する
自分達を護る結界を一度ど解除してプロペラと私だけが前に進み出る
後ろに複数枚物理結界を展開して準備は整った
プロペラが通路中央に来るように操作して回転を始める
フォンッ
ブォンッ
ブォォオオッ
十分な回転数の達したのを確認すると前面の結界を解除してプロペラにかかる重力を倍加させる
前へと落ちながら回転を早めるプロペラ
その凄まじい回転に捲き込まれ切り裂かれ砕け散る魔物達
角の隙間から逃れた魔物を1匹残らず駆逐しながらプロペラの後を追った
ー・ー
「なんとも捻りの無い階層ね・・・・・」
「ボスまで一直線で部屋も枝道も無しとか手抜き過ぎない?」
安全を確保して結界を解除すると仲間達と合流した
ここに至るまで何の枝道も宝箱も無い
厄介な魔物がいただけで全くの一本道だった
「この大広間はボス部屋じゃな?」
「そしてあそこの肉塊がボスと言ったところか・・・・・・」
リグルが呆れたように言い放つ
言いたいことは分かる
だがあんなキモい魔物のボスなんて更にキモいに決まっている
出来れば見ずに済ませた方が良いじゃないか
「水を抜かれた魚の次は・・・・・・」
「姿を見せるまでもなく瞬殺ですか」
「これは戦いじゃない」
「一方的な虐殺だ」
「なら次は皆に任せようかな?」
「ごめんなさい」
「私達が悪かったです」
「あの台詞、一度言ってみたかっただけなんです」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
ラルクとミーナが平謝りに謝り倒してくる
別にからかっているだけなのだから気にする必要なんかないのに・・・・・
「アレだけいたのに綺麗さっぱり駆除されてるわね・・・・・」
「緑色の体液が気持ち悪いけど毒は無さそうね」
「臭いは酷いですが酸が有るわけでもなさそうです」
「蛍光緑の体液は気味悪いですが魔石の色は分かりやすいですね」
プロペラで瞬殺された為魔石の状態は良く深紅に輝いている
その数は凄まじく通路の端が紅く見える程だ
「なんだか気持ち悪いわ・・・・」
「この感覚」
「もしかして魔力酔い?」
シンシアは頭に手を当て顔が青ざめておりリグルは胸を押さえて苦しそうにしている
「ごめん」
「気付かなかった」
魔力を吸収して生きていただけあって新鮮な体液からは魔力が放出されていたのだ
数が数だけに放出された魔力量も凄まじい
「先ずは綺麗にしましょうか・・・・・」
範囲拡大した清浄の魔法で魔物のミンチを除去していく
同時に臭いにも対処するが溢れだした魔力は未だフロアの充満しており危険濃度を下回らない
「勿体無いし再利用しようか」
結晶化の魔法で周囲の魔力を圧縮して魔晶石を作り出す
「意外と多いわね・・・・・」
「ちょっと分けようかな」
マルチタスクで同時に結晶化を進めある程度の大きさに揃える
カラカラと乾いた音をたてながら魔晶石が量産され満たされていた魔力の多さを物語っていた
「凄いわね・・・・・」
「これって魔晶石よね?」
「凄い数ですね」
「純度も大きさも別格ですね」
見惚れるシンシアの横で魔晶石を手に取ったラルクが感嘆の声をあげる
「この中の半分くらいはアリエルがぶっぱなした魔法なんじゃないか?」
「アレだけ景気良く連発して喰わせてやったんじゃから量が増えるのも頷けそうなもんじゃわい」
リグルも魔晶石を鑑定しながら笑っている
ミーナに至っては両膝を付き目を輝かせて両手を合わせている
出来上がった魔晶石と魔石の大半はストレージにほりこんだ
「かの魔石は破格にデカいのぅ」
「これを持っていたボスは相当な強さだったんじゃろうなぁ・・・・・」
「戦わずに済んで良かったわい」
ボーリングの玉ぐらいある魔石を抱えリグルが戻ってきた
「これもお蔵入りね」
「こんなのギルドへ提出出来ないもの」
リグルは笑いシンシアは頷く
この量と質の高い魔石や今しがた作り終えた魔晶石を全て売りに出せば市場が崩壊しかねない
魔晶石はともかく魔石の価格暴落は冒険者にとって命取りとなるため避けたいところだ
でなければ世の冒険者達から恨まれることになるだろう
その上入手経路を聞かれ場合によっては監禁されたり拷問の対象にもなりかねない
そうなったところで私独りならば全く構わないのだが仲間達には一大事
「普通にアタックしたら大外れな大規模討伐ダンジョンだけどアリエルには散歩に毛が生えたようなものね」
「生死を彷徨い劣化した魔石くらいしか得られないこのダンジョンで国家予算レベルの大儲け出来るアリエルって凄いよねw」
シンシアの冗談も半ば当たっている
国家予算レベルかは分からないが状態の良い大量の魔石と魔晶石が貴重で高価なのは言われなくても分かる
「流石です」
「アリエル様・・・・・」
なんだかミーナに致命的な程の信仰心が芽生えたような気がするが・・・・
とりあえず放置して第9階層を目指した
ー・ー
「第9階層か・・・・・」
「同じ手は来ないと思うけど気を付けましょう」
「そうね」
「もうあんなのに張り付かれるなんてゴメンだわ」
シンシアは心底うんざりした顔で言い放つ
その後ろでラルクとミーナも頷いていた
「それじゃあ開けるわよー」
大きな観音開きの扉を開けると再びまばゆい光が視界を遮る
しかし二の鉄は踏まない
扉の前に結界を張り念動で扉を開ける
視覚を補正して視野狭窄を防ぎ万全の態勢で開いたのだがただ眩しいだけで何かを仕掛けられた風ではなかった
「光源はどこかな?」
強烈な光を放つ魔道投光器を発見し破壊する
そこは石造りの町並みが再現されており天井も高い
空や緑と言ったものは無く地底都市と言ったところか
「明るくてわりと賑やかな町ね」
「暗くて寂しげな廃墟ですね」
「え???」
私とラルクの声が重なった
振り向くとシンシアの顔が強ばり口許が引き締まっている
明らかに緊張した顔だ
「この光景が見えてるのは私とシンシアだけみたいね」
「ちょっと視覚補正してあげましょうか」
リグル達3人に身体強化魔法の一種である感覚拡張をかける
「なっなんじゃこれは?!」
「きゃっ!!」
「うわぁっ!!」
3人が同時に声をあげた
無理もない
霊的な視覚を得て見えた景色はそれまで見えていた薄暗く閑散とした町並みではない
明るくて巨大な地下都市であり多くの住民が行き交う活気の有る町だった
そしてこの地下都市を行き交う住人達は幽霊だったのだから
ー・ー
「今のところ襲ってくる気配は無さそうね・・・・」
老若男女様々な幽霊達が町を行き交っている
冒険者らしき者達
露天で料理を売る人
花を売る少女
駆け回る子供達
ごく普通の町の光景がそこにあった
違う事はただ一つ
この町の住人達は幽霊だと言うことだ
「幻覚・・・・・・」
「ではなさそうね」
「幽霊があんなにたくさん・・・・・・」
「おっ」
「襲ってきませんよね?」
「それはどうだろうね?」
「今はまだ転移の間にいるから感知されていないんだろうけど・・・・・・」
「なんだか今までと雰囲気違うよね?」
あまりにもありふれた日常の光景に戸惑ってしまう
だが第8階層の事もある
警戒するにこした事はないだろう
「・・・・・・・・・」
「少なくともあの幽霊達は本物みたいね」
「アリエルはこの町をどう思う?」
「幽霊と言っても魔物と言う感じではなさそうだけど・・・・・・」
「この部屋を出たら一斉に襲ってくる可能性もゼロじゃないよね」
私一人なら何ともないのだが仲間達はそうはいかないだろう
精気吸収や群体化のスキルを持った個体がいれば苦戦するのは目に見えている
ここまでの傾向から鑑みても子供の幽霊を罠に使うことは容易に考えられる
とは言えここでずっと待っていても仕方がない
一行は意を決して第9階層に足を踏み入れた




