これが噂の異世界転生?
就職氷河期世代
空白の世代
嘆いてもしかたがない
抗っても成果はない
職を転々としながらも精一杯生きてきた中年男は自殺を決意した
しかし
胡散臭い女神に召還され世界を救うため魔王を倒せと頼まれる
疑心暗鬼に駆られた男は何を見るのか?
本多 幸人 45歳
既婚 2人の子持ち
ブラック企業を初め多くの職種を転々としその技術と経験で生計を立てた来たおっさんである
昇給の為なら躊躇わず転職する為親族からは放蕩者扱いされてきた
度重なる血族の横暴に絶望した彼は自らの命を換金する事を選ぶ
何年も悩んだ末の苦渋の決断だった
ブラック企業に勤める彼は過労レベルの勤務の後
長いカーブの下り坂
中央分離帯のある道の横断歩道を守るブロック
そこにオフセットで突っ込んだ
全身に走る痛みと薄れ行く意識の中
流れ出る血の海で彼は解放された事を確信した
筈だった
ー・ー
何と表しがたい感覚が身体を包んでいた
落ちているでなく
浮いているでなく
何かに包まれているような
それでいて触れているような感触は無い
意識が・・・ある?
確かに車は事故で大破した筈だ
手に残る血の感触は確かに致命傷だった
生き残っている筈がない
もし失敗したのだとすれば嵩む入院費で子供達に未来は無い
閉ざされた瞼の上からでもわかる程眩しい光に目を開ける事を躊躇ってしまう
「ユキト・・・・」
「目覚めなさい」
穏やかな女性の声がする
目を薄く開けた時に違和感を感じた
これ程の光を見れば眩しさに目が痛くなったりするものだがそんな気配は全く無い
「目覚めなさい・・・」
バシィッ!
尚も薄目で様子を見ていると全身に衝撃が走った
「グッハァッ!!」
全身を貫く痛みに思わず上体を屈めて頭を抱え込む
「ユキト・・・」
「貴方を待っていました」
何事も無かったかのように振る舞うその女は穏やかな表情で私に微笑みかけている
今の衝撃は何だ?
まるで電気ショックを当てられたようだった
両手の指を確かめるように動かすと同じように脚の状態を確める
事故で潰れた筈の脚は健在で何故か裸だった
目の前の女に目を向ける
長身でグラビアアイドルのようなメリハリのあるプロポーション
美しい黒髪が艶やかに輝き真っ直ぐに腰の辺りまで伸びている
まるでギリシャ神話の女神のような白い薄絹を纏い軽く両手を拡げて浮遊している
「ユキト」
「私の言葉がわかりますか?」
「あぁ」
「すまない」
「未だ意識がハッキリしないのだが此処は何処だ?」
「病院では無いようだが俺は死んだのか?」
見渡す限り白く輝く空間には壁も天井も床すら無い
今自分は座っているように見えるが立っているのか座っているのかもよくわからない
無重力と言うのはこう言うものなのだろうか?
「残念ながら貴方は死を迎えました」
「ですが・・・・」
「高潔な貴方の魂を私が此処に呼び寄せたのです」
「此処はスフィアと呼ばれる世界」
「その中でも神々の住まうアルターズ・スフィアです」
「神々?」
と言うことはこの女は神かその使徒で神は複数存在していると言う事か
幸人は若い頃オタクだった経験と小説を読むのが好きだった
その為か受け入れるのは早かった
そして妻の裏切りと度重なる肉親からの酷い仕打ちに人間不信となり何事もプロファイリングする癖があった
「今スフィアは魔王による侵略を受け危機に瀕しています」
「貴方のその類い稀なる力を持ってこのスフィアを救って頂きたいのです」
そう言うと軽く目を閉じた後真っ直ぐ私の瞳を見つめてきた
これは・・・
この仕草は相手に何かをさせたい時に用いられる事がある
こいつは危険だ
「貴女は?」
「これは申し遅れました」
「私は女神」
「女神ミリアです」
静かに微笑む彼女の瞳に微かな煩わしさが走った気がした
だがこう言う時の自分の感覚は疑わない
何か裏があると見た方が良い
どうもこの女神は胡散臭い
「女神ミリア」
「世界の危機ならば何故貴女自ら魔王を討伐なさらないのですか?」
「ユキトよ・・・」
「女神である私が直接手を下せば他の神々も黙ってはいません」
「そうなればたちまち戦争が起き人々は戦に翻弄されるでしょう」
「私にはそれは堪えられない・・・」
そう言うと目を伏せ思い詰めたような表情を浮かべた
「だからこそ高潔な貴方に世界を救って貰いたいのです」
瞳を潤ませながら両手を胸の前で重ね合わせた
そうする事で胸の谷間が強調される
「わかりました女神ミリア様」
「ですが私は哀れな初老の男に過ぎず大した武芸も超常の力も有りません」
悲しそうな顔をして俯きながら答えた
「貴方にはその高潔な魂が有ります」
「そして私が貴方に望む力を一つ授けましょう」
高潔高潔と胡散臭いにも程がある
いったい何の目的が有るのだろうか?
これだけ不埒な考えを巡らせながらそれを隠して話しているが心を読まれた感じはしない
だが初めの電撃から察するに外的な影響は与えられるようだが精神等には影響を及ぼす事は出来ないのだろう
望む力をくれると言うのだから此処は一つ試してみようか
「魔王を含め何者をも一突きで倒せる力が欲しい」
「それはなりません」
「何者をも一突きで倒す力は正に神の所業」
「私が直接手を下すのと変わりがありません・・・」
「では思い描く全ての物を生み出す力が欲しい」
「残念ですがそれは無理です」
「万物の創造は神の力です」
ミリアの瞳に苛立ちが募る
「それならばあらゆる魔法を作り出す能力を下さい」
「作るだけ?」
「能力が足りなければ使う事は叶いませんがそれでも良いのですか?」
「はい」
「では貴方にあらゆる魔法を生み出す能力を与えましょう」
「初めに知識の神殿へ赴きなさい」
「そこでこの世界で生きる術を学ぶのです」
ステータス・・・
心で念じると左前の空間に文字と数字浮かび上がった
種族は人間
クラスは神の使徒
パラメーターは1桁と2桁前半が殆どでこれが良いのか悪いのかは判断が出来ない
恩恵スキルに「魔法創造」とある
これが先程与えられた能力だろう
しかし恩恵?
固有では無いようだ
「ユキト・・・」
「ユキト」
「聞いていますか?」
「申し訳ない」
「あまりの出来事に気が動転してしまって・・・」
「旅立つ前に此処で少し準備をしても宜しいですか?」
ミリアの眉が一瞬ヒクついたのを私は見逃さなかった
明らかにウザがっている
「少しの間だけですよ?」
苛立っているのだろうがそれを隠して許可してくれた
「ありがとうございます」
早速魔法を作り始める
先ずは・・・
〈魔法書庫〉
自分の創造した魔法を記憶させ自在に発動させる魔法を創造した
続いて
〈物理防御〉と
〈魔力隔絶〉を創造する
更に
〈魔力変換〉
周囲の魔力を流用する魔法
〈魔力供給〉
周囲の魔力を別の魔法へ供給する魔法
と立て続けに創造すると更に
〈発動遅延〉
魔法の発動タイミングを遅らせる魔法
〈加速〉
加速する魔法
と連続して創造した
「まだ何か作るのですか?」
最早不機嫌さを隠しもせずミリアが眉を寄せるが構わず作り続ける
〈鑑定〉
対象を鑑定する魔法
〈蘇生〉
死者を蘇生させる魔法
〈魔力の祭壇〉
魔力を増加させる魔法
この魔法を作成した瞬間ミリアの目の色が変わった
「貴様何を!!」
「アクセラレイト!!」
怒りの形相へと変貌したミリアの目の前で加速する
左へと身体をスライドさせるが反応がない
女神でも時間系の魔法は効果が有るようだ
ならば
魔力の祭壇を唱えると瞬時に魔力が膨れ上がる
この魔法は時間を超越して瞬時に発動するらしい
この魔法で態度が急変したと言う事はこの世界で魔力を増幅させるのは御法度なのだろう
そしてこの魔法はミリアが魔法創造を許した前提を覆すだけの力が有る
私は魔力の祭壇と加速を交互に唱え時間を稼いだ
膨れ上がった膨大な魔力が消費しきれず空間で弾け始める
「これで飽和状態か・・・」
「上手く行ってくれよ!!」
1時間の遅延発動で蘇生を唱える
続いて魔法創造のスキルで〈固有魔法創造〉と〈固有技能創造〉を同じく1時間の遅延をかけて創造する
再びミリアの前へと移ると魔力の祭壇を追加して〈物理防御〉と〈魔力隔絶〉を重複させてかける
刹那加速が終わった
「お前は危険だ!!」
「もういい!!」
「下界で死ね!!」
言うや全身の力が抜けて足元に黒い穴が口を開く
ステータス!!
状況を把握する為ステータスを開こうとするが何の反応もない
後は賭けに勝つ事を祈りながら落下に身を任せた
ー・ー
闇に包まれた瞬間強い重力を感じた
落ちている
下へ
下へと加速しながら落ちていく
どれくらい落ちたのだろうか?
全身が砕け散るような痛みに意識を失った
ー・ー
「かはっ!!」
息苦しさに目を覚ます
どれくらいの時間がたったのだろうか?
四肢の指を動かしてみるとどうやら指は失くなっていない事がわかる
「ステータスオープン」
何も起きない
「鑑定、対象自分自身」
目の前に文字と数字が浮かびあがる
光る文字列に手をかざすが反射しない
どうやらこの文字列は自分にしか見えないようだ
種族は人間・・・
変わり無い
クラス反逆者
反逆者ってクラスなのか?
恩恵スキル・・・
女神の呪いだと?
魔法創造は剥奪されるとは思っていたが代わりに呪いまでプレゼントしてくれるとはやってくれる
「鑑定、対象〈女神の呪い〉」
女神の呪い
女神による恩恵の全てを剥奪され受ける事が出来なくなる死の呪い
「死の呪いだって?」
かはっグッッ
「いっ息が・・・」
どうやら息をするのも女神による恩恵の賜物らしい
「想定よりヤバい・・・」
各種パラメーターも半分以下になっている
しかし・・・
創造した魔法は活きていた
「魔法書庫魔力祭壇×2!」
「加速!!」
息苦しさが幾分マシになる
だがそれは加速により知覚時間が変化した為であり実際は今尚窒息している
魔力祭壇を間に挟みながら魔法創造で持続回復魔法を創造する
魔力供給を紐付けして持続回復魔法をかけると防御魔法と魔力隔絶を使い結界を張る
連続して魔力祭壇を唱え続け周囲に魔力が弾け飽和状態を作り出した
「早く・・・」
「呪いを解除しないと!!」
急いで解呪の魔法を創造するが加速状態なので創造が完了しない
加速を解除し出来上がったばかりの解呪をかける
「くそっ・・・」
「腐っても女神かよ・・・」
呪いの解呪に失敗し再び意識を失った
ー・ー
コモン・スフィア
多種多様な生き物が住まう世界
神々の住む神域に対し人の住まう現世界人類域が存在する
大陸や国家毎に様々な神々が奉じられ敬い供物を捧げる事で恩恵を受ける事が出来る
神々の恩恵は地域によって入り乱れ恩恵が重複する事もあれば純粋に一柱の神の恩恵だけで満たされる地域もある
人類域には多種多様な種族が住むのだがその中には生きとし生ける者の敵対者となる異形や魔物も生息しておりその上位種たる魔族達も存在している
それ等は時に共存し時に敵対し争う事もある
剣と魔法が一般的に普及した世界
生きるために食糧を作り集落を作りやがては国となる
そして護り侵し奪う為に剣と魔法が用いられる
世界に満ちた魔力は生き物を育み魔法を生み出し流れ溜まり時には淀み流れ行く
その淀んだ所に迷宮が生まれる
迷宮は神の恩恵とも悪魔の災いとも伝わるが真偽の程は定かではない
そして魔物達は淀んだマナを好む
異形や魔物が犇めくのが迷宮であり迷宮には宝物が隠されている事がある
その宝物が神の恩恵とも悪魔が災いに誘う罠とも言われる所以である
冒険者と呼ばれる彼等は自由に生きる者達がいる
旅する者もいれば一所に留まる者もいる
その生き方は様々で自由その物だ
誰かの依頼を解決する者
誰かの護衛を行う者
魔物を狩り安全を確保する者
戦場で兵士の代わりに戦う者
そして迷宮に挑む者
数ある迷宮の一つ
その奥底にソレは出現した
強固な物理結界が張られ魔法も通らない
ソレが何なのかも人の身ではわからない
しかし危険であれば排除しなければならない
冒険者達を束ねる組織「ギルド」
定期的に発生したり復活する迷宮において不可侵領域の発生は捜査対象となりギルドが依頼を出すことがある
そしてその依頼を受け最深部へと到達したパーティーがいた
ー・ー
「リーダー」
「ゴブリンです」
「わかった」
「ゴブリンだからと油断するなフォーメーションを守って一気に畳み掛けるぞ!」
手練れとまでは呼べないがチームワークのとれた良いパーティーである
瞬く間にゴブリンを倒すと依頼地点に到達した
「あいたっ!」
「見えないから頭打っちゃったよー」
「気を付けろよw」
「光は通すんだな」
「物理的な物を阻む結界のようですね」
「魔法は・・・」
「火の矢!!」
魔法の火で生み出された矢は真っ直ぐ飛んで掻き消えた
「魔法も通りませんね」
「けれど光が通るのは不思議です」
掲げた松明が迷宮の床を照らし出す
この最深部は広間となっており本来ならば迷宮の主が待ち構えていてもおかしくない場所である
「ライトの魔法だと照らせないんですね」
魔法で光らせた杖を掲げるが中が照らされる感じはない
「ちょっと見て」
「鑑定スキルも阻まれるから断定出来ないんだけど・・・」
「あの輝き」
「ミスリル銀か?」
「もしそうなら一財産築ける量だぞ!!」
「ダメ解除出来ない」
「くそっ!!」
「目の前にお宝があるってのに!!」
「私達では手出しできません」
「残念ですがギルドに報告して報酬だけで我慢しましょう」
「仕方無いな・・・」
小一時間ほどかかって色々試した末に諦めて帰って行った
そして最奥の部屋は再び闇に包まれた
ー・ー
「うっっ」
「グッッ」
か
身体が動かない
此処は何処だ?
どれくらい時間がたった?
最後の記憶は確か胡散臭い女神に呪いをかけられ窒息して意識を失った
また死んだのか?
前のめりに倒れたのだろう
地面についた頬に冷たさを感じる
手も足も翼や尻尾も動かない
・・・・・
翼?
尻尾???
何故今自然に翼や尻尾を動かそうとしたんだ?
俺は人間だ翼も尻尾も有るわけがない
腕に力を込めて全力で起き上がる
パキィン
何かが砕けるような乾いた音と共に右手が自由になる
今度は右手を地面に押し当て渾身の力を込めて身体を起こす
ガキガシャガシャン
何かが壊れると紫の炎が揺らめき消えて行く
微かに甘い香りが漂い濃密な空気が肺を満たす
「ん・・・」
「息が出来ると言う事はやはり死んだのか?」
周囲を見渡すと円形の大きな広間のようだ
と言っても岩を削り出したような洞窟のような場所である
真っ暗で光も無い筈なのに薄闇にいるように周りが見える
右手を見ると痩せ細り伸びた爪がまるで猛獣のようだ
体毛は無く衣服は全て無くなっており全裸で横たわっていたようだ
そして俯く視界を遮る双丘がある
「何じゃこりゃ・・・」
紛れもなくこれは乳房だ
それもグラビアアイドルに負けないぐらい大きい
「何なんだ・・・」
地に付いた左手を見ると何かの結晶に包まれている
力を込めると乾いた音と共に砕け散り霧散する
仄かな紫の炎が揺らめき消えると共に微かに甘い香りが鼻腔を刺激した
同じく下半身も結晶に覆われているようで力を込めて立ち上がり足と翼を解放した
「鏡が欲しいな」
頭を探ると角はないが髪が伸びているのがわかる
感覚に従い翼と尻尾を動かすとやはり翼も尻尾も付いているのだと実感した
「まるで悪魔だな」
身体を隅々まで撫で回す
髪の毛や眉・睫毛は有るが他に体毛は無い
そのまま股間に手を伸ばす
有る
生前と同じく立派なムスコがそこに有る
何となく安堵すると同時に誇らしく感じる
そしてその奥へと指を這わせる
有る
今度は少し落胆するのがわかる
角こそ無いものの翼に尻尾
おまけに男でありながら女でもある
これでは絵に描いた通りの悪魔ではないか
はぁ・・・
ため息を漏らすと自己鑑定を行う
種族・・・・何だかモザイクがかかっていて卑猥だな
種族が確定していないと言うことか
クラス 反逆の使徒
何だか中二臭くなっているが仕方がない
恩恵スキル 女神の呪い
やはり悪魔化しても呪いは消えていないのか
固有スキルはたくさん有る
創造した魔法は一通り有った
あの時保険でかけておいた蘇生と固有魔法創造のお陰で何と生き延びた・・・
と言うより死んで蘇生したと言うところか
パラメーターは悪魔っぽくかなり上昇している
これは良いことだ
特に目を引いたのは固有スキル〈魔力呼吸〉である
つまりマナを呼吸出来るようになったらしい
益々悪魔らしいスキルだ
これで一先ず窒息死は免れる
僅かに残された残存魔力を供給されていた結界のお陰で生き延びられたようだ
私は賭けに勝った
残りのマナを一気に吸い込むと音を立てて結界が崩れ去った
ー・ー
「がっ」
「カハッッ!」
「息が!!」
「息が出来ない!!」
「何故だ?」
「固有スキルで魔力呼吸を獲得しているのに!!」
まさか・・・
急いで魔力隔絶で広間全体を包み込むと魔力祭壇で周囲を魔力で満たす
「ふぅぅぅう」
「生き返った」
どうやら女神の呪いのせいで自然界の魔力は吸えないらしい
勿論酸素も吸えない
つまりは自分で作り出した魔力の中でしか生きられないのだ
「詰んだ」
「あのクソ女神」
「殺してやる」
とりあえず飽和するまで魔力で満たすと改めて周囲を見回す
広い空間には何もない
憮然として天井を見上げるとかなり高いのがわかる
「ドラゴンでも住んでいそうな広間だな」
足元へと視線を落とすと胸で足が見えない
地面に座り込み足を上げて見るとやはりあんなにあった脛毛は消えてか細い足に鉤爪のように尖った爪が伸びている
「何だ?」
「地面が仄かに光ってるな」
鑑定してみるとそれはミスリル銀の鉱床である事がわかった
それも人の形をしている
「これってもしかして・・・」
「俺が倒れていた所がミスリル化したのか?」
その周りを調べると普通の銀鉱脈であるのがわかる
自分の倒れていたその場所だけがミスリル化していたのだ
「気絶していた時身体を包んでいた結晶もそうだが・・・」
「魔力の飽和状態で時間経過すると変質すると言うことか」
いったいどれだけの時間が流れたのか想像も付かないが思案してもしょうがない
試しに翼を広げ羽ばたいてみる
風が巻き起こる
「飛べないんかい」
今度は魔力を込めて羽ばたく
今度は急激に天井が迫ってきて危うく頭を打ちそうになる
「俺って結構速いんだ」
魔力を込める事で飛べるらしい
方向をイメージしながら翼を煽るとその方向へと飛んで行く
「結構楽しいな」
暫く楽しんだ後もとの場所へと着地する
「普段はちょっと邪魔だな」
飛んだ要領で魔力を込めながら翼が消える事をイメージする
するとシュルシュルと縮んで消えてしまった
今度は翼が生えるイメージ
すると翼が生えてくる
「これは便利だな」
「普段はしまっておこう」
同じ要領で尻尾も消せた
「まさかなw」
同じ要領で股間に集中するとやはり自慢のムスコが跡形も無く消え去る
一瞬喪失感に苛まれるが生えるイメージで元に戻る
安堵して今度は女性側も試すと結果は同じ
胸は小さくなるが無くなりはしなかった
これ等の実験は自己鑑定しながら行ったのだが驚くべきは胸を小さくすればMPとHPが減ると言うこと
身体を縮めると同じ現象が起きるが大きくしても最大値は変わらなかった
「この胸の大きさはある意味生命線なわけか」
部屋を飛んでいる時に考えていたのだが・・・
自分で作り出した魔力の中でしか生きられないが逆に言えば作り出した魔力の中ならば生きられると言うこと
そして女神の言動を思い出していた
電撃のような攻撃はダメージを受ける
思考が読まれる事はない
時間魔法の影響からは逃れられない
そして恐らく私に直接手を下すことは出来ない
物理的に攻撃して殺すことは出来るのだろう
しかしそうしないと言うより出来ない理由がある
そしてわざわざ死の呪いをかけてまで地上へ落とした
定期的に異世界から召喚している節があるが過剰な力は持たせるつもりはない
つまり可もなく不可もない力を持たせた上で地上で殺さなければならないと言うことか
悪い予想しか無い
「魔王を討伐しろとか言ってたよな・・・」
じっと手をみる
翼の要領で爪に意識を集中すると長さが変わった
丁度良い
長い鉤爪は不便だから程良い長さに整える
それから一通り役に立ちそうな魔法と固有スキルを創造していく
攻撃魔法に防御魔法
各種強化魔法に翻訳や解析と言ったものまで思い付く限り創造していく
時折祭壇で魔力を補充しながら作り続ける
暗闇なので時間感覚は無いがある程度見通せるのであえて明かりを灯す必要は感じない
ひとしきり魔法を作り終えると座って考える
そしてミスリル銀の地面に手をついて閃いた
「魔法創造!!」
続けて錬金術と創造魔法を作る
どちらも物を作る魔法である
続いて掘削の魔法を作り出し銀とミスリル銀を掘り起こし精製する
手早く銀の糸でバックを作ると皮に偽装する魔法と格納拡大の魔法を付与する
固有スキル創造で鍛冶技能を創造するとミスリル銀を手に取り創造魔法を駆使して糸を作る
その糸に錬金術で柔軟化の術式を刻み布を形成し下着を作った
「パンツくらいは履かないと落ち着かないからね」
誰ともなく独り言を呟き更にミスリル銀を精製する
今度は柔軟化に加え魔力保持・物理防御・耐久度上昇を付与していく
「ローブとカーゴパンツは出来た」
「まだミスリルに余裕有るな」
極小のリングを作り出しその一つ一つに魔力保持・物理防御・耐久度上昇・消音を付与する
気の遠くなる作業だが連続して何百と作る頃には〈並列作業〉の固有スキルを習得し作業が捗るようになった
作業は加速して時間はかかったが数万個を何とか仕上げた
「作り続けるのは流石にキツいな・・・」
更にそれを繋ぎ合わせるリングを作成しながら平行して付与していく
途方もない時間が過ぎた筈だが何とか鎖帷子が完成した
「飽きて死にそう・・・」
鎖帷子を身に付けるとシャラシャラと肌に添う感じが心地好く満足する出来栄えを実感した
「後もう少しの我慢・・・」
悪魔に変質してから空腹感は有るが眠気はなく
飲まず喰わずで一睡もしなかったが平気にだった
全身を隈無く覆い尽くす全身鎧を作り出すと身体強化と魔力隔絶を付与する
そして傍目にはくたびれた金属鎧に見えるよう偽装魔法を付与していく
この身体の身体能力はかなり高いと思われる
召喚された時の数値を大きく上回り魔力と筋力は3桁を示していた
魔力隔絶で中を魔力で満たす事で生命維持が可能なのではないか?
そして高めのパラメーターを鎧で強化すれば物理攻撃だけでそれなりにやっていけるのではないか?
全ては実験である
残りのミスリルで剣と楯を作り出し鉱床のミスリル銀を使い果たした
鎧を着込み楯に腕を通し腰に剣を下げる
面頬を下げると息が詰まりそうになる
しかしそれは鎧の効果があったと言う事
一度面頬を上げて深呼吸を繰り返す
形を維持できない程マナを使い果たした結界は音を立てて崩れ去る
鎧の中で祭壇の魔法を発動させ面頬を下げると息は全く苦しくない
実験成功である
これで心置き無く女神に復讐できる
私は期待に胸を脹らませながら広間を後にした
ゆっくりペースで書いていきます
たぶん