最強の駒
「王が倒れたら終わりじゃないの???」
「どうやらチェスはモチーフになっとるが王手は無いようじゃな」
「ラルク!!」
「女王は任せて!!」
「了解!!」
「騎兵はこちらで処理します!!」
騎乗槍突撃で一撃離脱を繰り返す騎兵に対し杖を振り回し魔法を使う女王は司祭に似ている
司祭と違うのは騎兵には劣るものの高速で縦横無尽に走り回る事と細身の長剣で近接戦闘を行うことだろう
ヒュバッ!!
「こんのっ!!」
「アバズレ女王がっ!!」
魔法弾を拳で弾き続く女王の突きをサイドステップで躱す
遠距離からの魔法弾を追って突撃してくる女王は並みの冒険者では苦戦するだろう
純粋に素早く重い剣擊で圧倒してきた王に対し遠距離では魔法を使い近付けば剣技も鋭く隙がない
一撃の重さでは王に劣るものの手数の多さと攻撃の多彩さを考えれば明らかに女王の方が強いだろう
流石チェス最強の駒だけの事はある
「シンシアはラルクの援護を!」
「リグル!」
「至近距離で仕留めるよ!!」
「応よっ!!」
リグルは炎の矢を避けず鎧で受けとめる
鎧の各所で炎が弾けるが気にせず突撃してくる女王を見据え斧でその剣を受け流した
ヒュルンッ!!
剣を受け流された女王はその場に止まり回転してリグルの頭を薙ぎ払う
「甘いっ!!」
リグルはバックステップで剣を躱すと斧を構え追撃に備えた
「敵は独りじゃないんだよっ!!」
回転攻撃を終えた女王に飛び付き頭を捻りあげる
人間よりも固い首は横に傾ぐ
しかしそれ以上は回らず左手の長剣と右手の短杖を振り回し抵抗する女王
「流石に自分を捲き込んで魔法は撃たないか」
「でもっ」
「ちょっと!!」
「暴れすぎじゃない???」
振り落とされそうになるが女王の背中に取り付きロデオのようにしがみつく
ドレスのような鎧から素肌に見える部分は細い鎖帷子でできており他の鎧達のようにはいきそうにない
「流石女王ってこと?」
「防御力高いじゃないの!!」
とは言え溶接されたりはしていない筈
それでも他の鎧に比べかなり強固であり今までのように打撃で首が落ちるイメージは湧かない
と言うより他の鎧はどうなっているのだろう?
中身は無くがらんどうで関節部にも鎖帷子のような物はない
やはり魔石から発する魔力で擬似的な身体を形作っているのだろうか?
「首が落ちないならこれでどうかなっ?」
ナイフを首筋から鎖帷子と鎧の間に差し込む
ザキッ!
根元まで差し込むが穴が空いたような感じはしない
どうやら鎧の下も鎖帷子で身体が作られているようだ
「こんな構造見たこと無い」
ナイフを差し込まれ狂ったように暴れる女王
不思議なのは女王の稼働範囲は人間のそれと変わらない事だ
もしロボットのような動きをされれば危なかったのだがこれは動く鎧の成り立ちが関係しているのだろうか
「下がダメなら上はどうかなっ?」
シャガッ!
女王は鎖帷子が人の形を成していて継ぎ目など無い
唯一仮面と冠が別のパーツになっている
その仮面との隙間にナイフを差し込んだ
カキィンッ!!
アァアアアアアアッ!!
仮面を引き剥がされ叫び悶える女王
あまりに激しく暴れまわるため振り落とされてしまった
「仮面が剥がれて穴が丸見えだけど・・・」
「あそこから手を突っ込むわけにはいかなそうね」
全身鎖帷子で作られた女王には穴を空けて魔石を取り出す戦法は無理そうだ
腹を括って倒すしかない
「リグル!!」
「持久戦になるよ!!」
「わかった!!」
鎖で編まれたスカートを翻し踊るような優雅さで魔法を撃ちだし疾風のように剣で突き刺してくる
美しくも恐ろしい女王を相手に少しずつダメージを重ねていく2人
「あのスカートのせいで脚が狙えない・・・」
「身体の方も鎖帷子は手応えが鈍くて効いとる感じがせんのぅ!!」
ボンネットで膨らんだスカートの中では恐ろしいスピードでステップを踏んでいるのだろう
女王の激しい足音に地面が震えていた
ー・ー
「加速気流!!」
シンシアの一撃が騎兵の速度に迫り側面を捉えた
ギィィンッ!!
突進からの一撃が騎兵の楯を捉えて足を止めさせる
「うぅぅぅーーーらぁっ!!」
ガギャンッッ!!
気迫のこもったラルクの一撃が騎兵の右前足を捉えその膝を砕く
人間ならば降りて戦うのだろうが人馬一体となっている騎兵はそうもいかずバランスを崩し素早く動けなくなっていた
ガンッギンガギンッガゴッッ!!
連続で剣を振るうラルクにランスを振り回して応戦するが勢いの無いランスではたいした威力は無い
機動力を失いラルク相手に足を止めたのは致命的だった
ガコォォンッ!!
背後から強襲したシンシアの一撃で兜を吹き飛ばされた騎兵
続いて背中に取り付いたシンシアが中から魔石を引き剥がした
「お待たせ、ラルク」
「アリエル達は苦戦しているようね・・・」
足元で屑折れる騎兵の身体から飛び降りるとラルクが駆け寄ってきた
「さっきから女王は魔法を撃ってませんね・・・」
「至近距離だと打撃だけになるんでしょうか?」
「急いで加勢に向かいましょう」
ラルクは無言で頷くと2人揃って走り出した
ー・ー
「あぁもぅ鬱陶しいっ!!」
チャギッキィィンッ!!
女王から魔石を抜き取るのを断念した私は抜刀して鎖帷子を狙う刺突攻撃に切り替えていた
突いて払う事により鎖を断ち切るのだ
「これは骨が折れるわぃ」
リグルは重い戦斧を振り回し重い一撃で女王の短杖を破壊していた
女王は短杖の魔石が無ければ魔法が使えないらしく幾分戦いやすくなっていた
「それにしてもっ!!」
「硬いわねっ!!」
ギチィィンッ!!
「まだ穴が開かないとか何なのよ???」
「まるでミスリルで出来ているような違和感じゃなっ!!」
「見た感じ鉄なんじゃがなぁっ!!」
遠心力を乗せて振り回すリグルの一撃はその一つ一つが必殺の威力を持っている
その攻撃ですら鎖帷子は断ち切れない
短杖も持っていた指を破壊して落とさせたようなもの
この女王と対峙していると先程の王が可愛く思えてくる
ビュオッ!!
ガシャンッッ!!
私達2人の連携で足を止めていた女王の頭をシンシアの猛烈な一撃が捉えた
ビュォンッ!!
「うわっとっとっ!!」
女王の反撃に慌てて跳び退くシンシア
その女王の頭は無惨に歪んでいた
「何なのコイツ?」
「頭が吹き飛ばない???」
「シンシア、ラルク!!」
「コイツは全身が鎖帷子で出来てるから気を付けて!」
「なんて意地悪なのよこのボスは・・・」
4人で囲み連携を取ることで女王に届く攻撃が増えていく
いかに高速で走れようとも4人に囲まれ機動力を奪われ手数の多い攻撃を捌くだけで反撃の回数も減ってきた
ガギンッッ!!
ガランガランッ!!
ラルクの渾身の一撃が左手首を捉え砕けた指から細身の長剣が滑り落ちる
これで女王は丸腰になった
「喰らえっっ!!」
すかさずシンシアが背後から襲い掛かり背中を強打された女王を前につんのめる
「もう一丁っ!!」
ガゴンッッ!!
その背中にリグルが強烈な一撃を叩き込み遂に女王は床に倒れた
「これならどうだっ!!」
私は倒れた女王に駆け寄るとその両足を掴みうつ伏せの状態のままジャイアントスイングを仕掛けた
高速で振り回す間女王も抵抗するがガッチリと捕まれた足が離れる事はない
十分に遠心力が乗ったところで軌道を変え上から床に叩き付けた
ガシャァアアンッ!!
派手な音を立てて叩き付けられた女王は両腕で頭を庇ったせいで肘から先が力なくぶら下がっていた
「まだまだぁぁっっ!!」
叩き付けても足はホールドしたままだったので再び回転し始める
女王は再び踠くが両腕は自由を失い先程より力が無い
「喰らいやがれぇえっっ!!」
再び床に叩き付けた女王はそのまま動かなくなった
ー・ー
「ホントに上から下まで鎖帷子なんだ・・・」
念のため両足をリグルが押さえ両腕はシンシアとラルクが押さえている
胸当ての隙間にナイフを差し込んで引き剥がすとその下にはドレスのような鎖帷子が出てきた
服のような作りの合わせ目にナイフを差し込み剥がしていくと中から特大の魔石が現れる
「この魔石王様より大きいわよ?」
倒されはしたがまだ輝きを失っておらずその妖しげな紅い輝きは何処か魔性の魅力を感じた
「このチェス軍団が再配置されたらって思うと気が重いわ」
「骸骨の戦禍王みたいにランクダウンするかもよ?」
「そう願うわ」
「でないとこの階層を攻略する度に大規模討伐依頼が出されることになるわ」
「それこそ悪夢ね」
「それはそうとアリエル」
「なぁに?」
「流石に帰還するわよね?」
「そうね」
「今日はちょっと疲れすぎたわ」
奥の帰還結晶を確認すると後続と合流するまで休憩して地上へと戻った
ー・ー
「おめでとうございます!!」
「第4層大変でしたね!!」
動く鎧だらけの第4階層は粗方駆逐してはいたが後続のパーティーも撃ち洩らしたモノや再配置されたモノと交戦し苦戦していた
散乱する残骸の数と自分達の苦戦具合を地上に伝えていたのだろう
ボス戦以外の状況は既にガードナー達の知るところとなっていた
「第4層は散々だったわ」
「取り敢えず今日は休みたいので報告は後日でも構いませんか?」
「わかりました」
「良く休んで下さいね」
シンシア達3人はよほど疲れたのだろう
クロエ達が作ってくれていた夕食を食べ終わると早々に眠りについたのだった
ー・ー
「おはようございます!!」
「報告を受けましたが昨日のご活躍は凄かったそうですね!!」
朝から暑苦しいガードナーの言葉に内心辟易していた
私自身は睡眠等必要無い
なのにあの迷宮に潜ると疲労感が凄いのは魔力阻害を受けるせいだろうか?
「おはようございます」
「ちょっとメンバーと打ち合わせしたいので失礼しますね」
ガードナー達をあしらうとパーティー用に用意された大きな天幕に入る
既に全員が揃っておりクロエの作ってくれた朝食をたべるところだった
「おはよー」
「昨日は眠れた?」
「おはようアリエル」
「昨日は無茶な戦い方をしたから身体が痛いわw」
「おはよう」
「ワシも身体が重いわ」
シンシアとリグルは疲労を訴えているがラルクはいつもと変わらず黙々とシチューを口に運んでいた
「さてと」
「ご飯も食べたし調査もあるから一階層目から駆け足で5階まで踏破するわよ」
「帰還結晶は使わないの?」
「今回は探索の依頼だからね」
「再配置の具合も確かめたいのよ」
「それは分かるわ」
「戦禍王なんか再配置されてたらキツいもんね」
「再配置のインターバルも調べたいところだからまぁ・・・」
「最短距離を走って抜けようかなと」
「かっかっかっ!」
「迷宮を走り抜けるのかw」
「それじゃガードナー達に捕まらない内に行きますか」
ー・ー
ガシャアンッ
「今日も大骸骨か・・・・」
「この迷宮は本来こうなのかもね」
「初期配置のボスだけ数ランク強い魔物が配置されているのかな?」
「初回だけ強いとか他の迷宮でも聞かない話ね」
「そもそも新規迷宮自体珍しいから知らないだけかもだけど」
「ワシもそう言った話は聞いたことがない」
「もう一つ気になるのは4階層まで罠の類いや宝箱の一つも無いことじゃ」
「私もこのような迷宮の話は聞いたことがありません」
「この迷宮は何もかもがおかしいって事か」
「戦闘ばかりで実入りが無い」
「こんな迷宮普通の冒険者なら潜らないわよね」
「まさか溢れさせるのが目的なの?」
「考えたくないけど・・・・」
「シンシアの言う通りなのかもしれない」
「そろそろボス部屋じゃな」
「チェスが再配置されてなければ良いんじゃが・・・」
扉を開けると相変わらず真っ暗な空間が広がっていた
念のため魔法の明かりを先行させてボス部屋を照らし出す
「・・・・・・・・」
「いるわね」
「おるのぅ・・・」
「駒は揃っているようです」
「なんでいるのよ」
魔法で照らされた先には整然と並ぶ鎧の姿があった
その配置もチェスと同じで前列に歩兵達が並び後列中央には王と女王がいる
「攻略法は分かってるから手早く片付けましょうか」
ー・ー
「なんとまぁ・・・・・」
「拍子抜けじゃのぅ」
足元に転がる脱け殻を目にしながら呟くリグル
ボス部屋に並んでいたチェスの駒達は数こそ同じだったが個々の能力は言うに及ばず張子の虎のような物だった
「歩兵は外にいる動く鎧と変わらないし騎士は馬に乗ってなかった・・・・・」
「同じチェスの駒じゃったが実力は天と地程も差があったな」
「昨日戦った女王一体の方が強かったぐらいじゃわ」
「とにかく初回だけ異常に強い事は証明できた感じかな・・・」
「1階層ずつ踏破すれば依頼完了出来そうね」
「でもねアリエル」
「4階層目でアレだったじゃない?」
「残りの階層の難易度が思いやられるわ・・・」
「10階層って話だったけど完全踏破しないと危険な迷宮かもね」
「でも完全踏破するのはどうかとは思う」
「そうじゃな」
「街の安全を考えればこんな危険な迷宮完全攻略して壊す方が良いじゃろう」
「じゃがそんな事をすればワシ等の目的に支障が出かねん」
「自分達の目的を優先するか街の安全を優先するかを選択しなければならなくなる・・・・・・・か」
「今はまだそこまで考えたくないわ」
「そうね」
「この迷宮をアリエルがチート能力で破壊出来ない以上私達にとっても危険極まりないのは事実」
「余計な事を考えていては足元をすくわれかねないわ」
「シンシアの言う通り」
「何処まで潜るかは別にして今はこの迷宮を攻略する事だけを考えましょう」
ー・ー
ガシャンッ
ガラガラガラン
「何となくこの迷宮の癖と言うか法則性が見える気がするわ」
「少なくとも同じ系統の上位互換の階層が続く感じみたいね・・・・」
「シンシアが言う通り関連のある上位互換フロアが続くっぽいわね」
「しっかし」
「西洋甲冑の次は日本の鎧兜?」
「だとしたら次は何が来るのかしら・・・・・」
「楽しみにような憂鬱なような・・・・」
「とにかくこの鎧武者のボスが将棋盤で無いことを祈るわい」
「リグルのせいでフラグ立ったわね」
「ワシのせいか???」
「冗談よw」
重装甲で力押しだった動く鎧に対しこの鎧武者の剣技は目を見張るものがある
素早い剣撃に流麗な太刀筋
剣の達人のような動きは複雑で気が抜けない
「この迷宮が不死者の迷宮なのは分かるけど・・・・・・」
「この鎧武者はやっぱり侍の怨念って事なのかしら?」
「どうなのかしらね?」
「迷宮の外では生前の怨念が朽ちた肉体や鎧に憑依しているわけだけど・・・・・・」
「迷宮の場合はそうとも言えないと思うのよね」
「補充の利く怨霊って何なのよって話」
「言われてみれば不自然よね」
「都合良くテーマに沿った怨霊を呼び寄せるとかであり得ないでしょ」
「と言うことはこの手の魔物ってこういう種族って事?」
「それはそれで・・・・・・」
「取り敢えず難しいことは後回しじゃ」
「確実に言えることは・・・・・」
「この鎧武者は4階層の鎧より強いと言うことだけじゃ」
この鎧達は楯を持っておらず一見簡単に倒せそうに思えるがそうではない
持つ武器も多彩で全ての個体が技を使いパワー戦で押しきろうとすれば武器で逸らされ反撃を喰らう
「何だかこの鎧武者って・・・・」
「リアルよね」
「何がじゃ?」
「装備が太刀拵えだったり長巻や打撃系の金砕棒まで持ってる」
「このフロアをデザインした人はかなりマニアックだと思う」
「そうね私もアリエルに同意見だわ」
「戦い方も訓練された武術って感じがするのよね」
槍程では無いが長物武器を持つ鎧武者も多い
長巻等は槍と違い長すぎず通路で使うには適している為間合いが遠く倒すのに時間がかかってしまう
「ほんと厄介だわ」
「・・・・・・・・・」
「この階層では奴等の武器の方が有利なようじゃの」
リグルは斧を背中に背負うと鎧武者の使っていた金砕棒を掴む
ブンブンブンッ
鬼の金棒のように全体に突起の付いた鉄の棒は先になるほど太くなりその全長は2m弱だろうか?
重い筈だがリグルは軽々と振り回すと正眼に構えた
「問題なく使えそうじゃの」
リグルの言葉に私も近くに落ちていた金砕棒を掴み振り回して具合を確かめる
「中々良さそうね」
振ってみた感じ強度も有りそうだ
ネットで見た金砕棒の使い方を思い出しながら棒を振るう
ビュンビュンと風を切りながら振り回し先端を下に向け半身で構える
「驚いたの」
「まさかアリエルは古武術を知っているとはの」
「若い頃に少し・・・・・ね」
「それじゃペースあげて行きましょうか」
シンシアが念写した地図を見て確認する
先はまだ長い・・・




