見送る者達と受け継ぐ者達。
今回はちょっとだけハンス先生による魔法および人間族の講座がありますが、大分ぼやかしてます(笑)
俺達は穴の中に冒険者共を放り込むと、見張りをかってでるミファ達に任せて遅めの朝食を済ませた。相変わらず俺の隣をキープしているティアが淹れてくれた薬草茶を一服していた。俺の周りは相変わらずドガの一族でかためられていたが。まあ、今日はやっと緊張感がとれたマットの妹のニドラとその夫のアケ。その息子のリーノがいることかな? まあ、昨日まではやはり『魔王様と食事を一緒にするのは畏れ多い』などと特にアケが
「ずずっ……ところで、ハンス。どうしてあの魔術師の舌をその、やったのよ?」
「…え? 旦那ぁ、冗談でやしょう。 仮にも魔王ともあろう御方が…アッシをお試しになってるんで?」
「ハンス。魔王様は先代の魔王グノーシアス様が異界から召喚なされた御方。この世界の知識に疎いのだ。…それにタロー様は特別な経緯で魔王になった故に魔法をお使いになれないそうだぞ。…察しろ」
ハンスは一瞬ポカンとした表情を俺に向けた後にマットとティアの顔を伺い、頷き返された後に再び俺に顔を向ける。そんな顔をすんなよ…こちとらまだコッチの世界で魔王を始めて一週間くらいしか経ってないんだぞ? 魔法とかスキルだとか訳が分からないんだよ。…オマケにヴェスの奴は肝心な事はネタバレ防止などと抜かしやがるしな。
「そうさなぁ…魔王の旦那。先ず、魔法には大きく分けて2種類ありやす」
「2種類?」
「魔力の術法と信仰の護法でさあ。どちらにしても自身の体力や精神を消費して使用するのは違いないんでやすがね? まあ、魔法ってのは前者の魔力の術法の略称を指しやすから…後者は先のアーキンの使ったヤツがそれでさぁ。ちょいと魔法とは質が異なるんでやすがアッシやニドラもまた“小鬼魔法”って系統のヤツが使えるんでさ。機会があればお見せしやしょう」
「ふーん…」
『アラ? 今回ばかりはアンタの為になる話っぽいからちゃんと聞いとくのよ? アタシが説明しなきゃいけない手間が省けて良かったわ~』
聞いても答えてくれない俺の頭上で足をプラプラさせる自称アドバイザーが俺の頭に直接話しかけてきたが無視することにする。
「で、あのヒューマンの女魔術師…そうだ、ドガ。お前さん、相手の情報が分かるスキル持ってんだろ? あの女の種族はなんでやした? スペルシェイパーかソーサラーあたりだろ」
「はい。どうやら風属性のソーサラーだったようですね」
「まあ、そうだろな。あの範囲魔法が厄介だったが…流石にハイ・ヒューマンじゃあねえとは思ったよ。弱すぎらあ、それにハイ・ヒューマンが聖王領から場末に流れるようなゴロツキになんて早々なることないさな」
…ハイ・ヒューマン? なんぞそれ?
「なあ、アイツらはいわゆる人間族。ヒューマンって奴らなんじゃないのか? そのハイ・ヒューマンって…まるでハイ・モンスター、人間族がモンスターみたいじゃないか」
俺の質問にハンスだけじゃなくてマット達がギョっとした顔を向ける。
「た、タロー様…?」
「…魔王様。それは異なことを仰る。人間族は我らゴブリンと同じく歴としたモンスターに決まっておるではないですか…!」
「旦那ぁ…自分をモンスターであることを忘れているような戯言。そんな事を堂々と言ってのけるのは聖王領の痛い聖教かぶれの人間族だけですぜ?」
「ええっ!?」
俺はこの世界に来てから一番のショックを受ける。
俺は勘違いをしていた。この世界には亜人と野生というカテゴリに分類される神々によって創り出されたモンスターという存在のみの俺の世界とはまるで異なる世界。
そこに、人間なぞ最初からいないのだ。
マット達から聞いた話だと、人間族はこの世界でなんでも一番最後に三柱の神の一柱。女神が創造した種族なのだと言う。適応力が高く、スキルや装備制限も無く、魔王に許可を得ずとも他領へと行き来できる数少ない種族。だが、その反面。牙も爪も毛皮も鱗も無く、さして強力でもない毒や病魔で簡単に死んでしまう。また、他の種族と比較しても圧倒的に成長速度が劣る為に配下としてはある意味でゴブリンと同等かそれ以下の評価を各地の魔王から下されてしまう。
さらに、その特殊性から魔王に対して反抗意欲もあり、移動制限がないので簡単に他領に逃げてしまえる。そして、最も厄介なのが…これまた女神が与えてしまった特殊スキル“勇者”を持つハイ・ヒューマンが極僅かだが一定確率でこの世に生まれてしまうこと。このスキルを持つ者は魔王でなくとも魔王を殺すことができる存在。これは力に溺れ、覇権を求めるが故に暴虐の限りを尽くす魔王への抑止力なのだという。
だが、結局はこの存在を恐れた魔王とその傘下の亜人の軍によって人間族は一方的に狩られる暗黒の時代が長く続いた。その時代の魔王ランキング1位となった存在によってこそ差があり、千年前にとある魔王が人間族を各地の領主としての立場を与えて中立とし、各魔王軍からの手出しは無用。という決まりを作った為にそこから数百年は平和な時代が訪れたのだが…結局はその魔王の消失と共に陰惨な虐殺が始まってしまった。
そこに終止符を打ったのが現在魔王ランキング2位の聖王と呼ばれる勇者である。彼は2百年に勇者として立ち上がり、当時人間族を滅ぼそうとした魔王ダムザを討伐し、その魔王の座を奪った。そこから人間族は各地の人間族に敵対する魔王を倒して領地を増やし、繁栄の時を迎えて現在に至る…という感じというのか、この世界の歴史らしい。
「へえ~じゃあ、その聖王って奴は結構立派な奴なんだな」
「まあ…当人はそうなんでやしょうがね。問題はその聖王の取り巻き連中が勝手に聖教だとかの政をおっぱじめて領から人間族以外を追い出し始めたことなんでさぁ。その聖教の考えとやらがアッシらにとっちゃあ糞みてえな内容でやして…人間族こそが女神に選ばれた真の民。だとか…モンスターは邪悪な存在。悪しきを殺すのは当たり前。せめて罪を清算させる為に奴隷として勤めさせるだなんだと…とんでもないことを当たり前のように考えやがる人間族が増えちまって大変なんですよ。その聖王領じゃあねえ…」
うげっ。いあわゆる選民思想ってやつか? いや、もっと懲悪勧善だとか…俺だってゲームじゃあモンスターを倒して当たり前だとか思ってたし。人間病っていうのか…もっと根深いものなのかもしれんなあ。というかモンスター側になった俺にとってはその勇者とか超絶面倒だ。 …なるほど、やっとモンスターの気持ちがわかった気がする。勇者って…この上ない悪党だったんだなあ。滅びよっ!
「でだ。話を戻すとそのハイ・ヒューマンってのは厄介なのか?」
「そうでさ。恐らくこれまたピンキリでしょうがレベルが極まった奴なら単身で魔王を相手にできるらしいですぜ? その分、個体数はアッシらよりずっと少ないはずですがね。ヒューマンってのは亜種が無茶苦茶多いってのも面倒でやして。総じてクラスって呼ばれてるんで。ドガが言った通り、あの4人の内の3人が亜種です。基本種のヒューマンはあの鎧馬鹿だけでしたからね」
ドガが教えてくれたんだが、先ず悪の冒険者一味のリーダーのクライス。クラスはルーンフェンサーという丁度ヒューマンとハイ・ヒューマンの中間くらいでそこそこの強さらしい。魔法武器を使用することで魔法を使えるらしい。あの炎の力は魔剣によるものらしい。勿論、その魔剣は既に没収済みだ。
アーボのラリアット1発でリタイアした双剣使いの女、キストラ。クラスはクロスソードで剣士系のスキルを持っていたそうだ。それと珍しい“感知”というスキルを持っていたのになんで逃げなかったのかと、ドガが言ったが…恐らく相手をゴブリンと高を括ったのが原因だったのではという結論に至った。
そして以外にもアーボやザッカほではないが巨体の嚙ませヘビーアーマーのモービック君は何のスキルも持っていない純粋なヒューマンだった。どうやらイケメンに対して恨みがあるだけの可哀相な奴だったようだな…。
そして女魔術師のリュカ。ザッカを襲った時は強力な範囲魔法を使った恐らくこのパーティの中では一番厄介な相手。クラスはソーサラー(風)で各属性に特化した魔法を使える奴だったとのことだ。
「その女は魔法を詠唱…つまり舌で魔法を撃ち出す呪文タイプというヤツでしてね。コイツらは舌の造り自体が他とは違いやす。まあ、見た目はほぼ変わらねえんでやすが。例え口を塞いでてもその舌で喉を叩いて魔法を使えるんで厄介なんでさあ…四六時中、魔法が使えない沈黙状態とかのデバフを付与できれば別なんでやすが…殺さないんなら、さっさと舌を引っこ抜いた方が早いでさぁ…。こりゃあこの世界じゃあ常識でやして、罪人や捕虜になった呪文タイプの魔法使いは先ずやられやす」
容赦ないなあ…この世界。
そして、俺の隣で瓶詰にしたその女魔術師の舌を眺めて瞳を輝かせているティアは……もういいや。放っておこう。
「まあ、アッシのその懸念もどっかに吹き飛んでしまいやしたがねえ。この分だとこのブイヤにマット達をどうにかできるヤツぁいねえでしょう。というか、ドガ坊もよお…アーキンがあんな強力な護法を端から使ってんなら先に言って欲しかったぜ」
「ところでアーキンの姿が見えないな?」
「タロー様。アーキンならば先に寺院にて葬儀の準備を執り行っております。そろそろ他の者達も移動を始めたようですね。私達も参りましょうか? 私とエマはミファ達と見張りを交代して参ります」
「では、タロー様。私も夫と一緒に御前を失礼致します」
何気にハンスのボヤキをサラリと躱したドガはエマに身体を支えて貰いながらクライス達を放り込んである穴の方へとさっさと歩き出してしまった。
「タロー様、行きましょう!」
「ほら。ハンスもそれ以上ドガに文句を言ってやるな。アイツもかなり無理をしてるんだ。さっさと行くぞ?」
「…………」
ハンスはまだムスっとしていたが、俺はティアに手を引かれて半ば無理矢理立たされると皆が揃って腰を上げる。
ハンスもマットに窘められてのそりと立ち上がるもボソっと何かを呟いたが俺には聞こえなかった。
「ドガの奴。なにか隠してやがんな…?」
※
寺院には既にドガとエマを除いた46名のゴブリンが揃っていた。そもこの寺院は想像以上に広くてこれだけの人数が参列しても全然余裕…俺の城の謁見の間とは偉いがある。
俺のデザインしたタロス神のホーリーシンボル…というかデカイ。およそ5メートルはあるそれが寺院の象徴のようにそびえ立っており、その前にアーキン。そして、その近くに手伝いであるウリン。さらにボマルとブッカが控えている。そして、俺達の目の前の中央には3つの石の台座が置かれている。その上には毛皮や織布で包まれた3体の遺体が安置されていた。
葬送の儀式が始まる。まあ、始まる前にひと通りアーキンから段取りを教えて貰ったので心配はないが。
ひとしきり祈り終えたアーキンが一尺八寸ほどの3本の太枝を懐から取り出し、よくしなる草の茎のようなものを祈りの言葉らしきものを口にしながらホーリーシンボルのようなデザインで結わえ付ける。そして、それをウリン達が恭しく受け取るとゴブリン達に手渡す。受け取ったゴブリンは草木や自身の服の切れ端などを棒に巻き付け祈った後に他のゴブリンへと手渡す。そして最終的にそれらがマット、ティア、アーボから俺の手に渡る。俺は黙ってそれを受け取るとその飾り棒ひとつひとつに今回の故人の名を呼んで懐に収める。と言っても俺の恰好はジャージなので、胸のチャックを開いてその中に放り込むだけなのだが、ゴブリン達は真剣なので俺も真面目にやる。
俺は道を開けるゴブリン達の前を進んで台座の前で平伏するアーキンの前に来ると振り向く。
「ザッカのルッチの息子、デッチ。前へ」
「は、はい!」
やや緊張した面持ちの少年ゴブリンが俺の前に出てくる。俺は先ほど懐に入れた飾り棒を取り出して手渡す。
「ザッカのヨスクの妻、キヲ。前へ」
「…はい」
ティアよりもずっと幼い容姿の女ゴブリンが俯きながら前に出る。俺はデッチと同じく飾り棒を手渡す。それを握りしめたキヲの目端に涙が浮かぶ。
「ザッカのセブの妻、イレイン。そして息子のキブ。前へ」
「はい」
「……?」
そして最後に名を呼ばれた女ゴブリンが子供の手を引きながら、俺から飾り棒を受け取る。子供はまだ事態をよく飲み込めていないようでキョロキョロと視線を泳がしている。
「アーキン」
「はっ…では遺族は旅立つ者達に最後の別れを…」
「「…………」」
ルッチ達はそれぞれが自分の最愛の者の前に歩み寄る。そしてそっとその胸に飾り棒を置く。昨日の内に別れ…心の区切りをつけたのか泣き出す者はいなかった。そして、それを終えるとゴブリン達の最前列に戻った。
「では、皆祈りを捧げて下さい」
「「…………」」
俺達は目をつむって黙祷を捧げる。暫しの静寂の後、急に寺院の中が光に溢れだしたので慌てて目を開ける。すると台座の上にあった遺体が白熱したかのように輝いたかと思えば一瞬にして灰となって散る。激しい発光が収まると…そこには光を纏う3人のゴブリンが宙を浮いている。
「とーちゃん!?」
まだ幼いイレインの息子のキブがはしゃぐ。
「ええっ!? 復活したっ!」
『『いやいやいや、もう死んでおりますから』』
まさか俺が死者からツッコミを受ける日が来るとは思わなんだ。
「「おおっ!?」」
「……ルッチ」
「へへっ…なんてこった、まさかこんな奇跡が起こるとわねえ」
「流石は我が息子だ!」
他のゴブリンとマットもこの反応。よほどの事が起こっているらしい。
『お初にお目に掛かります。魔王様。ザッカのゴブリン、ルッチでございます』
『同じく、ヨスクだ…じゃなかった、ヨスクです!』
『同じく、セブでございます』
3人の発光浮遊ゴブリンが俺に向って頭を下げる。良く見れば透けて向こう側が見える…いわゆる霊体ってやつなのか?
『今の我らは既に肉体を失い、魂だけの存在。本来であれば後は星に向って昇るだけのなのですが…』
『今回は死の神様の取り計らいで“初回さあびす”なるものでこのような機会を頂けました』
『びっくりだよなあ~? 俺達ブイヤのゴブリンの苦労がこれから報われるって教えて貰っただけでもすごいのによお!神様からこんな提案して貰えるなんてなあ~星の連中に自慢できるぜ。ワハハハ…』
何だか知らんが死人の癖してやたらとテンションが高い。その光景に皆の涙も引っ込んでしまったことだろう。
『だが、時間は有限だろう。ヨスク、セブ。先にお前らの用事を済ませろ』
『お。そうだな。 おいっ!トルマ!前に出て来いっ!』
『ロソもだ!時間が押してるんだ早くしろっ!』
「「は、はいっ!?」」
イキナリ名前を呼ばれたゴブリンの二人と一緒にミファまでが慌てて前に飛び出す。そして、ニヤリと笑うヨスクとセブから弧を描く複数の光の矢が放たれ、トルマとロソに吸い込まれていく。
「なあ!?」
「セブ師匠!一体俺達になにを…!?」
『へへん!有難く思いな。トルマ…お前には俺のスキル“吸収盾”をくれてやらあ!…まあ、俺もセブも呆気なくくたばっちまったがなぁ。ミファもお前らもハンスさんが駆けつけるまで死に物狂いで皆を守ってくれたんだったな? その調子でトルマ!お前も俺達の代わりに魔王様を御守りするんだぜ!!』
『ロソには私の“会心”をやった。本当はキブにこそ譲ってやりたかったが…幼過ぎた。だが、悲観はしていない。これからは我らザッカには魔王様がついておられる。キブの代からは戦士が犠牲になるような時代では無くなるのかもしれないな…だから、それまではお前達が皆から敵を追い払うんだ。頼んだぞミファ、トルマ、ロソ!』
ミファ達はその言葉に泣き崩れる。
そして、ヨスクとセブが満足そうに後ろに下がるとルッチが前に出てデッチを呼んだ。
『すまないな、デッチ。ロソと同じく私もお前にスキルを継がせる事はできない。だが、死の神様に邂逅した時に同席された魔神様の計らいでお前に少し変わったものを贈って下さるそうだ。私がドロップした箱はお前が成人した暁に開けるんだ。わかったな?』
「わかったよ…父さん! 僕、頑張って魔王様や皆の役に立つよ!」
デッチは何とか涙を拭って答える。
『偉いぞ…デッチ。我ら誇りあるザッカのゴブリンは決して理不尽に屈してはいけないのだ。まだ幼いお前を置いていく私を許してくれ…。ホンポ。デッチを頼むぞ…!』
「うぁうぁ…っ!わがっだぁ…安心して星がら見でろぉ~!」
咽び泣くホンポに頷くと、ルッチ達は今度はマット達の法を向いた。
『マット…すまない。後は頼んだぞ』
「気にするな。俺が星に行くまで他の者と比べればそう時間は掛かるまい。…だが、それまでには少しでもブイヤのゴブリン達が安心して暮らせるように努めよう」
『ハンスさん、すまねえ…アンタが他領に行ってる間は俺達がブイヤを守るだなんて大見得を切っといたのにこのザマだよ』
『名付け親であるあなたより先に星に旅立つことになった不甲斐ない私達を許して下さい。そして、ミファ達の事を…子供らをよろしくお願いします』
「アッシこそすまねえなあ…もっと早く駆け付けて、イヤ。アメア領でアイツらを止められたらお前さん達が死ぬ事なかっただろうさ。…安心しな。無駄に長い人生だ、残された若いのはアッシがキッチリと面倒を見てやっから」
マット達も鼻を啜りながら別れを告げる。そして、最後にヨスクとセブが徐々に消え行く姿で妻達の許へ近づく。
『キヲ。すまん…折角、お前が嫁さんになったばかりなのに死んじまってなあ。だが、お前は若いし、器量も良いし…俺にはやっぱり勿体無かったな。どうか、幸せに暮らしてくれ』
「うっ うん…ありがとうっ ヨスクさんっ…!」
『イレイン。せめてキブが成人するまではお前達の側にいたかったが…それももう叶わない。だが、私はいつまでも星から見守っているぞ』
「安心してよ…私がキブを立派に育ててみせるわ!今迄、私達を守ってくれてありがとう…!」
「とーちゃん、もうお星さまのところにいっちゃうの?」
それぞれが家族と最後の別れを済ませるとほぼ光の輪郭だけと化した3人が俺に向って深く頭を下げる。
どうか、皆を頼みます。
俺は、そう言ってるような気がした。
「任せときな!ブイヤのゴブリンは俺の家族も同然だ。必ず幸せに暮らしていけるようにしてやるさ!」
俺が胸を張ってそれに答えた。マット達は感涙し、ヴェスは俺の肩でヤレヤレとしたり顔をしている。
3つの光がどこか微笑を浮かべたような気がした。そして、光は寺院の頂、空高くへと昇っていってしまったのだった。こうして、ルッチ達の葬儀は終わった。




