北を目指して
「いい天気ねー」
ヴァルムートを出て半日が過ぎていた
ラルクは新しい装備を確かめるように足を速めたり立ち止まったり先行して偵察したりと忙しなく動いている
「ラルク」
「落ち着かないから普通に歩いて」
「あ・・・」
「ごめんなさい」
シンシアの言葉に素直に従うとその隣を歩き始めた
それでも真新しい剣の柄に手を置いている
「アリエルさんは私に新しい装備の具合とか聞かないんですか?」
「聞く必要有る?」
「予め魔法で採寸して作ったんだからサイズは問題ないでしょ?」
「はい」
「ビックリするくらい身体に馴染んで凄いです」
ラルクの服は一般的なデザインで厚手の生地で作ったストレートのパンツと簡単な貫頭衣
アンダーアーマーとして魚人の革を使った鱗鎧を着てその上から肩当てと一体化したブレストプレートを着ける
両腕には小手を着け足には革で作られた鎧靴を履いていた
「こう言う革製の鎧靴は初めて履くのですが違和感無いですね」
「防御力的にはどうなのですか?」
「甲の部分には鉄板を挟み込んでいるからそれなりの防御力はあると思う」
「靴底にも分割した鉄板を仕込んでるから歩きにくいだろうけど踏み抜きにも強い筈だよ」
「革靴にしては重いとは思いましたが履き心地に違和感無かったです」
予備で購入した安物の剣は回収して新たに作った長剣を持たせてある
先日購入した安物の剣は既に痛みが酷く自由行動の間外で狩りをしていたのが伺い知れる
「この前買った剣見させて貰ったけど・・・」
「貴女変な癖付いてるわね」
「えっ?」
「剣の耐久力に合わせての事なんだろうけど変なところで力を抜くから刃の滑り方が変則的でかえって剣を痛めていたわ」
「そっ・・・」
「そうなんですか・・・」
明らかに気落ちするラルクを尻目に言葉を続けた
「貴女は聖剣が使えなくなって何本か剣を折ってるわね?」
「そんな事も分かるんですか?」
「命のやり取りしてる最中本気で打ち込んで折れたらトラウマにもなるでしょうね」
「それも何回か経験したんでしょ?」
「剣の痛み方から見ると太刀筋が迷ってるように感じたわ」
「何度も剣を折るうちに怖くなってしまって・・・」
「勢いで切り着けた時に流す癖が付いたのね」
「それじゃ普通の直剣はもたないわ」
「でも聖剣と同じように斬るとすぐに折れるんですよね・・・」
「そらそうだわw」
「きっと聖剣使ってる時にも別の癖が付いたのね」
「そうかもしれません・・・」
今回ラルクの為に用意したのは幅広の両片手剣である
普段は片手で使い場合によっては両手で握る
ラルクの筋力ならば幅広の大剣でも片手で扱えるだろう
しかし柄の長さや形は剣技に関わる
使いなれた聖剣が幅広の長剣である以上大きな変更は変な癖に繋がる
「耐久力強化も付与してるけど素材を弄ってるから強度的には問題ない筈よ」
「そんなに硬いんですか?」
「硬いと言うより・・・」
言いながら辺りを見回すと手頃な所に武装したゴブリンの群れがいた
「5匹か・・・」
「ラルク!独りで殺れるわね?」
「お任せ下さい」
すぐに走り出そうとするラルクを呼び止めて倒し方の指示を出す
「わかりました」
ラルクは今度こそ放たれた矢のように街道を走り抜け瞬く間にゴブリンに襲いかかった
私とシンシアは遠目に見ながら周囲を警戒し仲間のゴブリンがいないかを確かめる
「ハッ!!」
身構えるゴブリンの手前で身体を一回転させ遠心力の乗った一撃を叩き込む
するとゴブリンは受けた剣ごと真っ二つに両断され崩れ落ちた
続く2撃目の突きはゴブリンの錆びたブレストプレートを容易く貫通して絶命させる
「こんな事って・・・」
驚愕しながらも指示通り間合いを開け起動コードを唱えながら魔力を込めた
すると剣は魔力に応え仄かに光を放ち真価を発揮する
「まるで羽を持ってるみたい・・・」
ラルクはさっきと同じ要領で斬りかかり初撃で剣ごとゴブリンを斬り捨てると続けて鎧ごと突き殺す
最後に残ったリーダー格のゴブリンは大上段からの一撃で受けた剣から古びた兜と鎧に至るまで真っ二つに斬り捨てられた
「まるで聖剣みたいな使い心地です」
「聖剣に比べると見劣りするけど代わりくらいは務まると思う」
「聖剣が神鉄なのに対してそれは高濃度の魔力に晒した魔力鋼なの」
「普通に使うには鋭い斬れ味に強固な耐久力を兼ね備えた名剣レベルだけどね・・・」
「魔力を込めて能力を開放させると軽量化と斬撃特化能力が発動してミスリル製にも引けをとらない魔剣になる」
「身体能力強化と防御結界が無い事を除けば聖剣並みじゃ無いですか!」
「それぐらいの武器じゃないと今のラルクなら壊しちゃうからね」
「こんな高価な剣受け取れませんっ!」
剣帯を外し返そうとするラルクに剣を押し戻す
「手製なんだからかかったのは材料費ぐらいだしその材料費も大してかかってないわよ」
「そんなので良いならいくらでも作れるんだし黙って使いなさい」
「軽く城が建ちそうな魔剣をそんのってw」
「その剣を量産したら簡単に国崩し出来るんじゃない?」
「あ・・・」
「言い忘れてたけどその剣」
「能力開放したら膨大な魔力を喰われるから並みの人間が使うと数分で死んじゃうと思う」
「いくらラルクでもそろそろ封印かけた方が良いよ?」
「そう言うことは先に言って下さい・・・」
幾分顔が青ざめたラルクは剣の柄に手を置き封印の呪文を唱えたのだった
ー・ー
「ラルク大丈夫?」
心配そうに声をかけるシンシアにラルクは力無い笑顔を返しながらも歩き続けていた
「思ったより消耗激しいわね」
「改良の余地有りか」
鑑定スキルでラルクのステータスを確認するとかなり消耗しているのが分かる
まだ致死レベルではないが急激な魔力消費に身体が悲鳴をあげているのだろう
辛そうではあるがそれでもペースを落とさず歩こうとするラルクに近付き魔力の祭壇を唱えた
「これで少しは楽になった?」
「ありがとうございます」
「大分楽になりました」
遠くの方で魔力関知に異変を感じてそちらを見る
まだ遠いがこの道の先に森を抜けた向こうに何かが起こっている
「シンシア、ラルク」
「どうかしたの?」
「どれくらい走れる?」
「何かあったの?」
「魔物や盗賊の気配は無いみたいだけど・・・」
「長距離なら時速20㎞で2時間くらいは走れます」
「私もたぶんそれくらいは走れるけど・・・」
「急にどうしたの」
「たぶん村か町が襲われてる」
「補助魔法かけるからついてきて」
3人の靴に防御力と耐久力強化の魔法をかけると2人に身体強化魔法をかけた
「〈総合強化〉一気に走り抜けるよ!」
「遅れないでね!」
2人に補助魔法をかけたのでたぶんついてこれるだろう
5分も走らないうちに木々の隙間から遠くの煙が見えてきた
「黒煙・・・」
「やっぱり何かが襲われてる!」
「アリエル!」
「必ず追い付くから先行して!!」
シンシアの言葉に応え振り向かず更に加速した
街道脇の木々が物凄い勢いで後ろへと遠ざかって行く
加速して5分もたっただろうか?
辺りに焼き焦げた臭いが立ち込め激しい喧騒が辺りを支配していた
「アレは・・・」
「魔物の指揮官?」
遠目に見ても分かる異様な体躯
その大きさも異常だが大きく隆起した筋肉が一目見るだけで人間ではないとを告げていた
「ギャゥウォゥォーーー!!」
後方を見張っていたであろうゴブリンが奇声を発した
指揮官らしき個体とその取り巻きも一斉にこちらへ振り向いた
「そのまま・・・・・」
「死ね!!」
武器を構えた後衛のゴブリン達を一瞬で凪払うと速度を緩めず指揮官目掛けて突入する
「一応雑魚も刈り取っとかないとね・・・」
走りながら回転斬りを放ち次々とゴブリン達を葬っていく
心成しか普通のゴブリンよりも大きく見える
上位種を取り巻きとして引き連れているのだろう
だとしたら生かしておけば襲われている集落の脅威となりかねない
とは言え全てを刈り尽くしていたら指揮官には逃げられてしまう
「先ずは・・・頭を潰す!!」
シャオッ!!
指揮官目掛けて放った平突きは取り巻きの1体に止められてしまう
「アンタなんかお呼びじゃないのよっ!!」
身を挺して守られた指揮官へと続け様に斬り付け次の標的を・・・・
ギキキィィーーン!!
「???」
「硬い!!」
容易く斬り捨てるつもりだったのだが乾いた音を立てて弾かれてしまった
「これなら?」
カカキンッ!!
素早く繰り出した3段突きが物の見事に弾かれてしまった
「何コイツ・・・」
少し間合いを開けて鑑定してみる
「悪意の|妖魔首領?」
「上位変異種・・・ユニーク個体か」
「グゴォウ!!」
凄まじい雄叫びと共に棍棒が眼前を掠めた
「何コイツ・・・」
「兜は単眼巨人の頭蓋骨?」
「身体に巻き付けてるのは暗黒狼の毛皮ね・・・」
「その棍棒はサイクロプスの大腿骨か」
「ゴブリンロードってそんなに強いの?」
独り毒づきながら剣を交えつつ鑑定を進める
私達の戦闘に捲き込まれ周りの取り巻き達が次々と倒されていく
「それにしてもコイツは面倒ね」
ありとあらゆる角度から斬りつけるが全て弾かれてしまう
戦闘能力はそれ程強いとは思えないしこちらの攻撃は全て当たっている
しかし・・・
「これか」
固有スキル〈鋼の肉体〉
このスキルは自らの肉体を鋼の強度まで押し上げる
ただ硬い皮膚だけでは受けられる筈もないのだが・・・
「コイツ」
「筋肉を使って刃先を逸らしてる」
攻撃の全てがヒットしているのは戦闘技術が拙く避けられないからではない
避ける必要が無いからだ
僅かな動きで剣の軌道を逸らすのは重装鎧の防御技ではある
このゴブリンロードはそれを硬い皮膚と筋肉の隆起で行っているのだ
「あぁもぅ・・・」
「鬱陶しい!!」
ガシッ!!
苛ついて大振りとなった私の一撃を左手で受け止めるとあろう事か右手で私の胸を掴んできた
「女・・・」
「俺の子を産ませてやる!」
下卑た笑いと共に吐き出された言葉はしゃがれて耳障りだった
「お前・・・」
「楽に死ねると思うなよ?」
とは言え能力封印では荷が重い
「第3封印解除」
ゴギンッ!!
左手で外側からゴブリンロードの親指を掴むとゆっくり外側へ引き剥がしそのままへし折った
ヴァルムートを出る前に行った偽装工作の1つがこの封印である
第一の封印で魂を
第二の封印で魔力経路を
第三の封印で魔族の肉体を
第四の封印で一部のスキルを
それぞれ封印しその封印殻を利用する事でより高度な偽装を行っていた
しかしそのデメリットとして著しい能力の低下がある
それでも達人クラスの能力はあったのだが・・・
「ゲガァーーー!!」
ゴブリンロードは痛みに悶え私の手を放してしまう
続けてゴブリンロードの鳩尾に膝蹴りを入れると少し間合いを開けて剣を鞘へと納める
「あらあらw」
「誰が誰に子供を産ませるって?」
鳩尾に手を当て此方を睨んでくるゴブリンロードの頭に回し蹴りを放つとサイクロプスの頭蓋骨が砕け散った
「アガッ!!」
「グゥッ!!なめるなっっ!!」
横凪に振られた棍棒を右手で上に逸らすとカウンターで左肘を叩き込む
「ガハッ!!」
肺を強打され堪らず息を吐き出すゴブリンロード
「こう言う戦いは苦手なの?」
連続で右脇腹への鉤突き左下段蹴りを放つと空いた顎目掛けて右掌低を突き上げる
まともに食らったゴブリンロードの3mの巨体が宙を舞った
「まだまだ!!」
吹き飛ぶ巨体に胴回し回転蹴りで追い打ちをかけ地面に叩きつけると無防備な右足首を取り膝関節を極め一気に折った
「あがぁっ!!」
「なっなんだお前は?!」
「この俺がやられる筈がない!!」
右手をつき立ち上がろうとするゴブリンロードの腕を蹴り払い空いた左腕に絡み付くように背後に回ると左腕も折る
「ぐぎぃぃいいいい!!」
「うるさい」
上段回し蹴りから落とすように頭を蹴ると地面に叩きつけられ悶絶するゴブリンロード
コイツの技はその硬い皮膚と筋肉を使い戦車のように相手の攻撃を弾く事だ
逆に言えば垂直に打ち込まれた打撃や関節技は逸らすことが出来ず有効打となる
右腕をついて起き上がろうとするゴブリンロード
その肘に狙いを定め打ち下ろすような下段蹴りを放つ
ゴギンッ!!
「うがぁーーーっ!!」
傷付いた左手で折れた右腕を抑え後退りするゴブリンロード
なす統べなく蹂躙されるロードを見た取り巻きのゴブリン達は既に蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた
「アンタには自分の罪を償って貰わなきゃねぇ?」
怯えるゴブリンロードのゆっくりと近付くと唯一無事な左足を掴んだ
「やっやめろっ!!」
「やめてくれっ!!」
「命だけはっ!!」
なまじ知性があると命乞いか・・・
ゴブリンロードは尚も何か喚いていたが無視して引き摺りながら村へと向かった
ー・ー
村の中は略奪の真っ最中でそこかしこから悲鳴があがっている
私は掴んだゴブリンロードの足に少し力を込めるとジャイアントスイングの要領で回し始めた
「なっ!何をっ!!うがぁっっ!!」
突然の出来事に悲鳴を上げるゴブリンロードの軌道を変え上から地面に叩きつけた
ドゴンッ!
「グギャアアアー!!」
一際大きな悲鳴があがると辺りの雰囲気が一変した
所々で悲鳴が途切れ私を取り囲むようにガチャガチャと物音がし始める
「あらまぁ勇敢だ事」
再びゴブリンロードを振り回すと一番気配の多い場所へ投げつけた
「グゲァ!!」
「ゲッ!!」
「ナンダ?!」
「グゲゲッ?!」
自分達に投げ付けられたモノが何だったのか理解したのだろう
気配は急速に遠ざかる
「そんなに甘くないのよね」
走りながら抜刀し逃げるゴブリンを一刀の元に斬り伏せる
返す刀で2匹目を屠るとゴブリンの持っていた錆びた剣を拾い逃げていく3匹目に投げつけた
「まだ略奪してるバカがいるわね」
悲鳴のあがる家に入るとゴブリンが女性を襲っていた
「邪魔」
背後から回し蹴りを放つとゴブリンは壁まで吹き飛びそのまま動かなくなった
恐怖で後退りする女性を尻目に外へ出ると大半のゴブリンは逃げ去り生き残った住民達が血の付いた武器を携え広場に出てきていた
「アリエル状況は?」
「無事かどうかは聞かないのねw」
「返り血1つ浴びてないのに聞く必要ある?」
「それに貴女をどうこうできる魔物なんてそうそういてたまるもんですか」
真顔で応えるシンシアとラルクの剣も血で汚れていた
ここへたどり着くまでにゴブリン達を葬って来たのだろう
剣を振って血のりを振り払うと鞘に納め再び封印を施した
ゴブリンの気配が無くなるにつれ出てくる人も増えてくる
そこかしこで無事を喜ぶ声と失われた命を嘆き悲しむ声が聞こえてきたのだった




