11・七日目
昨日は更新できなくてすいません
僕はまた、あの空間に立っていた。また音が聞こえる・・・。昨日よりもはっきりと・・・、しっかり・・・、その音が・・・。
ジーッ
何だろう?何の音だろうか・・・?僕はもっと耳を澄ましてみる。しかし・・・、
ピピピ
また、目覚ましの音に阻害される。僕は、目覚ましを止め、上体を起こし、両手を思いっきり上に伸ばす。
「んっ、ん~~~。」
今日は、いつもより涼しく、それに気分も楽なので、快適な目覚めとなった。とはいえ、喉はとても乾いていて、すぐに台所に行って、喉の渇きを潤す。
「え・・・?」
気分が良かったので、最近読まなかった新聞を、ドアの前から取ったのだが、その一面を見て愕然とした・・・。
「“ミニカーにまみれた変死体”って・・・。」
新聞にはモノクロの写真が、載っていた。
(これ、あのお爺さん!)
汗が一粒、頬に流れた・・・。
「“T県Y市の、あるアパートで変死体が発見された。被害者は篠瀬春哉(62)。宅配業を営んでいて、明るく、近所の人達とも仲が良かったという彼が、ミニカーとミニヨンクまみれという、異様な状態で死んでいた。
第一発見者は、アパートの管理人。いつも挨拶にくる篠瀬さんが、その日に限って来なかったので、心配になって部屋を覗いた、との事。部屋に、空の段ボール箱があった事から、ミニカーとミニヨンクはこの中に入っていたと思われる。しかし、その段ボール箱には差出人の名前が無く、警察では、死因を調べるとともに、犯人の行方を・・・、”」
そこまで読んで、僕は大きな恐怖にかられていた・・・。段ボール箱に入っていたのは、間違いなくミニカーとミニヨンクだろう。しかし、そんな事より・・・、
(死んだ・・・?あの、老人が・・・?)
僕は、テーブルの上のミニヨンクを見る。それらが、とても・・・、恐ろしいものに見える・・・。今すぐにも、とびかかってきそうな・・・。
(う・・・、駄目だ!駄目だ!)
僕は頭を、激しく左右に振る。
(昨日、前向きになるって決めたばかりじゃないか!篠瀬さんだって、僕の為に・・・、)
僕の頭に、一つ、認めたくない、事実が浮かび上がった・・・。
(まさか・・・、僕のせいなのか・・・?篠瀬さんが、死んだのは・・・。)
あの、段ボール箱を、実質的に渡してしまったのは、僕だ・・・。
(僕のせいなのか・・・?僕の・・・。)
自分の肩に手をのせると・・・、温もりが感じられた・・・。錯覚なのかもしれない・・・。けど、優しく、心地の良い、温もりが・・・、そこには、あった。
(・・・。篠瀬さん・・・。)
いつの間にか、僕の目からは、涙がこぼれていた・・・。それが、友達を失った悲しみからくるものなのか、自分のせいだという後悔からくるものなのか、・・・、これから、自分は、一人で立ち向かわなければならない事からの・・・、恐怖からくるものなのか・・・、分からなかった・・・。
泣き終えた後、僕は、いつものようにパンにイチゴジャムを塗って、口に運ぶが、食が進まない・・・。しかし、何かをしていないと、この恐怖に、耐えられそうになかった・・・。
「く、くそ・・・。」
そう呟くと、不意に目の前に何かが横切った・・・。黒く・・・、小さな物体・・・。それが、机の端で一旦止まる・・・。僕は、その瞬間、それが何であるかが分かった。
(ミ、ミニ、ヨンク・・・!)
「うわあああああああああ!」
分かったら最後、僕は悲鳴をあげ、机を持ち上げる。ミニヨンクが、元々置かれていた数個と一緒に落ちる。そして、机の面を下に向けて、思いっきり、ミニヨンクめがけて落とす。
ガシャッ、ドスッ
ミニヨンクがつぶれる音と、机が落ちる音がした。僕は、荒い息を整える。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
脳がしびれているかのように、少しの間、何も考えられなかったが、息が整うに従い、落ち着きが戻ってくる。
「ふう・・・。」
手の甲で額の汗を拭い、机を持ち上げる。下からは、見るも無残なミニヨンクの残骸があった。
「一体、どこから・・・?」
数個のミニヨンクの中から、さっきの黒いミニヨンクを探す。しかし、探せど探せど、黒いミニヨンクは残骸の中に無かった。
「おかしいな・・・。ん?」
視界の端に、ミニヨンクとは違う、黒い残骸があった。認識するのに少し時間がかかったが、ゴキブリの死体であるとはっきりと分かった・・・。
「まさか・・・。」
(また、見間違えた、のか・・・?)
そうとしか思えなかった。
「お、お前がいけないんだぞ!そんな、ミニカーみたいな体をしてるからだ!僕は、悪くないから
な!」
誰に言い訳してるのか・・・、自分でも分からなかった・・・。
ピンポーン
ドックン。心臓が、胸を破りそうなほど、大きく跳ねる。
(今、扉の向こうにいるのは、あの篠瀬さんでは無いんだよな。)
恐怖と、実は、あの老人がまだ生きているのではないかという期待を胸に、ドアに近づく・・・。
(そうだ、きっと、あの記事は何かの間違いなんだ。)
そう思うと、途端に気分は軽くなる。そして、ドアを開いた。
「おはよう御座います!判子をお願いします。」
立っていたのは、青い服で、眼鏡をかけ、茶色い段ボール箱を両手に抱えた、若い男、だった・・・。
(そう、だよな・・・、そんな訳、ない、よな・・・。)
やはり、あの記事は本物だったらしく・・・、篠瀬さんは、本当に、死んだらしい・・・。そう考えると、目尻が、また熱くなってくる。
「あの・・・、お兄さん?」
「あ、はい。えーっと、」
その瞬間、頭の中に、あの記事の内容が蘇る。
(駄目だ!受けっとたら、僕もあの人の二の舞に・・・。)
「あの、迷惑かもしれませんけど・・・、」
そう、言おうとした矢先、また、考えなおす・・・。
(で、でも・・・、ここで、断ったら、この人が代わりに・・・。)
そう考えたら、僕の言う事は、一つしかなかった・・・。
「何でしょうか?」
「いえ、判子ですね。分かりました。」
判子と朱肉を取ってきて、紙に判を押す。段ボール箱を受け取り、そして、男は車で帰っていった。
僕は、ミニヨンクの残骸とゴキブリの死体を、ゴミ袋に入れた後、机の上に段ボール箱を乗せ、ガムテープを剥がし、中を覗き込んだ・・・。
(~~~!)
中の、衝撃吸収材の量が前より明らかに少なくなっていた・・・。つまり、中にある、ミニカーとミニヨンクの量が多くなっている・・・。
「何なんだよ・・・。」
今日は二つ上げます