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ヴァルムートの夜

「そう言えばエルフって魔族化しないの?」


「こう言う言い方は嫌がる人多いけどエルフは元々魔族とそう変わらないわ・・・」

「エルフも魔族も共通点多いし似た特性持ってるからね妖精と妖魔の違いなんて人間から見て友好かどうかだもの」

「エルフの中でも英雄の領域に達する程の魔力を蓄えた者は上位妖精(ハイエルフ)と呼ばれるわ」


「その中から魔王は生まれるの?」


「過去に何人かの魔王がいたらしいけど・・・」


「今はいないの?」


「どうなのかしら」

「この数百年その魔王達の話しは聞かないし噂すら耳にしない」

「でもその魔王達が討たれた話しなんて聞いたことがないのよね・・・」

「もしかしたらどこかで生きているのかも?」


「でも魔王って独りで放浪するのは珍しい方でしょ?」

「国や軍を持つことが多いわけだし」

「討伐の話しもないのにパッタリと聞かなくなるなんて不自然よね」


「・・・・・・」

「そのフリット食べないなら貰っても良いですか?」


「ダメ」

「楽しみにとってるんだから横取りはだめよ?ラルク」

「っぁぁああああ!!」

「シンシア何しれっと食べてるのよ!!」


「別にもう1皿頼めば良いだけじゃない」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「この恨みはらさでウグッ」


「バカ言ってないである物から食べなさいなw」


シンシアは私の口に骨付きチキンレッグを押し込んできた


「モグッングッガフッ」

「ングングゴクッ」

「これで誤魔化せるとか思ってないでしょうね」


「思ってるわよw」

「どうせまだ食べるんでしょ?」


「そうだけど」


「じゃあ追加ねw」

「すいませーん!」

「このフリットとワイン追加ねー♪」


3人のテーブルにはこれでもかと言わんばかりの料理が並べられ次々と完食してはおかわりを頼む

その様子は周りの注意を引くと同時に近寄り難い雰囲気を醸し出していた


「このパンで包んだヤツ中々イケるわね」

「こっちのシチューも美味しいわ」

「ラルクそっちのソーセージはどう?」


「このソーセージもハーブが効いてて美味しいです」

「とりあえず情報収集は済ませないとイケませんね」


「なんか普通のレストランで話す内容じゃ無い気がする」


「周りを見てごらんなさい?」

「どうせ誰も聞いちゃいないわよ」


私達はレストランの一番奥にあるテーブルを陣取っていた


そしてお店の中央付近では酔った冒険者達がバカ騒ぎしている

何かの打ち上げか大いに盛り上がり店中巻き込んでの大宴会になっていた


「あの人達何か良いことあったのかしら?」


「さぁね」

「興味ないわ」


既に何杯飲んだか分からない程飲んでいるがシンシアは全く酔った素振りを見せない

ラルクは対照的に赤い顔で頭が揺れている


これ以上話したところでラルクは覚えていないだろう


「ここに来てガラスや陶器を見ないけど・・・」

「まさか無いの?」


「陶器は量産体制が確立してないから高級品なのよ」

「ガラスに関しては高級品として普及し始めてるけれどグラスが出来るにはもう少しかかるかもね・・・」


「そうなんだ」

「紙も普及してないみたいだし文明は結構アンバランスだね」


「・・・・・・・」

「まさか・・・・」


「作らないわよ」


作らない(・・・・)?」

「作れるんだ・・・」


「・・・・・・・」

「でも全部木の食器と言うのも味気ないわね」


「作る?」


「作らない」

「って言うかホントのところはどうでも良くて反応見て遊んでるだけでしょ?」


「ふふふっ」

「どうかな?」

「でもワインはやっぱりグラスで飲む方が良いんじゃないの?」


「こっちでお酒覚えたんだったね」

「グラスの方が美味しく飲めるとは思う」

「でも陶器もまだ高級品なのは驚きだわ」


「陶芸家にでもなる?」


「私の目的は定住じゃないのは知ってるよね?」

「ってもぅ」

「寝ちゃったねラルク」


「こうやって見ると昔を思い出すわ・・・」


「部屋に戻りましょうか」


2人で酔いつぶれたラルクを担いで部屋へと戻った


ー・ー


「シンシア」

「ラルクとはどういう関係なの?」


「そうね・・・」

「アリエルには話しておいた方が良いかしら」

「・・・・・・」

「この子は帝国領で出会った戦災孤児なの」


シンシアはベッドに寝かせたラルクを見つめながら語り始めた


「もう30年近くたつのね・・・」


その頃帝国は2つの国との戦争状態にあり国境付近の戦闘は激化していた


いかに軍事大国である帝国と言えど同時に2つの国への侵攻は無謀と言える行為であり当時は小競り合いで終わると思われていた


しかし帝国は異常とも言える戦力を投入し戦闘は激化

戦禍は拡大し周辺諸国を巻き込む事態へと発展していった


「私もね・・・」

「戦災孤児なのよ」

「産まれて10歳の頃に谷が魔王軍に滅ぼされてね」

「私は姉達に連れられて海を渡りこの大陸へとやって来たの」

「その頃にはまだ帝国なんて存在しなくてね」

「船で港湾都市国家アルダート王国にたどり着いた日の事は今でも覚えてる・・・」

「今は帝国に併合されて無くなったわ」


「じゃあシンシアが産まれたエルフの谷は?」


「今も魔王軍が占領していると思う」

「谷を追われて10年・・・」

「シエラ皇国にあるエルフの里にたどり着く頃には一緒に逃げてきた仲間は半分ぐらいになってた」

「魔物や盗賊に襲われて命を落としたり奴隷商人に捕まったり」

「途中の森で村を作ろうと残った人達もいたわね」

「堪えられなくて自殺した子もいたわ・・・」


「辛い旅だったね・・・」


「エルフと言っても亜人種だもの」

「亜人種の扱いなんてどこもそんなに変わらない」

「エルフやドワーフが引きこもるのも少しは理解できるかな?」


「エルフやドワーフはもっと地位があるものだと思ってたわ」


「人攫いや奴隷は人間にもあるリスクだけど亜人種に多いのは人権云々よりも需要の問題かしらね」

「亜人種好きな変態多いもの」

「ウチの娼館に亜人種が多いのも需要が多いからだしね」


「経営者が言うとリアルだね」


「100歳になった時に旅に出ようと決めたのよ」

「エルフだから人生の密度は全然無かったけどスローライフと魔術修行は人間の一生分経験したしね」


「そこもリアルに説得力あるわ」


「ふふふっ」

「それで10年くらい放浪してたらリグルと出会ってね」

「2回目会った時も奇妙な縁を感じたけど3回目は違和感しか無かったわ」


「出会って80年だっけ?」


「いくらお爺ちゃんでも30年同じ姿で旅してれば違和感しかないでしょw」


「あー」

「普通寿命で死んでるな」


「でしょ?」

「私は諸国漫遊の旅だったけど帝国の戦禍を避けてたしリグルは同じ土地には10年以上いられなかったし・・・」

「どこかで目的地が噛み合ったんでしょうね」

「ある意味帝国の戦争がリグルとの縁を繋いだようなものよ」


「奇妙な縁だねw」

「・・・・・・・・・」

「帝国ってそんなに長く戦争してるんだ」


「もうすぐ100年になるんじゃないかな?」

「戦争が長引いて一つ二つと国を飲み込んで大きくなる帝国に魔王が戦いを挑んだのが今から40年くらい前の事」


「ラルクと別れて20年だったかな?」

「その前に10年旅してたんだよね?」


「魔王戦争は20年以上続いたんだけどそれ程長く魔王と戦えてた帝国の強さは異常よ」

「ラルクが魔王側に付いて5年・・・」

「今から10年くらい前に魔王は倒されたわけだけどラルクが関わった和平交渉の騙し討ちで魔王軍はその指揮官達の半数を失っていたの」

「もっとも帝国は自分達が停戦交渉を持ち掛けたけど騙し討ちにあったと言ってるわ」

「そこから魔王が倒されるまで先陣を切ってたわけだけど・・・」

「人間はたった数年で魔族に覚醒するの?」


「元々戦場で勇者として戦ってたのでしょう?」

「更にそこから魔王の腹心として数年間傍にいただけで覚醒したのは事実だものね」


「私があの子を拾った時はまだ赤ん坊でね・・・」

「初めは転生者とは分からなかった」

「勇者として覚醒するに連れて前世の記憶も覚醒した感じね」


「そんな事もあるんだ」


「そう」

「魂だけの転生だと覚醒時期は個人差があるの」

「成長してから記憶だけが覚醒する人もいて他人の記憶みたいに感じてスキルや経験だけ得られる感覚らしいわ」

「私は産まれて直ぐ覚醒したから両方が混ざりあった感覚ね」


「リグルは肉体ごとって言ってたから元の人格のままなんだね?」


「そうみたいね」

「逆にラルクは前世の記憶が稀薄でこの世界の人間に近いわ」

「5年程森で育てたんだけどその村も追われてね」


「戦争?」


「田舎の村人にエルフも魔族も見分け付かないわ」

「単純に魔女狩りに近い形で追われたのよ」


「魔女狩り?」


「剣と魔法の世界で魔女狩りがあるのが不思議?」

「魔女は魔法使いと言うより錬金術師に近いからね・・・」

「都会ではそんな事無いけど魔法使いの来ないような田舎ではまだ魔女のイメージ悪いのよね」


「田舎を廻る薬師のような魔女もいるって話じゃなかったっけ?」


「そうね」

「でも田舎や山奥で良くない実験や研究をする魔法使いはいるのよね・・・」

「ラルクを育てるために人里離れたつもりだったのだけれど戦禍に追われた人達が森を開拓し始めたせいで見付かっちゃったの」


「知らないうちに森にエルフが隠れ住んでたと」


「しかも人間の子供を育ててたもんだから何処からか拐って来た魔女なんて噂が流れてね」

「今思えば警戒を兼ねて〈樹木従者(プラントサーヴァント)〉を森に配置してたのも良くなかったわね」


樹木従者(プラントサーヴァント)?」


「ゴーレムに近いのだけれど木や切り株を利用して下位精霊を憑依させるのよ」


「ゴーレムとの違いは?」


「ゴーレムは擬似的な魂を作るか何かの魂を憑依させて従属させるわけだけど・・・」

「精霊はあくまで手伝ってくれるだけだからね」

「気に入らないことがあれば還っちゃうし自己防衛もするわ」


「・・・・・・」

「それで村人が攻撃して反撃を食らったとか?」


「その通りよ」

「だからそんな森に住んでた私達なんかもう目の敵にされたわよ」


「逆恨みのとばっちりじゃない?」


「それを田舎の一般人が理解できるとでも?」


「無理だよね」


「それを救ってくれたのが薬草の買い付けに来てたリグルなのよ」

「既に半世紀ぐらいの付き合いがあったから森で隠れ住むようになった後も時々薬草の仕入れを口実に立ち寄ってくれててね・・・」

「この子にとっても良いお爺ちゃんよw」


「追い出されてから3人で旅に?」


「そう」

「他で隠れ住んでても同じ目にあうのは目に見えてたから・・・」


「この子の産まれた村の跡地には別の人達が集まって今は町になってるわ」


「それがノッキングヒル?」


「違うわよw」

「ここよりもっと東の方・・・」

「今は帝国の町よ」


「赤ん坊って事はシンシアの事を親だと思ってるのかな?」


「そうかもしれないし・・・」

「違うかもしれない」

「私はラルクと別れてから今の商売を始めたの」

「戦争で疲弊した人達に仕事と娯楽を与えるためにね」


「娼館もその一つ?」


「ソレでしか食べていけない人達もいるのよ」

「それに」


「それに?」


「帝国の奴隷だった人達には他の生き方なんて選べない」

「だからウチは特に若い奴隷達を買い取って働かせてる」

「宿や畑なんかをやっているのもそう言う理由」

「だからウチの娼館で無理矢理働いている子はいないわ」


「そう言うことやってるとやっかまれるんじゃないの?」


「あるわねw」

「だから央都で始めたけれど今はノッキングヒルを拠点に活動しながら指示を出してたの」

「殆ど皆が解放奴隷だったから良く働くお陰で私は暇なのw」

「だから私がやるのは決定と資金投入ぐらいなモノよ」


「でも旅しながら良くそれだけの資金集まったわね」


「それもリグルのお陰かな」

「冒険者として登録してリグルの引率で魔物倒して」

「気が付いたら下位ドラゴンとか普通に狩ってたものw」


「それって・・・」


「私とリグルはS級冒険者なのよ」

「この子はA級だったけど・・・・」

「勇者になってランク外の英雄と呼ばれるようになって・・・」

「そのランクも栄誉も剥奪されたのよね」


目を伏せたシンシアが何を思ったのかは分からない

しかし話している内容や表情から我が子のように慈しんでいるのがわかった


「私達といる限りは餓えることも盗みをやる必要も無いから安心できるんじゃない?」


「そうね・・・」

「でも歳をとらないせいもあって気付かれる事もあると思う」


「手配書とか廻ってるの?」


「そう言うのはあると思う」

「帝国の影響力は近隣諸国にも及んでるから」


「なら偽装工作しときましょうか」


収納魔法から金と銀を取り出しネックレスを作り出すとその鎖一つ一つに偽装魔法と抵抗力上昇や感知を付与していく


「間近に見ると凄い魔法よね・・・」


「・・・・・・・」

「シンシア」

「たぶん襲撃されるから出発の準備して」


「・・・・・わかった」


素早くネックレスをラルクに着けると魔法で目を覚まさせる


「何?」

「私酔い潰れてた?」


「シッ」

「たぶん襲撃される」


「何で?」


深夜まで飲んでいたお陰で服も脱いでないし髪もほどいていないのが不幸中の幸いだろうか

手早く鎧と剣帯を身に付けると気配が近付いてくる


キィ・・・・・・


僅かに軋む窓を開けると夜風が吹き込んでくる

私はラルクを小脇に抱えると素早く外へと躍り出た


刹那


ガチャッガシッ!


扉が大きな音をたてるが開く気配が無い

シンシアが扉の取っ手に燭台を挟み込み開かないよう細工していたのだ


「流石♪」


宿屋の3階から飛び降り向かいのお店の屋根に飛び移る


ザシッ!

ガコッ!


直ぐ隣にシンシアが着地するのを見てラルクを放すと認識阻害魔法で3人を包む


「魔法で攪乱してるから動かないでね」


唇に人差し指を当てながら2人に囁くがラルクは俄に信じることが出来ず逃げようとする


「大丈夫よラルク」

「アリエルがあぁ言ってるんだから心配せずじっとしてなさい」


ラルクは不服そうな眼差しを向けるが大人しく従ってくれた


ー・ー


今しがた飛び降りた窓に人影が見えた

魔法が効いていなければ丸見えの位置である


影は踵を返すと部屋の暗がりに消えていった


そして程なくして宿の一階から4人の影が走り出る

一人が手で合図を送ると一人が離れ走り去る


残る3人は地面を調べるが痕跡等見付かる筈も無く3人はバラバラに走り去って行った


「まいたみたいね」


「目の前にいたのに気付かないなんて・・・」

「貴女の魔法ってホントにチートだわ」


「さてと」

追跡者(チェイサー)〉の呪文を唱えると足跡が仄かに光始めた


「なっ何これ・・・」


「追跡の魔法よ」

「始めに離れた奴を追いましょう」

「たぶん依頼者か奴等のアジトの向かった筈だから」


静かに店の前に降り立つと足跡をたどり後を追った

裏路地へと入り人目を避けるように奥へ奥へと進んでいく


「ここは・・・」


「第一防壁ね」


シンシアが睨み付けるように見ていた足跡は防壁の前まで来るとふつりと消えていた


ー・ー


「内側のお金持ちに狙われるとしたら・・・」


「私じゃないと思うけど」


「シンシアじゃなかったら他の誰がお金持ちの恨み買うってのよ」

「アタシやシンシアじゃなかったらラルクって事になるんだけど・・・」


「私には心当たりが有ります」

「お金持ちや上級冒険者相手に盗んでましたから」


「でも顔はバレてない筈じゃないの?」


「それはわからないです」

「何かしらの方法で特定されたのかも」


「とりあえず後を追いましょうか」


「どうやって?」

「足跡はここで消えてるのに」


「そう」

消えている(・・・・・)のよ」

「魔法はまだ有効よ?」


「だとしたら飛んだと言うこと?」


「どうかしら?」


静かに足跡の消えた地点に立つと目の前の壁を調べた

なんの変哲もない煉瓦を積み重ねた防壁・・・


のはず(・・・)だった


煉瓦に違和感を覚え触れてみる

顔を近付け壁スレスレを睨む


「どうしたの?」


「ここに隠し通路がある」


「通路?」


「クライミングの突起って言った方が良いかな」

「初めの1段目は高く設定されてるけど2段目からは登りやすく作ってある」


足跡に重なるように立ちジャンプする

壁の僅かな突起に指を掛け身体を引き上げるとクライミングの要領で上へ上へと登っていく


20mぐらい登っただろうか?


壁が途切れて夜空が見えてくる

一気に壁の上にある通路へと降り立ち周囲を警戒する


「ホントに登れるようになってるんだ」


「昼間は使えませんが夜ならば誰にも見付かりそうに無いですね」


再び足跡を見つけ追跡を再開した

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