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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
序章 魔王、ブイヤに立つ。
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「魔王だって、畑を耕せるんだッ!

●タロー

 ブイヤ領の新たなる魔王。マットから貰ったゴブリンベリーを気に入る。


●ヴェス

 タローを補佐する魔王補佐の妖精。タローの記憶を読み込んでいるのでたまにメタい。


●マット

 弓ゴブリン。タローに従順に従う、現在唯一の味方。


「畑、ねえ…」

「魔王様。この領の人間族は農作物の殆どを他領から買っていると聞いています…その、この辺で一から畑を作るのは流石に…」

「…俺もそう思うけどね」

『はいはい。ゴチャゴチャ言ってないで取り敢えずアンタ、指で窓をつくってくれる?』


 忠言してくれるマットの言葉に俺は頷き返すが、ヴェスが急かすので取り敢えず自分の両手の指を合わせて顔の前にかざしてみる。行ったことはないが、メイド喫茶の人みたいだ。


 ☞残りМP:1ポイント


「うおっ!?」


 俺は急に指で作った窓に現れた半透明の立体画面に浮き出た文面を見てビビる。


『こんなんでビビってたらこの先思いやられるわよ~。そのまま指を離してみて。画面が拡大するから』

「こ、こうか?」


 言われた通りにやってみると画面が拡大してパソコンのモニターくらいのサイズになる。先程までは残りのМPの残量しか確認できなかったが、今度はタイル状に表記されたこの辺りのマップ?であろうものと次の表記だった。


 ●魔王の建造

 ☞畑:消費ポイント(1)

 ☞倉庫:消費ポイント(1)


『じゃあ、畑を選んでマップの…そうね。点滅してるの現在地のタイルで中央のその黒いタイルが本拠地である魔王城(笑)なんだけど、そこの横にでも作ってみなさい』

「おい。(笑)とか言うなよ。悲しくなるだろ」


 確かに俺達が出て来た建物は魔王の城というよりは、限りなく囚人を隔離する為の建物っぽい。


 俺は畑を選択して黒いタイルの横に指をスライドさせてみる。その瞬間、俺達の立っていた場所の近くが光を放った。


 恐る恐る俺が目を開けるとそこには正方形状の湿った黒い地面が広がっていた。う~む、対象はタイル毎に、多分一辺が百メートルくらいの範囲なのだろう。


「ま、まさかこんなことが…素晴らしい!流石は魔王様ですなッ!?」

「お、おう。ありがとう…しかし、本当に畑だけなんだな? さて、ここからどうするんだ。種とか苗とか…」


 畑に駆け寄って感激しているマットには悪いが、俺は完全な農業初心者なのだ。経験上、無印の〇〇物語しかやった事が無い。だが、いくらファンタジーな世界だからってあのゲームみたいに数日で収穫できることはないだろう。そもそも、種すら無いんだ。


「しかし、魔王様。先ずは種や苗を手に入れねばなりません。私も野生のゴブリンベリーの木の世話をしたことがあるくらいで、決して畑作に明るいわけではありません。ですが、私はゴブリンベリーの実で人間族の街で何度か取引した経験があります。数日頂ければ人間の街から何らかの作物の種を手に入れられるかもしれません。お許し頂けますでしょうか?」

「ゴブリンベリー? あ。あの酸っぱくて美味かったヤツか…う~んどうしようかなぁ。頼むべきか…」


 俺達が畑の中央に刺さったままになっている2本のクワを見つめながら呻いているとヴェスが何ともなし言ってのける。


『何言ってんのよ? アンタ、魔王なのよ? 魔王が手ずから創造した畑にそんなもの必要ないわよ。最短で食用の農作物なら3日目。薬草とかなら2日で収穫できるわよ。さっさと耕しなさい』

「え。…耕すだけで良いの?」


 ( ゜д゜) ゜д゜)


 俺達はポカンとした顔をしてしまったが、マットと頷き合うと取り敢えずクワを抜いた。


『あ。悪いけど、人手が足りないわ。ひとつの畑に2人が必要なのよね。そうしないと畑の作業が進まないのよ』

「げっ」

「…どうかなされたので?」


 俺とヴェスとのやり取りが聞こえないマットがクワを眺めていたのを止めて俺達を見る。


「なるほど。魔王様の農園の恩恵を得るには最低でも2名、働き手が必要と。では、私が助っ人を連れて参りましょう。ただ、少し時間が掛かりますので明日からの仕切り直しと…魔王様?」


 俺は「なに言ってんだ」と言いながらクワを手に取る。それを信じられないといった表情でヴェスが見た。


『チョット!? 流石に私も長くこの世界を見てるけど、畑を耕す魔王なんていなかったわよ!止めなさいよぉ~! 魔王が農民みたいな真似なんかしたら、ますます領民に示しがつかないじゃないの!』

「ッうるさいぞヴェス!俺は普段から食っていくことも困っているマットから食べ物を恵んで貰った! 俺は魔王としては失格なのかもしれないが…知ったことか!受けた恩には必ず報いるぞ!」


 俺がそう言うや否や勝手に体が動き出し、俺とマットは互いに対角の位置に着くと一心不乱に地面へと向かってクワを振り下ろし始めた。


「なんだ。オートでやってくれるのか? こりゃあ楽チンだな。まあ、実際には疲れんだろうがな」

「魔王様!お止め下さい!お気持ちは大変嬉しいのですが、やはりこの地を統べる王のなされる事ではありません…どうかお考え直しを」


 マットは俺と全く同じスピードでクワを振るいながら畑で交差していく。だが、俺はその言葉を全て無視して言い放ってやった。


「魔王だって、畑を耕せるんだッ! 俺の為でもあるし!飢えてる連中が他にいるんだったら1日でも早く助けてやりたんだよ!俺がこの土地、ブイヤの王だってんなら民を助けて当たり前だろっ!? うおおおぉっ!」


 俺は増してクワに力を込めて叫んだ。



 そこからはヴェスの小言もマットの止める声も聞こえなかった。



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