4・解約
このタイトル、僕の好きな洋楽のワンフレーズから
ZEBRAHEADの「THE WALKING DEAD」という曲のサビから改良しました。この人たちの曲いいですよ!
まあ、CRUSH40には叶わないがな!
「何なんですか!何で値上がりするんですか!しかも一万円に!」
携帯電話に向かって、僕はそう怒鳴りつけた。そうというのも、笹原保険に入って一ヵ月。毎月四千円ずつの筈の保険料が、毎月一万円に値上がりしたからだ。
「そうと言われましても、こちらのほうも不景気でして・・・。」
電話の向こうの、とてつもなく低い声の男は語る。しかし、納得できる訳がないでは無いか!幾らなんでも、値上がりの幅がひどすぎる!そうして、さっきから交渉しているのだが、一向に相手も折れない。
「もういいです!こんな保険、解約します!」
「それはできません!チラシにも書いてあるでしょう!」
強い口調になった男の声に怯えながらも、僕は、机の上のチラシの束に手を伸ばす。そして、何枚かめくって見つかったチラシはすでにボロボロの状態だった。しかし、下の注意事項の部分ははっきり読み取れた。
(この保険に入ったら、5ヶ月間は解約できません、だと!)
また、脱力感にさいなまれる。何なんだ、この保険。まるで鼠捕り!僕は4ヶ月後、必ずこの鼠捕り保険を解約する事を心に誓うのであった。
そして、それから2ヶ月後。事件は起きた。課長の命令で外回りの最中、緑色のトラックに積まれていた鉄骨が落ちてきて、左足の骨が折れたのである。そして、そのまま病院に・・・。ようやく、保険が使える。僕は、手術の話になった時、その話を医者にしたのである。手術の費用は三十八万円。大金であるガ、こんな時のための保険だ。ところが・・・、
「使えない?」
医者の言葉に一瞬、我が耳を疑う。薬臭い部屋のイスに座る、髭を豊富に蓄えた医者は、資料から目を離して僕に言った。
「よく見てください。この保険、手術に対しての保証が全くないんです。」
「え・・・。」
僕は医者から資料を乱暴に奪い取り、保証の所をよく見る。・・・、無い・・・。手術の保証が何一つ無い。医者は白衣を正しながら言う。
「今時こんな保険も珍しいというか、何と言うか・・・。」
医者も困ったような顔をしている。結局、手術の代金は自腹であった。手術は無事に成功し、二ヶ月の入院となった。流石に、入院の費用は鼠捕り保険が保証してくれた。しかし、こんなグダグダな保険はもう嫌だった。
そして二ヶ月後、無事に退院し医者にお礼を言う。医者は「お大事に。」とだけ言ってくれた。僕はギプスをつけたまま、会社の仕事を頑張った。熱い初夏の日差しの中、今まで入院していた分を。
そして、一ヶ月後、ギプスが取れ、明日から10日程の盆休みに入ろうかという時。ようやく五ヶ月が過ぎた。僕は意気揚々と保険会社に電話をかける。何回かのコールの後、また野太い男の声がする。
「はい、笹原保険会社の者ですが・・・。」
「髙橋と申します。解約したいのですが・・・。」
その後、何回か相手側からやめないよう説得が入るが、僕の腹は決まっていた。
「それでは・・・。」
結局相手側が折れ、無事笹原保険から解約する事が出来た。僕は両手両足を広げ畳に横になった。僕にはもう一つ、頭の中に腹積もりがあった。
「盆休みが明けたら、課長に笹原保険を進めてやろう。」
しかし、僕はこの時気付いていなかったのである。笹原保険会社の恐ろしさに・・・。これが、悪夢の十日間の始まりだとも知らずに・・・。
さて、不吉な前振り残してこの章は終わり