ザグル村
「コロスッ!!」
「お前達絶対に殺してやるっ!!」
しゃがれた怒鳴り声と共に広場に入ってきたのはロープで縛られ4人の男に引き摺られたゴブリンロードだった
「四肢に傷を負った状態だと村人でも捕まえられるのね」
「アリエルもしかして止め刺さずに放置したの?」
「民家に助けに入ったのよ」
「あの状態なら何も出来ないだろうから」
広場の中央まで引き摺られてきたゴブリンロードに対して生き残った住民達の報復は容赦なかった
「殺された皆の仇だ!!」
「死ねっ!化け物!!」
先ず石を投げ付けたが効果がないと分かるとゴブリン達が落としていった武器で攻撃し始めた
「くそっ歯が立たない」
「薪と油を持ってこい!!」
それでも大して効果がないと分かると今度は薪を集めて火炙りにしてしまった
これには流石のゴブリンロードも堪らず怒声をあげながら暴れ踠き炎でロープが切れた瞬間炎から逃れようと這い出した
「逃がすか化け物!!」
「大人しく死にやがれっ!!」
這い出すゴブリンロードを村人達が鋤や棒で炎の中に押し戻す
やがて焼け焦げた臭いが辺りに充満した
10分もしない内にゴブリンロードの動きが鈍くなり次第に声も小さくなっていく
踠き苦しみながら焼かれる姿が動かなくなるまで生き残った村人達は見つめていた
ー・ー
「なぁアンタ」
「俺達を助けてくれたんだよな?」
「礼を言わせてくれ」
「ありがとう」
「アンタ等がもっと早く来てくれればあの人も死なずに済んだのに・・・」
「よせ」
「あの人達が来なかったら全滅してたんだ」
「でも・・・」
生き残れば生き残ったで後悔や欲が出る
普通の冒険者なら返り討ちにあっていたであろう状況である
たまたま私が気付くのが早く人外の戦闘力を持つ3人だったから助けることが出来ただけの事
普通に考えれば助けに入った冒険者共々全滅である
「とりあえず最善は尽くしたつもりだけど・・・」
「救えなかった命があるのは確かだし私達に出来ることはゴブリンを追い払った事だけだもの」
「礼には及ばないわ」
村の半分以上の家は破壊されており広場に集められた遺体の数は住民の半分を超えていた
「改めてありがとう」
「私はこの村の村長の孫にあたるアルスと言います」
「村がこんな状態でもてなす事は出来ないが良かったら何日か逗留して貰えないだろうか?」
「報酬は払えないけど残党が襲ってくるかもしれないから用心棒になって欲しいって事かな?」
「痛い所を突きますね」
アルスと名乗った青年は苦笑いを浮かべて身体を強張らせた
「同じ討伐するならわざと村を離れて残党が襲ってきたところを刈り取る方が楽なんだけどね」
「それだと村が・・・」
「全滅するでしょうね」
「私達の目的はゴブリンの討伐じゃないからソコまでする必要無いわ」
「足止め食らうのは嫌だけどこのまま全滅されるのも目覚めは悪いわよね・・・」
「私が残りましょうか?」
「ここでラルク1人残すなら初めからパーティー組んだりしてないわ」
「見殺しにするのも目覚めが悪いから暫く逗留するわ」
「当面の食糧は村の入り口付近で襲われてた荷馬車を見てみなさい」
「・・・・・・・・・・・・」
シンシアが何か言いたげに此方を見ているがここで聞くほど野暮ではない
状況的に私が魔法で作ったのを察してくれたのだろう
「この村に鍛冶場はある?」
アルスは村の状況確認と復興計画を立てるため何人かに指示を出しその中の1人にゴブリンの死骸から剥ぎ取った装備を鍛冶場に運ぶように指示を出していた
「この村には鍛冶屋はいないのですが定期巡回してくれてる鍛冶屋さんがいまして・・・」
「その為鍛冶場だけは有るんです」
案内された鍛冶場は小さいがしっかりした石造りで小ぢんまりとした炉に小さくて粗悪な金床が置いてあった
「燃料は何?」
「薪です」
その答えは予想していたものの良くない答えだった
「薪でやれるの?」
「簡単な打ち直しは出来ても鉄を溶かして新しく作ったりするのはちょっと・・・」
「火力が足りないわね」
炉に風を送り込むふいごも破れて空気が漏れている
「これはちょっと使い物にならないわね」
思わずしかめっ面で呟いてしまった
それを聞いていたアルスが気まずそうに頭を下げる
「申し訳ありません旅の鍛冶屋さんは年に1度来るか来ないかなもので手入れが出来ていないのです」
「急がない方なのでいつも来られてから手入れする始末でして・・・」
「まぁ仕方ないわね」
「手持ちの道具で補修するからこっちは任せて死者の埋葬と村の修復作業を進めてください」
少々素っ気なく聞こえたかもしれないが別に構わない
寝覚めが悪いから手伝うだけなのだから
「さてと」
「先ずは炭を作らないと話にならないわね・・・」
「炭窯でも作るの?」
「ええ」
「簡易的に作るわ」
ラルクに乾いた薪と炭の原料を集めてくるように頼む
シンシアには見張りを頼み鍛冶場小屋の裏手にあった岩を利用して土魔法を使い炭窯を作り出した
「やっぱり土魔法使えるんだ」
「一通りは使えるかな・・・」
「普通は相反する属性は習得が難しいんだけど・・・」
「アリエルだもんねw」
「この手の土魔法はこの世界に有るの?」
「土魔法はちゃんと有るわよ」
「大地操作系魔法で攻撃も防御もできるから珍しいだけで使い手はそれなりにいるわ」
「そうなら問題・・・」
「マイナーなの?」
「どちらかと言うとそうね」
「複数の魔法属性に対する素質を持ってると土属性と相性が良い火や水属性を伸ばす冒険者は多いかな・・・」
「土魔法は都市防衛や建築に向いてるから街での需要が高いのよ」
「だから高度な土魔法の素質があると冒険者よりも誰かの御抱えになるケースが多いわね」
「安全で安定した高収入を得られるんだから冒険者より街で働く人が多いのも仕方無いわ」
「そうなんだ・・・」
「鍛冶系や採取系クラスの人も使うけどそう言う人はあまり旅に出ないからね」
「なんか微妙な感じ?」
「職人系クラスで希少鉱物を求めて旅してるって事にしたら辻褄合うんじゃないかな?」
「まぁシンシアがそう言うならそれで口裏合わせましょうか」
「旅の鍛冶屋アリエル開業ね♪」
「鍛冶屋さんか・・・」
「・・・・・・・・・」
「まぁそれなら放浪してても違和感減らせるかな」
「そうね」
「絶対ゼロにはならないもんね」
「なんせやらかしのアリエルちゃんだものw」
ニヤニヤと笑いながら言うシンシア
こう言う時の彼女は幼い悪戯っ子のように見えてくる
「なら土魔法で出来そうなことは一通りやっときますか」
炭窯の隣に排熱を利用した燻製室を増設する
此方は横に併設された竈からも熱が利用できるようになっている
この村には井戸が中央に1つ有るだけで何処の家庭でも水瓶が主流である
その井戸も先程の襲撃で破損しているため水は期待できない
「鍛冶場に水が無いのは問題なのよね」
土魔法の応用で水脈を探り井戸を掘る
「ちょっと聞きたいんだけど・・・」
「なぁに?」
「この世界に手動ポンプは有るの?」
「無いわよ」
「ついでに言うと井戸を掘る魔法何てものも無い」
呆れた顔で言い放つシンシア
「一応水を汲み上げるポンプなら魔道装置にあるけどクソ高いから村に設置すると100%盗まれるレベルね」
「こんな田舎でポンプとか作っちゃダメよ?」
「この村が襲われちゃうんだから」
「ぅう・・・・・」
ポンプを作るなら先ず街で特許とって量産しろって事か
それはそれでめんどくさいので煉瓦で小屋を造り桶とロープで汲み上げることにする
「水はOK」
「炭の確保と燻製室も良さげね」
早速材料を炭窯へ詰めると火をつける
上がる煙に興味を持った村人達が集まってきた
「こんな短時間で石造りの小屋が出来てる?!」
「見ろっ!!」
「新しい井戸だ!!」
「これで皆助かる・・・」
「あっちの井戸はもうダメだ」
一段落したらあっちの井戸も手入れしようか
そうこうする内にラルクが鹿を担いで帰ってきた
狩に出ていたのである
その頃には生き残った村人全員が鍛冶場に集まっていて大変なことになっていた
「ちょっとシンシア」
「これって不味くない?」
「今さら不味いも何も無いでしょ」
火の番をシンシアに任せてアルスを探した
見付けるのは苦労しなかったが人に阻まれ声が掛けられない
「アリエルさん!」
「アリエルさん!じゃないわよ!」
「これはどう言うこと?」
「夜に備えて準備していたのですが・・・」
「廃墟になった教会よりも鍛冶場に集まった方が安全な気がしたのでそちらに生き残りを集めてます」
「先に一言欲しかったわね」
「面目無い」
本来なら今夜は教会に立て籠る予定だったのだが襲撃の損傷が激しく頼みの綱の神父は殺害されてしまっていた
「こちらの井戸もご覧の有り様で水が汲めるようになるには何週間もかかります」
崩れ掛けた井戸を見ると水底に死体が沈んでいた
これでは暫く水が使えない
「水が無いなら仕方無いわね・・・」
アルスに細かい指示を出して早々に鍛冶場へと急いだ
「シンシア予定外に忙しくなるわよ!」
「何があったの?」
「村の井戸が死んでる」
「暫くの間村人全員がここで夜を過ごすわ」
「それは不味いわね・・・」
「どうしたの?」
「貴女は馴染みがないだろうけどこの世界では怨念遺して死ねば高確率でアンデッドになるのよ」
「あー」
「それで教会に立て籠るなのね」
「教会がダメになって逃げるかここに集まるかしか無くなったと?」
「そう言うこと」
「なら食糧はもっと必要ですね」
ラルクは踵を返すと颯爽と駆け出していった
「アンデッドにもよるんだけど柵の無いこの鍛冶場だと被害増えない?」
「でも火と水があるからね」
「もしかして燻製室や炭窯をシェルターとしてあてにされてない???」
「有り得ると思う」
「最悪」
「人間の薫製とか勘弁してよ・・・」
「仕方無いわね」
火の番はシンシアがやってくれるでその間に無事な女性陣に指示を出しシーツを流用したハンモックを作らせる
「男ども!!」
「生き残ったんだから手伝いなさい!!」
負傷者の内脚を怪我した者はハンモック等の細かい作業の手伝い
手を負傷した者には薪集めや警戒を指示する
目立ちたくはなかったが鍛冶場周辺の木を薙ぎ倒し瞬く間に枝を払う
「動ける者はこれを炭窯の近くに運びなさい!」
「負傷者だからってじっとしてたら明日の朝日は見れないよ!!」
指示を出しているとアルス達が戻ってきた
「これは一体どうしたんですか???」
短時間で様変わりした鍛冶場周辺を見て明らかにアルス達は狼狽えていた
「鍛冶場周辺の枝だけ払った木はハンモックやテントを吊るすのに使います!」
「外側の拓いた空間にはバリケードを作ります!!」
「アルス!!」
「はいっ!!」
両手に抱えた金物とシーツ等の布の束を奥へ運ぶ事と元気そうな女性陣に炊き出しをさせるよう指示を出させた
「シンシア!!」
「なぁに?」
「貴女植物を操る魔法使える?」
「んー」
「使えるけど何をしたいの?」
「払った枝葉でバリケードって作れない?」
「んーーーー?」
「こんな感じかな?」
シンシアの手の動きに合わせて払われた枝葉が絡み合い即席のバリケードを作り出した
「これで鍛冶場を囲えば良いのね?」
「誰か火の番をお願~い♪」
ゆっくり立ち上がると魔法を唱えながら周囲を練り歩いていく
これなら防衛はシンシアに任せて良さそうだ
鍛冶場に戻ると4人の女性が待機していた
炊き出し班だ
「今から全員の晩御飯を連続で作って貰います重労働になるだろうけど頑張ってね」
土魔法で竈を増設してそれぞれに作り置きを指示する
ラルクは獲物を運んでは狩に出て行く
薫製室には火をいれていないので薫製は作れないが併設された炭窯の熱を利用できるので強めの乾燥室になっていた
「ソコの2人!!」
「獲物を捌いて!!」
ラルクの狩ってきた鹿や猪達の皮は乾燥させるため中に吊るしていく
肺などの食べられない部位は穴を掘って埋め水が使えるので腸を綺麗に洗い食用にする
「あんたソレも食べるのか???」
内臓を洗わせているとアルスが目を剥いている
「ウチの故郷では普通に食べるわよ」
4人を助手に色々と作らせる
「このままじゃ不便よね」
土魔法を応用して巨大な土鍋を作り出しソレに見合う竈を作り出す
ソコに刻んだモツを放り込み水と根野菜を合わせて火をつけた
生き残った一番大きな鉄鍋を使い鹿や猪の舌を煮込む
これはご褒美用
日も暮れて辺りが暗くなり始めるとアルス達主導で見張りを立ててもらった
夕飯のメインはもつ鍋である
「ホントに食べるのか?」
「五月蝿いわね」
「内臓の方が栄養価高いのよ」
簡単に塩とハーブしか味付けに使っていない
部位を選ばなければ肉だらけのボリューミーなシチューである
「周りがこんな状況なんだから日持ちのする赤身を先に食べるわけにはいかないでしょ?」
露骨に嫌がる村人にもつ鍋を配りながら綺麗に洗ったゴブリンの楯でスライスした肝臓を焼いていく
「焼きすぎるとパサパサになって美味しくないけどしっかり火を通さないといけないのよね・・・」
サポートの女性に焼き加減の見方を教え次々と焼き上げ負傷者達のシチューが入った椀に入れていく
「肝臓は血を作る力が強いから怪我人や病人には必ず食べさせてね」
初めは嫌がっていた村人達も襲撃後にお腹いっぱい食べられることがどれだけ幸運なのかは分かっているようで恐る恐る口にしていた
「旨い・・・」
「何だこれは?」
「私達っていつもこれを捨てていたの?」
各所で上がる称賛に食べる速度が加速する
料理を任せっきりにしていた私はと言うと竈の上に粗悪なゴブリンの剣を格子状に並べ腸を焼いていた
「それは・・・」
「さっき洗ってた糞袋だよな?」
「猪は雑食だからちょっと臭いだろうけど鹿は草食だし臭くない筈」
軽く塩を振っただけの小腸はゴブリンの剣の上で香ばしい香りを放っている
「見張りを終えた人優先」
「食べたくなければ食べなくて良いよ」
そう言い放つが既にもつ鍋に魅了された村人達に抗う術はなく瞬く間に消えていった
お腹いっぱい食べた村人達に拡がる安堵の雰囲気
しかし夜はここからが本番
特にこれだけの香りを立てたのだ
ゴブリン残党が見逃してくれる筈もなかった




