新しい生活へ
誤字を訂正しました。
僕は10歳になった。
ちなみにこの国では年齢は数え年で数える。
なので実際の誕生日はまだ先だけどね。
子供達にとっては自分の誕生祝いはちょっと嬉しいイベントの一つだ。
好きな料理が出てくるし、プレゼントも貰える。
だから誕生月には家族でお祝いをする。
ただ5歳と10歳と15歳は特別で教会に行ってお祈りをする習慣があった。
これは『ギフト』持ちがこの年齢の時、神のお告げを聞いたり、新たな加護を貰ったことに由来している。
もちろん敬虔な信者は常から教会に通っているし、そこまで頻繁でなくても年に数回は教会でお祈りするのが普通だ。
でも僕は街の外の森で暮らしていた上に、冬の間は別の場所にいたので、街の教会に頻繁に行くことはなかった。
ただ年の初めには街の教会に行きお祈りをしてきた。
今年も教会に向かうことになっているけど、いつもと違うことがある。
もうここには戻らないということだった。
「母さん、もうここには来れないの?」
「そうではないわ、でももうここには住む必要がないんだって。あなたは十分学んだし、今年からは学校があるでしょう。」
「でも、ここに来てくれた先生達に会えなくなるのはさみしくなるなあ。」
「あの人達の住んでいる国には、アンソニーが望めばお父さんが連れて行ってくれるわ。だから寂しくはないわよ。」
父さんはその国に挨拶に行ってくると言って出かけている。
「母さんは行ったことあるの?」
「何回かあるわ、でもその国はちょっと魔力が多くてね、私の体では長く居られないみたいなの。」
「じゃあ、僕も同じだよ。僕は魔力量がわかるんだ。確かに僕は少し多いけど、母さんより少し多いくらいだもん。」
僕は嘘をついた。確かに体に入っている魔力量は母さんとあまり変わらない。でも気を張ると奥から魔力が湧き出てくるんだ。
昔お姉ちゃんが怒って魔力を吹き出したみたいに僕の魔力も体の中に溢れている。ただそれを体に留めておけないんだ。
魔力量は訓練で増えることは、ここで暮らしていてわかった。
身体の成長と共に魔力の総量も増えていく。魔力量は体の大きさではなく生まれつきの才能なのもわかる。大きければ魔力量も大きいというわけではないし、無尽蔵に増えていくことはないからだ。
母さんはここで新しい魔法を学んで、魔力量が上がっていったけど、ある時その成長は止まった。それでも正直言って、かなりの魔力量になっていると思う。
お姉ちゃんは普段の魔力量は僕より多い。そして総量もきっと多い。怖くて怒らすことなんかできないから測定不能だ。
父さんは実はとんでもなくすごい魔力量を持っている?と思う。
もちろん普段の魔力量も多い。正直いろんな人を見てきたけど僕があった中では一番多い。
これで僕を助けた結果、魔力量が減ったっていうんだから、言葉通りなら僕やお姉ちゃんと同じように内なる魔力を持っているに違いない。きっとその使える魔力が減ったんだと思う。
「アンソニー、あなたにはお父さんがくれた『ギフト』があるわ。きっとそれが向こうの国に行った時に役に立つのよ。多分ね。だってお父さんが大丈夫って言うんだから、そうでしょう?」
「ならお姉ちゃんは?僕が平気ならお姉ちゃんも平気なはずだよ!」
「私は行かないわ!行けたって行きたくないもの!」
お姉ちゃんはちょっと声を荒げたけど、前のように怒らなかった。
「ベルは前からそう言ってるわね。まあ、今はいいわ。でもアンソニー、何でベルが行けるって思うの?」
「お姉ちゃんに聞いたから。ここにくる人がお姉ちゃんと同じ色の魔力を持っているから、同じ国の人かって。そうだって言った。」
「確かにベルは向こうの国の子供だけど、アンソニーが僕が平気ならお姉ちゃんもって言うのはどうして?」
「僕はお姉ちゃんが怒るとすごい魔力が湧き出すのを知っているんだ。ここの先生達も自分で魔力をコントロールできて、見た目以上の魔力を持ってる。実は母さんには黙っていたけど僕にもあるんだ。でも僕は向こうの国の人間じゃない。父さんもできるけど、父さんの血は僕にはない。なら僕のこの力は『ギフト』のせいって考えたんだ。僕は母さんの子供だから、きっと本当の魔力は母さんと同じくらいのはずだから。『ギフト』の力で行けるなら同じ力を持っているお姉ちゃんも平気って考えたんだ。」
「アンソニー、あなた、その事を今自分で考えたの?すごいわ!あなたもお姉ちゃんと同じで、すぐに高等学校に行けるわね!」
お姉ちゃんは中等学校の卒業を待たずに今年から高等学校に入学する。
もちろんこの街始まって以来の快挙だ。
「それはないよ。だって僕は読み書きができないんだよ。授業についていけるかわかんないよ。」
「何言ってるの!あなたは聞いた事をすぐ覚えるし理解も早いわ!初めての事でもすぐに考えて答えを探そうとしているでしょう。ベルもそう思うでしょ!」
お姉ちゃんは明らかにどうでもいいという雰囲気を醸し出して聞いていたけど、母さんの絶対そうでしょ!という強烈なオーラの前に「そうね。」と答えるほかなかったようだ。
母さんは魔力の事より考え方を褒めてくれた。父さんもそうだけどストーンズ家では自分で考える事を大事にしているんだ。僕は母さんに褒められて嬉しくなった。
だから僕は気にしてなかったんだ。僕ら家族の魔力が桁違いの量になっている事に。ここにくる人の魔力がさらに多いことにも。そして父さんとお姉ちゃんが普通じゃないって事に。
父さんが帰ってきたので僕らは街へ向かうことになった。
まずは森の家に帰り、その後街の宿屋に向かう。
まだ寒いので、しばらくは宿屋でお世話になる予定だ。
宿屋に着くと女将さんが迎えてくれた。
「やあ、みんなよく来たね!今回はお祈りの後もしばらくいられるんだろ?」
「ああ、女将さん、世話になるよ!」
「カイト、何言ってんだい、あんた達は家族みたいなもんさ!アンソニーは今年から学校だろう。しばらくはベルと同じようにここから通うんだろ?」
「はい、お世話になります。」
「そんな他人みたいな挨拶はよしてくれよ、アンソニー。あんたもベルもあたしの孫みたいなもんだ。楽にしていいんだよ!」
部屋に荷物を置くと教会に向かう準備をした。
10歳のお祈りは特別なのでおめかしをしていくんだ。
まあ、僕と父さんはそんなに大変ではないのだけど、母さんとお姉ちゃんは気合を入れているようだった。
あれでもない、これでもないと、女将さんも混じって一大イベントの様相だ。
「早く行こうよ。」と言ったら3人に「あんたは黙ってなさい!」
怒られた!
あれ?僕が主役のイベントだよね?
解せない。
ようやく準備が終わり、女将さんに見送られて僕たちは教会へ向かった。
教会までは30分ほどの距離だ。
今は年明けから少し経っているので街は空いているはずだった。
なのに街は少し混んでいた。年明け早々ならお祝いの人々で賑わっていてもおかしくないけど、時期外れに何でだろう。
すれ違う人たちから囁き声が聞こえてくる。
まあ、父さんとお姉ちゃんはこの街ではちょっとした有名人だからね。
「アンソニー、やっぱりお前注目されているな。」
父さんが言った。
「え?そんな事ないよ。だって僕はこの街にほとんどいなかったんだよ?みんなは僕の事なんかほとんど知らないでしょう?」
「そんな事ないわ。あなたは有名人なのよ。」
母さんも言う。
「ど、どうして?」
「女将さんがね、あなたの事をいっぱい話してたの。」
「何を?僕は何もしてないよ?」
「ふん、あんたは目が見えないでしょ、それなのに杖も使わずそんな風に普通に歩いてるんだから。それだけでも十分驚きなのよ!」
「初めはベルの話だったのよ。初めての中等学校にいったんだから。女将さんはそれはそれは自慢げに話したわ。でもあんまりベルばっかりみんなが褒めるから、女将さんはアンソニーだって凄いんだって、目が見えないのに森だって散歩できるし、あんた達が使ってる中古魔導具を見つけてるのはアンソニーなんだってね。」
いつの間にか僕は街の人から注目されていたらしい。
森の散歩はともかく、中古魔導具探しは手伝い程度なのに・・・。そもそも直してるのは父さんだから。
「あんた、私たちはパパとママの子供なんだからこのくらい当然なのよ!」
お姉ちゃんは父さんと母さんの事が大好きだ。だからすごく頑張っているのを僕は知っている。
「だから学校で恥でもかいたら承知しないからね!」
お姉ちゃん、ちょっと何言ってるのかわからないです。