13・九日目
残るは後・・・
僕はまた、同じ空間にいる・・・。暗闇で、掴まるところが無くて、只するのは、一つの音。
ジーッ
そして、一つの影。車の形をしているが・・・、それよりもっと小さい、ミニヨンクが・・・。
あれ、もう一つ来た・・・。また一つ・・・。
・・・!真っ暗な空間の中に、ミニカーが、大量にやってきた。僕は、逃げようと後ろを向き走りだそうとするも、地面をうまく蹴れない。そうこうしている間に、全部が動き出し、僕の所に来る・・・。そして、体中がミニカーとミニヨンクまみれになって・・・。暗闇の部屋の中で倒れていて、傍らには・・・、段ボールの空、箱・・・が・・・。
「うわーっ!」
僕は飛び起きた。心臓が張り裂けそうなほど、バクバクいっている・・・。右手を心臓に当て、時計を見ると、まだ、五時だった・・・。体は汗まみれになっているが、暫くの間、両手で体を押さえ・・・、動く事が、出来なかった・・・。
役目を終えていない目覚ましを解除し、水を飲み、用を足した後、汗臭く、蒸し暑い布団の中で、ガタガタと震える・・・。
(夢の続きは・・・、きっと・・・、篠瀬さん、みたいに・・・!)
「ヒッ・・・!」
頭まで、布団をかぶり、体を・・・、震わせる・・・。
目覚ましが一秒、一秒・・・、時を刻んでいく・・・。そのコチコチという音だけ、部屋に響く・・・。それは、かえって僕の恐怖を、増幅させていた・・・。
もう、何時間もその状態でいた時・・・、恐れていた事が起きた・・・。
ピンポーン
ドックン!
(出ない!出ない!もう、自分のせいで、誰がどうなろうと知った事か!)
ピンポーン、ピンポーン
暫くして・・・、音が鳴り止む・・・。僕は安堵の溜息を、震えながら、吐いた・・・。
少しして、僕は、袋の中を見ないように・・・、ゴミ袋を持つ・・・。
(これを捨てて・・・、後は貰わないようにしたら、もう、ミニカーやミニヨンクを見る事もない・・・。)
僕は、震える体を押さえながら、立ち上がり、ドアに向かった・・・。そして、木製のドアを、押した・・・。外から光が差し込んでくる。そして、外に出ようとして、足を踏み出した瞬間・・・、
(ん・・・?)
足に違和感を覚え、下を向く・・・。
「アッ・・・、ア、アァッ・・・。」
ドアの・・・、隙間から・・・、列をなして・・・、ミニ、ヨンクが・・・、部屋に次々と・・・、次、々と・・・!
僕の頭の中に、今までの事が過ぎる・・・。
(なんで・・・、鍵も・・・、きちんと掛けたのに・・・。何でなんだよ・・・。)
(ミニカーとミニヨンクまみれという、異様な状態で死んでいた。)
(ミニカーとミニヨンクを現場から発見された段ボール箱に詰めたところ、全ての量が入らない事が判明。)
(何処から・・・?何処から?何処から!何処から!)
(体中がミニカーとミニヨンクまみれになって・・・。暗闇の部屋の中で倒れていて、傍らには・・・、段ボールの空、箱・・・が・・・。)
「う、うわあああああああああああああああああああああああ!」
手に持っていたゴミ袋を落とし、ドアを勢い良く閉める!何体かのミニカーが、ドアと淵に挟まれ破損する。しかし、もう何体かは部屋に入り込んでしまっている・・・。
「出てけ!出てけ、出てけー!」
部屋に戻り、走り回るミニヨンクに、次々と物を投げつける。シーザーの置物、フライパン、とにかく、手に当たった物を・・・。しかし、恐怖から、手が震えているせいか・・・、一つも壊れない・・・。しかも、全てのミニヨンクが、壁にぶつかっていたりしている間に、向きが変わり・・・、ぜ、全部、が・・・、自分の方を、む、向いて・・・。どんどん、どんどん、近づいてきて・・・、いる・・・。
「ヒッ・・・、ヒィ・・・!」
僕は、脚に力が入らなくなり、尻餅をついてしまう・・・。
「や、やめ・・・、ろ・・・。く、来るな・・・。」
ジーッ
ミニヨンクは容赦なく・・・、こちらに向かってくる・・・。後ずさりしていた僕の・・・、背中に、壁がついてしまう・・・。
(だ、誰か・・・、助け・・・、)
すると、僕の手に、あるものが当たった・・・。
チャッカマン・・・。僕は、それをすぐさま手に取り、火をつけようと、ノック式のボタンを押す。
カチッ
空しい音が、鳴り響くだけだった・・・。
(オ、オイル・・・、切れ・・・?こんな・・・、時に!)
僕は何度も、何度もボタンを押す!
「点け!点け!点け!」
その願いも空しく、いっこうに火は灯らない。
「点け!点きやがれ!」
ミニヨンクは、もう、すぐそばまで・・・、来ていた・・・。
「点け!頼む!点いてくれ!」
ボッ!
(点、点いた・・・。)
先っぽに火の灯った、チャッカマンを握りしめ、僕は、ミニヨンクにチャッカマンを向ける!
「も、燃え、ちまえ・・・!」
そうして、ミニヨンクに、もう少しで、チャッカマンが届く、その時・・・。
「何してんですか!」
そう言う声が聞こえた。その声の人物に、両腕を掴まれ、体を起こされ、チャッカマンを使えなくなる。
「離せ!早くしないと、死んじまうんだよ!離してくれ!」
「何してんですか!」
「ミニカーが、ミニヨンクが!アアッ・・・!」
早くしないと殺される!何か得体のしれないものに殺されてしまう!
バチン!
不意に、頬を叩かれた・・・。
「こんなところで、火をつけたら火事になるでしょう!」
叩かれた痛みに、ようやく我にかえる・・・。目の前にいたのは・・・、大家さんであった・・・。
そして、今、僕は、自分のやろうとしていた事に気がつき・・・、一気に罪悪感にかられる・・・。
「ぼ・・・、僕は・・・、なんて、事、を・・・。」
そのまま、僕は膝をついた・・・。大家さんは、何が何だか分からないと言った様子で・・・、最後に「今度やったら、出ていってもらうからね!」とだけ、言い残して去っていった。
僕は、その場で、暫く、立ち尽くしていた・・・。自分のやろうとしていた事の恐ろしさと・・・、自分が自分で無くなっている事への恐怖が・・・、体を駆け巡った・・・。
僕は、部屋の片づけをした。ミニヨンクや、投げた時に壊れた、物の残骸を次々と袋に入れる。しかし、もう、ゴミ収集車は行ってしまった時刻である・・・。また、後、三日待たなければ捨てる事は出来ない・・・。ゴミを集めていると、一つの物が目に入った・・・。
それは、昨日拾った、人形・・・。しかし、投げた衝撃で・・・、片脚が取れている・・・。
「あっ・・・、あっ・・・。」
僕はそれを手に取り、取れた片脚のパーツを、着く筈もないのに・・・、元の部分に当てる・・・。
「ごめん・・・、ごめん、よ・・・。」
僕は、人形を握りしめた・・・。
「何で・・・、何で、こんな事になっちまったんだよ!何でなんだよ!」
片づけを終えた、僕は自問自答をした・・・。
「あの保険会社にさえ、出会わなければ・・・。」
しかし、もう、あの保険会社のせいではないんじゃないか、というのは、頭の中に浮かんできている・・・。
(もっと別の、何かが・・・、何かが・・・。)
そう考えただけで、体は立てないほどに震えだす・・・。
「くそっ!」
僕は、投げられてはいたものの、まだ壊れて無い携帯電話に、番号をプッシュした。何回かコールの後、低い男の声が聞こえてくる・・・。
「はい、こちら笹原保険会社の・・・、」
「ふざけんなよ!てめえら!この前、忠告したのに無視しやがって!」
「あ、あの・・・、高橋さんですか・・・?」
僕はそれを無視する。
「警察に言ってやるからな!貴様ら、破滅させてやる!」
「あ、あの・・・。」
僕は、反論される前に電話を切った。というより、反論される事が怖かった・・・。もし、反論されると・・・、今まで起こった全ての事に対する恐怖に・・・、押しつぶされる様な気がした・・・。
ところで間違えて同じの二つ投稿した場合って、片方消すのってどうやるんでしょうか?
明日で最終回まで上げます