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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
第一章 ブイヤ領のゴブリン達。
35/37

魔王帰宅する。だが、アーグは駄目だってよ。

今回も短いです(^_^;)


 ……死んだドクとザッカの先祖達が入り乱れて大騒ぎ。星が隠れ始めるまで無礼講とか。昨夜はとんだ結婚式になっちまったなあ~。


 でもま、アーボとイレインが幸せそうだったから良いのか…。



 そして翌朝に皆で楽しく朝飯終えた俺達は本拠地に帰る為、ザワーとインペス住民に見送られて町の前に居た。



「アーボとイレインの件といい、皆には世話になっちまったな」

「いいえとんでもない!タロー様には我らインペスの民は感謝しても仕切れぬほどの恩があります」

「ところで…ドガにエマ、ハーンとヘス。それにブッカとベッカー…アックも残るんだな?」

「はい、魔王様。すっかり荒らされてしまいましたがゴブリンベリーは我らにとって欠け外の無い宝です。どうにか妻と手分けして数株でも魔王様の菜園の側で育てられたらと思うのです」

「どうかお願いします」


 そう言ってハーンとヘスが頭を俺に向って下げる。


「うん、わかった。ブッカはあの廃堂でか?」

「はい。恐れながらタロー様、ザワー殿にサンダルウッド師や他の住民もこの地にタロス神を祀る事を快く賛同して下さいました!つきましてはタロス寺院はアーキン様と姉上、そしてボマルに任せて私はこの地に暫く留まりたく願い申し上げます…どうか、お許しを!」


 サンダルウッドの爺さんもすっかり昨夜の件でタロス神に改宗してしまったようでニコニコと俺に向って頷いて見せる。良く見れば爺さんや他のインペス住民も例の手製のシンボルのようなものを大事そうに手に持っていた。……ってアンタもかよザワー。俺の視線に気付いたのか彼女は少しはにかんで応える。


「ベッカーはその聖堂の修繕の手伝いでか?」

「それもあるんだ…でも、魔王様。俺はこの町の建築技術に前から興味があったんだ! …ここで学んだ技術は必ず魔王様や皆に役に立つはず!」


 普段大人しいベッカーがまるで子供のような眼で俺に訴えかけるじゃないか。


「いいぞ。許すとも! そうだ…本拠地に帰ってきたら俺の魔王城(笑)の隣がだいぶスペース余ってるだろ? そこに小さな休憩小屋でも建ててくれ」

「っ!?」


 実際に百メートル×百メートルのスペースで多分4分の1くらいしか使ってないしな。畑で働いてくれてるゴブリン達の休憩場所でも作れば有効活用できるだろう。


「わかった!俺がこの町でしっかり学んで帰ったら魔王様達の愛の巣をバッチリ作ってみせるっ!!」

「………愛の?」


 おい。なんで余計なエンジン掛けてくるんだよ? あ~ホラ、ティアがまたモジモジし出したし隣のアックが凄まじい形相してんぞ? 怖くないの?


「まあ期待しとく。…アックはなんで残るんだ? お前だけ理由がわからんのだが」

「グギギギギ……はっ!? そ、それはぁ~…ですねタロー様? 私も今の今迄インペスに来た事がないんでもう少しだけ社会見学したくて~? み、みたいなあ~?」

「どうせ私との魔法訓練をサボる気なだけですって、タロー様!」

「……本拠地に狙った男が居ないからって理由じゃないよね?」

「おぴ!? お、おま…もうティアったら~(汗)」


 ニドラよりもティアからの鋭い真顔のツッコミでアックの表情が深刻な事になってしまっている。


「後は昨日も話したが、ドガとエマはもう一度ジェンシの所に行ってくるんだな?」

「「はい」」

「フン!もう止せ、ドガ。ジェンシは幼きお前を預りエマをドクの下へと送り出してくれた恩がある。だが、魔王様を蔑ろにする事だけは私でも許容できん!」

「…兄上。どうかもう一度私達に機会を与えてくれませんか?」

「俺は構わないぞ。同じブイヤの仲間なんだからやっぱり仲良くしなきゃな?」

「ま、魔王様…! フン。もうお前達の好きにするが良い。魔王様の恩情で定期的に菜園の食物をこのインペスまで運ぶ事になったし…お前達でジェンシ達のゴブリンに分け与えてやればいい」

「ありがとうございます!タロー様、兄上…」

「必ずやジェンシの者達を説得して参ります!」


 そう言ってドガとエマが俺に向って土下座する。


「止せ止せ。さあ、そろそろ…行こうか?」

「そうですな」

「うん!帰ろうよ!ボク達の場所に!」


 俺の言葉に帰還組のゴブリン達が顔に喜色を浮かべる。だが、そっとザワーが俺の近くに寄る。


「もう暫く休まれていかれては…その、未だギルドからの返答も来ていませんし。やはり、タロー様達が帰られてしまうのは名残り惜しく…」

「いい加減にしろよ!」


 そう声を荒げたのはさっきからずっと何故かそっぽを向いていたアーグだった。流石にマットとアーボがそれを窘める。


「何をそんなに声を荒げることがある」

「落ち着くのだ、息子よ!」

「俺はオフクロを殺した人間族の町なんかからさっさと帰りたいんだよ!」

「…っ!」

「おい!アーグ!言葉が過ぎるぞ!?」


 どうやらザワーはアーグのその言葉にショックを受けてしまったようでポロポロと涙を零して泣き出してしまった。


「お、おい!アンタ…なに泣いて」

「こんの愚か者ぉおおおおおおお!!」


 ザワーの涙に動揺したアーグはアーボの怒りの鉄拳をマトモに受けて吹っ飛ぶ。そんで百メートル先くらいの土壁に激突して貫通してしまった。……なんかどこかで見た光景だなあ。


「いっ痛ぇ~~~~!? オヤジ!何しやがる!!」


 だがアーグもかつての軟弱者ではない。アーボの愛ある全力右ストレートを受けても瓦礫から飛び出してコチラに走ってこれるほどタフな男になったのだ。


「アーグぅ!? こんの愚か者めがッ!我らを襲った山賊風情とインペスの同胞を同類などとぉ!我が一族の恥晒しめがァ~! 更には身内の恥にも耐えて我らに頭を下げることができる女を泣かせるなどとぉ!貴様なぞゴブリンではなぁい!」

「こりゃあ…アーグ坊が悪ぃなあ~」

「アーグ。お前のナーリアを失った無念さは理解できる。が、人間族の全てが悪しき存在ではない。しかも、インペスは我らブイヤの永き同胞。ザワー殿に至っては我らと同じ歴としたゴブリンなのだぞ? 私の娘は魔王様に嫁いだし、今後のドクを率いるべきお前がそんなに視野を狭くしているようでは先が思いやられる…ナーリアも星でさぞお前に失望したことだろう」

「うぐっ…」


 激昂するアーボにやや揶揄い顔のハンス。そして落胆を隠しきれないマットに流石に強気のアーグも落ち込む。


 …何気にマットの奴がさらに俺の退路を塞いでるような気がするんだが?


「お前は暫くインペスで頭を冷やすのだな!息子よっ!」

「なっ!俺が居なきゃタロー様を守れねえだろ!?」

「思い上がるな未熟者め!魔王陛下ならば私が命を懸けて御守りするわ!」

「……ふむ。意外とアーボの案は良いかもしれませんな? アーグの人間族嫌いは思い込みでしかなく、前から問題だと私も案じていました。どうなされますか?」

「う~ん…。わかった。アーグは暫く本拠地に出禁だな!」

「「ええ!?」」


 アーグはこの世の終わりにのような顔をして膝を突く。


「タロー様…流石に追放は可哀想じゃ…?」

「あ。違う違う…アーグは騎士だからブイヤの者を敵から守る使命がある。だが、本拠地はある意味このブイヤでは一番ゴブリンの戦力は高いと俺は思う。だから、今度また奴らみたいな奴が侵入してきたら…アーグ。お前がインペスの皆を守るんだ。……これは魔王として俺からの命令だ。出来るな?」

「…………」


 アーグは苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、やがて諦めたのか腰に佩いていた剣を捧げて俺に誓った。


「魔王様のお言葉にままに…私、ブイヤの騎士アーグがインペスの民を敵から守り抜くことを誓います」

「…ううっ!」


 そのアーグの姿を傍で見ていたザワーはさらに涙で顔をグシャグシャにしてしまった。

 アーボもイレインに優しく腕をさすられながら鼻を啜った。


「またひとつ…一人前の男へと近づいたな!…息子よ」

「もう、泣かないでったら…」


 俺は頷くとインペスに背を向けた。


「ギルドの返事が来たら誰か本拠地まで知らせてくれ。…それじゃあ、また近い内に遊びにくるさ! アーグ。先ずはその女史の涙を止めることを命ずる! マット、ティア、アーボ…帰るぞ!」

「「はっ!」」

「はぁ~い♪」

「ティア。急に魔王様に抱き付くんじゃない!魔王様が転ばれたらどうする?」

「お父さん…」

「へへっ…若いってのはいいねぇ~? じゃあな。アーグ坊も頑張んなぁ~」



 俺達はインペスを離れて帰路へとついた。


 ふと、振り向けば町の入り口で頭を下げ続けるドガ達ゴブリンと住民達。



 そして、ひとりの女をどうにかした泣き止ませようと右往左往する必死な若いブイヤの騎士の姿があった。



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