憐れな魚と何処かで見たアレ
「床が一部分しか照らされてないって言うのはどう言うことかしら?」
「あー」
「それはシンシア」
「たぶんここはそれなりに深いプールだったんだと思う」
シンシアは明かりを2つ作り出し上と下へと飛ばした
「天井はそれほど高くはないかな?」
「それと・・・・・・」
「壁沿いに通路が有るわね」
「下は結構深いですね・・・・」
「10m以上は有りそうですね」
シンシアは呪文を唱え天井に等間隔の明かりを灯す
上から照らし出されたその部屋はとても奇妙な形をしていた
「ふむ」
「この通路の両側は床が無いな」
「部屋の中央には丸い舞台なものが見えるのぅ」
リグルの言うように50mほど真っ直ぐ通路が続いた先に丸い舞台のような床がある
舞台の大きさは20~30mくらいか?
戦うには狭そうな印象がある
「今はだいぶ水位が下がってるけど・・・」
「本来はこの舞台まで水が満たされていたみたいね」
舞台に近づくにつれてちょうど床の下ぐらいで色が変わっているのが見て取れる
「通路も良く見たら橋になってるんだね」
「と言うことは・・・・・?」
「本来なら大型の鮫か鰐みたいな魔物に襲われるんじゃないかな?」
「じゃろうなぁ」
「ほれ」
「あそこを見てみい」
リグルの指差した辺りに目を凝らす
すると水の中に何かがいるのがわかる
「相手したい?」
「こんなまったりモードなのにアレと戦えと?」
「それにアイツ自力でここまで上がってこれないと思うわ」
シンシアの指摘通りソレは明らかに低くなった水の中を泳ぎ回ってはいるものの飛び上がって襲ってくるような気配も無い
「水があったら脅威なんだろうな・・・」
「でも今は水面まで10mはあるもんね」
「部屋の構造的には何処にいても水中から飛び掛かってこれるようになってるみたいね」
「アレって結構大きいですよね?」
「たぶんですけど10mくらいあるんじゃないですか?」
「それも2匹いるっぽいですね・・・・」
高低差がありすぎて襲われる心配が無いせいか皆言いたい放題である
「あっ」
「こっち向いた」
部屋の反対側にいたソレは背鰭で水を切りながら突進してくる
当然そのままでは届く筈もなく飛び上がってくる
グォバァーッッ!!
放物線の頂点付近で鮫のようなソレは口から水を吐き出す
その勢いはかなり強くまともに喰らえば只ではすまないだろう
しかし・・・・・・
ビシャアアッッ!!
勢い良く噴射された水は結界に阻まれ飛沫を撒き散らす
「思ったより飛べるんだ」
「でもまぁ・・・・・・」
「まともに相手する必要はないよね」
独り呟くと鮫の泳ぐ水を分解して回収する
見る間に水位は下がり遠くで跳ねる鮫が2匹
完全に干上がる頃には小型の魚型魔物も一緒にピチピチと跳ねていた
ー・ー
「大漁だけど・・・・・・・」
「食べる気になれないから嬉しくは無いわね」
「と言うよりもこの階層のボスなのに水を奪われて憐れみすら感じるわ・・・・・」
悲しそう
と言うよりもほぼ無感情で良い放つシンシアそして同じように魚を見つめる周りの面々
「たぶん雷系が 弱点だよね?」
私は誰に答えを求めるでなく呟くと跳ねる魔物に対して雷を落とし続ける
暫くすると動くものは無くなりその死骸を〈念動〉の魔法で舞台まで引き揚げた
「遠目じゃと分からんかったが意外と大きいのぅ」
「ちょっとした鯖や鰤ぐらいのまでおるぞ?」
「そんなに興味あるなら食べる?」
「リグルの為なら捌いてあげるわよ?」
「いっいやいやいやいや」
「いらんいらん」
「遠慮しとくわい」
「魚に見えてもワイト系じゃろ?」
「そうね」
「この大きさとこの数のワイトフィッシュに襲われたらかなり危険だと思うわ・・・・・」
「でもアリエルにかかれば形無しねw」
「他のボスも瞬殺でしたが・・・・・・」
「今回は特に酷いですね」
「そうは言うけど・・・・・・」
「じゃあラルクはコレとまともに戦いたかった?」
「・・・・・・・・・・・」
「マトモに戦えばかなり苦戦したと思います」
「出来れば戦いたくないのが本音ですね」
「じゃあ問題ないわねw」
困ったように笑うラルクに微笑み返す
危険で陰鬱なダンジョン
な筈が魔石回収のお散歩モードになっているこの第7階層
水を奪われれば魚系の魔物にはなす術がない
本来そんな強力な魔法を使える人間などいない
魔王ですら怪しいくらい
しかし仮にも女神を殺そうと言うのだからこれぐらい出来なくては戦うことすら儘ならないだろう
「予想はしておったがこの鮫の魔石はデカイのぅ」
「ワシの拳よりも大きいわい」
リグルの持ってきた魔石は確かに大きかった
しかし強力な熱波や雷撃のダメージは大きかったらしく色はくすんでしまっていた
この階層で回収した他の魔石も同様で色がくすみあまり魔力は残っていない
それでもこの数は一財産になるだろう
「マトモに攻略すれば大規模討伐レベルの階層ばかりだね・・・・」
「この第7階層はランクダウンしてもかなりの難易度だと思う」
「第6階層とこの第7階層は死骸を回収していないから後続が来たらビックリするんじゃないかしら?」
「シンシアの言う通りじゃがどうじゃろうなぁ?」
「そもそも第6階層の毒エリアを攻略できるのか疑問じゃわい」
「そうですね」
「再配置も有るでしょうし」
「防毒マスク無しでは進むのも大変ですから」
「でもラルクさん」
「それだとアリエル様達も第6階層で全滅したと思われませんか?」
「それはミーナの言う通りね」
「毎回階層踏破毎に帰還していたのに今回はそのまま探索してるものね」
「そろそろ一度戻らないと別動隊を組織されるかもしれないかな?」
「この第7階層は勢いでここまで来たが休めるような場所は無かったからのぅ」
「地上ではもう深夜じゃろうな」
「では第8階層を見るだけ見てミーナの隠れ場所を探さねばな」
リグルの言葉に従うように一行は奥の帰還結晶に向かった
ー・ー
「ここが第8階層・・・・・」
「今までと比べてなんと言うか・・・・・・」
「別世界ね」
第8階層へと転移した一行は正に言葉を失っていた
見渡す青空
そよぐ風
風になびく草木や花
後ろを振り向くと何処までも続く壁に観音開きの大きな扉が一つ
「ダンジョンって異空間だって聞いてたけど・・・・・」
「本当にそうなんだね」
「ここまで広い階層は滅多にあるもんじゃないわ」
「なんでいきなりこんな広い空間を作ったのかしら?」
「外に転移させられたのではなさそうじゃな」
「ほれ」
「今は夜のはずなのに太陽が有る」
リグルの言葉に空を見上げると頭上に太陽が見える
確かに今は夕方から夜になっている筈だから太陽があるのはおかしい
そして小鳥や小動物の鳴き声一つしない
「不気味なくらい静かだね」
「この草原もあの林も鳥や小動物の気配がしない」
「外界に見えてもここはダンジョンなんだね」
「中には小動物等の生態系を備えているダンジョンも有るみたいだけど」
「ここは見せ掛けだけってことかしらね?」
エルフであるシンシアには人間とは違う知覚がある
彼女の視点では生命の有無などが判別できるのかもしれない
「そう言えばアリエル」
「第6第7と連続してかなり大きな魔法を使ってたけど大丈夫なの?」
「別になんとも無いわよ」
「そうなの?」
「アレだけ派手に魔法使っていたからミリアに見付かるかと思ったんだけど」
「ダンジョンは外からは何も感知できない隔絶された異空間だからね」
「中に入るか何かしないとバレることは無いと思う」
「まぁ見付かったらそれはそれだしねw」
私は事も無げに笑って肩をすくめた
「確かにダンジョンは普通の洞窟なんかと違って外から調べられる事なんか限られてるものね・・・・・」
シンシアはふと空を見上げて何かを考えているようだ
「しかし」
「えらい何も起こらん階層じゃのう」
「小屋の一つもありゃせん」
先頭を歩くリグルがぼやくのも無理はない
本当に何事もなく罠や幻術の類いも感知できない
後ろを振り向くと既に壁は遠く離れ扉が何処にあったのかも分からなくなっていた
「広すぎて探索のしようが有りませんね」
「一度端まで行って確認した方が良かったですかね?」
「それはどうかしら?」
「端があれば良いけれど・・・・」
「最悪無限に続いているかもしれないわよ?」
「ミーナは試してみたい?」
「無限・・・・・」
「ですか」
驚いたミーナに比べリグルやラルクは動揺していないようだ
たぶんその可能性については実感のようなものがあるのだろう
「こう言う屋外型フロアには幾つかのパターンがあってな」
「一定距離を進むと戻されるパターンや見えない壁が有る時はまだ良い」
「地形が延々とループしたり端に到達するのに何日もかかる場合もある」
「ワシも若い頃気になって遭難したことがあったわ・・・・・」
何かを思い出したのだろう
リグルは遠い目をしながらミーナに話して聞かせた
「私はエルフの迷いの森を知っているから・・・・・」
「こんな感じのダンジョンの危険性は小さい頃から教わってきたわ」
「迷いの森も一種のダンジョンみたいなもので隔絶された異空間なの」
「一度迷うと生きて出られるのは奇跡のようなものよ」
シンシアは微笑みながら恐ろしいことを言うが冗談抜きで一生出られないのだろう
「やっぱり壁の見えない屋外型フロアは危険ですよね」
しみじみと言うラルクの表情からしても某かの苦い経験があったのだろう
私を除くこの4人の中ではミーナが一番経験が浅い
転生した期間もそうだが魔物として生きていた時間は人間やエルフのように冒険したりは出来ないのだから色んな智識が欠落してしまっているのも無理はない
「ところで皆さん」
「別れ道があるけれどどうする?」
ここまで延々と一本道が続いていたのだがここに来て道は二手に分かれていた
別れて進むと遭難したり最悪合流出来なくなる可能性もある
「右は森の中」
「左は平野部の抜けて山が見えますね」
ミーナは額に手を当て遠くを見回しながら呟く
ぐるりと見回し再び森の方を見ていた
「とりあえず休憩しましょうか」
「太陽が無いから時間感覚狂ってしまいそうだけど・・・・・」
「たぶんもう夕方になってるわよね?」
「丸々一昼夜以上歩きづめなんだ・・・・」
「そのわりにはあまり疲れないわね」
「ずっと平地だからかしら?」
シンシアが小首を傾げながら唇に人差し指をあてがう
この中ではシンシアとミーナが比較的スタミナが少ない方だ
ラルクやリグルの体力は尋常ではないのでその気になれば一晩中歩いても大して疲れたりしないだろう
「でも困ったわね」
「流石に今夜は帰還するつもりだったけど・・・・」
「このフロアにミーナだけを置いていくのはリスクが高いわね」
「私も残りましょうか?」
「それはダメ」
「増えるのも言い訳大変だけど一人足りないのも言い訳しようがないもの」
「アリエルは何か良い案無い?」
シンシアに言われて思案するがあまり良い案が浮かんでこない
「なぁアリエル」
「ここじゃなくても4階層辺りで一晩過ごして貰って明日合流しても良いんじゃないか?」
「探索隊も探索済みのフロアを夜のアタックしたりせんじゃろう」
リグルの意見は一理有る
とりあえず一行はもと来た道を引き返すことにした
ー・ー
「ねぇ・・・・・・」
「壁が全く近付いてこないのは気のせいかしら?」
「気のせいでは無いと思う」
怪訝そうなシンシアの応えはするが確証はない
しかし事実として壁が見えて来ないのだから戻れていないのだろう
「迷いの森?」
「でも魔法や呪いの類いは感じないんだけど・・・」
「何かの罠の一種?」
「しらない内に嵌められたと考えるべきじゃないかしらね?」
「幻術と言うわけでもないのぅ」
「これは困ったぞぃ」
「最早今何処に向かっておるのかも分からん」
リグルは髭を扱きながら腕を組みながら考え込みラルクは警戒して周りを注意深く観察していた
「ミーナどうかしたの?」
「・・・・・・・・」
「気のせいかも知れませんが・・・・・・」
「いえ」
「やっぱり何でもありません」
「たぶん私の勘違いです」
そう応えるミーナはずっと左側を見ていた
視線を追ってみるがこれと言って変わったものはない
彼女には我々に見えない何かが見えているのだろうか?
「どうやらこの階層は見た目が屋外に見えるけど迷宮のようね・・・・」
「先に進むのも後に戻るのも何かの法則性が有るのかもしれない」
「でも魔力的な変化は感じなかったわよ?」
「シンシアもそう思う?」
「そこが不思議なところなのよね」
「もしかしたら部分的なものじゃなくてこの階層全体にかけられているのかも?」
「認識阻害ですかね?」
「認識阻害だけじゃないのかもしれない」
「トラップのような起動型なら起動時に感知しやすいのだけれど常時発動型だと変化がないから分かりにくいんだよね」
私の意見にシンシアも頷いている
やはり常に違和感が有るが何処から阻害されているのかが分からない
「常時発動型の迷宮ですか・・・・・」
「と言うことは本当にあの木は動いていたのかな?」
ミーナの呟きにみんなの視線が集まった
「なっ」
「何ですか急に」
慌てて1歩下がるミーナ
彼女を見つめる全員の視線は真剣その物だった
「さっき言おうとしたのはソレね?」
「木々が動いているなんて気が付かなかった」
「部屋全体が変化しておるのかもしれんな」
「もしかしたら真っ直ぐに見えておった道も曲がっておったのやも知れん」
「でも道が曲がっていたら影で分かる筈じゃない?」
「シンシア」
「あの太陽がどんな動きをしているのか疑った方が良いんじゃないかな?」
「屋外型で太陽があるから油断しちゃったわね」
「部屋の変化と偽の太陽で方向感覚を狂わされているのかもしれない・・・・・・」
「このダンジョンの陰湿さを忘れていましたね」
「太陽が見えると無意識に方角を意識してしまいますから」
「これはまた陰険じゃな・・・・」
「偽の太陽があるせいで明かりによる道標も分かりにくい」
夏を再現しているのだろうか?
強い日差しに汗ばむ暑さ
風が心地よく感じるがそれも全て侵入者を惑わす欺瞞なのだろう
「ミーナ」
「他に気になることは有る?」
「え・・・・・・と・・・・・・」
ぐるりと見回すが今は遠くに木々が見えるだけで見渡す限り草原の間に延々と道が続いているだけだ
「ふむ・・・・・・」
「範囲拡大魔法解除」
全方位に解除魔法を放つが変化は無い
遠くに有るものも近くにある物も何も変わらない
「今ので変化が見られないってことは魔法じゃないのか魔法を絶え間無く発動し続ける装置が有るのか・・・・・」
「現時点では判別つかないわね」
「・・・・・・・・・」
「どういう理屈で私とシンシアを欺いてるんだろう?」
「シンシアのスキルはそう簡単に誤魔化せるはず無いのに・・・・・・」
「あんまり言いたくはなかったんだけどね」
「私のスキルは対象を認識出来なければ効果がないのよ・・・・」
「魔法や幻覚だって認識することが出来れば看破出来るんだけどね」
「このフロアみたいに何処に欺瞞があるのか分からない状況だと役に立たないのよ」
両手を広げて肩をすくめるシンシア
スキルの内容や発動条件を知られるのは冒険者ならずとも不利になる
戦闘系スキルではないにしてもそれを明かしてくれたと言うのは私達を信頼しての事だろう
「そう言うアリエルはどうなの?」
「常時発動型に比べると強力なんじゃないの?」
「それがね」
「全く分からないのよ」
「もう何が何だか良く分からないわ」
さっきから鑑定と鑑識を行っているのだが結果が良くない
偽装魔法や幻覚魔法の存在は感知できない
解析を使用しても結果は同じ
つまり魔法の類いではないのだ
けれど無機物で構成されたこの身体が毒や薬の影響を受けるはずもない
ではこの状況は・・・・・?
目を閉じて心を静め感覚の全てを遮断していき完全な闇に閉ざされる
自己診断開始
思考に問題は無さそうだ
身体のチェックを開始
視覚
何も見えない
嗅覚
何か変な臭いがする
聴覚
これは・・・・・・?
聴覚と共に視覚が戻りメンバー全員の心配そうな顔が並んでいる
先ず聴覚はアウトか
再び聴覚を遮断して次に移る
触覚
何かが顔に張り付いている気がする
一気に引き剥がしソレが何かを確かめる
ソレは虫のような節のある長い足に長い尻尾が首に巻き付いていた
何処かのホラー映画で見たことがあるような形のソレはおそらく顔に張り付き超音波と麻薬のような物質で幻覚を見せているのだろう
こんなもので騙されるとは感覚を人間を完全に再現したための弊害だろうか?
何にしても魔道装置でもある私に幻覚を見せるとはなかなか凄い能力だと言える
「この光景は皆には見せない方が良さそうね・・・・・・」
頭に化け物が張り付き床に伏していたり壁にもたれ掛かって座っていたりする仲間達
時折手や足がピクピクと動いているので生きているのは間違いないだろう
「あらまぁ」
「他にもたくさんいるみたいね・・・」
魔物を引き剥がし感覚が正常に戻った事を確認すると独り魔物の駆除を始めた
ー・ー
「意外とコイツら面倒ね」
群れとして意識が同期しているのか連携して襲って来る
数もいるため挟撃したり波状攻撃を仕掛けてきたりと中々に器用だ
蟹に長い尾が付いたような見た目だが動きは蜘蛛等の虫のようで素早く不規則に跳ね回る
「皆を起こした方が良いかな・・・」
仲間達を物理結界で包み念動で魔物を捉え一斉に足を開き顔から引き剥がす
「やっぱり魔法生物なんだ・・・・・」
「身体で視覚を塞いで足から出る超音波と魔法の併用で幻覚を見せているのか」
「分泌物に幻覚作用のある麻薬成分が有るわね・・・・・」
「魔法毒と麻薬の複合毒なんだ」
引き剥がした魔物を観察して分析する
シンシアは目を閉じているとスキルが使えない
その上で魔法毒の麻薬と超音波で幻覚を見せられたのだ
そのせいで目の前の魔物を感知できなかったと言うわけか
観察している内に毒の解析も終わり全員に解毒魔法をかけた
あんなモノが張り付いていたせいか皆気分が悪そうだ
各々頭に手を当てて持ち悪そうにしていた




