月夜の結婚式。
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そんなこんなで夜。しかも真夜中だな。
昼寝したらあっという間だった。何でも式は真夜中にやるから前祝いで騒いで昼間は寝て夜に備えるのだとか。イキナリして皆で酒盛りを始めるもんだから俺的には軽いカルチャーショックだったがな。
「タロー様。お待ちしておりました」
俺はアーボとアーキン以外のドク一族揃い踏みで件のアーボとイレインの挙式の舞台となる廃堂へと来た。ハンスが朝から本拠地まで走ってくれたお陰で残ってくれていたドガとアーグとリーノ。またミファとそれにイレインと特親しい者や単純にインペスに興味のあった何人かのゴブリンが同行していた。それを先ほどまで熱心に人間族の神官であるサンダルウッドも交えて壇上で打ち合わせをしていたアーキンが出迎えてくれる。俺が壇上を伺えば俺に頭を下げるイレインと緊張でガチガチになったアーボがいて皆がその姿に噴き出してしまったぞ。
…廃堂の中は思ったよりも広い。だが流石に壁や床、柱など何本かバラバラに砕けてしまっている。外に大量に瓦礫が積まれていたのはマットやインペスの住民が必死になって運び出したからだからかもな? それでも刺しゅう入りの飾り布などで廃堂は飾り付けられていた。
「しかし、天井が殆ど残ってないじゃんか…青空、イヤ今は夜空だが凄いな…」
「ははは…聖堂の天が開けているのは珍しい造りではありませんよ? 殆どの冠婚葬祭。その他の祭事でも星から臨める場所ではなくては意味がありませんから」
「そうなのか?」
「はい。我らが寺院にもタロス神のシンボルの上に大窓がありますが…タロー様が建立なされたのは比較的珍しい建築構造かと畏れながら思われます」
そう補足して答えてくれたのはアーキンではなく二人のハイ・ゴブリンだった。
「それにしても…ボマル。ブッカ。見違えましたね?」
「まだまだ我らはアーキン様には及びませぬよ。ですが、我らもまた神との邂逅を果たし今朝目覚めた時にはこの姿へと変わっておりました」
「そして東の地でアーボ殿とイレイン殿の慶事ありとの天啓を受け、姉にタロス様の寺院を任せて皆で旅立った次第だったのです」
「本当に驚いたぜ…なんせ河を渡って暫く走ってりゃあ…向こうから知らねえハイ・ゴブリンが迎えにいくはずのドガ達を連れて歩いてくんだからよう?」
ハンスはヤレヤレと手を広げて見せる。
そうだ、ゴブリンシャーマンに進化したウリンに続いてボマルとブッカがなんと二人揃ってゴブリンプリーストに進化していた。
「ホント俺も驚いたよ!これからもアーキン達と一緒に俺と皆を助けてくれ。よろしく頼むな? ボマル。ブッカ」
「ははあっ!このボマルは貴方様の忠実なる僕…!」
「ありがたき幸せ。我らが信仰と魂はタロー様の下に在ります」
ボマルとブッカが感極まった表情で膝を突くと俺に向って祈りを捧げる。正直ビビる。
「さあ、タロー様達は最前列へ。ボマルとブッカは既に身を清めてありますね? 私と共に儀式に立ち会って下さい。では、タロー様。御前、失礼致します」
アーキン達は綺麗な礼をして俺達の前から去っていってしまった。
「ドガ達は明日の朝にはもう本拠地に帰るんだって? まだ体調が悪そうだな…大丈夫か?」
「御心配お掛けして申し訳ありません、タロー様。…私が不甲斐ないばかりに本来ならば日が落ち始める前にインペスに到着できた所を結局は夜になってしまいましたし…」
「気にするなよ。アーボ達の為に無理してここまで来てくれたんだ、アーボだって自慢の兄弟だろうと誇るだろうさ。俺達も明日には帰るから無理せずに本拠地まで皆で戻ろう?」
「「タロー様…!」」
エマに身体を支えて貰っているドガとエマが瞳を潤ませる。
「そうだぞ、ドガ。今夜は祝いの夜なのだ、そう暗い顔などするな」
「そうそう。お前さんは真面目過ぎていけえねえよなぁ~もっと気楽にやんな」
マットとハンスがうんうんと俺の隣で頷く。
「あ、あの…魔王様」
「お。アケの弟のジョラと……そちらさんがミョンだな。二人ともこうして改めて顔を見るのは初めてだな」
俺の前におずおずと出て来たのは朝に会ったジョンとミョラだ。その時は合体(意味深)してたからこうして素の状態で見るのは初めてだったな。ここに来る途中は寝ぼけてマットに手を引かれてたし。
「こうして見ると…流石に兄弟なだけあってアケと似てるな? あとその分厚い毛皮は脱がないのか?」
「お、お見苦しいようでスミマセン…コレは背嚢も兼ねてまして。私は罠ゴブリンで常に罠や道具を隠し持っていないとどうにも落ち着かないものでして…おい、ミョン。流石にちゃんと前に出て魔王様に挨拶して」
「……は、はじめまして」
「ふむ」
夜になってもジョラの背中に隠れていたのは彼の妻であるミョン。影と同化する能力を持つと言うダークゴブリン。つまり、ゴブリンの亜種であるデミ・ゴブリンってヤツだな。
「そ、その…ミョンは元々私達兄弟とは別の領からやって来た絶対数の少ないゴブリンでして。その能力からかつては魔王直属の暗殺者として仕えていた時代もあって…それが理由なのか一方的に他種族から恐れられて…!そのせいでミョンはその…あまり話したりするのが得意じゃなくて」
「ふうん。そんなに凄いゴブリンだったのか? そりゃあ頼もしい限りだ!」
俺が喜んで手を叩いたのを見てジョラとミョンはポカンとした顔をして、マットは俺を眩しそうに眺め、ハンスは鼻の下を擦る。
「なんにせよ、ブイヤのゴブリンは俺の身内も同然。お前達もまた俺の身内も同然だ。俺は魔王としての力なんて殆ど無いが…これからはマット達と一緒に色々と力を貸してくれっと助かるなあ」
(……支配もしていないゴブリン相手に…凄いカリスマ…!)
近くのアックが小声で何か呟いたがよく聞こえなかった。二人は何かを誤魔化すようにして深く俺に向って頭を下げ、俺はそんな二人の肩をポンと叩いて顔を何とか上げてもらう。
「……なるほど」
よく見ればミョンは容姿こそ恐らくドクの一族では一番幼かったが、透き通るような白磁器のような肌に赤い瞳とゴブリンとは一線を画すほど美しかった。
「にしてもジョラといい、アケといい…兄弟揃って美人過ぎる嫁さんだ。余程の面食いとみえる」
「「な!?」」
ジョラとミョンは互いに顔を合わせて顔を赤くしてしまい。釣られて照れてしまったアケが「いやあ~」なんて言って頭を掻いたもんだから隣のニドラから「もう!タロー様ったら!」と照れ隠しの肘打ちが鳩尾にクリーンヒット。奇声を上げて動かなくなってしまったようだが…大丈夫か?
「はははっ!旦那も女達の扱いに長けておいででやすねえ。これならティアの嬢ちゃんともバッチシじゃあねえか、なあ? マットよぅ」
「あ、ああ(やや心配そうな視線)」
マットの歯切れが悪いのは俺の隣に座るティアの姿を見ているせいだろう。
「はあ~~~~~~~~~~(恍惚の溜め息)」
ティアの目にはアーボ達も多分俺も映ってないな。昼からずっとあの調子なんだよなあ。
ティアの手には大小様々な玉石が輝く首飾りがあった。どうにも目が覚めてからずっと部屋に籠って作ってしな。…かく言う俺も心配しに見に行ったらティアから意見を求められたので馬鹿正直に付き合ってしまったのも悪かった。「う~ん。コレ全部使うの? 普通は一個をペンダントみたいにしてるもんじゃないの? …ちょっと一端首にかけて見せてくれない? え。俺が掛けるの? …いやいや泣くなよ!わかったてば! うん。やっぱりこの配置の方がティアの肌と髪の色に映えるな!」な~んてやってたら今の状態になってしまったわけだ。
「わあ~綺麗~…」
「いいわねティア…そういえば、私とドガってジェンシの長が夫婦と決めてしまったものだから。こういう形で何か貰ったことってないのよね。……ね? ドガ?」
「う、うん…わかったよエマ。……どうして僕の腕を絞め上げようとするんだい…?」
「この数は凄いわよね…そう言えばアーボもタロー様から石を下賜されたんですって。 ねえ、アケ。アンタもこれから頑張ってタロー様に認めて貰いなさいよね?」
「おう……(胸を摩りながら)」
「ギギギギ…!(凄まじいアックの歯ぎしり)」
とこんな感じで女ゴブリン達も姦しくなるほどティアの首飾りは魅惑の存在であったようだ。
「えへへ…えへ…」
「…………」
凄まじい嫉妬の目で正面からティアと首飾りを見ていたアックだったが、スッと怒気を治めると何故か猫撫で声で俺に擦り寄る。
「た、たろ~さま? 私もあんな素敵な石が欲しいかな~って…」
「ん? なんだ、アックも石が欲しかったのか? 残念だが俺が持ってた石は全部ティアにやってしまったぞ」
「チッ! アレだけの石を渡されるほど愛されるとかどんだけぇっ!? 魔王様の愛も独占して最高にハッピーかよっ!!」
また別人のようにドスの効いた声でアックが叫ぶ。どんだけ羨ましがってんだ…?
だが、そのアックの頭は後ろから鬼の形相をしたニドラに鷲掴みにされてしまう。
「この馬鹿娘。魔法の修行サボって遊んでばっかいるアンタが今のティアに敵うわけないでしょ? それに、恐れ多くも魔王様に集ろうとかゴブリンの恥晒しもいいところだわ! …決定。タロー様と一緒に帰ったらリーノをまたソアラ達に預けてアンタの根性を鍛え直してやるからね…(ゴゴゴゴゴ…!という地鳴りが何故か聞こえてくる)」
「げっ!? ママぁ!それだけは後生だから!」
「許さん(羅刹の如き表情で)」
アックは泣け叫んでニドラに慈悲を請うが母は強かった、という事なのだろうか。
俺達は笑い声を上げる中、アーボ達の式が始まろうとしていた。
※
「おお…これがタロスの神の為せる奇跡か…!」
サンダルウッドの爺さんが万感の思いのような表情で祈りを捧げているが、何だか今回は前のルッチ達の葬儀以上に凄い事になっていた。
廃堂の中はアーボとイレインの挙式の続行が不可能ではないのか? と思えるほど生者と半透明の死者達でごった返していた。
事の始まりは挙式の始まりだった。アーキンがこの祝いの場に両者の最も親しい者の魂を呼んでこの儀式を見届けさせるという事(俺はそういう建前だと思っていた)で火が焚かれた両端の鍋にアーボとイレインがそれぞれ自身の血を吸わせた砂を投げ入れ、それに向ってボマルとブッカが一心不乱に祈りを捧げる。
するとどうだ!月に照らされた夜空の星から二筋の光がふたつの鍋に射すと、その炎が柱となって燃え上がり、イレインの鍋からは亡き夫であるセブが。アーボの鍋からは俺の知らない女ゴブリンが現れた。
「ナーリア…」
「ああ、セブ…!」
なんとその女ゴブリンはアーボの嫁さん。つまり、アーグとアーキンの母親だった。
『アーボには星で会ったけど、アーキン…立派になったわね…』
「母上…この度は我々の儀式の召喚に応えて頂きありがとうございます」
そう一言だけ言葉を交わすとナーリアはイレインの元に、セブはアーボの元へと向かって飛んだ。
『こうして直接言葉を交わすのは久しいな、アーボ』
「セブ…」
『イレインとキブを頼んだ…!頼んだぞっ…我が友アーボ!』
「任せろ、友よ…必ず私がお前が託した者達を守って見せるっ!」
アーボとセブが拳を突き合わせる仕草をして、互いに力強く頷いて笑い合う。…良かった一瞬、喧嘩が始まるかと思ったぞ。
『待たせたわね。イレイン? アーボはアンタが思ってるより面倒臭い男だけど本当に良いの?』
「ええ、勿論!」
『ふふ~ん。まあ、相手がアンタなら私も文句ないわね。アイツ…アタシやアーグ達に気兼ねしてマットの真似して無理してたけど…本当は子供みたいに寂しがり屋だから』
「知ってるわよ…ずっと見てたから」
『そうよね。アンタはもし私がアーボと夫婦になってなかったら…狙ってたもんね? でも今はお互い席が空いてるから仲良くやってって欲しいわ。 …ところで、話は変わるけど私は死ななかったら後3人は産めた自信があるんだけど? アンタはどう?』
「わ、私だって! キブを産んだばっかだし、後5人は余裕よ!アンタには負けないわよ?」
何故かアッチではナーリアが揶揄っただけかもしれないが、女の戦いが始まってたりする。
「セブ…その、ナーリアがスマン…」
『いいんだ。それにもう死者である俺にはもう見守る以外何もしてやれんしな…』
アーボとセブはお互い複雑な表情を浮かべて離れた。ナーリアとイレインも最後には笑い泣きして離れる。
「それでは…無事に両者の見届ける魂が呼び出されたので愛の儀式を…」
『あ。アーキン、ちょっと待って』
「行い…ってなんでしょうか、母上?」
何故か儀式を遮るナーリアに俺達の視線が集まる。
『え~とね…勘違いしないでちょうだい。アーボとイレインの邪魔をする気なんてないのよ? ただ、今回はアーキン。アンタがこの聖堂に新しい神を置いてでしょ? それで…私達を呼びに来られた死の神様が張り来ちゃってね? って噂をすればなんとやらだわ。えーと、炎に近い人は離れた方が良いわよ?』
「「え?」」
そう言った瞬間、二つの鍋が爆発して大量の半透明ゴブリン達が放り出されてきたのだ。
「「なんじゃあああああああ!?!!」」
俺達は思わず叫び声を上げるが瞬く間に半透明に光るゴブリン達に囲まれてしまう。
「べ、ベルではないか!? そ、それに父上まで!」
「お、お母さん!?」
『アラ? 元気だった、マット?』
『どうやら立派にドクの頭を務めている様だなティアマット』
「ち、父上!? その名前は…っ!」
『何故そこまで嫌がるのだ? グノーシアス様がわざわざお前に付けてくれた名ではないか』
アーボの鍋から現れたのはドクの死者達のようだ。
「おお!ルッチ殿…!」
「とーちゃん!」
「ヨスクさん…!」
「なんと、先代のザッカ族長までおられるではないか!?」
『デッチ…まさかこんなに早くまた会える機会に恵まれるとは。それにインペスの衆もこれから息子達共々助けてやってくれ』
『キヲ。俺もセブと同意見だからよう。お前も早くいい男を見つけて幸せにならねえとな? しっかし…お前を任せられる男がいるか? いっそ、魔王様がティアと一緒に娶ってくれたら俺も星で安心して見守れるってもんなんだが…』
「っふふ…相変わらず、ヨスクさんてば私の心配ばっかりして」
『おお~!懐かしいのうインペスの衆!見知った顔もすっかりと老けおってからに。ガハハッ!』
インペスの古株は先代のザッカの族長やザッカの死者と親睦が深い者が多かったようで互いに涙を流しながら再会を喜んでいた。
『ナク!久しいな!…こうして顔を突き合わせたのは何時振りだろうか?』
『はははっ…儂も憶えておらんよ? ザッカの…』
更にドクとザッカも親密である為、久々に再会に花を咲かせて大騒ぎになっていく。どうなるんだコレ?
だが、そんなものはまだマシだった。
俺は気付いた時にはそのゴブリン(特に初見ばかり)にすっかり囲まれてしまった。
『おお!我らがブイヤ領の救世主よ!』
『どうか我らゴブリンを今後とも繁栄に御導き下さいっ!』
『我が息子達、ドクの一族は先代のグノーシアス様に続いて貴方様に星の死者達も含めてそれ以上の忠誠を誓いまする!どうかティアマット達をよろしくお願い致す!』
『我らザッカもまた同じ!……しかし、私の息子のホンポは見た目の割にいつまでも臆病でしてなあ~…ナクの息子達の勇ましさが羨ましくて仕方がない。魔王様!どうか!どうか、ザッカの者を見捨てずに側に置いてやって下さるよう!お願い申しあげる!』
『『魔王様!魔王様!』』
アーボとイレインそっちのけで死者達に拝み倒されてしまう俺だった。
「……静粛にぃいぃぃぃっ!! これ以上の儀式への狼藉は許しませんっ!」
だが、アーキンのマジギレによってこの騒ぎは何とか収まってくれた。アーキンが纏っていた世紀末拳法使いのようなオーラ音は流石に死者でもビビるほど恐かったからな…。
その後、無事に式は進んでいき、壇上で互いに愛の言葉を交わしてタロス神(何だかむず痒いが)に夫婦の誓いを立てて最後にアーボが緊張しながらもイレインの首にあの石のペンダントを掛けて儀式は無事に終了した。
因みに、死者達は朝が来るギリギリま廃堂に居座り、「『ブイヤ万歳!』」と死者生者入り乱れて馬鹿騒ぎをしていたよ。
『へえ~良かったじゃないのティア! 流石は私の娘ね』
「えへへへぇ~」
「ベル。心配するな。私はお前以外に妻は娶らんぞ?」
『アラアラ…まったく強情ねえ。フフッ…ま、私はナーリアと違って欲張りだから…その方がチョットだけ嬉しかったりもしちゃうけどね…』
俺は馬鹿騒ぎする連中に揉みくちゃにされる中、視線の端に入ったティアが自分の玉石の首飾りを自慢気に母親であろうゴブリンに自慢し、マットが恥ずかしそうにする家族の姿にかつての過去の自分を重ねて思わず破顔してしまう。
「たろーしゃま。どっか痛い痛いしたの?」
「…違うさ、キブ。 ………嬉しいんだよ。さ、お前はまだ小さいんだからイレイン達のとこに戻ってもう寝るんだぞ?」
「はぁーい」




