武者の凶宴
「まだ終わらんのか・・・」
両手の指を壊され槍を握る事が出来なくなった鎧武者は僅に左を前にして身体を少し屈めている
両手の平は自然に開いて下に向け静かに佇む
「その構えは・・・」
私は両手を真横に広げ静かに力を抜いた
両掌から刀がこぼれ落ち小さな音を立てて床に突き刺さる
「フッ!!」
次の瞬間鎧武者の懐に飛び込み右の拳を繰り出す
ブワッ!!
飛び込みながらの中段突きの勢いを利用され身体が宙を舞う
予想通りの投げに抗わず身体を回転させて膝蹴りを見舞うが手を離し躱される
「やっぱり・・・・・」
「古式合気柔術か」
私は左半身になると左手を上げ右手を丹田の前に構える
重心は後ろへかけてジリジリと間合いを詰める
「ワガワザヲシッテイルノカ?」
鎧武者は見事な摺り足で近付くと両手で打ちかかってくる
それを両手で上から潰すように叩くと流れるように受け流されカウンターの肘打ちが襲い掛かる
「器用ね」
肘を左手で捌きながら右下腕を回し鎧武者の腰を捉えるとそのまま上へと跳ね上げ投げ飛ばす
「シンクウナゲダトッ???」
器用に空中で身体を捻り着地する鎧武者
驚きの声をあげるが容赦なく追い討ちをかける
投げた回転を利用して踏み込みながら左の鉄槌を振り下ろす
「グガッ!!」
如何に合気の使い手でも体勢を崩され捌けない角度から打ち込まれれば受けるしかない
ヒットした鉄槌の拳を開き鎧武者の頭を掴むと顔面に膝を叩き込む
「ガァッ!!」
鎧武者は自ら仰け反りダメージを逃がすと掴みかかってくる
しかし潰れた指では掴むこと叶わず裾が指からすり抜ける
「悪いけどこのまま終わって貰うわ」
鎧武者の腕を取り大外刈で地面に叩き付ける
流れるように馬乗りになると小太刀を引き抜き鎧武者の首筋に差し込んだ
シキィンッ
硬い何かが切れる音がして兜が外れて落ちる
ぽっかりと開いた首の穴から魔石を剥ぎ取ると鎧武者はそのまま動かなくなった
ー・ー
「お疲れ様」
「さっきの鎧武者はやはり日本人だと思いますか?」
「間違いないでしょう」
「卓越した槍術に合気柔術」
「日本人でなければ説明つかないわ」
「と言うことは・・・・・?」
「条件次第で肉体が滅んでも魔物化するって事なんじゃないかな」
「しかも迷宮に閉じ込められたり条件付けさせられる事もある・・・・・」
「私達転生者はこの世界では奴隷みたいなものって事?」
「冗談じゃないわ」
「それはちょっと違うかもね」
「シンシア・・・・・・」
「この世界に存在する全てのモノは生きていても死んでいても神の玩具って事よ」
「転生者に限らないわ」
「・・・・・・・・・・」
「そうね」
「嫌になるわ」
辺りを探索するが鎧武者が座っていた以外に罠も何もなく後は扉を残すのみ
「さっきの事もあるから私が開けるわ」
ドアノブをゆっくり回す
調べた感じではドアノブの穴等の細工はない
ゆっくりと押して開いていく
ガギンッ!!
今度は扉が開ききる前にギロチンが落ちてきた
しかし私の身体はこの程度のギロチンで傷つく筈もない
ギロチンの刃を下に落として足で押さえると金砕棒を使い両サイドの溝を壊した
これでギロチンは使い物にならない
「切れないって分かっててもヒヤッとするわね」
「人間用の罠は私には効かないからね」
「まだ落とし穴の方が効果あるかもw」
中に入ると幾つかの箱が置いてあった
近寄ると家紋の入った漆塗りの箱だと分かる
「日本の家紋・・・・・・・」
「だよね」
「そうね」
「この世界の家紋章とは違う」
「こう言うものは初めて見るわ」
「この世界の家紋は西欧式で動物や武具が描かれます」
「稀に日本の家紋に似た物も有りますが・・・」
「その手の家紋はほぼ日本人転生者の物」
「それにこの家紋は六文銭じゃ」
「この世界少なくともこの周辺国にこのような貨幣は無いし六文銭の意味を知る者はおらん」
「じゃから六文銭の家紋は異国か転生者じゃと断定できる」
六文銭
三途の川の渡し賃である六道銭を由来としている家紋である
「家紋の入れられた漆塗りの倭櫃
か・・・」
「けれどこの家紋を背負っていたにしては・・・」
「そうじゃ」
「あの武者達は赤備えではなかった」
「六文銭じゃからと言って真田家ではないかもしれん」
「じゃがなぁ・・・・・」
「ここに家紋入りの櫃があると言うことはやっぱり日本人が関わってるって事よね」
「とりあえず中を確認してみましょうか」
積もった埃を優しく手で払い除けると美しく漆塗りが施された表面が現れる
金具は無い
蓋に手を掛けるが重く中々持ち上がらない
「リグル」
「ちょっとそっち持って」
精巧に作られた櫃の蓋は密着して開かせまいと抵抗する
リグルと2人でゆっくりと持ち上げなんとか開けることが出来た
「想像より凄いわね・・・・・」
漆塗りの蓋の中には桐とおぼしき白木の蓋が閉められていてその中に納められていたものは女物の着物と装飾品だった
絹の布に包まれた煌びやかな金や銀の簪
柘植の櫛は一つずつ丁寧にくるまれている
金糸や銀糸の織り込まれた絹の着物と帯の数々
そのどれもが美しく絵柄や色彩から若い女性のものだと分かる
そしてそのどれもが着られた後の物であったが丁寧に畳まれ中に収まっていた
「リグルこれって・・・・・・」
「恐らく姫か令嬢の遺品じゃな」
他の櫃を開けてみると赤備えの鎧や武具が収められた物があり宝物の収められた櫃もあった
10個ほどあった櫃は各々主君や姫君の遺品と見られあの鎧武者はこれ等を守っていたようだ
「この迷宮は歴史の有る物ではない」
「なのに何故このような物があるんじゃ?」
首をかしげて悩むリグルを他所に櫃は全てストレージに入れておく
研究するにしても保管しておくことに越したことは無い
それにどうせ後続が全て持ち去るのだからあえて置いて行く意味はない
「さて・・・・・」
「残るは弁慶のいた通路の奥ね」
「そうね」
「攻略に時間がかかっちゃったから急ぎましょうか」
シンシアに促され急いでその場を立ち去ったのだった
ー・ー
ギキィィィンッ
「まんまと分断されたわね」
「今まで大鎧が単体でしか攻めてこないから油断してたわ・・・・・」
弁慶の守っていた通路を進み大広間へと足を踏み入れた
柱の無い大広間は何処と無く違和感が有った
そもそもダンジョン内部は異空間である
外観に対して広大なフロアが有ることも珍しくなく屋外のような場所もあり天候さえ変わるものも有るのだとか
このフロアも天井が見えないのだが見えないどころか天井が無い可能性は高い
柱が無いのは遮蔽物が無く待ち伏せを心配しなくて良い
そう思っていた
「シンシアはラルクと一緒か」
「上手く立ち回れば何とかなりそうね」
「リグルは???」
「戦っている気配はするけど分断されて闇の中か」
壁さえ見えない大広間を進んでいると鎧武者達がいきなり上から襲ってきたのだ
大鎧が8体降ってきて2体1組で襲ってくる
大鎧の連携攻撃で前衛の私とリグルは分断されシンシアとラルクは近かった為分断されずにすんだ
「2体1ですか」
「それでも役不足だね」
この大鎧は数こそ多いが弁慶や十文字槍に比べると弱い
迷宮のそこかしこにいた大鎧よりは強いようだがそれ程苦戦はしないだろう
ガゴォンッ
横薙ぎの一撃が兜を吹き飛ばし手を突っ込んで魔石を剥ぎ取る
背後から襲い来る大鎧に足払いを仕掛け転倒したところを兜を金砕棒で吹き飛ばし難なく魔石を剥ぎ取った
「これぐらいの雑魚なら問題ないか」
先にリグルを助けようと動いた瞬間殺気が生まれる
「また上から???」
「冗談でしょっ!!」
上からの斬撃を躱しつつ辺りを見回す
今のところ増援が来たのは私だけのようだ
「これってもしかして倒したらお代わりが落ちてくる仕組みなの?」
「だとしたら攻略は討伐じゃなくて他に有るって事か・・・・・」
「多少強引でも合流する必要が有りそうね」
私は意を決して金砕棒を振るいリグルとの合流を図ろうと強引に攻め立てる
するとそれを察知したのか阻止しようと動く鎧達
「リグル!!」
「ここの達成条件は討伐じゃない!!」
「わかった!!」
「強引じゃが下がってシンシアと合流する!!」
リグルは強引に金砕棒で大鎧を押し退けると反撃をものともせず駆け出しシンシアが相手をしていた大鎧を打ちのめした
「リグル?」
「無事だったのね」
「コイツ等何か変なのよ・・・・・」
「どうしたんじゃ?」
「積極性に欠ける気がするのです」
「引いても追い撃ちをかけようとしないくせに進もうとすれば執拗に邪魔してくる」
「ラルクの言うように積極性に攻めずこちらの消耗を誘っている感じね」
「アリエルは?」
「アリエルはワシと合流しようとしたんじゃが失敗した」
「あの辺りで3体を相手にしておる筈じゃ」
リグルが合流するや否や1体は踵を返し私の方へと合流していた
「んー」
「倒すとお代わり出ちゃうんだよね・・・」
私は攻撃を捌きながらストレージからもう1本金砕棒を取り出した
2本の金砕棒を巧みに使い攻撃の全てを捌いていく
ガガンッ!!
「アリエル!」
「この後はどうする?」
鎧武者を強引に弾き飛ばしリグル達が合流してきた事により私達を鎧武者達が8方向から包囲する形になった
「倒せば上から補充されるわ」
「ここのクリア条件は討伐じゃないかもしれない」
「うむ」
「じゃが一定数討伐の線も残っとるな」
「2人は何体倒したの?」
「私達は4体倒したのだけれど魔石は回収出来なかったわ」
「代わりが出現したのはそのせいかと思ったんだけど・・・・・」
「ワシも3体潰したが魔石は取れなんだ」
「私は2体倒して魔石を剥いだけど2体降ってきた」
「魔石を剥ぐかどうかは関係無いみたいね」
「うぅむ」
「となるとやはり討伐数の線は薄いか」
「コイツ等を連れたまま探索するのは骨が折れるわね・・・・・・」
「取り敢えず明かりを飛ばして見ましょうか」
シンシアは方眼状に20m間隔で明かりを飛ばして探索の基準点とする
後ろには飛ばしていないので前方には1辺10個の明かりが浮遊し200m四方を照らし出す
「皆、何か見える?」
「左は何もない」
「右も見えないわね」
「なら前進有るのみ」
「リグルは後方警戒、先陣は私が努める」
「シンシアとラルクは左右に対処して!」
「了解!」
「まかせろっ!」
4人は紡錘陣形に近い形で走り出す
ガゴンッ!!
ドガシャッ!!
2本の金砕棒で目の前の鎧武者に諸手突きを放つ
鎧武者は刀で防御するが構わず押し倒し上を乗り越え続くシンシアが手を狙い刀を弾くとトドメを刺さず通り過ぎた
最後にリグルが乗り越えて包囲網を突破する
「上手く抜けたわね!」
前方に敵はおらず後ろから追いかけてくるのが分かる
しかし障害物の無い我々が追い付かれることはなくズンズン先へ進む
「どうなってるのよこの広間は!」
最後の明かりが見え初めた
シンシアは再び明かりを飛ばし先を照らす
「正面じゃないの?」
「でも突き当たるまでは前へ進みましょう」
初めから数えて4回目の魔法を唱えるとやっと構造物が見えてきた
「あれは・・・・・・」
「屋敷?」
「日本の武家屋敷みたい」
白壁の塀に囲まれた瓦葺きの屋根
木製の大きな門も今は閉ざされている
「彼処がこの階層の最奥でしょうね」
「私が閂を斬ります」
「リグルは扉を!!」
「わかった!!」
扉に駆け寄りながら金砕棒をストレージに放り込み居合い斬りで閂を斬り落とす
同時にリグルの重い一撃が勢い良く扉を開け放つ
「早く中へ!!」
開いた先には鎧武者はおらず広い中庭が広がっていた
「アリエル!!」
シンシアの叫びに後ろを振り向くと門の入り口で鎧武者達が止まるのが見えた
「どう言うこと?」
「あの鎧武者はここには入ってこないの?」
「そのようじゃな」
鎧武者達は刀を鞘へ収めると2列に並び仁王立ちとなった
その後動き出す気配は無く静かに佇んでいる
「あくまで外の衛兵って事なのかしら?」
ラルクが門へと近付くと鎧武者は一斉に束に手を添えた
「どうやら後戻りはさせて貰えないみたいね」
「とりあえずあの建物の中に入りましょうか」
踵を返し中庭を奥へと進んで行った
ー・ー
「ねぇシンシア・・・・・」
「どうしたの?」
「これは靴を脱いではいるべきなのかな・・・・」
目の前には奥まった引戸の玄関がある
その前には板張りの式台が設えたある
式台にも玄関前の板間にも傷1つ無く汚れどころか埃一つ落ちていない
日本人の感性としては土足で上がるのは抵抗がある
しかしここはダンジョンの中である
「ワシはやはり日本人じゃ」
「これだけのお屋敷に土足で上がるのは気が引けるわ」
リグルは式台に腰掛けると真っ先に鉄靴を脱ぎ始める
私達も視線を交わすと各々靴を脱いでストレージに入れた
「一応皆の足には清浄の魔法かけておくね」
「すまんなアリエル」
裸足に重装鎧と言うのも変な出で立ちだがそれも仕方がない
私とリグルの金砕棒をストレージにしまい代わりに太刀を渡す
ここからは天井の低い屋内である
金砕棒のような武器は振り回せないし身動きが取れなくなる
太刀も長いのだがそれより短いと鎧武者を相手にするには不安が残る
「先頭は私が努めます」
「至近戦が一番得意なのはたぶん私だから」
「ワシは後ろを警戒するとしようか」
式台から中に入ると正面と右側に引戸があった
「たぶん右は控えの間だよね」
「やっぱり鎧武者がいるのかな?」
引戸をゆっくり開けると案の定鎧武者が3体正座して控えていた
「どう言うこと?」
「玄関を入らなければ襲ってこないのかしら?」
じっと俯いて座る鎧武者の動く気配はない
刀も腰に刺さず傍らに置いてある
「何にしても今は戦う必要はないと言うことね」
私は踵を返すと正面の引戸を開いた
その先には左右に板張りの廊下が続いており漆喰の土壁が日本家屋である事を物語る
「控えの間の鎧達は動かんようじゃな」
最後のリグルが呟いて引戸を閉めた
ー・ー
「何だか怖いわね・・・」
板張りの廊下は控えの間を通り過ぎる頃に左へと曲がっていた
そこは左右を障子に挟まれた廊下で歩く度ギシギシと音が鳴る
そして障子の向こう側には定期的に灯りが瞬いておりその灯りが廊下を照らし夜のお屋敷を連想させた
「灯りが有るのは有り難いわね・・・」
「でも両側が障子なのは落ち着かないわね」
時折障子に人影が写し出されており向こう側に鎧武者であろう者が控えているのだと思われる
ギシギシと鳴る床や障子に写る人影に警戒しながらゆっくりと歩を進めた
少しの距離が長く感じられ不意に左側の障子が消えた
「中庭・・・?」
「見事な庭じゃな」
一段下がった中庭には白い砂が敷き詰められ小さいながらも池があり石造りの小さな橋がかけられていた
池の向こう側には立派な松の木がまるで大きな盆栽のように幹をうねらせ枝を伸ばしている
そしてその庭を石灯籠からの灯りが照らしていた
「立派な中庭だけれども石灯籠の灯りだけだと怪談話の出てくる神隠しのお屋敷みたいでちょっと怖いわ」
シンシアの言うことはもっともだが魔物や動く死体のような物が跋扈するこの世界で怪談話が怖いのだろうか?
なんと無く込み上げる笑いを抑えながら先へと進む
「このまま中庭を回り込むのかしら?」
奥へと進んでいくと中庭の正面の障子が開いていた
「彼処から先へと進む感じかな?」
「そのようね」
歩みを早めるわけでなくゆっくりと奥へ奥へと進んで行った




