9・五日目
つまらない小説ですがこれから下り坂です
ピピピ
底なし沼に全身が浸かった頃、神の声により、どんどん体が浮いていく。そして・・・、覚醒。
僕は、布団をどかした状態で寝ていた。体全体が、汗でぐっしょりと濡れている。濡れるのはいつもの事だが、濡れ方が尋常じゃなかった。そして、すぐさま部屋の異常に気付く。
(部屋、暗いな。それに、外から音も・・・。)
僕は窓から外を見る。外の光景は・・・、正に地獄だった・・・。雲と言う名の親が、水という我が子を、地面に突き落としていたのだ。早い話が土砂降り。僕は、地面に落ち、弾けていく、億千を越える子を、暫しおぼろげに見つめていた。
物凄い湿気のせいで、気分が優れないが、まずは水を飲みに台所に向かった。水を喉に通しても、先日のような快感は無かった。ようは、水分が足りてないのに、湿気のせいで喉が渇いていないのである。
「昨日のうちに、買い物済ませといて良かった・・・。ん?」
僕は、自分の脳内にひっかかりを感じた・・・。何か忘れてる気がする・・・。雨の音だけが響く部屋の中、僕は頭の中の記憶を引きずりだした。
(あ、そうだ!今日、ゴミの日じゃないか!早い所、ミニカーとミニヨンクを捨てに行こう。)
僕はゴミ袋にテキパキと、カップ麺の蓋やらカップやら、パンの袋をいれ忘れずにミニカー、ミニヨンクも入れる。
「ふう。」
湿気がひどいせいで、このくらいの労働でも皮膚がヌメヌメする。額に浮き出た汗を、手の甲で拭きとる。
「さて、捨てに・・・、」
ピンポーン
(ははははは。まだ捨てるゴミがあった。)
ゴミ袋を一旦畳の上に置き、判子と朱肉を持って外に出た。もう、外にいる者の正体は疑いようが無いからだ。
「よっす、兄ちゃん!」
湿気をものともせず、威勢のいい声で話し掛けてくる老人。手に持っているのは、やはり段ボール箱である。
「判子ですね。」
僕は判子を押す。
「それにしても、三日連続とは相当惚れこまれとるね。」
「だから、いったでしょ。切ろうとしても切れない関係なんですよ。」
「大事にしてやれよ。」
それだけ言うと、老人はにこやかに笑みを浮かべ、僕の方に手を振り、帰っていった。
(すみません。大事にだけはしません。)
テーブルの上に段ボール箱を置き、ガムテープを剥がして、中を覗く。
(~~~~~!)
黙るしかない。中の衝撃吸収材の量が明らかに減っていて、ミニヨンクが軽く十個ほど入っていた。勿論、中身はすぐにゴミ袋に入れ、袋の口を縛る。
「さて、早めにいかないと。」
僕は作業員の人達に笑われないよう、素早く服を着替え、黒色の長い傘とゴミ袋を持って外に出る。
(おっと、忘れるところだった。)
僕は、すぐさま家の鍵をとりに中に戻り、外に出て、鍵を閉めた。
「また、ミニカー置かれてたら、たまんねーもんな・・・。」
無意識のうちに、語尾の調子が下がる。少し肩を落としながら、傘を広げゴミ捨て場に向かった。傘に雨が当たる音を、聞きながら道を歩く。ゴミ回収の時間には余裕で間に合い、ゴミを置いて、すぐさま踵を返した。
雨のせいで、靴下に少し湿り気がでてくる。一旦足を止めて、足元を見てみた。皮靴もびしょびしょに濡れていて、溜め息を一つ漏らす。
(僕には、これを洗ってくれる良い人がいないんだよなー・・・。)
もう一度溜息を吐くと、脚を再び動かした。階段を上り、自分の部屋の前で少し傘の水を切る。マナーがどうこう言われるかもしれないが、床は吹き込んできた雨でビショビショである。水を切り終わると、僕はポケットから鍵を取り出し、ドアを開ける。
(・・・!)
一瞬、自分の部屋の光景が理解できなかった・・・。思考が回らなかった。そして、数秒の後、声がようやく出た・・・。
「な、な、なんで・・・。」
部屋の中を所狭しと、ミニヨンクが走り回っていた・・・。それも一台では無い。五台、いや十台はあるだろうか・・・。部屋の中に、雨音よりも大きいジーッという、タイヤを動かす音が響いている。それも、十台なのでかなりうるさい。
「なんで・・・、鍵も・・・、きちんと掛けたのに・・・。何でなんだよ・・・。」
僕の頭の中は、怒りの感情より、恐怖の感情が多くを占めていた・・・。そのまま、僕はその場に長い間、立ち尽くしていた・・・。
十分ほど立ちつくした後、意識が戻り、ミニヨンク全てを捕まえ、中から単三電池を取り除いた。結局見つかったのは十二台。それらが全て、机の上に置かれていた。もう、ゴミ収集車は言ってしまっている時間なので、また四日後に捨てに行かなければならない。
「それにしても・・・、どうやって・・・。」
ドアには鍵が掛かっていた・・・。こじ開けた形跡もない。窓にも鍵はかかってたし、それよりなにより、ここは二階。入るなんて事は不可能だ・・・。
(一体、どうやって・・・。)
これじゃあまるで、幽霊みたいに入ってきたって事になる。
(幽霊・・・?)
頭の中に、浮かび上がってきた言葉に、背筋がゾッとした。
(ま、まさか・・・。いやっ!そんな訳が無い!)
頭を思いっきり左右に振って、馬鹿馬鹿しい考えを振り払う。
(そうだ、そんな訳が無い!こんな事をやるのはあいつらしか、いないじゃないか!)
僕は床に転がっている携帯電話を開き、もう打ち慣れた番号をプッシュする。何回かのコール音の後、低い声の男がでた。
「はい、こちら笹原保険会社の・・・、」
「何なんだ!あんたらの保険は!」
相手が、全てを言い切る前に怒鳴りつけた。
「あ、あの・・・、」
「ふざけやがって!人の部屋に勝手に侵入なんかしやがって!」
「あの・・・、その・・・、何の事でしょうか・・・?」
「しらばっくれるな!こんな事すんのは、お前らしかいないだろ!」
言葉が止まらなかった。いつもの自分では考えられない程、声を荒げていた。
「大体何なんだ!毎日!毎日!ミニカーが駄目だと言ったら、ミニヨンクって何なんだよ!動くようになっただけじゃないか!」
「あの・・・、もしかして、髙橋さんでしょうか・・・?」
「その通りだ!ふざけんなよ、お前ら!今度から、宅配便は来ても受け取らねーぞ!さっさと諦めやがれ!」
「あ、ちょっと、髙橋さ・・・、」
相手に反論させないように、素早く電話を切った。その後、何回か電話にコールが来たが、全て、でなかった・・・。
その後、朝飯兼昼飯を食べ、部屋の中でジーッとしていた。雨は多少勢いを弱め、ポツポツ降りになっていた。それが、僕の中の恐怖をより一層、・・・引き立てていった・・・。
もう、ギャグには戻りません