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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
第一章 ブイヤ領のゴブリン達。
32/37

アーボの決意とサプライズ。

ちょっと短いですが(^_^;)

午後の予定で体力が残ってたらもう一本書きたいッスね!(死相)


 ジンの価値を日本円に換算したはいいが…実際には俺のいた世界に比べると物価は約2.5倍くらいらしい。そう言えば、買い物をする最中で一緒にハンスとだべっていた門番さんが『他の関所に比べれば暇なくらいだが…家族と離れてひと月。これで貰えるのが六十ジンだもんなぁ~』と溜息を吐き、その同僚のバグベアから『なら俺の村みたいに狩り暮らしでもするか?』と言われ『無理。嫌だ。嫁に殺される』と返して『そりゃそうだ。じゃなきゃ俺みたいな森でしか暮らせないバグベアが出稼ぎに出てこねえよ』と笑っていた。


『……なんか急に説明口調じゃない?』


 ヴェス。何でも前書きだけで済ませようとするのは良くないって俺は思うんだ。


 俺達は買い物を済ませて関所からインペスへと戻る途中だった。


「ところで、勢いで全部買ってしまったけど…こんなに要らんな。マット達は要らない?」

「いえいえ…魔王様!私の妻は生涯ベルのみと星へ送る際に誓いましたので」

「じゃあ、ハンスは?」

「ええっ~…アッシがですかい? いやぁアッシは女を娶るほど甲斐性なんてありやせんし…まだ暫くはぁ~」

「偶に我らの元へ帰って来ても、前からそんな事ばかり言うだけではないか! お前もいい歳なんだし…そう言えば、今日来ていた行商人の護衛だったあの彼女なんてどうなんだ? お前と同じハイ・ゴブリンだったし丁度良いではないか」

「ケェッ!? マット冗談キツイぜ! なんでアッシがあんな性悪と? 例えミスリル…いんやオリハルコンの塊を寄越したってゴメンでさあ。他の女を探すぜ!」


 ハンスが舌を出して心底嫌そうな顔をする。……なるほど、やっぱりこの石は女性に贈るアイテムらしいな。という事はアーボの奴…あんな見てくれでまさか、恋か?


「なら予定があるんだな? なら、ほい一個やる」

「えっ!? 困りやすよぅ旦那ぁ~…」

「魔王様がお前を案じて下賜して下さったのだ。無下にするような真似はするなよ」


 ハンスはしぶしぶ俺から渡された石を眺めている。


「アッシはこんな古風な真似が似合う男じゃあないと思うんでやすがねえ…?」

「アーキンは? ウリンとかにどうだ」

「ハハハ…タロー様のお気遣いは有難いのですが、我らは既に神に身を捧げた者。お気持ちだけ頂きます」


 と、アーキンは華麗にスルー。どうする?

 包み布の中にはまだ30個以上の石がある。

 …いっそ、女ゴブリン達全員分くらいあるかもしれない。皆に1個ずつ…あげるか?


 ちょっと待て。


 アーボの意中の相手とブッキングして俺があげた石の方が気に入った!みたいな事になったらアーボが泣いてしまうかもしれない。そんな姿を彼の息子であるアーグ達に見せたくないし、俺も見たくない…。


 それに、ゴブリンの女達は既婚者がかなり多い。まあ、成人が早いゴブリン達ならではかもしれないが、そんな中で俺から女ゴブリンに無作為にコレを配るのは少し旦那ゴブリンには当てつけかもしれん。現在、畑をやって貰ってるザッカのゴブリン達には給料の糸の字も渡してないからなあ~。その内、ギルドから定期的に通貨が出回るのならメダルを渡して買い物を楽しんでもらうこともできるだろう。


 さて、ではこの石をどうしたものか? 先ず、ティアにあげる事は確実として…。


「ま、魔王様…?」

「なんだ? マット」

「何やら石を見つめて真剣な御様子ですが…もしや、その石をゴブリンの娘達にお渡しを?」

「ん。 そうだな、ティアにやろうと思う」


 独身ならティア以外にもザッカなら魔法戦士のミファ、ガルバンとススの爺さんにひとりずつ娘がいる。傍から見てもわかるほどズダにホの字のミンシルとガルバンとこのチビっ子は除外する。まだ会ったことすらないがニドラ達の娘のアックもいるしな。

 だが、今回は一番世話になっているティアだけでいいだろう。


「やったな!? マットぉ!」

「ああ…ああっ! だ、だが…魔王様、本当によろしいのですか? 娘は妻に似て器量良しに育ちましたが、その少しお転婆なところがありまして…」


 俺の何気ない返事に劇的に反応を示したのはマットとハンスだ。アーボは興奮したハンスにバシバシと叩かれているが、石を持って上の空になったまま意識が帰ってきていないようだな。


 …それにティアのあの凶行(ポーション)をただのお転婆で済ませるマットの馬鹿親っぷりがエグイ。いや、これも親の愛なのか?


「まあ、マットの次に出会ったゴブリンでもあるし。何だかんだ言って世話になってるしな? う~ん…今のところティア以外に渡すのは考えてないよ」

「…おおっ!」

「これは確実だ! ティアの奴、魚を釣る気がリバイアサンを釣り上げちまったなあ~」

「我が娘ながら誇らしい!…これでブイヤ領は…我らゴブリンの未来は益々明るい!」

「おうとも!そうとなればさっさと帰ろうぜ!オラ!お前もいつまでも呆けてないでチャチャチャっと石渡して済ませろよ?」

「そうだぞ!弟よ!娘の幸せの為に手早く終わらせろ!」

「あ、ああ…」


 何故かテンション馬鹿上がりのマットとハンスの義兄弟。小躍りしながら器用に互いに肩を組んでインペスへとスキップしていく。その後はヨタヨタとアーボが小走りで追いかけていく。


「なんだ二人とも…あんなに浮かれやがって?」

「タロー様の罪な御方だ…まあこれもまた神々の導きに他なりません。さあ、我らも参りましょう」

「え。うん…」


 

 何かが引っ掛かる。まあ、マット達が喜んでるんだから…別にいっか!



 ※



 俺がのんびりとアーキンと共にインペス辿り着いた時、何故か中央の広場が騒がしかった。


 俺は何事かと駆け付けてみると、そこにはゴブリンとインペスの住民に囲まれるアーボとイレインの姿があった。アーボは見てて心配になるほどの大汗を流しながら何やら愛の言葉(ゴブリン式)を紡ぎ、それにイレインが涙を流しながら頷いている。そして、慌てて懐から件の石を取り出してイレインに差し出した。


「イレイン…受け取ってくれぬか?」

「はい…っ!」


 イレインが石を受け取るとアーボの胸に飛びつき、周りから拍手喝采される。


「ここに新たな愛する二人が生まれた!めでたい!」

「おめでと~う!末永く幸せにね!」


 傍らではマットも弟の決死の見せ場に男泣きし、ハンスもマットの肩を叩きながら目を細めて鼻を啜っていた。


「羨ましいなあ…」


 ふと建物の陰からティアがウットリと二人を眺めていた。その熱い視線はイレインが持つ石へと向けられている。


「……ボクも、ボクだっていつか…た、たろぉしゃまと…」

「ティア?」

「ひゃい!?」


 俺が話掛けるとティアが垂直に3メートルほど飛び上がってしまった。凄いなハイ・ゴブリンの身体スペック。


「た、タロー様居たの!? い、いつから…!」

「さっきから。ところで、ティア…」

「え? なんですか…その布? …何か包まってる? も、もしかしてレアな素材ですか!?」

「え゛」


 しまった。ティアなら石コロより変な木の根とかクリーチャーの肉片の方が喜びそうだ。迂闊だった…。だが、そんな面白い品はあのバンディグーの店には残念ながらなかった。許してくれ!


「……ある意味では? コレ、全部ティアにあげるから」

「わーい♪ そう言えば朝早くから父さん達と一緒に関所に行ってたんだよね? なんだろ~? 毒草かな~…それとも毒虫かな~? きっとアメアにはボクの知らないポーションの素材が…って何だろコレ?」


 ジャラリとティアの手に磨かれた淡いピンク色の玉石がまろび出る。

 ヤバイ…怒られる!? 下手するとあの女魔術師に使った窒息ポーションが飛んでくるかもしれん(物凄い汗)。


「え? …えっ? ……ひへぇ!?」

「…ちょっと冷静になってくれティア。怒るなよ? おk」

「………たろーさま? コレ…全部、ボクにくれる、の?」

「お、おう?」


 ティアはまるで怒りを溜め込むかのように顔を俯かせてブルブル震えていたのだが…急にピタリと動きが止まる。あ、ヤバイぞコレ…!


 俺が咄嗟にティアとの距離を取ろうとしたその瞬間だった。


「…やっ……~たぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっッッ!!!!」


 ティアは石を握りしめながら先ほどの高さを悠に超える大ジャンプ。まるで大戦を生き延びた英雄の勝鬨のような声を上げた。


 アーボとイレインを祝福していた周囲はそのイキナリの奇声に固まり、空中を舞うティアの姿に呆然とする。かく言う俺もそのひとりだった。


 数秒間の滞空時間の後、ティアは頭から地面にベシャリと墜落した。どうやら気絶していたようだ。


「あ~! まおうしゃまがてぃあおねえちゃんをころしたぁ~!」


 アーボに抱きかかえられたイレインの息子であるキブが俺に向ってそう指さした。



 石が散らばる中、ティアの死に顔(普通は大怪我だろう。本当にタフだな…)はとても幸せそうだった。



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