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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
第一章 ブイヤ領のゴブリン達。
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クソザコ!悪の冒険者。

悲報。冒険者クソザコでした(笑)


「…思ってたよりザコじゃね?」

「ボクもそう思うなあ。あ~あ、もう何瓶か戦闘用のポーションも用意したのに…ガッカリだよ」

「ハンスのオジキには悪いけど、ちょっと…なあ?」

「私のラリアット一発とは…存外脆いものなのだな? 最近の山賊共は」

「…………(マットからハンスへの無言の視線)」

「いやいやいやいや!ちょっと待ってくんなよ? お前さん達が異常なだけだぜ!? そりゃあ、コイツ等は多少装備が良いだけのピンキリで言やあピンの方の奴らだろうがなあ~(チラリ)」


 地面に転がる冒険者達の呻き声にゴブリン達の嘲笑が混じる中、その冒険者達のリーダーであるクライスが蒼白から羞恥の怒りからか顔を赤くしている。悪党のくせに可哀想な奴め…。


「クソザコの分際で調子こいてんじゃあねえよゴブリン共が! まだ俺様が残ってんだろうが!?」

「いやいやもう諦めて降参しろよ? 許さないけど。 …てか、クソザコはお前らだろ?」


 俺のその一声でゴブリン達が一斉に噴き出してクライス達を指差して笑う。


「……っ!? てっ、テメエら…! 皆殺しにしてやらあ!喰らえやぁ!! “炎の蛇(サラマンダー)”っ!」


 クソザコ…じゃなかったクライスの剣の赤い刀身が光出すと、そこから鞭のようにのたうつ炎が噴き出して俺達の前に立ち塞がったアーボ、アーグ。そしてエマを呑み込んでしまった。


「ギャハハハ!いい気味だぜっ! 次は後ろのお前らだ!畑ごと燃やしてやるぅう!」


 どうやらキレてしまったようだな。…というか!?


「アーボ達は!?」

「御心配には及びません。タロー様」

「え。アーキン?」

「こういう事もあろうかと私の魔法“耐火の護法レジスト・オブ・ファイア”を掛けておきました」


 炎が消えうせるとそこには仁王立ちするアーボ達がケロリとしたドヤ顔で立っていた。


 …良かった。服も燃えてなかったようだ。特にエマは今の姿になってより規制が厳しくなりそうなプロポーションになってるからな。きっと、ドガがそれを許さないだろう。


「なあ!? 炎を防御する魔法か! 一体いつの間にしかも無詠唱で…!」

「いいえ? 今朝は神々から小さな(・・・)災い有りと啓示を受けたものですから。念の為に朝から掛けさせてもらっております。それに炎だけではなく、風、雷、毒…あと何種類かですかね? 勿論、全員にです」

「馬鹿な!? そんな事が単なるゴブリン如きにできるわけが…!」

「…神の御力です(何故か視線は俺に向けられている)」


 周囲から「おおっ…!」とか声が上がっているが…それどこのフ○゛ー〇だよ!?

 いや効果でいったらもっと上等じゃないか!それをアーボ達だけじゃくて全員分…この中で一番ヤバイのはティアかと思ったが、ここにきてアーキンが飛び入り参加してきたわ~。


「さてと…じゃあ、最後の残りは私が片付けるわ。良いでしょ?」

「エマ。ちょっと待てよ相手が剣なら俺が…」

「…良いでしょ?」

「はい」


 エマが剣呑な雰囲気を出したのでアーグが直ぐに引っ込んだ。というかエマ…美人だけど怖いな。 …ドガの奴、意外と恐妻家なのかもな。なるべく優しくしてやろう。


「降参なんて無様な真似はさせないわ。安心して? 直ぐに終わるから」

「チィ…! …というかお前。ゴブリンにしては随分と上玉じゃないか。素直に命乞いすれば殺さずに後で可愛がってやるぞ?」

「あらそう? でも残念。私、既婚者なの。寝言は死者の星に行ってからになさい。まあ、あなたのような悪党が…星になれたらの話だけど…」


 ヒュン。まるで前動作がない体勢から突き出された槍がクライスの片耳を穿つ。当のクライスはその初撃にほぼ反応できず、槍が引き抜かれた後に低い悲鳴を上げながら耳を押さえて腰を落とした。痛そうだな~。その顔には滝のような汗を流していたが、きっと痛みだけじゃないだろう。きっと「あ。死んだ」って思ったんじゃないか? 数センチずれてれば自分の眉間を貫れていたんだろうしな。


 エマがわざと外したのは誰にでもわかることだった。


「アララ…ごめんなさい。ピアスに興味は無かったみたいね? あなた…無抵抗のルッチさんを斬り殺したんですってね? ああ、あなたは名前なんて知らないんでしょうけど…ルッチさんはね? 私の夫を昔、私の居るジェンシに連れてきてくれたよしみでね…私の一族にも色々と良くしてもらってたから。だから…ちょっとあなたを早く楽にさせるのが嫌になっちゃたのよ、ね」

「ぐううぅ! このメスがああっ!!」


 剣に封じ込めている魔法が効かないと割り切ったのかクライスは剣を激しく振り回す。そして、その攻撃を凌いでいたエマの槍が斬られてその断面が灼ける。


「ふふん…そんな木切れと石で出来たボロ槍が俺様のこの炎の魔剣とマトモにやり合えるわけがねえんだよおおっ!! お前の顔をズタズタに引き裂いて醜く焼いてやるぞぉ!」

「心配してくれるの? 優しいわね。じゃあ、遠慮なく…」


 エマは2本になった槍を簡単に手放すと胸元で両掌をパンと合わせる。するとそこから開いた隙間から棒状の光が生まれる。そして、それをまるで棒術の様に回転させてから構えた。何よアレ?


「エマのあのスキルは“闘棍(とうこん)”です。練り上げた闘気を物質化させることができます。半物質半非実体なので物理攻撃が効かない相手にも有効です」

「皆、なんか凄いな…」

「いくわよ?」

「この化け物ゴブリン共めっ!」


 そこからはエマの一方的な攻撃だった。先ずクライスの剣を持っている手の甲を叩いて骨を砕く。クライスは泣きながらもう片方の片手で剣を拾おうと腕を伸ばしたが…そちらの手も穿たれる。その衝撃で指の関節の骨まで…何かおかしくなったように見える。合掌。

 それからは棒立ちになったクライスをエマはその光の棒で滅多打ちしていく。しかもワザと顔や急所を狙わず、鎧の上から叩いている。ものの数舜でクライスの全身がひび割れていく。


「ぐっ! がゅ! げはっ! ぴっ! ぎぃ! とめっ! ごっ!」

「あなた…河でとれる泥蟹の美味しい食べ方ってご存知? こうやって殻を剥かずにチョットずつヒビを入れていって中の固い肉や筋をグチャグチャに潰してからスープにするといい出汁が滲み出るのよねえ…」


 そしてクライスが呻き声すら返さなくなったあたりでエマは攻撃をやめると手にしていた光の棒を消し去った。

 ズシャリと嫌な音を立ててクライスだったものが地面に転がる。


「……アラ!? ごめんなさい、タロー様!それにドガ。私だけ長かったわよね?」

「ん!? 全然!待ってないよ? お疲れさん」

「まあ、エマも。魔王様もこう言っておられるから」


 黒髪をかき上げながら謝罪するエマだったが、俺も含めてあの凄惨な光景に皆が顔を青くしていた。だがドガだけは笑顔でエマを迎えているだと…!凄いぞドガ!尊敬するわぁ~。


「うぅ…ぢぐしょうがあぁ~…!」

「しぶとい奴め。こんな奴の血でコレ以上皆の手を汚させるのは忍びない…私がトドメを刺そう」


 あれだけボッコボコにされてまだ生きてるのかアイツ…顔を引き締めたマットとハンスが歩み寄ったその時だった。


「ふへへへっ…よくもやりやがって!このゴブリン共め! お、俺様を殺せばインペスの連中が黙ってねえぞお~」

「抜かせ。貴様のような薄汚い人間族と我らと同じくこのブイヤで耐え抜いて生きる者達を一緒にするな! 業腹だ…」

「クックックッ…馬鹿がよお。俺様の名はヤン・クライスだあ!」

「「何っ!?」」


 マットとハンスが同時に驚愕し、動きを止める。


「ヤン? なんだよ、まさかコイツ…魔王なの? こんなザコいのに?」


 俺は自分の事は棚に上げて指差してドガに尋ねる。


「…いいえ。ヤンの家名はブイヤ領の領主、つまりブイヤの人間族の長の名前です…まさかこんな奴が…!」

「へっへっ…お前らゴブリンがやらかした事をしっかり反省すんだなあ~? そこのメス!お前なら回復のポーションも持ってんだろう!さっさと俺様に使いやがれ!」

「父さん…何なのコイツ?」

「む…インペスのヤンの者と我らブイヤのゴブリンは大枯渇前の時代から深い絆を守っている。決して互いを害せず、見捨てず、協力していくとな…本来は人間族がモンスター達が特別な条件下でない限り公式に取引することは許されていない。が、インペスのヤン家だけは骨を折って我らを影ながら支援してくれている。我らがこの時代まで生き延びられているのはヤンとインペスの人間族の助力あってのことなのだ…!」


 マットが拳を握りしめて歯ぎしりする。


「おい、マット。勘違いするんじゃあねえよ」


 ハンスがズイと前に出るとうす笑いを浮かべていたクライスの顔を蹴り飛ばす。


「ぐえっ」

「…この糞野郎がヤンの者だろうがよぅ。先に手を出してきたのこの馬鹿野郎共だって事をでさあ…。ティアも治療する必要なんてないぜ。インペスの町まで引きずってキッチリ肩をつけさせてもらいやしょうぜ? 残りの連中もどうせロクデナシどもでやしょう。ギルドに引き渡せば賞金首になってて金が貰えるやもしれやせん…」


 ハンスはスタスタと歩きながら腰のショートソードを抜きかけて、止める。


「悪いが、ドガ坊。お前さんの短刀を貸してくれやせんか? アッシのじゃちょいと大き過ぎていけやせんや」

「………ああ、なるほど。流石はハンスさんですね。どうぞ、昨日砥いでおいて良かったです」

「あんがとよ。まあ、切れ味が悪くても引っこ抜いてやるんだがねえ。ああ、後はえーと、ティアの嬢ちゃん。お前さんなら血止めの薬とか調合できねえかな? 傷口が塞げればそれでいいからよ」

「う、うん…今すぐに調合できるよ!」

「ありがてえ。ちょっとだけ手伝ってくんな」


 ハンスは縄で女魔術師リュカの手足を縛りつけるとその背中にティアを乗させてキャメルクラッチさせると下顎を押さえて舌を引っ張り出す。何する気だ? …まさか?


「はん。呪文使いの癖してペラペラと薄い舌だことで…オラよっと。 …ティアの嬢ちゃん薬だ」

「うわあ~。あ、はいコレ」


 舌を引き抜かれて、ティアの薬を喉に突っ込まれたリュカが悶絶する。二人掛りで押さえている内にリュカは白目を剥いて気絶した。つまらなそうにハンスがポイと地面にその引き抜いたものを投げ捨てる。SAN値下がるわぁ~…。


「ねえ、ハンスのオジサン。コレ…ボクが貰ってもいいかな?」

「食べねえ方が良いですぜ?」

「食べないよ!? …魔術師の舌ってそこら辺に生えてないしさあ。なんか変わったポーションの材料になりそうなんだよねえ」


 ティア…SAN値下がるわぁ~…。


 という訳でザッカを襲った冒険者達は見事返り討ちになった。めでたし。


「で、今日連れてくのは無理だから。明日かな」

「そうですなあ…インペスまでは歩いていけば丸一日は掛かりますかなあ。河の浅瀬を超えねばなりませんし、コイツらを運ばねばなりません」


 そうか。じゃあそれまでコイツらどうしよう。まあ、暫く戦闘不能っぽいが。


「明日までどっかに閉じ込めとくか。ん~魔王城(あそこ)の使ってない部屋とかどう?」

「お戯れを。こんな者共を城に入れることを許すことなど到底皆にはできないでしょう。この連中は穴を掘ってそこに放り込んでおけばよろいしでしょう。 おい!ドアン達はどこにいる」

「待ってました!」

「穴掘りになら俺っちにまかせな!」

「…コイツ等を生き埋めにしてやるぜ」


 スコップを手に持ちゴブリン達から飛び出してきたのはザッカの建築ゴブリン3人衆。カワラスとドアンとベッカーだった。というか、ベッカーの気持ちは分かるが生き埋めはダメだろう…。


「えっさほいさ! えっさほいさ!」


 あっという間に3人のゴブリンよって地面に深さ数メートルでそれなりに広い穴ができた。そこに手足を拘束した上で胴に長くて丈夫なロープを括りつけられた4人の犯罪冒険者が蹴り落される。3人の下敷きになったクライスから悲鳴が上がる。


「そういや…あの馬鹿(クライス)は元気だからいいんだけどさ? 鎧の奴と剣振り回してた奴、さっきからピクリとも動いてないんだけど死んじゃわない?」

「旦那は優し過ぎやすぜ。あの糞野郎以外は正直首だけの方が持ち運びも楽なんでやすがね」

「あ。タロー様、ボクがさっき閃いた丁度良い薬があるよ!」

「ど、どんなの…?」


 俺がちょっと引け腰でティアに尋ねるとティアが満面の笑みでフンドシ袋から道具と素材を取り出してまるで漫画のように線をシャカシャカさせてるようにしか見えない動きであっという間にその薬を完成させてしまった。瓶じゃなくて不透明な大きなフラスコのようなものに謎の液体がタプンと入っている。そして、それがどんな効果なのか俺に教える間も無く穴に向って注いだ。仄かに赤く光るピンク色の液体がジャバジャバと穴の4人に降り注いだ。鎧男と双剣ヒャッハー女の流血が止まり、微かに胸が上下しだしたので俺は内心ほっとする。


「えっと…ティア。それって結局どんな効果があったのかな?」

「ん~とね…使った対象をギリギリ死ねなくさせる効果かな? 延命に近いんだけど死なない程度までは直ぐに回復させるのと、それ以上の回復を阻害するのがポイントなんだあ!ボクってばすごいでしょ! そうだな~名付けて寸止めポーション!」

「ね、ネーミングセンスぅ~…!」

「アレ? 駄目かなぁ…」

「いやあ~駄目じゃあないけどさあ~…寸止めってのがチョット…オリジナリティ高過ぎてさあ。う~ん、瀕死ポーションってのは駄目かな?」

「瀕死かあ…でもボクの今作った薬は健常者に使っても延命効果と回復阻害効果はあるけどダメージソースがないから瀕死状態にはできないよ? あ。そっか毒草を入れれば良かったのかな? 流石はタロー様は柔軟な発想を持ってるなあ~♪ よし!チョット待っててね。直ぐに作り直すから♪」

「いやもういいよ!? てかもう瀕死みたいなもんだろうし」


 俺の余計な一言でティアに地獄のようなポーションを作らせてしまうところだった。



 こうして初の襲撃イベントはあっけなく終わったのだった。



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