メルカッツ要塞
「転生者・・・・・・ですか」
「反応が薄いですねw」
「既にリグルの素性も知っておいでと言うことですね?」
「ええ」
「リグルがヤマトとして旅をしていたのが100年程前って事もね」
「見た所人間は辞めちゃってるっぽいけど」
私の言葉にシオンは優しく微笑む
その表情からは感情が読めない
やりにくいなぁ・・・・・
「人間を辞めているのはお互い様」
「ではなくて?」
「リグルは人と言うより既に亜神の領域に踏み込んでいます」
「ラルクは魔族化した転生者」
「そちらの方は一見普通のエルフですが・・・・・・」
「違いますよね?」
「そして貴女は・・・・・・・・」
「何かしら?」
「人では無いと言う事は分かるのですが」
私達だけでなくシンシアまで言い当てるとは
只者ではない
「私は新米の神様よ」
「まだ神界へは行ったことがない現人神といったところかしらね」
「神様・・・・・・・・」
「ですか」
「・・・・・・・・・」
「神々の黄昏」
神という言葉を聞いてシオンは呟いた
「亜神候補としてリグルはある程度禁忌について知っているわ」
「ラルクはレイジから聞いているそうよ」
「そう・・・・・」
「なのですね」
「そう・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・はぁ」
「・・・・・・・」
「まぁ」
「分かっていましたけどね」
「結局」
「レイジの寵愛を受けたのはラルクだけだって」
シオンの言葉にラルクは赤面した
本人はバレていなかったつもりなのだろう
けれど獣人達からすれば丸わかりなわけで
他の種族でもバレ無い保証はない
それに
この話題を切り出してその重要性を理解している
その時点でシオンはプレイヤーかその候補
少なくとも禁忌の知識は得ていると考えて差し支えないだろう
「貴女は何処でそれを?」
「私はこう見えてそれなりに生きていますので」
「年の功・・・・・・」
「ですかね」
深く聞く話しでもないだろう
その件については触れない事にした
ー・ー
「貴女も亜神って事で良いのかな?」
一通り話を聞いた後
改めてシオンに核心的な質問をした
「亜神程の力は有りません」
「ですが禁忌の知識により参加する権限はあります」
「そして私は一度死んだ人間です」
「普通に生きているように振る舞っていますが・・・・・」
「既に食の喜びも性の悦びも失った抜け殻なのです」
シオンは寂しそうに呟いた
相変わらずその微笑みからは何の感情も読み取れない
「生き返りたい?」
「え?」
唐突な私の問にシオンは戸惑った
初めて見る彼女の狼狽えぶりにまだ生への未練があるように感じる
「そぅ・・・・・」
「ですね」
「神様ですものね」
「奇跡で生き返らせる事は出来ますものね」
「・・・・・・・・」
「けれど奇跡による復活は神の眷属となり従属を意味すると聞いています」
「ですが・・・・・・」
「私はレイジに身を人生を捧げました」
「それは失恋したとしても片想いでも変わりません」
「私は彼の意志を受け継ぐ者として永遠にあの方をお慕いするのです」
「わかった」
「でももし復活したくなったら言ってね?」
「私の与える復活は奇跡じゃないから従属と引き換えとかじゃないし」
「え???」
「アリエル?」
「貴女驚かせて遊んでない?」
シンシアに突っ込まれたが
断じて無い
反応を見て遊んだりしていない
面白いとは思うけど
「さて」
「そちらの事情は把握したわ」
「魔王軍の拠点としてあまり目立つわけにはいかないからあの蟹さんに頑張ってもらってると」
「でもそれなら・・・・」
「私が地竜を瞬殺しちゃったのは迷惑かかっちゃうわね」
「仕方有りません」
「どの道あのままではいずれ門番は倒され中に雪崩込まれたでしょう」
「そうなればこの要塞は白日の元に曝され討伐隊が殺到する」
「今回の件が無くとも最早限界だったのです」
「じゃあどうするの?」
「実は・・・・・・」
「この要塞を破壊して脱出する計画をたてていたのです」
「近日中に決行し各地のダンジョンに身を隠すつもりでした」
「それはもったいない話ね」
「こんな立派な要塞を破壊するなんて」
「でも仕方がないのです」
「私達の存在がバレればミリアは見過ごせないでしょう」
「何処へ逃げても執拗に追ってきて駆逐する迄続く・・・・・」
「そう言う事情なら私達の案に乗ってみない?」
私はシオンに神威同盟の話をした
そして近い将来獣人族とエルフによる連合軍で挙兵する事も
「なっ・・・・・・・」
「そんな事を貴女が???」
「・・・・・・・・・・」
「3人の神格と亜神まで参加ですか・・・・」
シオンは少しの間考え再び口を開いた
「アリエル様」
「わた・・・・・・・」
「ここまで打ち明けたんだから魔王軍も参加するわよね?」
シオンが言い終わらない内に被せて問うた
勿論何を良いたかったのかは分かっている
だからこそ盟主として先に声掛けたのだ
バステト達と対等な立場を与える為に
「え?」
「それは願ってもない事ですが・・・・・・」
「聞いたわね?」
「私がシオン達魔王軍を神威同盟に勧誘したの」
「異論は無いわね?」
「かっかっ!」
「相変わらず形式を気にするのじゃな」
「賛同して参加を希望するのと盟主自ら誘うのでは立場が違う」
「と言ったところか」
「これで魔王軍はワシ等と対等な同盟関係と言う事じゃ」
「リグル」
「貴方がバラしたらダメじゃない?」
「フンッ」
「誰も気にせん形式を気にするまでも無かろうが」
「気休めでも良いじゃん」
「ともかく」
「これでシオン達魔王軍も正式に神威同盟に加わるんだから」
「それで」
「魔王軍の代表者は誰?」
我ながらいやらしい聞き方だと思う
シオンの言葉通りならば・・・・・・
「勿論ラルクです」
「勿論シオンですよね」
ラルクとシオン
2人の声が重なった
「なっ何を言ってるんですか?」
「今までシオンを代表として頑張って来たのでしょう?」
「いいえ」
「私はあくまで参謀として維持してきたに過ぎません」
「もし貴女がいなければこの同盟に私が旗手として参加したでしょう」
「ですが」
「だって」
「だって私はこの20年ただ逃げ回っていただけだよ?」
「貴女達を探そうともせずに」
「ただ自分のことだけを・・・・・」
「おやめなさい」
「そんな嘘を私が信じるとでも?」
毅然とした表情でシオンは言い放つ
そして目を伏せて言葉を続けた
「合流すれば追っ手に見つかるかもしれない」
「合流すればいずれ玉砕覚悟で蜂起するかもしれない」
「そうやって生き残った私達の命を無駄にしないよう」
「要らぬ犠牲を出さない為に独りで逃亡していたのでしょう?」
シオンの言葉にラルクは返す言葉も無い
俯いたまま唇を噛み締めていた
「ここに閉じ籠もっていても外の情報は入っているのです」
「貴女が転々としながら騒動を起こして捜索の手を私達から逸らしていたのは分かっています」
「それに・・・・・・・・」
「それに?」
「魔王様の寵姫如きが正妃様に適うわけないでしょう?」
サラッと言い放ったシオンは満面の笑みを浮かべていた
ー・ー
「ちょっちょっちょっ!」
「なっ何ですかその正妃ってっ!!」
「あらぁ」
「皆の認識はそうよ?」
「私は所詮妾の身分だって」
「だっ誰がそんな事を?!」
「私w」
「でも皆がラルクを正妃として見ていたのは事実よ」
ラルクは完全に揶揄われている
それだけ気を許した相手と言うことか
おそらくこの20年と言う年月はラルクのみならず魔王残党軍のとって1日も気が休まらない日々だったのだろう
「さてと」
「じゃあラルクが魔王軍の代表者ね」
「ちょっアリエルっ!!」
「何を勝手に?!」
「ならラルクはここまで頑張ってきた魔王軍を見捨てるの?」
私の言葉に言葉を飲み込むラルク
あざとく潤んだ瞳で訴えるシオン
「なっ・・・・・・・」
「何なんですかもう・・・・・・・」
「アリエルはもう私の事が要らないのですね?」
意地悪な言い方だ
だが返し方も心得ている
「魔王軍なんて一大勢力は信用出来る人間に任せたいのよね」
「シオンが信用出来ないとかじゃなくて」
「ラルクの方が信用してるって話」
「それとさ・・・・・」
「他に何か?」
「今から開戦に向けて準備しないといけない」
「作戦の徹底に関しては特に重要なのは分かるわよね?」
「分かります」
「ならさ」
「シオン独りに任せるのと」
「貴女達2人が手を取り合うのとどっちが確実かな?」
「士気の問題も有るし」
「分かります」
「分かっているんです」
「頭では」
「でも・・・・・・・・」
「急だったからね」
「そうね・・・・・・・」
「私も開戦するときはラルクにも私の隣にいて欲しいの」
「でもこんな重要な事他の誰に頼める?」
「そうなんですよね」
「代わりなんかいないんです」
「他の種族ならともかく」
「魔王軍ですもの」
「あの人の遺した・・・・・・・・」
決意を固めたラルクをシンシアがそっと抱き寄せる
2人の頬を涙が濡らしていた
ー・ー
「さて」
「取り敢えず」
「魔王軍の代表者はラルクに決まったわけだけど」
「この要塞が危機的状況なのは変わり無いのよね」
「むしろラルクが魔王の意志を継ぐ形になるから状況は悪化するわね」
「士気の向上に期待ね」
シンシアはそっけなく言っているが
私が対処する前提なのだろう
心配そうな素振りは無い
「ラルクには申し訳無いですが」
「先ずは要塞を放棄する撤退戦からです」
「必ず生き延びて再起を果たしましょう」
シオンは要塞を捨てる事に未練は有るようだがラルクが加わった事で意気揚々とした声で述べた
だが
「ちょっと待っててね」
「私は神威同盟の盟主だけど今回の件は完全に独断だからさ」
「先に皆へ連絡しておくわ」
皆にそう告げると同盟の一斉回線を開く
「私はアリエル」
「イシュタル同盟の各員に告げる」
「現時点をもって私が魔王軍の残存部隊を勧誘し同盟に加盟させるものとする」
「魔王軍の指揮官はラルク」
「参謀長としてシオンを迎える」
「以後対等な同盟者として扱うように」
「また」
「残存部隊には奴隷解放戦争の勇者である獣人の部隊も含まれる」
「バステトは彼等と連絡を取り場合によっては合流を望む」
「対等宣言だなんて・・・」
「参加できるだけでも奇跡のようなものなのに」
シオンが呟くが無視して続けた
「尚」
「彼等は現在窮地にある」
「可能な限り救い出す為全力で動きます」
「ミリアに見つかるリスクは有るがそれを逆手に取り私達が帝国領にいると示す事で他の捜索をこちらへ誘導します」
「各員ミリアの動向に注意せよ」
「以上だ」
全体通知はこれで終わった
後は行動有るのみ
「さて」
「先ず確認ね」
「私の見立てではこの要塞・・・・・・」
「色々隠してるわよね?」
私の言葉に全員の眉間がヒクついた
「何故それを?」
「それとも流石神様と評するべきかしら?」
シオンは困ったような諦めたような顔をしていた
「もしかして要塞を鑑定したの?」
「私でも精々巨大な魔力装置が張り巡らされてるって事ぐらいしか分からないのに」
シンシアが驚いた声を上げる
対してリグルの顔は困ったような顔だった
「まぁ」
「隠しても仕方あるまい」
「ワシは当時引き籠もったシンシアと違い奴隷解放戦争に参加しておった」
「身分を隠してな」
「どうりで終戦まで顔見せなかったわけね」
「子供達がいなくなったから用無しなのかと思ってたわ」
軽口を言っているが
シンシアはとっくに知っていたのだろう
諜報に力を入れているヴァレンシア商会においてリグルの噂は入らないわけがなかったのだから
「身分を隠していたにも関わらず傭兵部隊を任されてな」
「必死に戦ったもんじゃ」
「やはり戦神ムサシはリグルでしたか」
「私達からの召喚状を頑なに拒んでいましたからね」
シオンを引き合わせたのはリグルだろうに
やはりラルクの件があって拒んでいたのだろうか?
「ワシはバステトと共に獣人達を纒める役じゃったからな」
「あくまで派遣された獣人傭兵団の一員と言う立場じゃったからな」
「旧交を深めるよりも任務を優先したまでじゃ」
事実では有るだろう
だがラルクへの要らぬ気遣いはあったように思う
そして補給支援の為部隊を離れることが多かったのでは無いだろうか?
ある意味戦争中最も忙しかった人物の一人だろう
「まぁ」
「昔話は良かろう」
「ワシの読みが正しければ・・・・・・」
「このメルカッツ要塞は陸上戦艦の4番艦じゃな?」
「陸上戦艦???」
「そうじゃ」
「魔王軍が数に勝る帝国軍を相手にできたのは主力部隊を休ませながら移動できる陸上戦艦あっての事」
「じゃが遺跡文明を利用したこの要塞は多大な魔力を消費する為4番艦は乗り手がおらず廃棄されたと聞いたが?」
「その通りです」
「1番艦はレイジ様自らが」
「2番艦は第1師団長ミネア」
「私は3番艦を担当していました」
「もしや初めから逃がす為に4番艦を建造したのでは?」
シオンの話しでは魔力の高い艦長を中心に交代で常に十名が魔力供給していたのだとか
そんな燃費の悪い兵器を艦長不在のまま建造するだろうか?
「それは誰にも分からないわ」
「けれど現に今こうして役に立っているわけです」
「他の艦はどうしたの?」
「1番艦と2番艦は大破」
「残念ながら私の3番艦は鹵獲されてしまいました」
「と言っても損傷が酷く本来の性能は出せませんが」
「帝国の移動都市ってもしかして・・・・・・・?」
「そうです」
「私の3番艦です」
シンシアが知っていると言う事は有名な話なのだろう
性能はともかく敵にも1隻あると言うのはあまり嬉しくない話しだ
だが同じ移動要塞ならば万全なこちらの方が有利なはず
「この艦の能力は?」
「移動方法を教えて」
シオンは少し躊躇ったが包み隠さず教えてくれた
移動方法から武装に始まり備蓄量に至るまで細大漏らさず話してくれたおかげでそれなりの時間がたっていた
「ふむ」
「陸上戦艦と言うからもしやとは思ったけど」
「物理的に地上を走るんだ」
「でもそれだと地上の被害はとんでも無い事になりそうね」
「それは仕方が有りません」
「ですが」
「この艦が通った後は開墾された畑のようなものですから」
「現に今の帝国が栄えている一端は我々にも有ります」
「もしかしてそれが狙いだったの?」
「・・・・・・・・・・・」
「帝国に限らず奴隷を求める多くは人足です」
「そして土地の有無と貧富の差が奴隷を生むのです」
「辺境部では農奴が」
「都市部では家事や見栄のため」
「多くの人達が奴隷となりました」
「貧富の差は戦で」
「土地の有無は陸上戦艦で開墾して解消したってこと?」
「全てが上手くいったわけではありませんが」
「何も無かったよりはマシだと思います」
奴隷解放戦争とは単なる戦争では無く色んな思惑が交錯していたようだ
魔王軍は支配階級には容赦しないが民衆への被害は抑え町や村での略奪を良しとしなかった
そんな綺麗事を可能にしたのはこの陸上戦艦だったというわけか
一撃離脱による支配階級の排除
帰還時に略奪の有無を厳正に管理すれば防ぎようもあるか
「でもよくそんなやり方で皆ついて行ったわね」
「略奪しなかったら褒美とか与えられなかったんじゃない?」
「ソコはそれです」
「略奪を許さなかったのはあくまでも兵士個人です」
「逆らえば殺されますし」
「そして貴族や悪徳商人からは容赦しませんでしたからねw」
「褒美を与えるくらいは利益は有りましたよ」
いやはや
理想だけでは戦争は出来ないとは言え中々割り切っている
それは私も見習わなければならない事だろう
ともかく
方針は決まった




