表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/133

戦略会議

「やはりアリエルは自分で気付いたか」

「どこで気付いた?」


バステトは片肘をついてニヤリと笑った


「まぁね」

「バステトが既に私がミリアに勝てるだけの力があるって言った時かな」

「ミリアに勝てると言いながら戦争の助力を買って出た・・・・・」

「勝てるのに戦争する必用なんか無いでしょ?」

「それってつまり・・・・・」


「神々の黄昏は個人の戦闘だけでは決まらない」

「そう言うことよね?」

「私達は席を外した方が良いかしら?」


私とバステトの会話にシンシアが加わる

システムの秘匿事項に関わると制裁が発動する

シンシアが聞いたのはそのためだろう


「これぐらいなら構わぬじゃろう」

「むしろ全員が周知しておっても差し支えなかろう」


「ホントに良いのかなぁ?」

「神様の命に関わることだよ?」


「その辺りは心配要らぬ」

「神の殺し方が分かったところで普通の人間には何をどうすることも出来ぬ」

「寧ろ神に歯向かうことがいかに不毛で絶望的なのか分かるだけじゃ」


「そうなんだ」


バステトの答えに釈然としないシンシア

だがそれも彼女にとっては大した意味はないのだろう


シンシアの合図で話を進めることにした


「既に確証があるわけだけど」

「戦闘で肉体が破壊されたからと言って神は滅ぼせない」

「何故ならば神にとって本体は物質と精神と魂の世界で比率を変えて同時に存在しているから1つを滅ぼしたところで消滅するわけじゃない」

「あってるよね?」


「その通りじゃ」

「じゃから復活できぬ程のダメージを与える必用がある」


「そこでポイントになるのが信仰の力と魂の強度よね?」


「そうじゃな」

「アリエルには説明不要じゃな」

「じゃがその事はルールや規定事項には記されておらぬ」

「神によって解釈の深度は違い迂闊な者はそれ故に滅ぶ」


「信仰が力となり神の魂となる」

「逆に言えば信仰有る限り神は死なない」


「そうじゃ」

「それ故神々は民を用いて戦争を行い征服すれば信仰も奪う」

「信者は神の力の源であると同時に命綱でもあるわけじゃ」


「この世界から戦争が無くならないわけだ」

「つまりミリアを倒すには先ず蓄えられた信仰の力を引き剥がさなければならないって事よね」


「そう言うことじゃ」

「聖戦を発動して劣勢になればそれだけで信仰心は揺らぐもの」

「帝国が侵略する時に非道の限りをつくし略奪したのも求めても助けられぬ事で信仰心を奪うためじゃ」

「民は神に頼るが助けられぬと反感を生む」

「憎むべきは敵であるのに多くの者は救済に現れぬ神を恨む」


「神様が実在するからこそ危機に駆けつけない神は愛想をつかされるってことね」


民衆は現金だ


平和であれば救いの手が差し伸べられなくとも自分の徳が無いからだと思える


しかし有事の際は理不尽な被害が出た時

神による救いがなければ信じられなくなる


それは誰が責められることもない

仕方の無いことだ


「でも民衆を虐殺したくは無いのよね」


「うむ」

「じゃがミリアの力を削ぐには仕方がない事でもある」


ウェンディアも釈然とはしていないが仕方がないと我慢しているようだ


「んー」

「だとするとやっぱりアレね」

「如何にミリアに力を使わせるか」

「そこにかかるわけだ」


「そうじゃ」

「天変地異等の奇跡や回復治療もそうじゃ」

「じゃが一番消耗するのは・・・・・」


「天使兵の使用ね」

「奇跡で大規模なダメージを稼ぐのは現実的じゃないもの」

「天罰的な災害を起こす手もあるだろうけど・・・」


「それじゃと乱戦には使えぬし信徒の中で不正を働く者を放置すればその分信仰に揺らぎが生ずる」

「神が直接手を下さぬ理由もそこにある」


「いつの世も神には公平な救いが求められるってわけね」


「そう言うことじゃ」

「アリエルはSLGが得意そうじゃな」


「若い頃に流行ったからね」

「歴史物や戦争物のフィクションも流行ってたしね」


「銀河の歴史も」

「後1ページ」

「親戚の伯父が泣きながら見ていたのを思い出すわ・・・・・・」


シンシアさん

そのフレーズは有名なスペースオペラの予告です


それも最終話予告・・・・


「私達は自由を求める同盟軍かしら?」

「帝国を簒奪する若き英雄ではないものね」


「アリエルとシンシアは何の話をしとるんじゃ」

「ワシにも分かる表現にしてくれ」


脱線が過ぎたようだ

元ネタのわからないリグルは不機嫌に鼻をならした


と言っても本気で怒っているわけではないだろう


「ゴメンゴメン」

「そうね ・・・・」

「奢れる平氏を誅する源氏って言うよりも」

「信念のために信長を討った明智光秀ってところかな?」


「ならばミリアに秀吉のような部下がおらぬ事を祈らねばな」


「天下を取りたいわけじゃないからね」

「あぁでも・・・・・」

「歴史的に見れば自由を求めて革命起こした旗手って大抵は非業の死を迎えてるわね」


「日本だと天草四郎」

「ヨーロッパだとオルレアンの乙女かしら?」


「別に私はジャンヌ・ダルクになっても良いのよ?」

「ミリアさえ倒せれば目的は達成できるんだもの」

「仲間の手で火炙りって言うのも悪くないわ・・・」


「ちょっと」

「縁起でもないこと言わないでよ」


冗談めかして言ったつもりだが凄い剣幕でシンシアに怒られた


「じゃがまぁ」

「その案は悪くない」

「イシュタルが表舞台から退場するには効果的な演出じゃな」


「私は積極的にゲームに参加したり覇権を競いたいわけじゃ無いからね」


バステトの意見は的を射ている


実際私が表舞台に立たないためには小細工が必用なのだ


そこからはかなり具体的にどうミリアを削るかについて話し合った


ー・ー


「ううむ」

「何と言うかもうワシには意見の出しようがないな」


「アリエルらしいと言えばらしいんだけど」

「私にも何が問題点でどう改善すれば言いとか全く思い付きもしないわ」


対ミリア戦について戦術レベルから戦略レベルに移るにあたってリグルとシンシアが脱落した


ウェンディアとクラート等は戦術レベルの話からついていけてない


この手の戦闘経験が乏しいため仕方がないのだろうが・・・・


「天使兵と交戦経験のあるクラートが匙を投げたのは驚きだわ」


「すまん」

「魔法兵師団はミシェルの管轄であったし途中から不死のシステム維持のため戦線から離れていたため分からんのだ」


そう言われれば仕方がない

逆にミシェルが参加できているのも納得だ


「ポイントは供給を減らして消費を促す」

「その上で本体を此方に引っ張り出して決戦に持ち込む」

「改めて言うとハードル高いわねぇ」


「供給を減らす方法は信者を減らすぐらいしかない」

「信者を使って戦争させるのが一番手っ取り早い」

「じゃがそれではどうしても大きな被害が出てしまう」

「アリエルはそれが嫌なのじゃな?」


「あくまで私怨ですからね」

「敵だって悪人ばかりじゃないもの」

「ミリアに操られて戦争に駆り出されているだけの人達を虐殺するのは本意ではないわ」


「虐殺って・・・・・・」

「確かにアリエル独りで軍隊を壊滅させるくらい造作もないか」

「でも戦争になれば被害ゼロってわけにはいかないわよ?」


シンシアは仕方がないと言いたいのだろう

それは分かる


「それは分かってる」

「だから略奪と虐殺は絶対にやってはいけないわ」

「戦争だから殺さなければ自分達が殺される」

「でも略奪と虐殺は不要な被害」

「やれば不要な怨みを買ってそれは連鎖する」

「私達は略奪者じゃない」

「出来れば解放軍と宣伝しておきたいぐらいね」


「解放軍ね・・・・・・」

「ならやっぱり奴隷解放を掲げるの?」


「そうなるかな」


「ふむ」

「命を奪わぬ戦争か」

「成功すれば歴史に残る偉業じゃの」

「じゃが戦力を削らねばミリアの力は削がれぬし戦場に出てこぬぞ?」


バステトの意見は正しい


前線で人が死ななければ増援はないし軍の余力がある内は天使兵の投入も無いだろう


「そこで私達の主力部隊にこれを装備させるわ」


私は予め用意しておいた物をテーブルに置いた


「なにこれ?」

「赤い・・・縄?」


「色は赤青黒の3色揃える予定」

「投降者は別にして基本的に戦闘不能にして戦線離脱させるのが目的なのよ」

「・・・・・・・・・・」

「そうね」

「実際に使い方を見た方が分かりやすいわね」

「リグルちょっと手伝ってもらえるかな?」


「なんじゃ?」

「どうすれば良い?」


「そこに立っててもらえれば良いわ」

「ちょっと痛いけど我慢してね」


そう言うとリグルに対峙した


シャォッ


構えること無く素早く右手を振り上げると風を切り裂く音が響き渡る


ババッ!


「ヌグッ!」

「ガッハッッ!!」


刹那


反射的に防いだリグルの左腕を切り落とし逆袈裟に開いた傷口から血が吹き上がり片膝をつく


「なっ!!」

「アリエルいきなり何をするのじゃ!」


ヒステリックな声をあげながらバステトが慌てて回復しようとするがリグルは右手を挙げて制止した


「グッ」

「なんのっ」

「これしき」

「たかが左腕を落とされただけじゃ」


青ざめた顔をあげ立ち上がるリグル

その視線は痛み等無いかのように私を見据えた


「直ぐ済むから我慢してね」


私はテーブルのロープを一束手に取るとリグルへと投げ付けた


すると空中で独りでにほどけたロープの端は切り落とされたリグルの左腕を絡めとりその腕ごとリグルの身体を縛り上げる


「ぬぁっ!!」

「なっなんじゃこれは?」

「ぬっぐぐぐっ!!」

「あっ抗えん!」

「何と言う力じゃ!!」


顔を真っ赤にさせて抗うリグル


しかしロープは絡め取った左腕共々リグルの身体を這い回り複雑な形で手足の自由を奪っていく


怪我をしていたとは言えリグル程の剛の者がなす統べなく縛り上げられた


「気分はどう?」


「聞くまでもなく最悪じゃ」

「屈辱極まりないわい」


不機嫌に答えるリグル


奥歯を噛み締めながら吐き出された言葉に強い怒りを感じた


「ごめんね」

「そう怒らないでよ」

「左腕の具合はどう?」


「むむっ?」

「左腕じゃと?」

「それなら先程お主が切り・・・・」

「どうしたことじゃ?!」

「左腕の感覚がある」

「達人に斬られると斬られたことにも気付かず感覚があると聞いたことがあるが・・・」


不思議そうな顔をして左手の指を動かすリグル

その間も渾身の力を込めて縄から逃れようと踠いていた


「そう言うんじゃないよ」

「そのロープに付与した魔法で傷が回復しているの」


「なんじゃと?」

「切り落とされた腕を付ける程の高位回復魔法が付与されておると言うのか?」


これには回りの全員が驚きの声をあげた


「基本戦略はこれによる捕縛ね」

「勿論全員と言うわけではないけれど出来るだけ捕虜にすることが大事かな」


「ふむ」

「ワシ等の事を悪逆非道と吟っておれば略奪の無い統制の取れた軍が殺生を好まず大量に捕虜とするだけで信仰が揺らぐか」

「じゃがそれは賭けじゃぞ?」

「捕虜としても直ぐに信仰が揺らぐわけでもない」

「捕虜が生きていれば祈りは捧げるじゃろうしそれを止めるわけにはいかぬ」


「それは別に良いのよ」

「捕虜が効果をあげるのは終盤の事だから」


「じゃかそのように大量の捕虜をどう管理するのじゃ?」

「この国の存在はまだ知られるわけにはいかぬしシエラ皇国にもそのような余裕は無いぞ?」


バステトの意見はもっともだ

だがそれには打開策がある


「捕虜の管理はあんまり出来ないからね」

「捕虜には武器を持たせてダンジョンに籠って貰うわ」


「だっだっだっ」

「ダンジョンじゃと???」


この提案に皆はザワついて話どころではなくなってしまった


ー・ー


「とまぁこんな感じでね幾つかのダンジョンを調べて欲しいのよ」


「何とまぁ」

「よくもまぁこんなことを思い付くものじゃ」

「ダンジョンを監獄に使うなど前例がない」


私の提案にバステトは面を食らって笑いだしアルテリアは困惑して独り言を呟いている


「うむ」

「前代未聞のこの計画」

「我は上手く行くように思う」

「クラート殿はどう思う?」


「ううむ」

「スケールが違いすぎて最早何の想像もつかぬ」

「だがダンジョンの中であれば我等に一日の長がある」

「我等が秘密裏に良さそうなダンジョンを探して見せよう」


「期待してるわよ」

「でも開戦してしまったらヴァンデラーブルクには重要な任務がある事は忘れないで」


「心得ている」

「監獄とするダンジョンを見付けたら我等の民を分散させて管理者に回す」


「エルフも人員を割きましょう」

「ダンジョン内であれば我等エルフの暗躍もミリアとて直ぐには見付けられないでしょう」


クラートとアルテリアの協力により捕虜収容所の目処は立ちそうだ


「一年」

「ぐらいかしらね?」


シンシアの言葉に全員が息を飲む


「そうね」

「一年以上かけるのは良くないでしょう」

「時がたてば帰らぬ兵士達の親族や仲間達は私達に怨みを持つはず」

「そしてそれはミリアを利する行為」

「短期決戦が望ましいですね」


アムネリアが噛み締めるように呟いた


「たった一年程の戦争で神を墜とすか」

「規格外じゃがアリエルとならやれる気がするのう」


「やれるかどうかじゃないわ」

「やるのよ」

「私達の手で」


それぞれの役割が決まり

それぞれの思いを胸に

それぞれが動き出す


避けることの出来ない戦争の為に


ー・ー


「本当に帰っちゃうの?」

「親睦もかねて今日ぐらい祭りを楽しんでいきなさいよ」


私達の作戦会議が終わっても宴はまだ続いていた


部屋を出ると遠くに歓声が聞こえ肉の焼ける香りが漂っていた


「お言葉は嬉しいのですが・・・・・」

「我等は戦略の要」

「直ぐにでも取りかからねば開戦が遅れてしまいます」


「なぁに言ってんのよ」

「開戦なんて1日2日遅れたところでどうってこと無いわよ」

「それよりも一緒に戦う仲間と親睦を深めなさいな」

「でないといざって時連携に支障きたしたらどうするつもり?」


些か意地悪な物言いだが仕方がない


クラートやミシェル達ヴァンデラーブルクの民は異質な存在である

計画の都合上早い段階で全員と顔を会わせることになるのだが・・・・


「それは輸送の時でも問題ないでしょう」


「そう」

「アタシの酒が飲めないって言うのね?」

「良いわ」

「覚悟しておきなさい」

「戦勝祝賀会では逃がさないんだからね」


少し意地悪な言い方をしたがクラートとミシェルは笑って答えた


「ならばその戦勝祝賀会に出られるよう生き残らねばなりませんね」


「クラート」

「それって死亡フラグだよ?」

「帰ったら上等な酒を開けようとか」

「サラダ作って待ってるとか」

「そう言うのはダメよ」


「それを言うなら戦勝祝賀会なんて話を始めたアリエル様の方がダメじゃないですか」


「あははっ」

「それもそうね」

「でも私は史上最速の神様だよ?」

「心配いらないわw」


「それもそうですね」

「何にしてもやることは山積みなので先に失礼させていただきます」


「分かった」

「ミシェルとクラートも元気でね」

「くれぐれもダンジョン探索隊には気を付けてね」


「はい」

「ありがとうございます」


「それでは我等も行くとしようか」


ウェンディアとアムネリア

そして少し離れたところにエルフの一団がいた


「やっぱりウェンディアとアムネリアも先に行くのね」


「私達東のエルフにとってはミリア討伐は長年の悲願」

「先発隊として拠点を作る任務は私達にお任せを」


「わかった」

「期待してる」

「何かあったら直ぐに連絡してね」


「では」

「次に会う時には成果をお持ちしますわ」


ウェンディアとアムネリアは途中までクラート達に送って貰うことになっていた


そこで最初の拠点を作るのだ


「さてと」

「私達はどうしようかな?」


振り替えるとそこにはアルテリアが立っていでビックリした


「なっちょっっ!」

「近いちかいチカイ!」


振り向いた瞬間唇が触れそうな距離まで詰めて来たアルテリア


慌てて引き剥がそうと両手を付き出した拍子に胸を掴んでしまった


「積極的ですのね」

「けれど今はその様な気分ではございません」


「ちっちがっ!」

「これは不可抗力と言うヤツで疚しい気持ちじゃないですっっ!!」


慌てて手を離して一歩下がる


「ちょーーーーっとお聞きしたいことがですね?」

「ございましてね?」


眼を見開いた無表情のアルテリア

一歩下がったとは言え至近距離である


息遣いの届く範囲に立つアルテリアからは狂気すら感じたのだった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ