邪神
「グガァアアアアッ!!」
「俺様が!!」
「この俺が何故こうも一方的にやられねばならんのだ!!」
「ザコだからよ」
絶縁体の皮膚を持ち水系統と氷結に対して高度な耐性を持つクァターロフ
本来水中ならば無敵と言っても良いだろう
だが私の形成した空間は排水されて水が無い
「クソゥッ!!」
「埒が明かん!!」
「技能〈大海嘯〉!!」
「フハハハハハハッ!!」
「この水圧は人間如きには耐えられんだろう?」
「深淵の水底で滅ぶが良い!!」
クァターロフのスキルは空間を割き大量の海水を呼び込んだ
唸る海水は結界に阻まれ渦をなし巨大な〈大渦〉を形成する
クァターロフは親水属性であり水の無い乾いた場所では魔法の威力も削がれてしまう
その不利を覆す為に海水を呼び込んだのだ
逆に水中ではその地形効果が存分に発揮されその威力は倍増する
そのため先程戦っていた島亀は圧倒的に相性が悪い
「ガッハッハッハッハッ!!」
「見たか下等生物が!!」
「ちょっと魔法を操り良い魔道具を持った所で所詮は人間!!」
「この超水圧の渦に押しつぶされるが良い!!」
絶対的な水耐性を持つクァターロフの奥の手だろう
指定された範囲内に大量の海水を召喚しその大渦の水圧で大ダメージを与えると共に窒息させるのが狙いだろう
更には有利な地形へ変化させる事により一方的な攻撃も可能となり弱点属性攻撃への阻害など攻守に優れた戦術と言える
人間相手ならば
「つまらん」
「焼き尽くせ〈殲滅する炎〉」
私の放った魔法は海水程度で阻めるものでは無く遺憾無く威力を発揮した
一瞬で蒸発した為水蒸気爆発を起こすが結界に阻まれ拡散されず強烈な圧力上昇を引き起こす
「グッガガッ!!」
「なっ何がっ?!」
「熱いっ熱い熱い熱い!!」
「なっ何だこれは?!」
「この坊やは圧力鍋も知らないの?」
「大量の海水を引き込んだから魔法で茹で上げてるのよ」
「でもこの茹でダコは美味しくなさそうだわ」
「なっ?!」
「何をふざけた事を!!」
「ナメやがって!!」
再生させた触手で連続攻撃してくるが全く当たらない
それもその筈
結界内は水蒸気により加熱と加圧がされているが私には何の影響も無い
対してクァターロフの触手はその熱と圧力による制限を受けて動きが鈍っていた
「なっ?!」
「何故そんなに素早く動ける?!」
「おっ!!」
「お前卑怯だぞ!!」
「結界で水と圧力を防ぐな!!」
防ぐなと言われても
この結界による加熱と加圧の地獄は私の攻撃で有る
止めろと言われて止めるわけもない
実のところ私の身体には何のダメージも無いのだが
それをこの茹でダコに教えてやる必要はない
「せっかくだからもう少し遊んであげるわ」
「潰れなさい〈重力操作〉」
「ん?」
「何だ?」
「虚仮威しか?」
クァターロフが煽ってくるが完全無視
そもそもこの魔法はクァターロフ自身に掛けてはいない
クァターロフの周囲の水を重力で加圧しているのだ
超水圧の壁がサイコロ状にクァターロフを囲い込み収縮して圧し潰す
「グベェ!!」
「がっ?!」
「ぐがっ!!」
「せっ狭い!!」
「何が起きている?!」
「お前」
「相手の力量も正確に判別出来ないの?」
「無能過ぎて拍子抜けね」
四角い空間に圧縮されていくクァターロフを見詰めながら溜息をつく
こんなヤツでも神の端くれ
警戒して反撃出来ないように攻撃してきたが杞憂だったか?
私は結界内からクァターロフの呼び出した海水を放出した
再び乾いた床に締め付けられたクァターロフが落ちる
「なっなっナメるなぁー!!」
クァターロフは奇跡を解放し私の重力操作を無効化して解放された
だが消耗は相当激しいようで各部の再生が追い付いていない
そして既に海水は排水されておりクァターロフの弱点属性である火炎系統を阻害する物はなくなっていた
「アンタじゃ相手にもならないわ」
「そろそろ消えなさい」
「グァアッッ!」
「まっ待て!!」
「待ってくれ!!」
「見逃してくれ!!」
「クソゥッ!!」
「ミリアめ!!」
「あの阿婆擦れめ!!」
「アイツに一矢報いる迄は死んでも死にきれん!!」
「頼むっ!!」
「殺さないでくれ!!」
ほほぅ
この無様なタコスケもあの性悪女神の犠牲者と言うことか
とは言え素行の悪いこんな奴
生かしておく価値も無い
構わず〈攘夷火炎〉で表面を焼いた
この魔法はただ焼くのではなく込められた魔力に応じて持続的に焼き尽くす性質を持つ
クァターロフの肉が焼け何とも言えない腐臭が立ち込めた
「クックソッ!!」
「何で俺がこんな目に!!」
「それもコレもあの阿婆擦れのクソ恩恵のせいだ!!」
「あぁっっ!!」
「くるしいっ!!」
「呪ってやるっ!!」
一々コイツの愚痴を聞いてやる趣味は無いが時間稼ぎのつもりかクァターロフは身の上話を始める
言葉遣いと言い態度と言い
何処と無く中2病臭さが鼻に付く
「あんまり美味しそうには見えないけど」
「斬ったらマシに見えるかな?」
私は聖光熱線の呪文でクァターロフをカットし始めた
何にしても触手を斬り落とし力を削がなければいつ何処で復活するとも知れない
そうなればコイツは自分のやった事を棚に上げ逆恨みして付け狙ってくるだろう
ここはこの腐れタコスケが気が済むまで語る間ゆっくり斬り刻んでやろうか・・・・・
「なっ何で俺がこんな目にっ!!」
「俺はグランザラムの英雄だぞ?!」
「それがっ!!」
「あぁっっっ」
「不死のチートギフトを願ったのにあのクソ女神!!」
「不死どころか吸収なんてスキル与えやがって!!」
ほぅほぅ
吸収とな?
どうやらクァターロフは昔ミリアによって召喚されたグランザラムとか言う国の英雄だったらしい
この辺りの地図にそんな名前の国は無かったので既に滅んでいるのだろう
抵抗力の弱ってきたクァターロフを鑑定すると多種多様なスキルを保有していることが分かる
どうやら吸収と言うギフトスキルは中々にえげつないようだ
「クソックソックソォオッ!!」
「殺した魔物の魂を吸収して力とスキルを得て不死になれるだと?!」
「お陰でこのザマだ!!」
「スキルと寿命なら人間でも問題なかった!!」
「それをあのクソアマッ!!」
ふむ
どうやら殺した相手の魂を取り込んで力にするスキルか
ならばこの醜く肥大した姿は魔物の魂を喰い漁った副作用と言ったところか
命乞いをしながら悪態をつくクァターロフをお構い無しに斬り続けていく
「あの時っ!!」
「あの時クソミリアに騙されてクラーケンの討伐なんかしなければっ!!」
「せめて人の姿を保っていられたのに!!」
「あああああっ!!」
「ちょっとお前!!」
「無視して俺を斬り刻みやがって!!」
「人の話を聞いてるのか?!」
無数の触手の半分を焼き切ったところでクァターロフは文句を言ってきた
元よりコイツの与太話等聞く耳持たない
調子に乗って吸収なんてリスキーなスキルを使い続けたコイツの末路だ
ギフトスキルの選択もその用法も
良く考えず乱用したコイツに同情の余地は無い
「せっかく斬ったのに何再生してんのよ?」
「お前なんか死ぬまでそこに転んでな」
私は再生しかけた触手を含め身体を支えている脚や触手を薙ぎ払った
聖属性の熱光線で焼き切ると消滅してくれるので分裂再生を気にしなくて済むのが良いところだ
「がっ!がっ!!がっ!!!」
「グクゥッ!!」
「こっ」
「この悪魔!!」
「やるなら一思いに殺れ!!」
中々しぶとい
それにしても水を失うだけでこうも弱くなるのか?
これでは妥当ミリア等夢のまた夢
どうすることも出来ないだろう
「一思いとか言ってるけどさ」
「まだ信仰力に余力のある内にその肉体を滅ぼしても別の場所で復活する気でしょ?」
「魂胆が見え見えなんだよね」
「ウグッ!!」
「なっなっ何の事だ?」
「復活出来るなら命乞いなんかしないだろう?」
動揺が隠せていない
図星だな
「今からアンタの信仰力を削ぎ落とす」
「覚悟しな」
私は眼を細めてクァターロフを睨みつけると右手で虚空に魔法陣を描き始めた
同時に詠唱を始めた
ーーーーーーー
虐げられし者よ
哀れなる者よ
打ち上げられた魚の如く無力なる者よ
ーーーーーーー
「ウガァァアアッ!!」
呪文の詠唱途中にクァターロフが仕掛けてくるがその攻撃が並列詠唱出来る私に届く筈もない
私は無詠唱で並列発動させたプラズマを纏い蒼い炎に包まれる
ーーーーーーー
神々に名を連ねる哀れなる者よ
その痛みと苦しみを信徒達と分かち合え
その断末魔を汝を信奉する者達に曝け出せ
ーーーーーーー
〈強制感覚共有〉
発動させた魔法陣はクァターロフを包み込む形で展開した
「イッツショゥタイム」
パチンッ
私が指を鳴らすとクァターロフの全信者に対し私の視覚映像と音声が配信される
それは信徒に対する啓示として発せられる為寝ていようが目を瞑ろうがお構い無しで頭の中に投影された
ここに至るまでの映像と音声を自分の記憶から再生し全信者の記憶として植え付ける
「なっ」
「何をした?」
「さっきまで晒したお前の醜態をお前の信者全員に啓示として送りつけたんだよ」
「なんてことをしやがる!!」
「この腐れアマ!!」
クァターロフは激昂して一気に身体を再生させると矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてきた
だが全ての触手は虚しく空を切るばかり
水の無い空間で全身を高温にら晒されたクァターロフはダメージが蓄積し完全に精彩を欠いていた
「焼け死ね〈火炎旋風〉!!」
クァターロフを中心に巨大な炎の渦が巻き起こる
上昇気流を巻き起こし範囲内の全ての物を酸素と共に焼き尽くしていく
「グガァアアアアッ!!」
「技能〈吸収〉!!」
クァターロフがスキルを使用すると巨大な魔法陣が現れ火炎旋風を呑み込む
するとクァターロフの肌は蒸気を発しながら紅く染まった
「茹で上がったのかな?」
私が嘲り混じりに言い放つとクァターロフの眼光が鋭くなり強力な憎悪と殺意を向けて来た
「オノれ」
「だがモハヤワレにほのおハキカヌ」
クァターロフの言葉遣いが急にたどたどしくなった
全信者への強制神託配信のせいにも思えるが・・・・・
様子が変だ
火炎旋風の吸収により炎が無効化されたように言ってはいるがどうも継続的スリップダメージを喰らっているように見える
クァターロフの吸収には何か制限や法則が有るのではなかろうか?
「フンッ」
「さっきまで泣き喚いていたくせに炎が効かないって?」
「痩せ我慢じゃないの?」
試しに再び火炎旋風をお見舞いした
しかし
「キカぬ!!」
「キカぬハ!!」
クァターロフを包みこんだ炎は燃え盛り効いたかと思えたが口を開けたクァターロフに飲み込まれてしまった
「クラえ!!」
ゴォウッ!!
今度はクァターロフが口から火炎旋風を吐き出した
効かないというのはどうやら本当らしい
「ガカカカカカッ!!」
「モエろモエろっ!!」
「ワレにサカラッタコトを後悔スルガ良い!!」
勝ち誇ったように笑うクァターロフ
それを見た信者は更に畏敬の念を送ったのだろう
クァターロフの肌に再生の兆しが見えた
「残念」
「焼き蛸はできないみたいね」
私が指を鳴らすと火炎旋風は掻き消えた
純粋に魔力を衝突させて打消したのだ
「フンッ」
「マァ良い」
「コノ私カ゚コレだけダト思うナヨ!!」
再び言葉遣いが元に戻り始めた
やはり演技では無く信仰心が揺らぎ力が減衰した副作用か相反する属性の吸収獲得による不具合と言ったところか
「ならこれはどうかな?」
〈高水圧烈斬〉
私が水魔法を唱えると超高水圧の刃がクァターロフに襲い掛かる
以前のクァターロフならば水耐性が高く表皮で水が霧散していた魔法だ
「グガァアアアアッ!!」
「オノレッ!!」
私の放った無数の水の刃はクァターロフの触手を中心に体中を斬り刻み不気味な黒い血を流している
あ
やっぱり
クァターロフのスキル吸収による属性強化効果では反する属性を同時に獲得する事は出来ないようだ
クァターロフの肌が焼けていたのは親水耐性で作られた表皮が親火炎属性の魔力に抗しきれなかった結果だろう
ミリアに受けた加護が改編出来ないのか
はたまたそこに意識が回らなかったのか
何にしても欠陥のある能力なのは間違い無い
「このクソがぁっ!!」
クァターロフは再び炎を吐きながら同時に触手で攻撃して来る
その猛攻は凄まじく逃げ場が無い
「連続同時攻撃が点ではなく面になってる」
「ふふっ」
「少しはやるじゃない」
「でもね」
〈加速〉
「こっちが加速してしまえば面は点に戻るのよ」
クァターロフの猛攻も加速してしまえばどうと言う事は無い
炎と触手の同時連続攻撃を素早く繰り出す事で形成されていた制圧面が再び綻び連続した点の攻撃へと変わる
どんな連続攻撃も間隔が開いていれば躱しようがあると言うもの
「あっ当たらないだと?!」
「この俺様の全力攻撃を躱していると言うのか?!」
クァターロフは驚いているがそれでも攻撃の手を緩めない
と言うか緩められない
緩まると一気に攻め込まれると言う恐怖がそうさせるのだ
私は躱しながら左へ左へと円運動で移動している
未だ間合いは詰めていない
「驚いてるなー」
「でもこっちはもう退屈なんだよね」
私は急にステップを逆に変えると右前へと躍り出る
ずっと右回りに気を取られていたクァターロフは急な逆サイドへの転身に対応が遅れた
ドグワッ!!
「グガッッッ!!」
「このっ!!」
一気に接近してクァターロフの一撃を加えた後右回りでクァターロフを殴り続けた
「グアッッ!!」
「この野郎!!」
「ちょこまかとっ!!」
「待てコラッ!!」
「シャッソッ!!」
「ッラァアッッッ!!」
まるでチンピラのように凄んでいるが一方的に打たれるクァターロフ
その姿は信者達の目に情けなく映るだろう
あえて抜刀せず殴り続ける事で醜態を晒させ信仰心を揺るがせる
もう少し
後もう少しでクァターロフの信者達は落ちるだろう