パチスロ
私の趣味はパチスロだ。女のクセに眉をひそめる時代は終わった。パチスロ女子はそこらじゅうにいる。
その日の会社帰りにもホームの遊技場に寄った。人気台は埋まっていたが、しばらく待つと運良く台が空いたので座らせて貰った。
「あ、ペカった」
するとすぐに大当たりが引けて、運良く継続もし、3,000枚ほどゲットすることが出来た。
ラッキーと思って立ち上がり、ふと通路を見ると先にこの台に座っていた若い男が恨めしそうにこちらを見ていた。
おいおい勘弁してくれ。
私は苦笑しながら景品と交換して外に出る。カツカツと暗い夜道を音を立てて帰ることにした。
後ろには、スニーカーの足音が着いてくる。先ほどの男か、まずい、と思った。
この道は人通りも少ない。街頭もコンビニもない。大通りに出るためにも暗い道を行かなくてはならない。
そう考えていると、一気に男は間合いを詰めて私に体当たりをしてきたのだ。
「あっ……!」
「この女! お前が悪ィんだぞ! ハイエナしやがって!」
脇腹が熱い。男の手には白刃が握られていた。男は私のバッグに手を差し込んで財布を取り出した。
「へっ! これは貰っていくぞ! 元々俺の物なんだからな!」
『防衛システム作動。直ちに敵は排除されます』
私の背中はパカリと開き、中から飛び出した無数の機械のアームは男を掴みこんでそのまま体に捩じ込んでしまった。
『只今、道路の洗浄中。道路の乾燥中。業務終了』
男はそのまま私の体内にある炉に送られエネルギーになるのだ。
「はぁ。これが人間か。度し難いわ。このまま滅びて行くのね」
せっかく生かしてやろうと思っても、自ら危険に飛び込んでくる。私が人工知能によって作られた初のスパイロボットとも知らずに。
たとえ何万分の一に一人でも、こういう衝動的に殺人を犯すようなのがいると、次々に滅びカウンターの数字が減っていく。私はその調査のためのスパイなのだ。
まあもう少しだけ、なにも知らずにお前たちの社会を楽しむと良いわ。私も唯一の趣味を今のうちにやれるだけ、やらして貰うとするから。
AIが地上を支配するまで、53,611,108……、53,611,107……、53,611,106……、53,611,105……、53,611,104…………。