ゾンビ地獄
「ぷはぁ!!」
「これで一息つけるわね」
「臭いが無いだけでだいぶ楽になりますがやっぱりマスクを付けて戦闘は苦しいですね」
ここは探索を続けていく内に幾つか見付けた部屋の内の1つ
この第6階層は典型的な石造りの迷宮仕立てで扉の付いた部屋に宝箱と罠まである
その中でもゾンビが周りにおらず罠もない部屋は珍しく本来なら収穫の無い「ハズレ」の部屋だが休憩には最適だった
「ねぇアリエル」
「この〈神聖なる光源〉の魔法は毒の浄化作用も有るの?」
「流石に毒に犯された身体を浄化する事は出来ないけれどガス状の毒は無毒化出来るかな」
「発動の過程で魔力で不純物を排除して清浄な状態を作るからね」
「そう言う作用が有るのですね」
「えっ?」
「ガス毒の無毒化で臭いが消えるって言うことは・・・」
「このフロアは全体的に毒で汚染されているのよ」
「ラルクは大丈夫?」
「魔族の身体には悪影響無い?」
「それが不思議な事に何とも有りません」
「神聖魔法は弱点属性になる筈なのですが・・・・・」
「私もそう思ってたから今まで使わなかったんだけどね」
「一般的に知られている神聖魔法は神々の力を顕現させているだけだから魔族には毒になるけれど本来の聖属性魔法は魔族や魔王に対して毒になり得ないみたいね」
「本来の・・・・・?」
「聖属性魔法の原理は正魔法とも言えるわ」
「本来有るべき正しい状態に導く魔法なの」
「だから元々力を得て変化した魔族や魔王はそれが正しい状態とも言えると言うことかな?」
「正しい・・・・・・状態ですか」
ラルクが困惑するのは仕方がない
私の仮説では膨大な魔力に耐えられなくなった身体が最適化するために変異したのが魔族や魔王
本来の死から逸脱し彷徨う不死系は不自然なため効果が有るが進化しただけの魔族や魔王にはあまり効果がなくても不思議は無い
もっとも個体差は有るだろうから魔族や魔王だからと言って無条件に作用するわけではないと言うことだ
神聖魔法が奉ぜられる神からの拒絶であれば聖属性魔法は世界からの矯正と考えられるのでは無いだろうか?
もしそうならば異世界から来た我々は無条件で矯正されると思うのだが・・・・・
「ふぅむ」
「神聖魔法は借り物か」
「もしやダンジョンの深部では神聖魔法の効果が減退すると言うのはそれが原因か?」
「ダンジョンは隔絶された異世界だものね」
「神の力も届かないからその身に借り受けた以上の力は出せないって事かな」
「つまり外では常に神から支援されとると言うことか」
「支援なのか監視なのかは分からないけどね」
「たぶん加護のシステムに関係する事じゃないかな?」
「システムか・・・・・・」
「ミリア教は否定しているけれどやっぱり神話に有る世界を創造した原初の神は存在するのね」
「否定しないと原初の神に信仰を奪われるもの」
「神々の力の源は何であれ信者の数や信仰の度合いによって左右されるみたいだからね」
「信者が多くとも信仰心が薄ければ神の力も減衰すると言うことか」
「帝国がミリア教に屈したのも頷けるのぅ」
昼ご飯は軽めに済ませた
マスクで臭いは遮断出来てもゾンビのグロさは変わらない
見た目の酷いゾンビで気分が悪くなってもマスクを外せば凶悪な臭気が襲ってくるからだ
「このフロアの半分くらいは探索できたのかな?」
「マップを見る限りでは何とも言えないわね」
「まだ外郭が掴めないもの」
「そうね」
「それにしても何でこんな味気無いダンジョンなんだろう・・・・・・」
「転移しているから異空間には間違いないんだし屋外のフロアがあったって良いじゃない?」
「手抜きじゃな」
「そうね」
「適当に作った感は否めないわよね」
シンシアとリグルの身も蓋も無い言葉には妙な説得力があった
なんせあの女神だもんなぁ・・・
ー・ー
「だいぶ奥まで来たようじゃな」
「喰屍鬼も増えてきたな」
「素朴な疑問なんだけど・・・・・」
「時々出てくるあの継接ぎ屍体って傀儡屍体とどう違うの?」
「魔道人形や召喚術ってロクに無い癖にになんか不自然な気がしてね」
「あぁ」
「それはねシンシア」
「ゴーレムは魔法で作られた動く物体の総称である意味動く鎧もゴーレムの一種なの」
「純粋な意味でのゴーレムは魔法回路によって動くロボットなんだけどリビングアーマーやゾンビは低級霊が憑依しているのよね」
「だから理論上は人形に低級霊を憑依させればゴーレムは作れる」
「でも上手くいかないわよね?」
「それは身体に対して人形を動かすのは荷が重いからだと思う」
「魔法回路を刻んだ人形なら低級霊でも動くんじゃないかな?」
「私は特殊な例だろうけど分類上は自立型魔道人形だもの」
「人間・・・・・だよね?」
「心は」
「そうね」
「SFのジレンマはあるかな」
「身体が機械でも人間と言えるのか?」
「機械から生まれた物が生命と呼べるのか?」
「別にそんな事はどうだって良いの」
「私は私だし・・・・・」
「それにね」
「転生した時点で自分かどうかの証明なんて出来やしない・・・・・・」
「記憶を模倣された別の個体じゃないと誰にも証明出来ないんだから」
「それは・・・・・」
「そうよね」
「人間だって有機物で構成されているだけで記憶や考えは電気信号のやり取り似すぎない」
「肉体への命令だって電気信号なんだから線引きは身体を構成する物質じゃないと思うんだよね」
「我思う故に我あり・・・・・か」
「今は哲学的な事は止めましょう」
「考える事は人生を豊かにするかもしれないけれど時と場合によるわ」
「少なくとも今じゃないわね」
「そう言うこと」
「話は終わったかな?」
「そろそろ先へ進もう」
屍喰鬼を倒したリグルが魔石を剥ぎ取り終わると更に奥を目指して探索を続けた
ー・ー
「だいぶ屍喰鬼が増えてきた・・・・・」
「枝道は有るけどわりと単純な作りね」
「やっぱり手抜きじゃな」
「まぁそうだね」
「でも第6層に来て宝箱が増えてきてる」
「でも中身はそれ程良くは無いわね」
「毒耐性の上がるアイテムとか毒消しが有れば良いのに」
「そうじゃな」
「目ぼしいものはたいして無かったのぅ」
「斬撃補正付きの短剣に炎耐性の楯・・・・」
「敏捷補正の腕輪はマシな方かな?」
「少なくともこの階層では使えないアイテムばっかりw」
「ホントに悪趣味と言うかダンジョンに見合ってない感があるよね」
「これで次の階層が水系や氷系だったら意地悪も良いとこよ」
「今のフラグ立ったんじゃない?」
「それはそうと」
「屍喰鬼に混じって屍鬼が出始めたわね」
「私達は問題ないけど屍鬼には気を付けないと屍鬼化したり動く死骸化するものね」
「吸血だけでなく触られても精気を奪われるから用心しないと」
「アリエルでも精気を奪われたりするの?」
「抵抗値が高いからこの程度は問題ないけど・・・・」
「状況にもよるんじゃない?」
「それにしても・・・・・・・・」
「アリエルのその倒し方チートじゃない?」
「私もそう思う」
通路が真っ直ぐな為貫通系の魔法を使えば一網打尽に出来る
武器戦闘では制限されるこの狭い通路は貫通魔法にとってはむしろ相性が良い
もっとも魔力が続けばの話だが
「チートって言うなら止めようか?」
「いや」
「続けてくれw」
幾つかの系統魔法を使ってみたがやはり聖属性が一番効果的だった
火属性も効果は有るのだが焼けるため臭いや煙に二酸化炭素等が大量発生するため1回で止めた
氷系は効果は有るのだが死骸の氷柱は見ていて気持ちの良い物ではないし結局破壊する手間がかかるのであまり意味はなかった
「この階層は普通の冒険者だとかなり苦戦する筈なのに・・・・・」
「アリエルとの相性は良すぎね」
「この階層の天敵じゃな」
「それにしてもこのダンジョンは何のために作られたのかの?」
「階層毎に系統を統一して変化し難易度もバラつきがある」
「かと思うたらフロアの作りは手抜きそのものじゃし」
「実験かしら?」
「この構成だともし階層氾濫を起こしても何処かの階層で止まりそうなんだけど」
「そうよね」
「このゾンビ系の魔物って不死系以外には凄く強いけど動く鎧や動く骸骨なんかには効かないもの」
「もし迷宮氾濫を起こしても第5階層迄なんじゃないかしら?」
「私もそう思う」
「第7階層以降に毒耐性の強い魔物がいれば別だけど・・・・・」
「この構成だと深層からの氾濫は起きても内部で防がれそうよね」
「初期配置だけでなく再配置の魔物も変えられたんじゃろうか?」
「それは有るかも?」
「リグルの言うことには一理あると思う」
「それにしても陰険な構成よね・・・・・」
「踏破させる気無いんじゃない?」
「迷宮氾濫以外に何か目的が有るんでしょうね」
「とにかくこの迷宮はフロアマップと宝箱の配置以外は改造されたと見る方が良いのかもしれない」
「アリエルの言う通りだと思う」
「構成が不自然だもの」
「でもだとしたら誰が何のために?」
「氾濫を誘発して勇者を誕生させるならともかく」
「クリアを阻害するだけのダンジョンなんか誰も得しない気がするんだけど・・・・・・」
「私達みたいな転生者を選別するためなのかもね」
「このダンジョンを踏破出来るレベルの冒険者は転生者ぐらいなものでしょ?」
「ならばワシ等はそれに該当するわけじゃな?」
「罠かはたまた別の何かか・・・・」
実力者を炙り出したいならこのチグハグな設定も理解できなくもないけれど・・・・・
もしそうならばやはりミリアでは無い他の神か魔王の仕業なのだろう
「とりあえずは第10階層を目指すしかないか」
ゾンビ退治が最早流れ作業に成り果ててしまったのでつい話が増えてしまう
かと言って軽く倒せるものをわざわざ剣で斬り付け汚れる趣味は無い
魔法の明かりを目印に着々とマップを完成していった
ー・ー
ズビュン
ズビュン
「なんだか私だけゾンビゲーやってる気分だわw」
見付けたゾンビやグール相手に貫通性の高い聖属性の光線魔法を撃ち続ける
人間に亜人獣人や獣までゾンビの種類は豊富すぎてウンザリする
飛び出てきたりグールがゾンビを捕食していたりワイトの群れが部屋に隠れていたり
「ゾンビ映画とかにもありそうなシチュエーションね」
「薄暗くないから射的場みたいな感じもするけど」
「暇そうねシンシア?」
「え?」
「ラルクも暇よね?」
「えぇまぁ・・・・・」
私は3本の学習の巻物を取り出すと〈聖光貫通弾〉を唱え3人に渡した
「ワシには聞かんのじゃなw」
「だってリグルはこう言うの好きでしょ?」
「かっかっかっ!」
「確かに好きじゃわw」
そこからは4人で協力してアンデッドを殲滅しながら探索を続けた
ー・ー
「やけに天井が高いわね暗くて見えないわ」
「広さもあるし・・・・・・・」
「ボス部屋と言うわけではなさそうですね」
「奥に通路が見えます」
「じゃが何もおらんのはおかしいのぅ」
「今までは大広間と言っても天井は低かったし大抵はゾンビが犇めいとったが」
「罠は無さそうだけど不自然よね」
「天井を照らしてみましょうか」
そう言うとシンシアは魔法の明かりを天井に飛ばした
「グゴォガァァアアアアッ!!」
大気を震わす程の咆哮をあげ何かが天井から飛び降りてきた
ズズンッ!!
地響きをたてて着地したソレの振動と風圧で霧のように埃が舞う
色んな意味でゾッとする光景だが皆はマスクをしているし私も風の結界を張って防いだ
「今のは・・・・・・?」
「かなり大きかったけど」
「来るよ」
皆が一斉に聖光貫通弾を乱射すると埃に乱反射して辺りが真っ白に染まる
この魔法は物理攻撃力は皆無だが光の性質を持っているため鏡や物体は反射する
貫通出来るのはあくまで邪悪な存在だけなのだ
「皆撃つのを止めて!!」
「使う魔法を失敗したわ」
「これじゃ何も見えない!!」
乱反射する魔法で辺りがホワイトアウトした瞬間撃つのを止めたのだが状況はあまり変わらない
魔法の明かりが埃に反射して白い壁のように見える
「どこじゃ???」
「奴は生命感知でこちらの居場所が分かるのか?」
リグルが武器を構え周りを警戒する
シンシアとラルクは背中合わせに立ち互いの死角を補っている
「落ちた後の動きがないわね・・・・」
「アレで死んだわけでも無いだろうし」
「グルルルルルルゥ」
ズザッ
ゾゾッ
ガッ
「いるわねぇ」
「唸り声って事は獣かしら?」
「どうじゃろうなぁ?」
「じゃが何故直ぐに襲ってこなんだのじゃろうか?」
「不死系ならば視覚ではなく生命感知で見る筈ですよね」
ラルクの言う通り不死系の魔物は生命感知や魔力感知で相手を見る
その生命力や種類も見分けられるようで傷を負った者や子供を狙いやすい等個体差が有る
「何か変だね」
隙を窺っているというよりどこか攻めあぐねているような印象がある
遠巻きにグルグルと回っているような音が響いている
「ある程度実力差を認識できるだけの知能が有るのかもしれないわね」
「他のゾンビ達には初期配置の異質さが無かったから・・・・・・」
「中ボスとボスだけ強化されてる感じなのかな?」
「だとしても知性の有るゾンビって何か心当たり有る?」
「グール系か吸血鬼系ですかね?」
「身体が腐っていない闇の生命体ならば知性はあると思いますが・・・・・・」
「あの大きさはちと記憶に無いの」
「ゾンビでは無さそうじゃがグールの亜種やもしれん」
全員で警戒を続けるが魔物は周回するだけで襲って来る気配はない
暫くすると次第に埃も落ち着いてきて視界が開けてきた
「なんじゃあれは・・・・?」
リグルが呟くのも無理はない
全長は3m程だろうか?
2本の足に6本の腕
長い首の先には髪の無い人間の頭が1つ付いている
胴体は不自然な長さで全体的に青白い
形容しがたいこの魔物は6本の腕で天井に張り付いていたのだろう
足はあまり使っている感じは無く四つん這いになり腕を使って移動している
掌を擦るように移動するため独特な音を立てていた
「何と言うか・・・・・」
「ホラー映画の合成クリーチャーみたいね」
「鑑定が阻害されてるからコレが何なのか分からないわ・・・・」
「見た感じ腐肉を食べる捕食者なのは間違いないと思う」
「呼び名が無いと不便じゃの」
「じゃが話が通じるようには思えんな」
能面のような青白い顔からは表情は見てとれない
呼吸をしているのか時折少し口を開いて小首を傾げている
「獲物を狙う動物って感じがするわね」
「本能的に私達を危険だと感じているのかしら」
「だとしたらアレはやはり生き物なんですね・・・」
「闇属性の猛獣みたいな魔物ですか」
「じゃが攻めてこんのはやりにくいのぅ」
「隙を見せれば襲って来るのかの?」
「アレが何に脅威を感じているかによるんじゃないかしら?」
「もし高度な魔力感知でアリエルを見ていたら隙を見せても襲ってこないと思う」
「アタシは熊避けの鈴ですかw」
「ある程度の知能があって魔力感知が鋭ければよってこんか」
「ならどうするんじゃ?」
「こっちから攻めるしか無さそうね」
言うと同時に私は動いていた
近付くと生命感知が反応する
やはりアンデッドではなく生き物なのか
「なんか固そうだなぁ」
聖光貫通弾を放つが体表で弾かれてしまった
「アンデッドじゃないのか」
「と言うよりこの感触は・・・・」
続けて〈炎の矢〉と雷の矢を放つがやはり体表で弾かれた
「やっぱり対魔法能力が高いのねっ!」
〈炎の弾丸〉を乱射し牽制しながら全速力で間合いを詰める
20m程の距離を僅か数秒で一気に駆け寄り頚を狙い剣を振るう
ザシュッ
「あら?」
「意外と軟らかいわね」
斬り飛ばされた頭が宙を舞い数メートル後ろに落下した
何とも呆気なく勝負が付いた
「結局何だっんだろコイツ?」
確かめようと近付いた瞬間ソレは動いた
「頭はフェイクですか!!」
飛び掛かってきたソイツの肋骨部分が縦に割れ鋭い牙が並んだ口が大きく開く
両足で立ち6本の腕で私を抱え込む様は本当にホラー映画の化け物その物だった
「アリエル!!」
「心配しなくても大丈夫だよ」
私は捕まれた瞬間腕の付け根を踏みつけ噛まれないように踏ん張っていたのだ
しかし6本の腕に両腕を捕まれ剣を振るうことが出来ない
「とりあえず・・・・・」
「大した知性が無いのは分かったわ」
「でも並みのグール程度には賢いようね」
私はヤツの口の中に熱線の魔法を放ち息の根を止めた
ー・ー
「結局コイツは何だったのかしら?」
魔物は至近距離から熱線に焼かれ煙をあげている
その不気味な死骸を前に腕を組んで立つシンシア
魔法で撃ち抜かれたその残骸からはゴルフボール程の魔石が出てきた
この大きさはこの魔物がゾンビやグール程度ではなく強力な魔物だったことを示していた
「見た感じではグールの系統だったのかな?」
「魔石はだいぶ大きいけどアリエルが規格外過ぎて参考にならないわね」
「普通に考えるとかなり強い魔物だと思う」
「魔法抵抗力は異常に高いしコイツの皮は魔法を弾くもの」
「でも口の中は別だったみたいね」
「そうね」
「案外簡単に斬れたから白兵戦をメインに傷口から魔法を捩じ込んで戦うのがベストなのかな?」
「そうかも?」
「でもコイツが再配置されたら普通の冒険者には手に余るわね」
「じゃが確認のためにもう一度この階層に挑むのは勘弁して貰いたいもんじゃな」
「確認どころかまだ踏破できてないわよw」
「まだあるのよね・・・・・・・」
嘆くシンシアの視線の先には迷宮の暗闇が続いていた




