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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
第一章 ブイヤ領のゴブリン達。
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インペスの町に無事到着。


「なるほどなあ~昼前に出て日が暮れるとなると…本拠地からインペスまで8時間くらいかね? 戻ったら一度ブイヤ領の地図を作るべきだな」

「うん? マット。確かホンポが前の族長から地図を受け取ったのではなかったか?」

「そうだな。だが…かなり古いものだったしなあ…魔王様。インペスに到着した時に領主に掛け合ってみましょう。きっと地図を書き写させて貰えるでしょう」

「そうだな…ってアーボ、すまんな」

「いやいや、魔王様をお乗せするのは何の苦でもありませんぞ? うはははっ!」


 俺達は本拠地を出発して早3時間歩いていた。この世界に来てから初めての遠征なのだが、見渡す限りのまばらな木々と荒野に俺はもうウンザリしていた。よくぞこんな土地で生き抜いたと心の底からゴブリン達を褒めてやりたいところだな。


 マットやハンスも多少の荷物を抱えてるし、荷運び役の運搬ゴブリンであるムジャとアマスに至っては背中…というよりは頭の上に巨体のアーボと同等の量の作物を平然と担いで運んでいる。そして、ゴブリン達は伊達にこの不毛の荒れ地で生きてはいまいと思わせるほど足が速い。案の定、それについていこうとする俺が2時間ほどで音を上げた。現在はアーボに肩車してもらっている。若干、下を平歩するティアが羨ましそうに頬を膨らませているがそんな子供みたいな…あ。そういや5歳だったわ。


「もうしばらくの辛抱です。あと一時間ほどでナバンバ領からゴメリ領へと流れる河が見えてきますよ」


 マットが言うには河には大昔、立派な橋が架かっていたそうだが、大枯渇の混乱で起きた内紛で崩壊してしまったそうだ。なので、その大きな河を直に渡らなければならないのだが…瓦礫や落石で水位が浅くなってる箇所があるのだそうだ。そういや、屑冒険者のクライス達もこの河を渡ってマット達を追いかけて来たんだよな。


 俺はチラリと後方を振り向くと、目が合ったエマとニドラが手を振ってくれるのだが…その足元から聞こえる呻き声に視線が誘導されないようにわざと目を逸らす。


 ザッカのゴブリンを襲い、さらに俺達の本拠地を襲った冒険者達は現在、丈夫な荒縄でグルグル巻きにされている。装備を取り上げたほぼ全裸でだ。また、ティアが調合した寸止めポーションの効果でギリギリ死ねない状態を常にキープされてエマ達に引きずり回されているというまさに生き地獄を味わっていた。


「うぎっ ぐごッ べぇ ぶふぃ」

「口だけは威勢が良かったのに、段々と反応が薄くなってきましたね…? ほら、起きなさい。もうすぐで河の水が好きなだけ飲めるわよ。フフフ」


 エマがクライス達に向ける微笑が兎に角黒いが、ここにはそれを唯一中和できるドガは居ない。俺達は必死に視線を逸らすしかないのだ。



 ※



 マットが言った通りそれから少し歩いた先で足元が土くれから小石や砂利に変わり、水の流れる音が強くなった。河だ。


 河を渡る前に休憩を取ることになった。河さえ超えればインペスまで1時間程度らしい。まあ、ゴブリンの速足の基準だけどな。…人間の足の速さってどのくらいだ? まあ、時速4、5キロくらいか。なら、インペスまで本拠地から約30キロちょっとってところか。


 ティアが一生懸命に俺の脚に薬を塗り込んでくれているのをくすぐったくて暴れていると、ふと視界の端にアーボとイレインがふたり並んで河近くの岩に腰かけて話合っている姿が目に入った。どうやらイレインは息子のキブをキヲ達に預けて何やら真剣な表情でアーボに話しかけており、そのアーボは困ったような顔をしながら腕を組んで唸っている。どうしたんだろ?


「タロー様。…野暮ですよ?」

「ええっ」


 何故かティアに顔を掴まれて強制的に足元のティアに視線を戻されてしまった。というか思いっ切りティアが塗ったくる謎のペーストが俺の頬に付着する。青臭ぇ…っ!?


「旦那、渡るなら今ですよお! ゆっくりしてると流れが速くなりやすぜ?」

「魔王様、インペスまではもう目の先です。参りましょう! ん? アーボ。魔王様をまた頼んだぞ!」


 先に河の様子を見に行っていたハンスとマット達がザブザブと河から上がってきた。


「ああっ! ……イレイン。答えはもう少し待ってくれないか? そう、長くは待たせん」

「わ、わかりました!」


 何故かアーボが慌てて岩から立ち上がるとドスドスと俺の方へと歩いてきた。心なしか顔が赤いような…?


「アーボ。大丈夫か? 調子が悪いなら無理に俺を乗せなくてもいいんだぞ」

「えっ ええ…大丈夫ですとも! ささっ!参りましょうぞ!」


 俺は焦り顔のアーボに担ぎ上げられる。


 俺達は無事に河を渡った。大荷物を抱えたムジャとアマスが心配したのだが…。


「はははっ。魔王様、これしきの荷で御心配なさらず!」

「アタイ達なら大岩担いでても河を平気で渡れますよ?」


 殆ど顔から下が河に浸かっていたふたりだが俺の杞憂だったようだ。というか改めてゴブリンって凄いな。別にハイ・ゴブリンに進化しなくたって良いんじゃないか?


 クライスは安定して水中散歩を楽しんでいたようだ。溺れてもどうやら死ねないらしい。


「なるほど、なるほど…ちょっと改良すれば水中呼吸ポーションの代わりにならないかな? あ。息が出来なきゃ結局苦しくて何も出来ないか~」


 苦しみもがく冒険者達を嬉々として実験に使うティア…正直言って、俺は進化して欲しくなかったかもしれん。見た目はそりゃあ眼福なんだが…なんだか攻撃色が増し過ぎな気がするんだが?



 ※※



 河から最後にグッタリとした冒険者達をロープで引き上げると、何を思ったかエマが冒険者のひとりの腹に蹴りを入れる。


「着いたわよ? 起きなさい」

「ゴボッ! げはっ げぼぉ!!」


 …たしか鎧に斧のモービック君だったかな? 今は単に縛られたちょっと可哀想な全裸のブサメンでしかないんだが。


「タロー様に御願いがございます」

「どうしたんだ? エマ」

「はい。実はルッチさん達の葬儀の最中にこの男が意識を取り戻したんです。その時にちょっと(・・・・)小突いて問い詰めたら…ザッカの畑を荒らして手に入れたゴブリンベリーなどを後で他領で売り捌こうと隠していたらしいのです。そこまでこの者に案内させたいんですが…すぐに追いかけますので、私は少しの間だけ別行動をしてもよろしいでしょうか?」

「う、う~ん…」

「旦那ぁ…アッシもついていきやしょう。放っとくと…荒らされたザッカの集落を見てこのブ男をバラしちまいそうでしょうがねえ」

「まあ、ハンスがついてくんならいいかな?」

「まあ、盗られたモンは取り返さねえといけやせんしね。マット、悪いな」

「致し方ないな…早く追って来いよ」


 俺達はハンスとエマ、それと冒険者のモービックと一時別行動をとることになった。



 ※※※



 流石にインペスらしき町が見え始めると、俺もアーボの背から飛び降りた。


「ほ~…泥? じゃないな日干しレンガか? 左右非対称、不揃いの集合住宅っていうか異世界版団地か。まるでプエブロみたいだな…」


 砂埃が舞う大地に段々状にそびえる建築物。俺の記憶が確かなら、昔の高校の地理の先生がやらた建築マニアでな。その時の授業で見たパワーポイントにこんなものを見た気がするんだよ。


「魔王様、ご存知で?」

「いや…俺の世界の昔の建築物に似たようなものがあったからさ」


 インペスには人気が無く、見張りや歩哨も立っていなかった。俺達が腹の高さくらいまでしか積まれていない石垣の横を通って町に入ってもガランとしたままだ。


「マット。ここに本当に人が住んでいるのか?」

「ええ。このブイヤの土地や気候は決して人間族には優しくはないですからな。普段は雨の時期にならなければインペスの者達が屋外に出ることは少ないのですよ」


 そう答えたマットは先頭に立つと大声を張り上げる。


「ドクの族長マットだあ!誰か出て来てはくれぬかあ~っ!!」


 町中にマットの叫び声が反響する。すると所々の土壁のドアがゆっくりと開いて中の住民が顔を見せる。良かった人、住んでたわ…!


「これはこれは、マット殿ではないか。今日はどうなされた?」


 ひとりの老人が外へ出て来てマットに応対してくれた。どこか表情がおかしいのは俺達の雰囲気を察したのかもしれないな。


「すまんが、領主殿にお取次ぎ願いたい。この数日の間でザッカの者が賊に襲われてな」

「なんと! それは穏やかな話ではないな。しばし待たれよ。おおい!誰かザワー様をお呼びしろ!」

「は、はい!」


 コチラの様子を見ていた何人かが急いで引っ込んでいく。まるでモグラ…いや、ワニをハンマーで叩くゲームみたいだ。



 そしてものの数秒後にひとりの女性が駆け足で俺達の下へとやって来た。


「御足労痛み入る。ザワー殿」

「マット殿…!それに、見掛けた事が無いゴブリンの御方がいるようですが…?」

「マット。彼女が?」

「はっ。コチラが…」

「よい、マット殿。 私が現インペスの代表にして魔王代行のブイヤ領主。ヤン・ザワーです」


 

 彼女はそう言って俺に向って静かに頭を下げた。



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