ゴブリンは仲間を呼んだ!ゴブリンC・D・E・F・Gが現れた。
●タロー
ブイヤ領の新たなる魔王。重度の寂しがり屋。
●ヴェス
タローを補佐する魔王補佐の妖精。もはやタローの目覚まし時計と化している。
●マット
弓ゴブリン。今回からまたゴブリンが増えるよ!やったね!魔王様。
●ティア
マットの一人娘。筆者の身勝手な更新で一人称がボクになった美少女ゴブリン(既成人)。
『起きなさいよ』
「ふぁあ~」
俺は今日もヴェスに起こされた。
「アレ? ここどこだ…」
『全くもぅ…テントよ。ゴブリン達のね。それよりも、もうマット達が戻ってきてんのよ。さっさと起きなさいよ!』
俺は「そうか、戻ったか」と笑いながらムクリと這い上がるとテントの布を捲った。
「うお!ホントにテントから出て来た!?」
…誰だ? 若い男の声だったからマットじゃない。
俺が目を擦ると、目の前には横一列に並んだ7人のゴブリンだった。
端にいるのは若干申し訳なさそうにしているマットとティアだった。その隣に並ぶ他のゴブリン達。マットと同じくらい歳に見えるゴツイゴブリン。その隣には大きさはさほど変わらないが若々しい見た目のゴブリンが2人。3人は腰巻だけだし男だ。さらにその隣にはゴブリンのティアよりもほんの少し文明度が高い服を纏った男女のゴブリン…夫婦かな? さっきから不安そうな視線を俺に向けて寄り添っている。
既にその後ろには持ってきたのであろうテントや荷物が一纏めに置いてあった。
「……あ。こんにちは」
「「こ、こんにち、は…?」」
俺が適当に挨拶したら困った顔で返されてしまっった。
『アンタねえ…もういい加減に魔王としての威厳を意識してよね!割と重要なのよ? そーいうう建前みたいなもんがね。 ホラ。アタシが謁見室に連れていくから早く顔洗ってらっしゃい!早くっ!ゴー!』
※
「御休みのところを…大人数で押し掛けてしまい、大変申し訳ございません」
「俺、朝弱い方なんだ…気にしないでくれ。それで…」
玉座に座った俺は眼下で膝まづいている5人のゴブリンに視線を改めて向けた。端にいたマットが慌てて口を開いた。
「…はっ!魔王様の庇護に加えて頂きたく連れて参った我が一族の者達です。先ず、私の隣にいるのが生まれが3つ下の弟のアーボです」
「ははあっ!魔王様、アーボめにございます!此度は魔王様の恩情を賜り、あの食べられる草や根で我らは飢えより救われましたぁ!今後は私もタロー魔王陛下に一生の忠誠を誓いまするッ!」
むさくるしいオッサンフェイスの強面ゴブリンが号泣しながら何度も俺に向って土下座を繰り返す。イヤ…単なる床への頭突きかもしれん。
「うぐうぐっ…!私もマット同様に妻に先立たれた身ではありますが、幸いにもまだ半人前ですが二人の息子が健在でございます!必ずや、お役に立つことでしょう。おい!お前らも御礼と挨拶をせんかっ!」
「ちょっと待てよ、親父!? 俺は別に忠誠を誓うだとかそんなのは御免だぜ。見て見ろよ? 全くもって先代の魔王と同じでヒョロヒョロじゃないか!まるで人間族みたいだっ! これじゃあまた俺達はまた人間族共の餌食になるだけじゃないか!お袋やザッカの一族だって…」
俺はその言葉に思わず目を細める。
人間族の餌食…どういうことだ? なんて思ったら、そのアーボの息子が立ち上がったアーボに棍棒でぶん殴られて大扉の方へボールのようにすっ飛んでいく。…死んだんじゃないのか?
「アーグぅ!? こんの愚か者めがッ!我らを襲った山賊風情と魔王様を同類などとぉ!我が一族の恥晒しめがァ~! 対価無き我らに与えられた魔王陛下の恩情で腹一杯食っておきながらァ~!その恩に報いる事を断るなどとぉ!貴様なぞゴブリンではなぁい!」
「ち、父上!? 落ち着いて下さい!」
棍棒を持って更に追撃しようとするアーボをもうひとりの息子らしき線の細いゴブリンが必死に抑える。
俺がそれを暫く呆然と見ていたのに気づいたのか二人はすぐさま土下座をしてきた。
「面目次第もございませんっ!魔王様、どうか平にお許しを!」
「……ティア」
「ひゃ、ひゃい!?」
ティアが急に俺から名前を呼ばれたのに驚いたのか、見事なしゃがみジャンプを披露してくれた。
「悪いが万が一、俺の身内たるゴブリンである彼に死なれたら困る。治療してやってくれる?」
「わかりました!失礼します」
ティアが一礼してから〇ムチャっぽいポーズのゴブリンへと走り寄った。
「許すも何も…アーボの息子の言う事は間違ってなんかいないだろう。領民を守れない無力な魔王…何も違わない。まあ、それが俺が魔王に就く前でもあってもだ。その責は引き継いだ俺に向けられるべきだろうしな。 それと…君は?」
「は、はい。私はアーキンと申します、陛下。アーボの2番目の息子にてございます。生まれいでて3年になりますが、未だ若輩の身です。…それと、兄の事はどうかお許しを」
「先ほども言ったろ。俺は怒ってない。むしろ自身の無力と無知さに憤りを覚えるくらいさ。それで山賊ってのは?」
「魔王陛下。アーキンに代わって私がお応えします。…2年と少し前になります。私やマット、手伝いで息子のアーグが狩りでキャンプを離れ、末の弟のドガも他族へと身を寄せていた時でございました。残された我が妻と息子達が賊に襲われしまったのです…。その際、我が妻はまだ赤子だったアーキンを庇って傷を負い。それが元で…!」
アーボの握った拳にググッと力が籠められる。マット達も沈痛な表情をしている。
『……今更なんだけどね。人間族ってさ、モンスターと違って他領との行き来に特別な制限ないのよね。だから偶にフラフラと山賊みたいな連中が食うに困って、何も無いブイヤ領って知っててなお入ってくんのよ。この魔王城だって、金目のものがあるかもって何度も乗り込んまれてきたわけ。まあ、先代のアイツは殺しても死なない事がわかって大抵無視されてたけどね。最後なんてアイツ、山賊相手に「魔王、代わってくれないか?」なんて、泣きついてたけど…』
「そうだったのか…」
俺は軽く眉間を揉むと、気を取り直して今度は最後の二人を見やった。
「私とは10ばかり歳が離れた弟のドガです。そしてその妻であるジェンシの一族から嫁いだエマです。弟は力は大して強くはありませんが…他のゴブリンと比べて聡明な男です。それに私やアーボと比べてまだ若い。きっとこの先、魔王様のお役に立てる事があると思います」
「紹介に預かりました、ドガでございます」
「ジェンシの女、エマです」
少し緊張した面持ちで二人は俺に頭を下げてきた。
「先ほどアーボの息子のアーグも言ってたが…マット達以外にもこのブイヤ領にはどれだけの一族がいるんだ?」
「はい。我がドクの一族の他には、ゴブリンベリーの畑を所有するザッカの一族。私の弟が一時期身を寄せていた、エマのジェンシ一族です。私達の一族が最も少数ですね」
そうか。なら、全員を合わせてもきっと50…いっても百いかないくらいかな?
それなら正直、畑ひとつじゃ食わせていけないな。畑、増やせないかな…?
※※
「先ほどの非礼を詫びる…いえ、お詫び申し上げます…」
まだ若干顔を腫らしたアーグが文字通り少しむくれた顔で俺に頭を下げる。どうやら、治療が終わった後に他の家族…ティアやドガに窘められたのが効いたようだ。
特にドガだ。この中では恐らく一番理性的な男だ。あのアーグですら彼の言う事に反論していなかった。うーむ。今後、彼の手が空いたら相談役として俺の側に置いておきたいくらいだ。
「いや、先ずは俺の非力さを詫びよう。確かに俺は君達を守ってやれるほど強くはない。多分、マットやアーボは俺なんかよりずっと強いだろう。アーグ、お前だって俺よりも強そうだ。頼りにしてるぞ?」
「…ッ!……は、はい。努力する、いや!しっ、します」
アーグは姿勢を正して深く頭を下げて見せる。
「…ところで、マット。家族は全部でマットとティアを除いても11人って言ってたよな? これじゃ半分もいないんじゃないの?」
「残りの者は私の妹とその夫と子供と親類達なのですが…現在は魔王様から下賜された草と根と実を持って他の一族の下へと向かわせました。いずれ必ず御前に駆け付けさせ礼を言わせます。本日は直ぐにでも魔王様の為に働ける者を優先して連れて参った次第です」
俺は改めて並んだ5人を見やる。
「そうか、ならば…アーボ。その息子、アーグ、アーキン。そしてドガにエマ。この無力な俺に力を力を貸してくれるか?」
「「はい!魔王様の御為ならば!」」
その瞬間、俺の身体が光った。
『あ。アンタのレベルが上がったわよ? 良かったじゃない』
(ピーピーピー♪)☞あなたの魔王ポイントが2増加しました。(ピポン♪)
眼前にあの半透明の画面とその文面が現れた。
……なんか、色んな意味で台無しだった。