表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
第一章 ブイヤ領のゴブリン達。
30/37

出会いと別れ、クライスを可愛がってあげてね。

何をどう可愛がったのかは…読者の皆さんのご想像にお任せします(ニチャア)


「何ででやすか!? コイツ等はどう見ても悪党でやしょうが!」


 キャサリンに開口一番怒鳴り声を上げるハンス。


「え~と貴方は…ああ、そうだったッス。確か貴方も非正規ですがアメアのギルドに加入されているッスよね? 確か…ヴェンツァー先輩の担当されたてたハンスさんで合ってましたッスか?」

「そうでさ…まあ、直接仕事したのは数えるくらいだけどな。アッシはいつも色んなパーティを渡り歩いてたんでね」

「そうッスか。じゃ、ギルドが罪科をかせる条件って知ってるッスか?」

「あ? 不正や非人道的行為をしたギルド加入者。またはギルドから賞金を懸けられた連中だろ。コイツ等はどう見ても前者だな」

「そうッス。先ず、冒険者クライス。並びリュカ。キストラ。モービックの4名は現在、ギルド加入者じゃないんス。正確には数年前に亜人に対する度を越えた暴力行為でライセンスを剥奪されてますッスね。だから、非ギルド加入者への制裁は私達には不可能ッス」

「待ちなよ。ホラ、コイツを見てくんな。ライセンスなら持ってやがったぜ? ならこの発行した領のギルドへ連絡を…」

「あ。コレ偽物ッスよ? 厳密に言うと聖王領で勝手に聖教連中がやってるギルドごっこで(ジン)さえ払えば幾らでも発行してくれるヤーツ。それもバンシア領ッスか…よりによって一番ムカつく連中の居るとこッスね!~滅却ぅっ!」


 キャサリンはハンスから受け取ったギルド証らしきモノをスマストを持ってない片手でグシャリとやって塵にしてしまった。そんな扱いでいいのか…?


「クソッタレ…これじゃ奴らを公の場で処刑できねえじゃあねえか。…ならよぅ、賞金首の方はどうだぃ? コイツ等アチコチで悪さしたって聞いてるぜ」

「残念ながら。どこかのギルドが賞金首を懸けるほどの大悪党じゃあないッスね~。実際に被害も出てるでしょうし、恐喝や強奪の類もしてるでしょうが…被害届や依頼はギルドには来てないッス。まあ、妙にその辺は上手くやってるみたいッス。各関もあの偽ライセンスと脅しですり抜けてきたみたいッスし…そんなわけなんで、後は煮るなり焼くなりはそちらで好きにして欲しいッス」


 ハンスはどうやらギルドから今回の件で慰謝料的なものを取ろうとしたのかもしれないな。恐らく残されたイレインやキヲ達を思ってのことだろう。


「う~ん…おやぁ? 過去の非公式記録を調べてたんスけどね。そこのクライスさんがまだソロで冒険者活動をしていた時、数度に渡って鉱山で強制労働を強いられたゴブリン達を助けていらしたんスね~? まあ、バンシアの隣領でバリバリの聖教主義者達が人間族が亜人を助けたなんて事を許すとは思えないんで…まあ、酷い目に遭った事は疑いようもないッスかど…」

「クライス……お前…っ!」

「ちっ! なんだってんだ…」


 ザワーが複雑な顔でキャサリンの情報に一瞬ピクリと反応したクライスを見やる。

 ハンスは機嫌悪くクライス達の首根っこを掴むと外へ引きずり出す。……後は任せようか。


 ハンスに続いてザワー、マット、アーキン、それにイレイン達も頭を俺に下げて出て行ってしまった。残ったのはアーボとムジャとアマスだ。


「御力になれなくて申し訳ないッス…え~タロー陛下、他にご用は?」

「あ。他にもあるぞ!俺はその交渉のスキルとかないんだけど…ギルドと物々交換とか物資の買取とかできる?」

「勿論ッス!魔王はギルドとの交渉に制限はないッスから。何かご入用ッスか? 当ギルドではブイヤ領とはインペスを通じて主にゴブリンベリーと物資交換を行ってきましたが…はて? そちらのお二人が抱えていらっしゃるのは?」


 俺はニヤリと笑う。それに釣られてアーボ達もニッコリと会心の笑みを見せるので若干キャサリンが後ずさる。


「あ、あの~魔王陛下。当ギルドでは不正な高額買取はできないのですが~…」

「心配するな、問題ない。…それに買い取って欲しいのは俺達の畑で採れた野菜だ」


 ムジャとアマスが背負っていた荷をキャサリンの前にドサリと放り出す。


「なっ!なんじゃこりゃあああああ!?」

「いい反応だな。実に気に入った。早速、試食して貰おう。ムジャ、それ取って」

「はい喜んで!タロー様!」

「おお!それはニンズィーですな!」


 俺がキャサリンに差し出したのはニンジンに酷似した野菜だ。全然薬臭くも無い、甘い自慢でゴブリン達にも人気の高いやーつ。


「そ、それはオレンジ・マンドラゴラ!?」

「いや…好きに呼んでいいけど多分別物だ。少なくともコレは食用だし、地面から抜いた時に叫んだりしない…まあ、ものは試しで一本齧ってみてくれ?」

「え!? お金払わなくいいんスか! じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」


 ポリポリと先端を咀嚼したキャサリンの目が明滅したかと思ったら一瞬で姿が消えてしまった。


「あ。え?」


 と思ったらポータルからヌルりと無言で出て来た。


「申し訳ないッス…急激に経験値が入ったショックで本部に強制的に送還されてしまったッス」

「そ、そうなの…? 大丈夫か?」

「ありがとうございまス。ところで、ギルドに掛け合ったところ…コチラのマンドラゴラをギルドで買い取らせて欲しいんスけど、その…畏れながら。一本、2千ジンでいかがでしょうか? ッス…」


 キャサリンの震える手にはトレイの上に青白い銀色の硬貨…いや、大きさからして小さなメダルかな。それが2枚コロンと乗っていた。ふむ、1枚千ジンとやらか。


 問題は、その価値がわかる人間が居ないということだ。なんでこの場にザワーかハンスが居ないんだ? 一応、聞くけどヴェス。この価値わかるか?


『さあ? アタシそんなものに興味なんてないし』


 使えね~。まあ、例えば日本円で百円だとしたら2百円。相当高い買い取り額だ。まさか2千円以上ってことはないだろ? たかがニンジン一本に。


「俺はいいぞ」

「お待ちください!魔王陛下!」


 そこに待ったをかけたのはなんとアーボだった。


「我がブイヤを侮るのは許しても…魔王陛下の品に対してたった金属片2枚とは何事だ?十や二十は差し出して当然だろう。違うか?」

「はひぃ! す、すみませんでしたッス!? 確かに競売にかければ1万ジンを軽く超える可能性は十二分にあるッス! では3千ではいかがでしょうかッス!私の裁量じゃコレが本気で限界ッス…」


 キャサリンがコロンとトレイに1枚追加する。


「フン。話にならんな」

「おい、アーボ。そんなに凄んだら悪いだろう? すまなかったな~。よく分らんがその金額でいよ。それで何本買ってくれるんだ?」

「はぁ…ありがとうございますッス。ではお手持ちは()本でしょうッス?」

「ん~。アマス、ニンズィーは何本持ってきてた?」

「え~と…少なくとも百本以上はありますよ?」

「ヒャクぅっ!?」

「だそうだ。取り敢えず、百本いっとくか?」

「えっ…あ…と、取り敢えず30本。イヤ、40本でお願いするッス!! …ゼエ、ハア。こ、これ以上出すとギルドが潰れるッスぅ~」


 何故か大量の汗をかきながらキャサリンが目の前の野菜をキラキラした瞳で見ている。…イヤ、なんか核兵器を始めて目にしたような人間のようにも見えて来た。


「では総額12万ジン…ッス。御納め下さいッス」

「確かに」

 

 あまり面白うそうな顔をしていないが、アーボはキャサリンからズシャリと重そうな金袋を受け取る。

 キャサリンはかなりヤバイ表情でニンズィーを一本一本大切に布で包んで梱包してから何かの魔法を使ってポータルにそれらを転送した。便利だな?


「あ~…緊張したッス。ところでタロー陛下、今後とも当ギルドには御入用ッスか?」

「そうだな。金だけあっても仕方ないしなあ~」

「で、では!このインペスにギルドを出店させて欲しいッス!お願いしまス!!」

「おお…そんなに全力で頭下げなくても。いいんじゃないか? きっとザワー達も喜ぶはずだ。てか俺が決めていいの?」

「当たり前ッス!領主はあくまでも魔王不在時に一時的に領を存続させる為の代行者に過ぎないッス。魔王であらせられる貴方様に全ての決定権があるに決まってるッス」

 

 え。知らんかった…。アーボ達も当然の様に腕を組んで首を縦に振っているから彼女の独断ではなく、問題もないようだ。


「後は不躾ながら…このような素晴らしい品をどちらで手に入れたのでしょうスか? い、いえ!誤解しないで欲しいんスけど…別に疑ってるとかでは!?」

「ああ、さっきも言ったがこれは全部俺達の畑で採れたもんだ。その一部だな、さっきも半分はこの町の連中にあげたしな」

「あげぇっ!? …こんな代物を無償でっ!」

「うむ。我らが魔王陛下がゴブリンを救済すべく創造された菜園だ!当初は我が兄と陛下自らが進んで畑作業をしてこれら葉や根を育てられたのだ!私はその話を聞いた時は感動の余り泣き出してしまうほどだったぞ…!」

「畑ぇ!? 冗談だと思った…って魔王が自らぁ!?」

「そりゃあ、最初はマットしかいなかったからなあ~」


 俺がその日を思い出しているとキャサリンが頭を抱えてブツブツと高速で独り言を呟いていた。眼の黒い部分がブラックホールのように深い。…怖いんだが?


「お、おい…」


 俺が声を掛けると急にガバリと彼女が立ち上がったので、心配して近づいた俺とアマスが思わずひっくり返りそうになった。


「失礼。今日はこれにれお暇させて頂きます。後日、ギルドの者を使者として目録などを持たせた上で陛下の下へと必ず遣わせます。今後とも我らギルドを末永く宜しくお願い致します」


 まるで別人のような雰囲気になったキャサリンが俺にペコリと頭を下げてポータルを潜った。


「………時代が変わる」


 去り際にそんな声が聞こえた気がしたが…俺の聞き間違いだろう。



 ※



「で、結局…コイツ達をどうするんだ? ギルドが処刑台なり奴隷刑にもしないとなれば、我らゴブリンの手でケジメをつけねばなるまい。…できればあまりタロー様の気分を害さぬようにな」

「……わかってやすよぅ」

「マット殿、それにこの者達に愛する者を奪われたイレイン達にはこれ以上詫びる言葉もない。…だが、どうかクライスを殺さないではくれまいか? どうにか償いをさせたいのだ…」


 ザワーがマット達に土くれの上で土下座をする。


「おいおい。償いって言ってもよお…そこの3人はまだ奴隷としてコキ使えるかもしれんが、そこの金髪は…もう壊れちまってんだろ。死なせてやるのも…情けじゃあねえのか?」

「…………」


 ザワーは悲しそうな瞳をクライスに向ける。そこにはまだインペスに居た頃の無垢で幼いクライスの幻影がチラついている。


「叔父上。ここは私にひとつ任せては頂けませんか?」

「どうする気だ? アーキン。まさか処刑する気か…?」

「いいえ。それこそ神に委ねるべきです。ザワー様、このインペスに聖堂か礼拝堂のような静かな場所はありませんか?」

「ああ、こことはだいぶ離れた場所に大枯渇で破壊されてしまってはいるが旧時代の聖堂がある。しかし、何の神も祀っていないが?」

「それは好都合というものです。ああ…これも(タロス)の御導きでしょう!…ティア姉上。少し強いお薬(・・)を調合して頂きたいのですが…一晩、私に付き合って下さいませんか?」

「ありゃ、バレてた?」

「うおっ!? ティア!何をしている!」


 急に空気が歪んだ現れたティアにアーキン以外のマット達が驚いて飛び上がる。


「ムフフ~ボクの新作!隠れん坊ポーションだよ。本当は完全に透明になれるポーションを作りたかったんだけど…材料が足りなくてさ? タロー様を驚かせたくて作ったんだけど…アーキンにバレるようじゃあ駄目だなあ~。…ってタロー様!」

「なんだティアまで来てたのか? ギルドの人?は帰ったよ」

「お手数をお掛けして申し訳ありません魔王様!」


 ザワーは今度はタローに向って平伏する。


「いや? 話自体は上手くまとまったと思うぞ。ホラ…もう立ってくれ。それで…コイツ達はどうするんだ? 親の仇を討ちたいか? デッチ…」

「い、いいえ…そりゃあ父さんを殺したそいつは許せないけど…星に昇った父さんは敵討ちなんて望んでなかったし。それに僕、ホンポさんに色々習って皆の役に立つ商人になりたいんです! その方がきっと父さんも喜んでくれると思います!」


 デッチは父親から預かった箱をギュっと胸に抱きしめる。


「そうか…じゃあイレインとキヲはどうだ?」

「魔王様。私達も同じ気持ちです…魔王様のお陰で夫を見送ることもできましたし。これからは今後の為に生きていきたいと思います」

「私もそう思っています」


 何故かイレインの視線に顔を赤らめるアーボだったが、タローはどこまでも鈍感な男だった。


「そっかそっか…まあ、だからと言って無罪放免ではいお終いってのはな~」

「タロー様。そこで私にこの者達を預けては頂けませんか? どうにか神の教えを説きたいのです。それとティア姉上にも手伝って頂きたく思います」

「え。ティアも…拷問するわけじゃあないんだよな? そうだよな?」


 だが、ティアもアーキンも笑顔で返すのみだったので、仕方なくタローは許可を出した。


「まあ、改心させるなんて簡単なことじゃあないと思うけど…許可しよう」

「ありがとうございます。…我がタロス神の名に懸けて努めさせて頂きます」

「じゃあ、タロー様行ってくるね!」


 こうしてクライス冒険者4人はティアとアーキン、そしてムジャにふたり担がれてインペスの外れにある廃聖堂へと運ばれていった。


「クライス…愚かな奴め」

「ティアの奴。無茶しなきゃいいけど…あ!じゃあ今日はこのインペスに泊めて貰おうか? それと悪いんだけどアマス、余った野菜をエマとニドラ達に渡してやってくれないか? 今日中にジェンシ族のところに行きたいって言ってたから」

「わかりました!魔王様!私が同行しても?」

「頼めるか?」

「魔王様の頼みを断るような奴はこのブイヤにはいやあしませんよ!」


 アマスは笑顔で豪快に笑うと担ぎ直した作物を持って駆けて行く。


「さて、じゃあ俺達も戻るか? ザワーも腹減っただろう」

「申し訳ありません…」

「そういやあ、旦那。ギルドにあのヤーサイ?とかいうのを本当に売ったんで?」

「ああ。なあ? アーボ」

「ええ。だが…ギルドの奴らたったコレっぽっちしか寄越さなかった」

「アーボ。メダルは何枚なんでぇ?」

「確か…百と二十枚だ。売った作物はニンズィーが40本だ」

「てーことは120ジンかあ~? 随分と買い叩かれたなあ…まあ、今頃ギルドの連中は大騒ぎしてんだろうけど…意外と早くにアッチから追加の金を持ってきやすぜ? ヘヘッ…」

「そうだろう!そうだろう!」

「ちょっと待てアーボ。確か12万ジンって言ってたぞ?」

「しかし魔王陛下、私は(コレ)の価値などまったく解りませんぞ?」

「「えっ」」


 だが、その金額を聞いてハンスとザワーが固まる。


「なあ、ハンス。ジンってどのくらいの価値があるんだ?」

「す、すいやせん旦那。ちょっと待って下せえ…おい、アーボ。ちょっとそれ中見せろ」

「? 構わんが。食べれないようだぞ?」

「誰が食うか! って…こりゃミスリル合金? 一千ジンのメダリオンじゃあねえか!? このバカタレ!」


 ハンスが袋の中身を見て大興奮。ザワーは顔を青ざめさせている。


「いや、俺もアーボも価値が判らんからそれで了承しちゃったんだけど…」

「旦那ぁ…いいでやすかい? このメダル1枚で半月は豪遊できやす」

「…ん?」

「そして、この袋で大きな屋敷が買えやす…とんだ大金ですよ」


 ハンスが言うにこのジンという単価は日本円に換算すると約千円ちょっと。それ以下ではテンという単位の賊貨が存在している。


 つまり、このメダル1枚は約百万円。この一袋で約1億2千万円の価値があることになる。


「……どうしよう。ニンジン売っただなんだけど」



 虚しいタローの声がインペスを通り抜ける風に乗って遠くへと消えていった…。



 ※※



 次の日の夜明けだった。


 その日、ブイヤとアメアの領境の関の番をしていた男カズゥーヤは大アクビをして隣の同僚に窘められていた。同僚はアメア領のギルドに雇われていた亜人だ。ゴブリンの亜種である毛皮で全身を覆われたバグベアだった。


「おい、カズゥ。夜明けから気を抜くなよ?」

「仕方ないだろ、一昨日に2週間振りで村の嫁さんのとこに帰ったばかりなんだ。疲れて帰ってもこってり絞られてんの」

「ケッ…爆発しろ。まあ、無理ないか。お前のところもうだいぶ腹が大きいんだろ?」

「そうさ。だからできれば暫く村に居たかったのに…先日の関所破りの冒険者騒ぎでトンボ返りだ。嫌になるね…」

「なんでも聖王領から流れて来た奴らなんだってよ」

「まったく…人間族ってだけで、なんで他の連中と仲良くできんのかね? 頭がおかしいんじゃないのか」

「最近、アメアにもそういう連中が出入りしてるしなあ…っと仕事だ。誰かきなすったぜ? とい言ってもブイヤからとなるとインペスの連中だな。…なあ? その関所破りって4人組だったよな?」

「ああ、人間族の…」


 カズゥーヤとその相方、それと周囲で見回りしていた者達も槍と盾を持って門の前に集まり始めた。だが、その姿が近付くにつれ警戒を解いて武器を降ろしていく。


「珍しいな。こんな時代に…旅僧か(ブイヤ領の人間じゃないとしたら何処から入ってきた? まさか隣の廃領と獣人主義のバルボ、沼生亜人上位のユンカオンカも考え辛いよな。まさか、あの岩山ばかりのアンツを抜けてきたのか…!?)」


 その4人は男女が2人ずつ、縦にひと並びになって歩いて来る。みすぼらしい袈裟にローブ姿。男は剃髪し、女は短く髪を切り揃えている。手にしているには杖代わりの3フィート棒くらいで。特に大きな荷物を背負っているわけではないのでその荷を検めることもない。


「この関所はブイヤ領から来るものに特に税は掛けていない…うん。通っていいぞ!」

「では、コレを御納め下さい…」


 そう言って先頭の碧眼のまだ若い男が懐から包みを取り出した。それは果実を干して押し固めたものだった。


「おっ!ゴブリンベリーか?」

「旅の坊さんに集るなっ!この罰当たり! …ったくこれだから森の生まれはよぉ~」

「痛ぇ!…悪かったよぉ~」


 信心深い同僚に伸ばした手を叩かれたバグベアが渋々手を下げる。しかし、その手をそっとその若い僧の後ろに居た尼が心配そうに手を摩るので彼は単純に顔を赤く染めた。


「よかれと思って私が身勝手にやった事、どうかお許し下さい…」

「いいって!いいって!頭を下げないでくれ!俺が神様に怒られちまうよぉ~」

「………(見た事も無い聖印を首から下げている。だが、ギルドで公開している邪教のものではないな。だいぶマイナーな神なんだろう)」


 4人の旅僧は改めて関所の雇兵達に頭を下げると、アメアの方へと去って行った。


「最初は例の冒険者かと思ってビビッたが…久々にあんな澄んだ目をした者を見れたなあ~」

「ああ。俺も信心深い方じゃないけど、思わず祈りを捧げちまったぜ…」

「まだ若そうな連中だったがどんな目に遭えば、同じ人間でもああも変われるんだかな?」

「聖王領の連中にも見習って欲しいぜ!」

「ホントそれなあ~」


 集まった関所の傭兵達がそれぞれの持ち場へと帰っていく。



 その後、件の関所破りを行った冒険者の行方は報告されてはいない。少なくとも既にブイヤ領には居ないのは確実と思われ、他領へと逃れたがその先に野垂れ死んだという見解に誰も口を出す者はいなかったという。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ