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敗戦

「やっぱりけっこうな数がいるわね」


魔力の祭壇(マナリチュアル)を連続発動させながら来た道を猛スピードで駆け抜ける


後ろでストロボのような光が弾け続け遠目で見るとまるで怪異現象だっただろう

やがて5人を匿った結界まで辿り着くとリグルとラルクの2人が起きて3人を介抱していた


「ただいま」


「ぉおアリエルか」

「起きた時に結界で護られてたからビックリしたわい」


振り向いたリグルは相好を崩し豪快に笑った


2人はお湯を沸かしハーブティを淹れていたらしく爽やかな薫りが鼻腔を擽る


「けっこう面倒な事になってたわ」

「この近くに小川が流れてたんだけどその上流で一悶着あってね」


意識は有るもののぐったりしたシンシア達3人にお茶の入ったカップを手渡しながら何があったのか手短に話して聞かせた


「それで結局この原因は何だったの?」


「たぶん・・・」

「スライムの一種ね」

「魔力を喰らうバクテリアみたいな奴で上流でダムが決壊した時に下流に流されてきたみたい」

「洪水の飛沫に乗ってこの辺りにまで漂って来た感じかな・・・」


「飛沫に???」

「そんな小さい魔物にやられたって言うの?」


両手でカップを持ちながらシンシアが眼を丸くする


「それでそのバクテリアはどうなったの?」


「数が物凄く多いのよ」

「魔法で強制的に魔力を供給して過負荷状態にさせたら弾けちゃったわ」

「蚊やダニが血を吸いすぎて破裂するようなものよ」


「言葉で聞くと何だか恐ろしいわね」

「でもお陰で助かったわ」

「ありがとう」


シンシアは肩をすくめて身を震わせると少し頭をさげて感謝した


「アリエルがいなかったら全滅したと思う」

「本当にありがとう」


ラルクも深々と頭を下げる


「そう言うの止めてよね」

「今回はたまたま上手く対処できただけよ」

「でもまさかバクテリア並みに小さな魔物にやられるなんてねw」


「ホントそれね・・・」

「でも良くそんなの気付いたわね?」


まだ顔色は良くないがハーブティを飲みながら私が唱えた魔力の祭壇(マナリチュアル)の効果で魔力も回復し気持ちは落ち着いているようだ


「毒も呪いも検知できなかったから苦労したわ」

「バクテリアには敵意が無いから敵意感知(センスエネミー)にも引っ掛からないし・・・」

「相手が小さすぎて生命感知(センスライフ)かけてもよく分からない」

「もしやと思って高濃度の魔力発生させたら予想が的中したってわけ」

「自分でも信じられないわ」


「それってもしかして・・・」


「そうよ」

「解決できたのは単なる偶然」

「運が良かったわ」


偶然と言う言葉を聞いて眼に手を当てて空を仰ぐシンシア


リグルとラルクは神妙な面持ちで火の始末を行いクロエとシュネーは出発の準備に取りかかっている


「状況から考えて決壊したダム湖が発生地点ね」

「そのダムは壊したからもう被害が出ることはないと思う」


「さっきの馬鹿デカイ水龍はそのダム湖の水を拡散させるための物じゃったのかな?」


「予想通りだったら水の中には魔力吸収バクテリアがいっぱいいたはずだからね」

「高濃度の魔力操作で殺菌して下流に被害が出ないように拡散させなきゃいけなかったから大変だったわ」


私が肩をすくめながら答えると皆は微笑みながら「アリエルだもんね」と言う雰囲気を醸し出していた


「ダムと熊って事は・・・」

「まさか築堰熊(ビルドベア)?」


「この熊ってそんな名前なんだ」


ストレージから熊を1頭取り出して見せた


「これはまた立派な築堰熊(ビルドベア)じゃな」


「しかも銀背(シルバーバック)・・・」

「築堰熊は好戦的なだけでなく群で行動する凶悪な魔物で群が大きくなるに連れ巨大なダムを作るから災害級討伐対象になる危険な存在」

「銀背がいた群なら結構な数がいたのでは?」


顔の青ざめたシンシアに代わりラルクが問いかけてくる


「私が倒したのは6頭だったけど・・・」

「到着した時には既に討伐隊が返り討ちにあってたからね」

「既に倒されたのも何頭かいたんじゃないかな?」


「築堰熊は規模によって難易度が上がる危険な魔獣」

「最低でもC級以上の冒険者パーティが複数参加する合同討伐依頼(レイドクエスト)・・・・・」

「魔獣災害を1人で?」


「だから既に討伐隊が戦闘してたんだってば」


驚くシンシアの言葉を掌をヒラヒラさせながら否定した


「アリエルのトンデモ行動はいつもの事だけど」

「急いでここを離れないとね」


真顔で身支度を始めるシンシアに全員が従う


「目撃者の口封じはしとらんのじゃろ?」

「なら変装するなりせんと不味いかもな」


リグルの言葉はもっともなのだが口封じって・・・


「剣を外して鎧を脱ぐだけでも印象は変わりますよ?」


ラルクの言うことは一理ある


旅をしていれば道中鎧を外す事はあり得ないし剣を持たなければバレない可能性は高い


鎧を脱いで剣と楯も一緒にストレージに突っ込んだ


衣服も旅用のアンダーアーマーとカーゴパンツから簡素な普段着用に着替え腰にはいつもの長剣の替わりに護拳付きの細身の長剣(レイピア)を吊るす


「全く武器を持たないのもおかしいからね」


「何だかその装備とレイピア見てると・・・」


「何だか良家のお嬢様を私達が護衛しているみたいですね」


顎に指を添えて小首を傾げるシンシアにクロエが言葉を続けた


「何言ってるのよクロエ」

「良家のお嬢様が歩いて旅するわけ無いでしょ」

「普通なら馬車じゃないの?」


「おかしな事を言ってるのはアリエルの方よ」

「この国の馬車は知ってるでしょ?」

「貴族でもない限りアレに乗りたくないからって歩く人もいるのよ」


「差し詰め金持ち商人の娘と言ったところかのw」

「アリエルはこの国には疎いじゃろうが・・・」

「お主もお伊勢詣りぐらいは知っとるじゃろ?」

「この国でも似たような神殿詣りをするんじゃよ」


「ここにもそんな風習有るんだ」


「あまり娯楽がないからの・・・」

「農村でも一生に一度くらいは神殿詣りをやるのがささやかな夢なんじゃ」


ー・ー


「もう少しお湯を持ってきて!!」

「包帯はまだあるか?」

「誰か水をもっとくれ!!」


旅人の小屋に近づくにつれ中の様子がわかるようになってきた


何人もの人達が慌ただしく走り回っているようだ


本来中に繋がれる筈の馬車が外に停められ見張り番が2人立ち1人が荷台から馬を外して中へ連れて入る


塀の中は荷台を置けないぐらい人でいっぱいなようだ


「これはちょっと・・・」

「素通りした方が良さそうね」


「通してくれればの話じゃがな」


「お前達止まれ!!」

「何処から来て何処へ向かう?」


見張り番の2人が道を塞いで問い掛けてきた


「なんとも不躾な奴等じゃな」

「ワシ等は見ての通り南から来て北へ向かう旅の途中じゃ」

「お主等が野盗ともしれんこの状況でこれ以上話す馬鹿はおらんじゃろう」

「邪魔するなら押し通る!!」


重装備のリグルの言葉に一瞬怯んだが見張り番も負けてはいない


「お前達こそ野盗や魔物じゃない保証が何処にある!!」

「身許が証明出来ないなら拘束する!」


怒鳴り合う声に中から武器を手にした者達が4人出て加勢する

6人がかりなら取り抑えられると踏んだのか見張り番の2人は少し安堵したようにも見える


しかし6人とも顔には疲れが見え加勢に来た4人も怪我をしておりとても戦えるとは思えない


「リグル・・・」

「私達は野盗ではないのだからそう凄まないで」

「貴方が凄むとまるで野盗に見えかねないわ」


穏やかな口調でシンシアが割って入り自分達は神殿詣りの道中だと伝えた


「すまない」

「今は全員気が立っていて無礼を働いた」

「重ねて謝罪する」


奥から板金鎧(プレートアーマー)に身を包んだ中年の男がやって来た


ライルと名乗ったこの金髪の男がおそらくこのパーティのリーダーだろう

リーダーに誘われ中へと入り席に着くとお茶を出してくれた


「恥ずかしながら合同討伐依頼(レイドクエスト)を失敗してね・・・・」

「大勢の死傷者が出たので皆気が立っているんだ」

「彼等に悪気はないのだが迷惑をかけてしまい申し訳無い」


鎧に付けられた胸のエンブレムと物腰が彼が冒険者ではなく騎士なのだと物語っていた


「騎士様が出張るような合同討伐って・・・」

飛龍(ドラゴン)でも出たんですか?」


「いや」

「今回は築堰熊(ビルドベア)だ」

「小型の個体も多くて10頭は倒せたんだが・・・・」

(ダム)を壊したあたりから形勢が一気に逆転してね」


「決壊に捲き込まれたとか?」


「いや」

「そうじゃないんだ」

「元々全滅させるには戦力が集まらずダムを決壊させるのが目的だったんだ」

「護衛しながら順調にダムを壊せたんだが・・・・」

「銀背のボスに強襲されて戦線は総崩れになったんだ」


「よく全滅せずにすみましたね・・・・」


「正に奇跡」

「今でも信じられないくらいだ」


一息着くとライルはマジマジと私の顔を見詰めた


「武器は細身の長剣(ロングレイピア)・・・・」

「鎧は着ていない・・・・・」

「でも髪の色は同じ金髪か・・・・」

「だが金髪ならいくらでもいるし護衛の5人も相当の手練れだろう・・・・・」


ライルは聞こえないよう呟いておるつもりだろうが生憎耳が良いので丸聞こえである


「何か問題でも?」


同じく丸聞こえのシンシアがしらばっくれて聞いてみる


「あぁ・・・いや」

「窮地の我々を助けてくれた人がいてね」

「いや・・・実のところ人間かどうかも分からんのだが」

「その人が助けてくれたお陰で我々は助かったようなものなのだ」


「私がその様にお強ければ友人達に護衛されながら旅をする必要な無さそうですね」


ライルの言葉に微笑みながら猫を被りお嬢様キャラで通す事にした


「中には瀕死の重傷を助けてもらった仲間もいる」

「出来れば礼を言いたかったのだが・・・」


「私達もお見掛けしましたら声をかけさせていただきますわ」


「宜しく頼む」


さてどうしたものか・・・・


咄嗟にお嬢様キャラで対応したがそれだとここを後にして野宿は怪しまれるだろうか?


「ところで・・・・」

「申し上げにくいのだが御一行は裕福なご様子」

「もし余裕がおありならばポーションを譲っては貰えないだろうか?」

「かの御仁の尽力で築堰熊は討伐されたものの我々の被害は甚大で負傷者も多い」

「正直このままでは今日が峠の者も少なくない・・・」


ライルの言いたい事は良く分かる


しかし築堰熊の規模を見誤り戦力不足で挑んだ時点で全滅も有り得た状況なのだから多くの死傷者が出るのは仕方がない


仕方がないのだが・・・


「・・・・・・・・・・・」


静かにシンシアを見るが彼女はそっぽ向いてしまった


自分で決めろと言う事か


「・・・・・・・・・・・・・」

「聞いちゃったら無視できませんわよねシンシア」


「そう言うと思ったわ」


「ならワシ等は見張りを替わってくるわい」

「ワシ等は疲れとらんのでな」


リグルとラルクは静かに小屋を出ていった


「有難い」

「何と礼を言って良いのか・・・・」


「シンシアは回復魔法使えた?」


「使えるけど・・・・・」


私が囁くように問い掛けると同じく小声で返してきた


使えるけど(・・)と言う言葉から分かるように今回復魔法を使えば彼等が帰還するまで付き合わされる可能性が高い


シンシアに目配せすると私はポーチから6本のポーションを取り出しライルの渡す

同じようにシンシアもポーチから5本のポーションを差し出した


「今私どもが持ち合わせているポーションはこれだけです」

「足りないかとは思いますがどうぞお使いください」


「貴重なポーションを申し訳無い」

「この御恩は決して忘れません」


テーブルの上に置かれたポーションを見たライルは深々と頭を下げたのだった


ー・ー


「早く水を持ってきて!!」

「ポーションだ!!」

「これがあれば助かるぞ!!」

「こっちにもくれ!!」

「ダメだ数がないっ!!」

「何言ってやがるさっさとよこせっ!!」


負傷者の数が多く9本ぐらいでは焼け石に水なのはわかっていた


分かってはいたのだがその足りないポーションのせいで怒声が飛び交い一触即発の空気が流れる


「おいアンタ!!」

「まだ持ってるんじゃないのか?」


「止めろアドニス!!」

「この9本がどれだけ高価で貴重かお前にも分かっているだろうが!!」


右腕を負傷したアドニスと呼ばれた戦士は尚も食い下がろうとする

それを黒髪の戦士が羽交い締めにして抑えている


「ライル隊長!!」

「クリントが持ちそうにありませんっ!!」


ライルは急いでクリントの元へ駆け寄るとポーションを1つ飲ませた

すると踠き呻いていたクリントは静かになり呼吸も落ち着いたように見える


「俺にもっ俺にもくれっ!!」


左脚を失った男が這いずりながら近付こうとするがライルは構わず別の負傷者の元へ向かう

その先には女戦士の頭を抱き抱えた戦士が泣きながら座っていた

包帯が巻かれたその腹部は血で真っ赤に染まっている


「あの娘はポーションじゃ無理かな・・・」


遠目から鑑定しても致命傷なのが分かる

ポーションが助けられる限界は案外低い


気付かれないよう遠隔で回復魔法を唱えポーションを使ったタイミングに合わせて発動した


ゴプッコフッカッカハッ


女戦士は大きく血を吐いた後数回咳をした後落ち着きを取り戻し浅いながらも呼吸を始めた


その後もライルは重傷者を選びポーションを使っていく

その中には手遅れとも思える人にも使おうとしたのでその都度フォローした


「アリエル・・・・・」

「気持ちは分かるけどきりがなくなるわよ?」


「分かってる」


ざっと見回して30名はいるだろう

あの時助けに入った時点で既に半分は撤退していたようだ


時間稼ぎに残っていたメンバーも無傷とは言い難く殆どのメンバーは何処かしら怪我をしていた

怪我人の半数は重傷者で内10名は歩くこともままならない酷いレベル


その中に戦闘中治癒した女戦士を見付けたが彼女は出血していないからか積極的に手当てする側で忙しそうに動き回っていた


「あの娘・・・・」

「傷口が塞がってるだけでまだ内臓はズタズタなのに無理してる」


忙しく動き回る冒険者の中に助けた女戦士の姿を見付けた

あの時は余裕が無く咄嗟に回復魔法を使ったため傷口を塞ぎ血を止めるぐらいの効果しか無かった筈

見た目は治ったように見えるが築堰熊に引き裂かれたダメージは回復していない


このままだと倒れかねない


最低限傷口が開かない程度に加減して回復魔法をかけた


すると一瞬彼女の動きが止まりキョロキョロと辺りを見回すと怪訝そうに仲間の手当てに戻る


「今のは気付かれたと思うなぁ」


シンシアのジト目に気付かないふりをしつつ他の負傷者達を見回し続けた


腕や脚を失った戦士

腕が折れたレンジャー


いくら見回しても回復役が少なすぎる


「もしかしてこの討伐隊って・・・」


「築堰熊相手に回復職(ヒーラー)が殆どいないなんて無謀な編成ね」


シンシアも私と同じように感じたようだ

辛辣な意見がこぼれ落ちる


「そう言わんで下さい」

「背後から強襲されてしまい魔法職や回復役が全員負傷してしまったんですよ」


私達の会話を聞いていたのかポーションを使い終えたライルが近付いて来た


「背後をとられたの?」


「ええ」

「小型の築堰熊を倒してダムを決壊させるまでは順調だったのだが・・・・」


「それで?」


目を臥せて口ごもるライルを促すとゆっくりと話し始めた


「予想通りダム側からボスの銀背が現れた」

「ボスが咆哮をあげると徐々に退き始めてな」


「ボスが?」


「銀背とは言え1頭」

「総掛かりなら倒せると思いそのまま決壊させたダムの下まで追撃したんだ」

「だがダムの下まで行くと何故か魔法が使えなってな」


「魔法が・・・」

「使えなくなったのですか?」


「そうだ」

「魔法使いや回復役は攻撃も回復も出来なくなり失神する者も出て酷い有り様だった・・・」

「あの銀背はまるでそうなる事をわかっていたかのように反撃し始め呼応するように背後から他の築堰熊に襲われたんだ」

「お陰で後衛は壊滅状態・・・」

「形勢は一気に逆転してやむ無く撤退を試みたが多くの犠牲者が出てしまった」


最後の言葉を絞り出すように話すとライルは俯いて肩を落としていた


私達には彼にかける言葉が無かった

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