タロ散歩~インペス編。
今回はタロー達がインペスからアメアの関所までをブラリ…旅気分w
取り敢えず5章までの荒チャートは組めたので、後はどれだけ寄り道しないでモチベを保てるか…!(^_^;)
『……チッ! …起きなさいよ』
「んあ? ここどこだっけ…?」
「「おはようございます。タロー様」」
いつも通りヴェスに起こされるが、テントの中じゃなくて土壁の部屋の中だな…。
あ。そっか、昨日はインペスの町に泊めて貰ったんだった。
俺は寝床からムクリと身体を起こすと、俺に返事をしてれたティアとキヲが近くの竈場に立っていたのが目に入る。朝飯の準備をしているようだった。
「あ、タロー様。ご飯の準備ができるまでもう少し掛かるよ?」
「ちょっと外の空気を吸ってくるだけだよ」
俺は裸エプロン(本当にそうだった!?)のティアの頭をポンとやりながら木戸を押し開いた。
外はまだ夜が明けたばかりなのか少し肌寒いし、靄が少し降りていた。
「「おはようございます!」」
「おはようさん。皆、早いな」
昨日のインペスとは打って変わって町の中ではこんな時間から住民達が出ている。俺が寝ていた部屋の前には焚火跡の前にマット、アーボ、ハンス。そしてザワーの姿があった。まさか夜通し部屋の前で話し合っていたのか?
「おはようございやす、旦那」
「おう、ハンス。ザワーまで揃って朝からどうした?」
「いやねえ…朝からどころか旦那がお休みになった後からずっとなんでさあ。どうあっても不義理だとメダルを返そうとしてきやしてねえ?」
「タロー陛下。やはり…此度の件もありますが、我らが多大な施しを受けながらこのような大金まで預からせて頂くのは…」
なんだよ、そんなことでか? たかがメダル20枚で。ってこの世界じゃあのメダル1枚で百万円の二千万円か。家が買えるかも。
「気にすんなって。どうせ今は俺達に使い道がないんだ。なんなら半分か全部くれてやっても良かったくらいだ…と言ったら流石にマット達に怒られたから止めたけどな?」
「ま、魔王様を叱るなどと…そんな事を言わないで欲しいですな。私はただ与えすぎるのもよろしくないと申しただけですぞ?」
マットとアーボがバツの悪そうな顔を浮かべる。
「ま。なんにせよ、このインペスは最も隣領に近い言わばブイヤの首都だ。ギルドもここに出店したいとか言ってたし…これからは色々と忙しくなるかもしれない。必要な出せるだけ出すからザワー達が役立ててくれ。一緒にブイヤを盛り立てていこうって昨日約束したろ?」
「はい…っ!」
感極まってしまったのかザワーは頷きながら顔を覆ってしまった。
「おはようございます、タロー様。叔父上達に父上…」
「おお!アーキン。戻ったか!」
「ご苦労さん」
「ティアは夜更けには戻ってきていたが」
靄の向こうからアーキンが歩いてきて俺の前に膝を突くと頭を垂れる。
「クライス達はどうした?」
「日が昇ると共に旅立ちました。今頃はアメアとの関を抜けた先ですかね」
「アイツらを解放したのか!?」
「心配には及びませんザワー殿。彼らはもう何者をも害する事はないでしょう。…神の言葉が届いた彼らは長い救済と修行の旅に出ました。今後どうなるかは彼ら次第です」
「ティアの嬢ちゃんと一緒に何したのかぁ…怖いから聞かねえが、まあアイツらが今後悪さをしないとお前さんが言い切るんならアッシはもう何もいいやせんよ?」
「そうだな。ご苦労だった、アーキン」
「恐悦至極にございます……いずれ、この世界に生きる者達がタロスの名を知り、その威光に満ちるでしょう…」
何やらアーキンが怖い事を言ってるがスルーしといた。
ザワーは複雑な表情でアメアへと続く関所の方を眺めていた。
「そういや旦那、昨日も関所の方を気にしてやしたね? どうです、ちょいと冷やかしに行きやせんかい? なあに、ホントに傭兵共を揶揄ってやるのも面白いでやすがね…もしかしたら少しは財布を軽くできるやもしれやせん」
「えっ…買い物が出来るかもしれないってことか!?」
「ええ。この時間帯だと行商人が立ち寄ってるかもしれやせん。まあ、アイツらは金のない場所には足を運びやせんが、関の番相手に物を売ったりはするんでさ」
「まあ、朝餉ができるまで時間もあるし…魔王様。よろしいのではないでしょうか?」
「よし、行くか!」
※
聞けばその最寄りの関所まで歩いてものの30分らしい。思ったよりも近い。というのも当然で現在はブイヤ領で関を利用する者などインペスの住民しかいない為だ。過去には他に南に下るカタチで数ヶ所門を開いていたらしいが、現在はその最寄りの場以外の門は閉ざされ単なる野生モンスターからのバリケードと化しているらしい。
俺達はザワー達に見送られながら関所へと喋りながら歩き出した。俺とマットとハンスは当然として、アーボと意外にもアーキンも一緒について来たことだ。
「これから本拠地とインペスとの行き来が増えるから、河を渡るのはどうにかしたいな?」
「そうですね…しかしブイヤ領はご覧の通り物資に乏しいですから、木を伐り出すにはナバンバ領付近のジャングルに向わねばなりませんな」
「マットよお、そりゃあ近いが危険だぜ? いくらアッシらゴブリンの戦力が強くなってきてもだ。それに石だって要るだろ? まさかアンツの山からわざわざ運ぶか? ならいっそアメアに口利きして木も石も職人も斡旋して貰った方が早いぜ。なんせ今の旦那はその端を1本2本建てられる」
「う~ん…ま、帰ったらドガも含めて皆で決めればいいよ」
そんな会話をしている内に関所の近くまで来ていた。
「お~い、止まってくれ~。なんだゴブリン達じゃないか。まさかアメアに行きたいのか?」
「今日は珍しくブイヤ側から来る奴が多い日だな」
俺達の前に出てきたのは革鎧に槍と盾を持った中年くらいの人間族とその隣の…なんだ?顔以外の殆どが毛で覆われている初見の種族だった。
「って、なんだよ…ハンスじゃねえか。ギルドの仕事が終わって帰るのか?」
「いよう、カズゥ。違ぇよ。アッシはもうこのブイヤに骨を埋めると決めたんでね。ここ暫くはアメアには戻らねえよう。それよか、今日は行商は来てねえのかい?」
「ああ、来てるぞ。今はこの近くの裏で店広げてるから、呼んできてやるよ。ミッツ、少しここ頼んだぜ?」
「あいよ」
そう言ってハンスと親し気にしていた人間族の傭兵が門の向こう側に姿を消した。
「ミッツ。お前ぇ…相変わらず、すっぽんぽんのまんまだなあ?」
「うるせえ!仕方ないだろ!俺達はお前らより少しばかり強いってだけでマトモに装備できるモンがねえんだからよう…って、知ってて聞くんじゃねえよ!」
「なあ、マット。なんの種族だ?」
「確かバクベア、でしたかね。見てくれこそだいぶ違いますが歴としたゴブリンの一種ですよ?」
「えっ!? ゴブリンなの!?」
俺は堪らずミッツとやらに近付くとハンスに向けていた掌を触る。
「え!?なにっ!(なにこの人!メッチャ触ってくんだけどぉ!?)」
「お~。なるほどなるほど…ゴブリンよりも発達した筋肉に防御力の高い厚い毛皮。それに鋭い爪…これなら多少装備のハンデがあっても平気かもしれないな」
「お…おお(メッチャ褒めてくるじゃん!俺の事が好きなのか!? さっきの人間族の女といいまさかのモテ期っ!?)」
そんなやり取りをしてると先程の男が誰かを連れて戻ってきた。
「おいおい…ミッツ…何やってんだよ?(ジロリッ)」
「は!? 違うぞっ!(赤面)」
酷く動揺した彼は咄嗟に俺と距離を取ってしまった。
「らっしゃ~せ~……何だよ。やっとマトモな客が来たかと思えば…ハンスじゃあねえか」
「こっちこそでさあ…バンディクーの親父じゃあねえかよ。ついてねえや」
「生憎…酒やら食料はもう売れてないぞ? おい!早く荷を持ってこい!」
「はいはい…って、ハンスじゃん!? お久ぁ~♪」
「げっ ミケーネも一緒なのかよ」
商人らしき頭にターバンを巻いた痩せぎすの人間族の男がバンディクーとハンスに呼ばれていたな。もうひとりは女…ミケーネと言ったかハーフプレートにスカートだけの軽装備甚だしい恰好だったが、俺がハンスとティア達では初めて見るハイ・ゴブリンだ。黄色と紫のザンバラ髪とかなりビジュアル系だ。
「今回はこのオヤジの護衛でね♪ ……てーか、ブイヤ領って相当廃れてるって話だったけど。アンタ以外にこんなにハイ・ゴブリンが居たんだね!?」
「気にすんな。アッシの身内でさあ」
「まあ、ハイ・ゴブリン自体はそこまで珍しくはねえがな…で? 欲しいものがあるのか? お前、酒も弱けりゃ煙草も吹かさねえしよ?」
「あ~…じゃあアメア水はあるかい?」
「おう、丁度5本あるぞ。全部買ってくれんなら1本二百テンにオマケしてやる」
「なら売ってくんな。へへっ旦那…今回はアッシが奢りやすぜ」
「ハンス。そこは献上すると言え」
「かぁ~!相変わらず堅物だねぇ~お前さんはよぅ」
ハンスがバンディクーが荷から取り出した琥珀色の小さなビール瓶のようなものを5本を受け取ると俺達に手渡してくれる。小指ほどのコルク栓を抜くとハンスは一気に瓶の中身を煽る。
「…っんめぇえええ!! はぁ~コレばっかりはアメアで褒めてやってもいいでやすねえ」
ハンスが美味そう喉を鳴らすので俺も中身を口にする…冷たい!? 容器は別段冷えていなかったけど? それにこの味は薄い味醂のような味と柑橘類系の味がする。確かに初めとの味だが美味いな。
「ハハハ。兄さん、アメア水は初めてかい? コレばっかりは何処でも売れるもんだから重いが大体のアメアの雑貨行商は売り歩いてるもんだ。栓を開けたら終わりだが、アイスボトルだからよ~く冷えててウメエだろう? あ。瓶はなるべく返してくれよ」
へえ~アイスボトルなんてあるのか。 持って帰って調べたいな…。
「ハンス」
「ああ、わかりやした。親父さん、コレで元が取れんだろ? 一本譲ってくんな」
「……随分と気前が良いじゃないか?」
ハンスは追加でバンディクーの掌に錆色の小さなメダルを3枚置いた。
「やんっ♪男前のハンスさん…アタシも喉が渇いたからぁ~? 一本奢ってよん♪」
「ああ? なんでアッシがオメエなんかに…その辺の泥水でも啜ってやがれ!」
「まあまあ、叔父上。そう邪剣になさらずとも…どうか、そのご婦人には私の分を御譲りになって下さい」
「……え。すっごい上等な装備。それにハンスと比べてアークデーモンとミジンコくらいに見た目も良いし…玉の輿狙えるんじゃね!?」
「ミケーネちゃんよお。心の声がだだ漏れてやすぜ…?」
ハンスが笑顔で額に青筋を浮かべながらプルプルと震える。自然と笑い声が上がり、本格的にバンディグーの店が開いた。
様々な品が並んだが、どうにも財布の紐は緩まない。木の食器やゴブレット。素焼きの水差し。これで武器なんか並んでれば買うんだが。本の類もあったが、質も悪い上に俺は文字が読めなかった。因みにこの中で字が読めるのはアーキンとバンディクーのみだった。
「俺みたいな木っ端商人が武器なんて扱えないよ、兄さん。それに魔法の本なんて無許可で持ち歩いてんのがギルドにバレたら捕まっちまうよ…」
なかなか品揃えの厳しい店だな…。
っと思ってたら俺の後ろからアーボがおずおずとバンディクーに声を掛ける。
「すまんが商人殿、磨き石…は置いているか?」
「…! ああ、あるともさ。なんせそういった需要がなきゃ売れんからな? 選び放題だぜ。まあ、殆どが天然石で魔石は少ねえがな」
バンディクーはそう言ってニヤリと笑うと厚い布の上に色模様、大小様々な玉石をジャラリと広げる。この中でその光景に感嘆の声を漏らすのはミケーネだけだ。…宝石みたいなもんかな?
「…アーボ」
「アーボ、おめえ…!」
「…………」
マットとハンスに答える事無くアーボは巨体を屈めて真剣に石を選んでいる。
「…うむ。これだ!これを貰おう。……かつてナーリアに送ったものと同じ色合いだ」
「なかなか良いのを見繕ったな? そこそこの魔石だが良い色だろ。そうだな…この中で一番高い石なんだが…まあ、慶事だし。ハンスの身内ってのもある。きっかり百ジン(十万円)にしといてやる」
「ケッ!なにがきっかりだ! ぼったくりやがって!こんな石コロひとつにそんなにだせるかい。 ……五十三にまけな。…そしたら買ってやるよぉ」
「ハンス…」
ハンスの横顔にアーボが涙を浮かべる。
「コレで売ってくれ」
「おいおい? 兄さん、まさかメダルを見るのも初めてなのかい? メダル1枚じゃ流石に……。 …? ……!? ………み、ミスリルっ!? まさか一千ジンのミスリル・メダリオンかあ!?」
「「魔王様!?」」
俺は迷わず財布からメダルを1枚取り出し、バンディクーの目の前に指で弾いて飛ばした。
「い、いけえねえぜ!? 儲け過ぎだっ! こんな俺でも一応はギルドの商人だ。アコギな真似したらギルドの商会が黙っちゃいない! 今持ってる品物全部渡しても釣りが足りねえぞ? ホントはその石だってハンスの野郎にふざけて吹っかけたが…十ジンで譲るつもりだったんだからな!」
「じゃあ、その石を全部くれ。他は要らないや」
「俺が悪かったよ…だからそれでも貰い過ぎなんだ!」
「じゃあ、また来てくれないか?」
「へえ?」
俺の言葉に平謝りするバンディクーが首を傾げる。俺は構わずメダルをその手に握らせると、石を布に包み直してジャージのポケットに押し込んだ。
「ギルドに戻ったらブイヤ・タロントンがそう取引したと伝えればいい。おっと…確か俺の担当の名前はマジッ……キャサリン。うん、キャサリンって言えばわかるから。じゃあ、また今度な」
「ってちょっと待て! いや、待って下さいよぉ!? ブイヤってアンタまさか…っ!」
ミケーネと門番達が目を丸くし、バンディグーが未だに何かを叫んでいる様だが…残念ながら石を握りしめて咽び泣くアーボからの繰り返される感謝の言葉にかき消されてよく聞こえんかったよ。
まあ、アーボもそんなにこんな可愛い石が欲しかったとは…意外な趣味があったもんだ。
だが…ミケーネもあの反応。なんか勢いで買ってしまったが……この石。
ティアにあげたら喜ぶかな?




